2016年1月3日日曜日

Pictionary ピクショナリー

年が明けました。今年は元日が金曜日なので、三連休。

大晦日には、友人L家のイヤーエンドパーティーに招かれました。彼等はかつてのご近所さん。うちの息子と同い年の娘さんSちゃんとがまだあどけない6歳児だった8年ほど前、ご主人の転勤でバージニアに引っ越したのですが、去年の春サンディエゴに戻って来た古い仲間です。

前日に訪れていたミシガンの義父母と合わせ、五人で夕方6時に到着した私達。少し遅れて両家共通の友人、T家の四人が合流します。L家にはシアトルからやって来た彼等の友人一家三人が既に滞在していたので、総勢15人の賑やかなパーティーになりました。我が家を除き、他の三家族はみなご主人がアメリカ人。英語と日本語とが入り混じった会話が飛び交います。開始から30分ほどして、T家のMちゃん(14歳)とNちゃん(12歳)姉妹が小ぶりなホワイトボードを車から運んで来ました。ゲームのスタートです。

二人が持ってきたのは、Pictionary(ピクショナリー)と呼ばれるパーティーゲーム。各チームの代表がサイコロを振り、すごろく上のコマを進めます。次にカードをめくり、出たお題に応じてホワイトボードに絵を描いて行きます。各カードには色違いの英単語が四つ書かれていて、コマの置かれたスポットの指示が特定の色を示していればその色の単語を選び、そうでなければ四つのうちどれでも選んで良い、というルール。お題を見てホワイトボードに向かう人は、「これは場所の名前です」「動詞です」「人物です」などと大まかなヒントを出した後、一言も喋ってはいけないし、ジェスチャーも厳禁。絵の中に文字を入れても駄目。他の参加者は、描かれて行く絵を見ながらこれと思う単語を叫び、一番早く正答を出した人のチームが得点をもらえるのです。

当然ながらこのゲーム、絵を描く人の技術が低ければ低いほど盛り上がる仕組み。なんじゃそりゃ?分かるわけないだろ!ゲラゲラゲラ!ってな感じで。

ところが現実に起こったのは、私が思っていたのとは全然違う展開でした。

三人のハーフ少女たち(Sちゃん、Mちゃん、Nちゃん)は開始の号令とともに、チームの代表者が絵を描き始めるのも待たず、最初のヒントのみを手掛かりに秒速三個くらいの割合で、何十種もの単語を淀みなく唱え続けたのです。それはまるで機銃掃射。絵を見ながらゆっくり考えようと構えていた私の目の前で、あれよあれよと正解がかすめ取られて行きます。なになにこの戦い?滅茶苦茶レベル高いじゃん。そしてとうとう一問も正解出来ないまま、私の順番が巡って来ました。すごろくの目は「どの色でも可」。ほっとしてカードをめくると、目に入ったのは次の四単語。

Candlestick(キャンドルスティック)
Black Eye(ブラックアイ)
Towel Rack(タオルラック)
Shakespeare(シェークスピア)

ええと、キャンドルスティックって何だっけ?ろうそくに刺す太い針のことか?それともろうそくを立てる台のこと?ブラックアイは黒目のことか?それとも顔を殴られて目の周りに出来た黒あざのことかな?タオルラックって、タオルをかけておく棒とか輪っかのこと?あるいは棚?う~ん、単語の意味を正しく理解出来てるかどうか確信が持てないし、考えれば考えるほど自信がなくなる。このまま絵を描いたら、描画力じゃなく英語力の低さが露呈してしまうじゃないか。唯一確信があるのはシェークスピアだけど、あのおっさんをどう描きゃいいんだ?肖像画の特徴、うろ覚えだし

私がその場で固まっていると、女子たちが焦れたように、「どうしたの?」と訝しみ始めます。

「ごめん、どの単語も駄目だ。描けない。」

「四つとも?」

Mちゃん。

「次のカードに替えていい?」

と懇願する私。

「ちょっとそれ見せて。」

受け取ったカードをしげしげと見つめ、私が立ち往生している理由をさっぱり理解できない様子のMちゃん。うう、これはツライぞ。ようやく皆の承認を得た上で次のカードをめくると、並んでいたのは誤解の余地がない単語ばかり。よし、これならいける!

“It’s in a hospital.”
「これは病院の中です」

とヒントを提供してから水性マジックペンを握った途端、Sちゃんが “Go!”と開始の号令をかけました。その直後、Nちゃんが高い声で叫びます。

“X-ray!”
「レントゲン!」

ペン先がホワイトボートと接触する前に正答を出され、あっけなくゲームオーバー。Nちゃんのお父さんのTさんが、

「これは我が家のゲームだから。」

と、娘が天才ではないことをそれとなく強調して慰めてくれましたが、リトルリーグのピッチャー相手に見送り三振したプロ打者のような気分で席に戻った私。

12時のカウントダウンとともにテキーラで乾杯した仲間たち(私はお茶でしたが)に別れを告げ、帰宅したのは午前2時頃。素晴らしく楽しいパーティーでした。

翌朝さっそく、昨日の英単語の意味を確認する私。

Candlestick(キャンドルスティック)とは、燭台のこと。
Black Eye(ブラックアイ)は、目の周りのあざのこと。
Towel Rack(タオルラック)はタオルかけで、棚状のものでも棒状のものでも、輪っか状のものでも該当します。

後でこの話を妻子にしたところ、息子がこう言いました。

「ゲームなんだから、これだと思ったことをどんどん描いちゃえば良かったんじゃない?誰にも分からなくたっていいじゃん。」

確かに彼の言う通りだし、勘違いが元で笑える、という見方もあるでしょう。たかがゲームなんだし。しかしその引き換えに、「それ全然違うよ!単語の意味分かってないでしょ!」と一斉に詰られる可能性だってある。私には、その攻撃を笑って受け止める覚悟が無かったのですね。

「いや、対象が何であるかを正確に分かってなかったら絵なんか描けないでしょ。」

息子相手にまだ意地を張る私。

「そうかなあ。」

「じゃさ、今度一時帰国した時、日本版のピクショナリーやってみようよ。それで君が同じ立場に立てば分かるよ。例えばさ、燭台を描きなさいって言われたらどうする?」

「しょくだいってなに?」

「キャンドルスティックのことだよ。ほら、分からないでしょ。分からなかったら絵も描けないじゃん。」

「そっか。そうだね。へえ、燭台っていうんだ。知らなかった!」

割と簡単に息子を納得させてしまった後で、我ながら大人げないなあ、と恥ずかしくなりました。この年になってまだ「カッコ悪い立場に置かれることを恐れている」自分は、もっとカッコ悪い。単語を知らないことを恥ずかしがるのは、外国語学習の大きな妨げです。これを機に、もう一度初心に返って英語を学ぼうと心に決めました。

ピクショナリーで遊んだことで、英語学習者としての謙虚さを取り戻せたのでした。


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