2016年7月2日土曜日

The beatings will continue until morale improves. 幸せですと言うまでイジメ抜くぞ。

先週のある日、暫く顔を見ていなかったマリアが私の席にやって来て、挨拶もそこそこに、

“I can’t believe this.”
「信じられないんだけど」

と告白。

「エドの誕生日、すっかり忘れてたのよ!」

十年前までは私の、それから今日までずっとマリアの上司であるエドが、先月60歳になっていたというのです。バースデーランチの企画を失念したまま一カ月経っちゃって気まずいんだけど、とにかく集まろう、という話にまとまりました。我々は過去十年、仲間内の誕生日を祝うために欠かさずランチに出かけていたのです。あろうことか、我らがエドの大事なマイルストーンをすっ飛ばしてしまうなんて!

水曜日、数年前に「ランチクラブ」会員になったリチャードも加え、四人で近所のレストランへ。会社が吸収・合併を繰り返してグローバル企業に変質して行く中、大勢の仲間が去って行きました。そんな中、この四人はしぶとく生き残っています。

「さっきのウェブキャスト、見た?」

と私が話題を振ります。11時、アメリカ地域のトップであるF氏がウェブを使って国内の社員数千人に話しかける、というイベントがあり、大ボスのテリーをはじめとする支社の社員がランチスペースに集まったのです。大型スクリーンに映し出されたF氏が取り上げたのは、春に行った全社意識調査の結果でした。社員の士気が著しく下がっているという分析結果を語った後、

「我々はこれを重く受け止め、既にタスクフォースを組織している。今後一カ月でアクションプランを練る予定だ。七月の終わりには皆さんに方針をお話し出来ると思う。」

と、大きなジェスチャーを交えてややドラマチックに話しました。

「相変わらずって感じよね。これまでも、そういうのを繰り返して来たじゃない。」

とマリア。過去数年、上層部が毎年のように入れ替わり、その度に経営改善の秘策があるかのように振る舞って皆を鼓舞しては消えて行きました。上場企業の宿命ではあるのですが、コストカットを推進すると社員が根を上げて辞めて行き、エグゼクティブ達が「モラル(士気)を改善しなければ」と対応に追われるのですね。

この十年、会社がサポート系(ITや経理)の人材を大量解雇してインドやメキシコなどにアウトソースした結果、サービスの質がガタ落ちし、稼ぎ頭であるPM達の負担が増大しました。ちょっとしたソフトの不具合など、昔ならオフィスに常駐するIT専門家が飛んで来て五分で解消してくれたのに、今では一時間以上も電話をたらい回しにされた挙句、なまった英語の外国人が曖昧に解決する、という始末。会話を終えた途端に自動でアンケートが送られて来て、サービスのクオリティを尋ねて来るのですが、こんなもんに使う時間は残ってねえぞ!と苛立ちます。

「貴重な人材の流出を食い止めるため、モラルを向上させなければいけない。」

というのが上層部の決まり文句ですが、具体的に有効な策を打ち出せた試しがありません。あるとすれば、昔みたいに金を使ってサポート・サービスを充実することですが、誰もそんなことは言いません。聞こえるのは、「対話集会を開く」とか「業績に見合ったボーナス制度を作る」とか、ほとんどコストのかからない話ばかり。社員の忙しさは加速する一方です。そのうち「一向に状況が改善しないじゃないか」と責任を問われ、会社を追われて行くエグゼクティブ達。そういう茶番を冷めた目で眺めて来た我々に出来ることは、上層部の話に一喜一憂しない、ということくらい。

「こういう経営スタイルを何て表現するか知ってるか?」

とエドが笑います。

“The beatings will continue until morale improves.”

これはよく聞く言い回しです。直訳すれば、

「懲罰を続けるぞ、士気が改善するまでは。」

ですが、簡単に言えば

「幸せですと言うまでイジメ抜くぞ。」

という意味。う~ん、あまりにもハマり過ぎてて笑えないぞ…。

さて、我らがエグゼクティブのF氏はウェブキャストの終盤、

「改善点は三点あります。」

と、一つずつ丁寧に解説して行きました。そして、

「三つ目は、ITサービスの改善です。我々は…。」

と、彼が大きな身振りとともに口を開けた途端、映像と音声がフリーズしたのです。それから十数秒、このトラブルは解決されることなく、会場の皆が半笑いでF氏の静止画像を眺め続けました。そしてようやく画面が動いたと思ったら、放送内容はすっかり終了していたようで、

「これでウェブキャストを終わります」

というコーディネーターの音声が流れました。一同爆笑。

“This is pretty ironic!”
「かなり皮肉なことになっちゃったわね!」

と、大ボスのテリーがコメントして更に笑いを誘ったのでした。


4 件のコメント:

  1. 日本のお笑い番組では、この手のやり方は常套手段だね、対象となるの狩野英光とか出川哲郎とかダチョウ倶楽部とか・・・。
    今回のトラブル、意図的にやってるとしたら、相当高度なお笑いテクニックだね。

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  2. ギャグなら非常においしい展開だよね。政見放送の泡沫候補なんかがやると楽しいでしょう。

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  3. おおっ!それは良いアイデアだねぇ。。。もうすぐ都知事選があるケド誰かやらないカナ。この人だったらかなりイケそう↓
    https://www.youtube.com/watch?v=hBzzMuFkNas

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  4. シュールだなあ〜。都民の皆さんがふざけて投票して都知事に当選しちゃったら、と想像してたら、顔からスマイルが消えたよ。

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