2012年12月10日月曜日

そしてお別れ

二週間前、同僚のアンから複数の社員に宛てたメールが届きました。12月中旬に、アメリカを引き上げて実家のあるオーストラリアに家族で引っ越すというのです。会社から籍を抜くのか、それとも支社間転勤になるのか、それは今後の交渉次第とのこと。彼女は数年前にアメリカ人男性と結婚して娘を産み、こないだ家を買ったばかり。

6年前、プロジェクト・コントロールのチーム増員を図り社内で公募した際、真っ先に手を挙げたのが彼女でした。当時26歳。他の社員が続々と脱落していく中、彼女だけは必死に食らいついてスケジューリングや予算管理を学び、一昨年にはPMPも取得。組織にとって、欠かせない戦力に成長していました。その彼女を失うというのはショックでした。しかし、それを素直に表現出来ない自分もいました。
仕事を教え始めて2年くらい経った時のこと。彼女と二人になった際、大人気なく怒りをぶつけてしまったことがあり、これがずっと私の中でしこっていたのです。私の仕事のやり方に、いちいち「これはこうするべきだ。こっちの方が良い。」とケチをつけてくるので、お前はまだ見習いの段階だろうが!何をエラそうに意見してんだよ!という腹立ちが溜まりに溜まり、遂にこう言ってしまったのです。

“What makes you think you know better than I do?”
「自分の方がよく分かってると、どうして思えるわけ?」
今思えば、当時の私の貧弱な英語力が招いた誤解で、きっと彼女としては、私から学びつつも何とか仕事のクオリティ向上に貢献しようと一生懸命提案をしていたのだと思います。なのにあんな安っぽいイヤミを口走ってしまった…。

さらに、その後彼女に何度か「プロジェクト・コントロール一本に絞らないか」と持ちかけたのですが、自分の専門分野で技術屋としての可能性を探りながら掛け持ちして行きたい、と言い張るので、あまり進路に干渉しないように努めて来たのです。そんなわけで、彼女は私の部下にもならず、ずっと微妙な距離感を保って来ました。
先週オレンジ支社へ出向いた際、私がデスクで電話していたら、背後に人の気配がしました。振り返るとアンがいて、「少し話せない?」というジェスチャー。電話の相手に「かけ直すね」と言って切ると、アンが

「来週また会えるかもしれないとは思ったんだけど、ちょっと話がしたくて。」
と微笑んでいます。離れて暮らす両親を妹に任せきりにしてきたことへの悔い、そして娘を育てる環境の問題などから、故郷へ帰る決断をしたこと、ご主人のマイクも全面的に協力してくれて、オーストラリアで仕事を探すというチャレンジに燃えていること、などを話してくれました。そして急にトーンを変え、

「昨日の晩、マイクにも話したんだけど、何が悲しいって、シンスケと一緒に働けなくなることが一番悲しいの。」
これには意表を衝かれました。

「あなたみたいな誠実な人と一緒に働けて、本当に良かった。」
そんな風に思ってくれてたのか…。全然知らなかった。

「ずっと迷ってたんだけど、これからはプロジェクト・コントロールの専門家を目指そうと思うの。」
私達の口からは堰が切れたみたいに思い出話が溢れ出し、そのうちアンの両目から大粒の涙がこぼれ始めました。私も思わずウルッと来て、気がつくと二人、がっしとハグしていました。

折角分かり合えたっていうのに、これでお別れです。
切ない午後でした。

13 件のコメント:

  1. いい話ですね。

    さて、今更ですが、プロジェクト・コントロールって、どんな仕事ですか?
    職業として成立してるんですか?

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  2. プロジェクト・マネジャーのするべき仕事から、機械的な作業だけ抜き取って集めたのがプロジェクト・コントロールです。たとえば、WBSやスケジュールを作ったり、予算管理や分析をしたり、と。PMが意思決定をしやすいようなサポートをする仕事、と考えています。飛行機のパイロットがPMなら、中央管制塔がPCです。巨大な建設プロジェクトなどだと、プロジェクト・コントロールのチームを置きます。職業としては非常にマイナーですが、需要は大きいですね。

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    1. おはようございます。日本は朝の6時です。

      日本語は難しいのですが、「予算管理や分析」となると、単なる集計作業ではないですよね。小さなプロジェクトなら、マネージャーの仕事ですね。

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    2. そうですね。PMは一般にプロジェクトの対象分野に精通した人が選ばれ、必ずしもスケジュールや予算の管理が得意とは限らないこと、それに彼らが最も集中しなければならないのはコミュニケーションと意思決定であることから、我々専門家に「外注」されるケースが生じるのです。もちろん、全部自分で出来ればそれに越したことはありませんね。

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    3. ありがとうございます。

      日本と米国のPM文化の違いも大きいのでしょうね。

      自分の場合、機械工学関係の仕事をしてますが、言われますように対象分野には自信が有りますが、スケジュールと予算は正直、苦手です。どうしても品質優先に成り(そんなにかっこよくはないです)、特に予算管理がうまく行きません。(逆に、予算管理は上手でも、製品の方に弱い者もいます)。QCDの全てに長けた者は少ないと思います。(長い経験でうまくバランスを取るテクニックを習得して、やっているという感じです。
      PCの考え方は、今後の取組にて、考えて見ます。

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    4. アメリカのプロジェクトマネジメントは、分業体制が大前提になっていると思います。映画 Ocean's Elevenみたいに、それぞれの得意分野に秀でた人たちをリーダーが束ねる。日本で言えば「ワイルド7」のイメージでしょうか。たとえがちょっと古いけど。

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  3. ご教授、ありがとうございます。

    せっかくのいい話の所を、現実に引き戻してしまい、申し訳ないです。

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  4. とんでもない。またご質問下さい。

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  5. 実は、来年PMSという資格を取ろうと、勉強を始めました。

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  6. そういう資格があること、初めて知りました。どうやら日本の仕事の流儀に合ったPM論に基づいているようですね。アメリカ風のPMIとどのように違うのか、興味があります。

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  7. こんにちは

    PMS資格ですが、今日合格したようです。

    これからも、色々と教えてください。

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  8. おめでとうございます。良かったですね。私は資格を持ってからプロの自覚が芽生えました。たかが資格、されど資格です。

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    1. ありがとうございます。
      たしかに、しょせん資格ですが、資格を持ってる事と責任も付いてくるので、自覚が必要ですね。
      さらに精進しないと。

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