2016年10月1日土曜日

Don’t be cheeky. チーキーになるな。

サンフランシスコ支社で副社長を務めるエリックと、昨日電話で打合せしました。先週受けて来たトレーニングのフォローアップとして、今月再び出張が予定されているのですが、その際に彼とチームを組んで他のメンバー達の前でリハーサルすることが決まったのです。昨日の電話では、ざっくりと担当分けを話し合いました。

彼とは先週5日間ずっと隣同士で受講していたのですが、隙間時間に二人で日本料理屋やJFK博物館へ出かけたりもしました。一般の白人男性に共通する押し出しの強さが全然無く、身だしなみが綺麗で人当たりが良く、気遣いも細やか。食事に誘う時も、「僕はどちらでもいいんだよ。もしも興味があれば、ということで提案しているだけだから。」という雰囲気で微笑むのです。奥さんが日本人なので、その影響もあるのでしょう。寿司カウンターに並んで腰かけて刺身をシェアした時も、箸を逆さに持って自分の分を取ったので、いたく感心しました。

自分の審美眼に適うようなデザイン性の高いケースを探す間iPhoneを裸のまま使っていたら、出張初日に落としてしまい、液晶画面の隅にひびが入ってしまったよと実物を見せて苦笑するエリック。私のiPhoneケースは質実剛健の艶消しブラックで、これまで何十回となく落としていますが、無傷です。自分の決断に軍配を上げて良い場面なのに、なんだかエリックの繊細さの方が人間として上等なような気がして、ちょっと恥ずかしくなりました。

さて、彼との電話を切ってすぐ具体的な準備を開始した私でしたが、一番の悩みは「どこまでふざけるか」です。プロジェクトマネジメントのプロセスを順々に説明して行くだけでは、参加者が絶対飽きてしまう。先週のトレーニングでは、各講師がそれぞれユニークな「ふざけ方」をしていました。共通していたのは、「誰も傷つけずに笑いを獲る」点。エリックも、他の講師たちのミニ・プレゼンを見ながら、

「僕にはあんな才能無いよ。」

と舌を巻いていたのですが、どっこい彼も、「僕の細かすぎるこだわり」という潔癖症的切り口を打ち出して、きっちりウケてました。

トレーニング中、講師心得を伝授しに本社からやってきたジョーが、いくつか注意すべき点を挙げました。ノートに書き取ったのが、以下のポイント。

「聴衆の文化的背景によっては、何気ない動作やセリフが悪意に取られる可能性もある。」
例えば、オーストラリアでピースサインを裏返して手の甲を相手に向けた場合、侮辱と取られる。イスラム圏の人相手に手でオッケーサインを作るのもタブー。ジャンプしてへそを見せた女性の写真をスライドに使うのもご法度、など。

「自分を卑下するな(Don’t discredit yourself)」
僕はこの分野に詳しくないんですが、などという言い訳はするな。知ったかぶりする必要は無いが、進んで自分の株を下げるのも不要。

「ネガティビティは感染する(Negativity is contagious)」
会社の方針などに対する愚痴や悪口は絶対口にしないこと。後ろ向きな態度は受講者に伝わり、あっという間に広がってしまう。

どれも有効なアドバイスですが、こういうルールの数々を全てきちんと守っていくと、プレゼンの自由度が狭まっていくのですね。これまであちこちの支社でゲリラ的にオリジナルのトレーニングを実施して来た私。思い返してみると、結構過激なことを喋って来たし、むしろタブーに挑戦するくらいの心意気でした。受講者の頭にナタを振り下ろすように強烈なメッセージを届けるのが、私のスタイルだったのです。

ノートを見返しているうちに、別のメモが目に留まりました。

“Don’t be cheeky on your comment.”
「コメント書く時はチーキーにならないように。」

PMツール上にコメントを書く際の注意事項として受講者に伝えて下さい、という文脈での講師ジョシュの発言です。ここで書いたことは全て公式文書として残るので、チーキーになっちゃだめだよ、という意味ですが、そもそもチーキー(cheeky)という単語が初耳だったので理解出来ず、後で調べようと思ってメモっておいたのです。英辞郎を調べたところ、「生意気な、厚かましい、ずうずうしい」に続き、「気の利いた、セクシーな」という訳が出ています。ん?これ、合ってるか?誰も生意気で厚かましいコメントなんて書かないよな。続いてMerriam-Websterの英英辞書をチェックしたところ、

“rude and showing a lack of respect often in a way that seems playful or amusing”

とあります。

「無礼で敬意を欠いた様子で、ふざけて楽しんでいる感じの時が多い」

う~ん、もうちょっとで分かりそうな感じ…。キモチワルイので、5時を過ぎて帰り支度を始めていた大ボスのテリーをつかまえて解説を求めました。

「ふざけ過ぎて度を超した事を言ったり書いたりする様子を指すわね。プロらしくないってことよ。」

これで分かりました。調子に乗ってふざけ過ぎるなよ、という意味ですね。

“Don’t be cheeky.”
「悪ノリしないように。」

一番の得意技を封じられました。どうしましょう…。

4 件のコメント:

  1. 大阪弁だったら「イチビンなやっ!」ってところかね。
    http://kiroku.work/1873.html
    http://newskei.com/?p=39989

    ウチの現場の所長がまさにこの「イチビリ」なジジイなんで、毎日辟易しているワ。ホント悪い意味での日本的年功序列の典型で、まいっちまうんだよね。

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  2. 教えてくれて有難う。今まで完全に誤解してたよ。てっきり「意地悪でビビり屋」のことだと思ってた!

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  3. 実はオイラもリンク先のケンミンショーを見るまでそう思っていた。。。
    イチビリは単なる「悪ふざけが過ぎる」とか「悪ノリがひどい」という言葉では表せない、【周り全員が「それ全然面白くないヨ」という空気を出している中で延々と続ける悪ふざけ】を一言で表現しているような言葉なんで、標準語にはないスゴい表現だなと感心している。
    例えばリチャード氏の悪ふざけは、半分以上の人がシラっとしててもあるピンポイントの人には大ウケだったりするデショ。ああいうのは「イチビリ」には入らないんだよね。
    cheekyも同じニュアンスを含んでいるんじゃないかな。だとすれば、悪ノリを全面的に禁止しているのではないのではないだろうか?キミの得意技はまだ封じられてはいないカモよ。

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  4. すごい言葉なんだねえ。息子や周りの同僚達にも聞いてみた限りでは、チーキーにそこまで深い味わいは無さそうです。あまり考え過ぎると逆に面白くなくなるので、自分の芸風(?)がどこまで受け入れられるのか、探り探りやっていくことにしました。

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