2013年9月11日水曜日

この指なあに?

金曜と土曜の二日間、アナハイムのヒルトンホテルで会社主催のPMトレーニングを受けて来ました。

「え?シンスケが教えるんじゃないの?」

と同僚達に驚かれたのですが、これは外部のプロ講師を正式に招いての全社的イベント。このトレーニングを受けてテストに合格しなかったら、PMの座を下ろされるとまで囁かれています。

登場した講師は、60代後半と見られる太った白人のおじさん。アメリカ空軍に長く勤務していたという大ベテランで、この人のパフォーマンスが期待をはるかに超えてました。

一度聞いたら忘れられないほど刺激的な彼自身の体験談を、絶妙なタイミングで放り込んで論点を補強します。ひとつひとつのエピソードが脳みそにグサグサ突き刺さり、暫く抜ける気配が無い。こういう芸当は若い者には出来ないよなあ。

レゴ・ブロックを使った演習は圧巻でした。まずは24人の受講者を二人一組の12チームに分けます。一人がPM,もう一人が作業する人。次に、スポーツカーと思しき完成写真を載せたレゴブロックのパッケージ(6~12歳用)を一つずつ渡されます。PMが中身を机にぶちまけてからインストラクションを開く。作業者は目隠しをされ、PMからの指示を口頭で受けます。PMは一切ブロックを触れません。

「与えられたレゴ・ブロックで、車を作って下さい。制限時間は10分間です。準備はいいですか?完成形をスクリーンに映しておきますね。では、スタート!」

私とペアを組んだのは、ベテラン女性PMのジョーン。目隠しをした相手にレゴを作らせるのは、思いの他困難でした。大体、ブロックの描写の仕方が分からない。

「2x6の平べったいヤツ!」

「今、右手の人差し指が触ってるピース!」

「もうちょっと手前、そう、斜め左!」

などと英語で指示するのはなかなかにキビシイのですね。一番困ったのが、右手の薬指が触れていたブロックをつまんでもらおうとした時に、この指の英語名が全く浮かばなかったこと。クスリユビ?英語でなんて言うんだっけ?

「はい、時間です!」

無情のホイッスル。一斉に唸り声で抗議する受講生たち。ぜ~んぜん終わってないよ!

同じテーブルにいた同僚達に、ひそひそ声で、

「ねえ、この指なんて言うんだっけ?」

と右手の薬指を指す私。いつも優しい同僚のレベッカが、

Ring Finger(リング・フィンガー)よ。」

と微笑みます。

「ええっ?リング(指輪)は左にするもんじゃないの?」

「両方リング・フィンガーって呼ぶのよ。」

するとベテランPMのハリーが、

「ヨーロッパでは右手の薬指に結婚指輪をするんだよ。」

と補足情報を提供してくれました。

こういうちょっとした英単語を知らないばっかりに、大幅に遅れを取ってしまった私。インストラクションの6ページまで進んだところで時間切れになってしまったのですが、大半のチームは8ページ辺りまで進んでいました。ノン・ネイティヴは、こういう時不利なんだよな、と悔しがる私…。

ところが、作業スピードが重要なのではないことを、この後すぐ悟ることになります。注目を促す講師の方を振り向くと、スクリーンに三種類のレゴ・カーが映し出されており、その中のひとつに丸がつけてあります。私達のチームが完成を目指していた形も出ていますが、それは選ばれていません。

「今回私が発注したのは、丸をつけたパターンです。この車を作っていたチームはありますか?作り方は、インストラクションの12ページ目からになっています。」

一同、あっけにとられて顔を見合わせます。

確かにレゴ・ブロックには、同じピースで数種類のパターンを作れるものがあります。でも、これがそうだとは思いもしませんでした。

「おやおや皆さん、クライアントが何を求めているかをきちんと理解してから仕事を始めなければいけないと、10分ほど前に話したばかりじゃないですか。どうして突っ走っちゃったんです?このスクリーンは、さっきからずっとこの完成形を映していましたよ。」

さらには、10分で完成させられると思った人なんて一人もいないのに、どうして誰も工期延長の要求をしなかったのか、と突っ込む講師。

「皆さん、これで分かりましたか?たとえ頭でPM理論を理解していても、目の前にプロジェクトを差し出され、制限時間を与えられると、人はいきなり走り出してしまうものなんですね。」


見事に一杯食わされました。

2 件のコメント:

  1. お見事!
    こういう講習を考える人ってのは、教えることのプロフェッショナルなんだろうね。オイラも技術士受験講座でそのインストラクターが「私は技術のことは皆さんの10分の1くらいしか判りませんが、技術士合格のために何をしたらいいのかということだったら絶対に負けませんヨ」といっていたのにエラく感心した覚えがあります。

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  2. 教える仕事をプロとしてやってる人は違うね。自分はまだまだだなって、謙虚になったよ。

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