息子の所属する高校の水球チームで最上級生が引退するということで、先月パーティーが開かれました。場所を提供したのは、選手の一人の親。
一家三人で到着してみると、一体いくつ部屋があるのか謎なほど巨大な豪邸。180度パノラマ・ビューの渓谷を見下ろす広大な庭は、まるまるプール。一端が水深3メートル以上もある、本格的なつくりです。プールサイドには壁掛けテレビのあるバーコーナーまで設えてあり、まるで毎晩プールサイドでパーティーをするために作られたような邸宅。
これほどの資産家の息子がどうして公立高校へ通っているのか?臆しながらも首を傾げる我々夫婦。にこやかに出迎えた家主の男性は、ブルーのポロシャツに短パンというラフな出で立ちで、どうみても普通のおっさんです。奥様も同様、外見はミドルクラスど真ん中。少し遅れてドヤドヤと現れた息子の選手仲間たちは、 特別緊張した様子も見せず、プールで泳いだりジャグジー(Jacuzzi)で温まったり、ソファでくつろいだりして楽しんでます。
「何やってる人なんだろうねえ。」
と夫婦で話してたら、
「飲み物大丈夫?」
とご主人が気を遣って近づいて来ました。私は水、妻はワインをもらってお礼を言うと、そばに立っていた奥様が、
「主人がこないだ60歳になった時、サプライズパーティーをね…。」
と大声で出席者の女性に話しているのが聞こえました。へえ、この人、還暦迎えたんだ。ずっと若く見えるなあ。金があると老けないんだな…。
宴もたけなわという頃、バーカウンターからプールを挟んで向かい側に立っている前面ガラス張りの小屋が気になり始めました。中には家具も何も見えません。
「あれ、何だと思う?」
「更衣室やシャワー室じゃないわよね。丸見えだもん。」
「サウナかなと思ったんだけど、やっぱりガラス張りは変だよね。」
ひそひそ話し合う我々夫婦。ちょうどその時家主が通りかかったので、思い切って尋ねてみました。
「ああ、あれ?中見てみる?」
誘導されて足を踏み入れてみると、空き箱などが散乱していて、明らかに工事中です。
「毎日コツコツ作っているんだけど、思ったより時間がかかっていてね。こっちはバー、ここにソファが来て、壁にはフラットスクリーンTVを掛けるんだ。」
「え?全部自分で作ってるんですか?」
「ああ、そうだよ。だから時間がかかってるんだよ。」
え?この人、大工?
「これ、何の部屋なんですか?」
「マンケイヴだよ。」
「は?」
初めて聞く単語です。
「それ、英語ですか?」
「そうだよ。聞いたことない?」
Mancave (マンケイヴ、直訳すれば「男の洞窟」)とは、男子専用のスペース。野郎だけで集まって、スポーツ観戦をしたり酒を飲んだりするための部屋なんだ、と彼が説明してくれました。ええっ?そのためだけにもうひとつ部屋が要るの?こんなにでかい家があるのに?口をあんぐり開ける私。
「ああ、ここは男の聖地になるんだよ。」
私の目をじっと見て頷くご主人。
家の中に、奥様の声を無視して進められることなど何一つない。夫婦の力関係は変えられない。それが家庭の平和を保っているのだという、洋の東西や富裕のレベルを超越した法則を、一瞬の目配せで確認した男二人。
「ところがさ、いざマンケイヴを作り始めてみたら、やっぱりカミさんが色々言ってくるんだよ。壁の色はこうした方がいいとか、こういうカーペットの方がいいとかさ。」
大声で笑うご主人は、なんだか幸せそうでした。
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