2015年9月12日土曜日

Get my ducks in a row. 準備万端整える。

数カ月前、オレンジ支社のブライアンとロングビーチの建築設計プロジェクトについて話し合っていた際、彼がうんざりした表情でこう言いました。

“Every time I try to get my ducks in a row, management would change everything.”
「アヒルを一列に並べようとすると、決まって上層部が全部ひっくり返すんだよ。」

過去一年間、オレンジ支社では度重なる組織改変で、ほぼ四半期毎にボスが交代しています。当然ながら事業方針は一貫性を欠き、PM達はこれに苛立ちを募らせているのです。ブライアンは知っている同僚の中でも、「笑いながら怒る人」の代表選手。口を開けば、「もうどうでも良くなった。ただ言われたことを黙ってこなして行くことに決めた。クビにするならどうぞしてくれ、という境地だ。」と、怒りに紅潮した笑顔で滔々と諦観を述べます。

私は同情を示しながらも、ずっとむずむずしながら彼の話に耳を傾けていました。

「ブライアン、ちょっと聞くけど、なんでさっきアヒルの話をしたの?」

彼が怒りの長口舌を締めくくるのを見計らって、恐る恐るこの疑問を彼にぶつけてみました。

「え?俺、アヒルの話なんかしたっけ?」

「ほら、アヒルを一列に並べるって言ってたじゃない。」

「あ、そのこと?」

途中で彼の話を遮らなかったことで、きっと満足していたのでしょう。下らない質問をしやがって、とムカつく様子もなく、説明してくれました。

「準備のためにOrganizeする(整理整頓する)ってことを言いたかったんだよ。会議とか旅行の前には、それがうまく運ぶように準備万端整えるだろ。」

「うん、そういう意味だろうことは何となく分かってた。僕が聞きたいのは、なんでそこでアヒルが出て来るのかってこと。」

ここでブライアンは、上を向いて黙ってしまいました。

「う~ん、考えたこともなかったよ。お母さんアヒルが子供たちを一列に並び従えてる状態から来てるんじゃないかな。本当の語源は知らないけど。」

それ以来、複数の人の口からこの表現が飛び出すのに出くわしました。もしかしたら、これまでも頻繁に使われていたフレーズなのかもしれません。イディオムというのはきっと、それと知るまでは、実際に使われていても聞き流しちゃうものなんですね。

先日、環境部門の同僚ディックに同じ質問をしてみました。

「俺の頭はその表現を聞くとすぐ、オーガナイズする、という言葉に自動変換しちゃうけどね。いちいち語源を考えてこのフレーズを使ってる人なんていないと思うよ。」

と笑うディック。

「だってさあ、どうしてもアヒルの家族が一列に進んでるイメージが頭に浮かんで来ちゃうんだよ。それがあんまりハッピーな映像なもんで、準備を整える、という意味に繋がる前に池の向こうに消えて行っちゃうんだよね。」

Kill two birds with one stone (一石二鳥) はどう?いちいち視覚イメージが浮かんでくる?」

「あ、そうだね、そっちは浮かばないや。不思議。Bird(鳥)と言うかDuck (アヒル)と言うかで随分インパクトが違うなあ。」

昼休みになり、キッチンのカウンターに座って弁当を食べていたら、向かい側にベテランPMのダグが座り、休日をどう過ごしたか、という話題になりました。

「息子たちを連れて、猟に行ったよ。」

彼は素早く周囲を見渡し、我々の会話が聞こえる範囲に他の社員がいないことを確認します。この支社には生物環境保護を専門にしている社員が大勢いて、狩猟の話題は快く受け入れられない可能性が高いのです。

「今回は何が獲物だったの?」

と私。前回は鹿狩りだったのは知っていました。うちの息子と同い年の彼の末っ子が、死んだ鹿の首に腕を回してニッコリ笑ってる写真を見せてもらったので。

「今回は鳩(Doves)だよ。散弾銃で撃った。その後皆でバーベキューさ。」

「鳩ってどんな味がするの?」

「ちょっとレバーっぽいね。でも美味いよ。」

「手羽先とか?」

「いやいや、羽の部分には肉なんか無いよ。食べるのは胸だけだね。こうやって皮を剥いてから肉をはずすんだ。」

彼は両手で何かをひっくり返すジェスチャーをしてくれたのですが、動物を捌いた経験の無い私には、全く想像がつきません。

「散弾銃の破片が肉に食い込んでることがあるから、気を付けて食べなきゃいけないんだ。」

そしてキッチンカウンターに誰かが広げてあった新聞の記事を指さし、

「このoという活字くらいの大きさしか無いから、なかなか気付きにくいんだけどね。舌の上で肉を転がしてチェックしてから飲み込むんだ。」

彼は口をもぐもぐ動かしてから、ぺろっと舌を出す真似をしました。

私は急に思い出して、Get my ducks in a row の語源について尋ねてみました。彼はちょっと考えてから、こう答えました。

「弾丸を無駄にしたくない猟師が、一発で複数のアヒルを殺せるように、自分から見て縦一列に並んだ状態になるような場所で銃を構えることだと思うんだけど…。違うかな。」

あらためて、キョロキョロと周囲を確認するダグでした。

5 件のコメント:

  1. 平穏にしていればアヒルは一列に並んで歩いているイメージがあるから、その列を乱すってのは何か外力がかかっているってことに繋がるのではないかな。これが羊の群れだったら、牧羊犬が一生懸命一つにまとめるように走り回ってようやくひと塊にしているケド、放っておいたらバラバラになっちゃいそうだよね。。。あまり例え話になっていないか

    それはそうと、今年は国勢調査がある年なんだけど、CMのイメージキャラクターに君の崇拝するあの人が起用されているんだよね。
    http://kokusei2015.stat.go.jp/gallery/

    これって、どんな感じにイメージされるのだろうか?

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  2. 「外力がかかっている」か。いいね、その表現。さすが、工学部出身!「エントロピーが低い」も有り?

    国勢調査のイメージキャラに、僕が目標としているあの人物が何故?是非ともCMを見てみたいね。

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  3. ウェイトレスに向かって、
    「笑顔がすごいねえ。笑うと笑顔になるんだね。」
    とのたまわっている映像見てぶっ飛びました。あのテキトーぶりは本当に尊敬に値するよ。

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    1. 高田純二は相変わらずの立ち位置で仕事をしているね、ブレない人のトップ5に入るんじゃないだろうか(オイラが思いつくのは、タモリ・所ジョージ・さんま・内田裕也)


      エントロピーについてはカミさんと話すときに説明付きで使ったりするケド、エントロピーは高い・低いじゃなくて、大きい・小さいじゃないかな?
       http://www.h5.dion.ne.jp/~terun/doc/entoro.html

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  4. そうだったね。エントロピー最大!ってよく言ってたもんね。

    高田純次が清川虹子の3000万円のダイヤをパクッてやる映像について話したら、息子は爆笑したのにうちの奥さんには全然ウケなかった。「その女の人の気持ち考えたら笑えないわよ」だって。清川さんの立場に立って共感出来るなんてすごいなあって感心したよ。

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