2017年3月12日日曜日

この世で一番悲しいフレーズ

15歳の息子は現地校で高校二年ですが(四年制なので)、日本では中学三年生。昨日は、彼の日本語補習校の卒業式でした。伝統的な堅苦しい儀式の後、記念撮影、卒業アルバムのサイン交換、謝恩会、そして二次会のカラオケパーティー、と盛り沢山の一日。大半のクラスメートは幼稚園や小学校低学年からずっと一緒なので、みな背丈が今の半分だった頃からの仲。サイズはでかくなっても、はしゃぎ方は昔とちっとも変わりません。こういう「損得関係の無い」絆で結ばれた仲間というのは、一生の宝だと思います。そんな彼等も、あと数年でそれぞれ社会へ巣立ち、いくつもの夢や挫折を経験して行くのだなあと思うと、何だかドえらく年食った気分になる私でした。

さて、ここのところ成長著しい息子は、水球にのめり込んでいるせいで肩幅もぐんと広がり、自信もついた様子。英語、日本語とも語彙が増え、難しい話題でも会話が続くようになりました。しかし自分の経験上、そろそろ親の助言を素直に受け入れられなくなる年齢なので、あまりくどくどと人生訓を語ったりしないよう心がけています。毎朝我が家から車で15分の距離にある高校へ彼を送る間も、会話は途切れ途切れ。

ある朝私は、いつものように眠たげな彼を助手席に乗せて高速を走っていた時、ふと最近読んだ本の話をしました。

「その中にね、この世で一番悲しいフレーズっていうのがあったんだ。」

と話し始めてから、一瞬ためらいました。彼の年頃にはまだちょっと早かったかな?と。

「え?何?教えてよ。」

意外な食いつきを見せる息子に、答えを発表します。

「過ぎ去ってしまった可能性。」

私は出張中のホテルでこのフレーズを読んだ時、心臓の辺りをグーで思い切り殴られたような衝撃を受けました。人一倍楽しい人生を送って来たという自負は有りこそすれ、やれたはずのことを全てやり遂げて来たわけではない。小さな後悔の数々を閉じ込めて押入れの隅に押しやっていた小箱の蓋を、うっかり開けてしまったような気分にさせられたのです。

「うわぁ、それはほんとに悲しいねえ。」

ちらりと横を見ると、息子が心の底から悲しそうな顔をしています。え?15歳でこれ、理解出来るの?予想外の彼の反応に何故か慌てた私は、我々人間がいかに怠惰で安きに流れやすいか、二度と巡って来ないチャンスを逃し続けて老いることがいかに虚しいか、を滔々と語ってしまいました。しまった、またやっちまった、と悔やんで隣を見ると、息子はしっかり頷きながら同意を示しています。ほっと胸をなでおろす私。

後日ネットで調べてみたところ、原典はJohn Greenleaf Whittierという詩人の言葉でした。英語では、

For all sad words of tongue and pen, the saddest are these, 'It might have been'.
これまでに語られて来た悲しい言葉の中で最も悲しいのは、It might have beenである。

It might have beenの翻訳はなかなかに難しく(「もしかしたらこうなってたかも」って感じ?)、そのままだとイマイチピンと来ません。「過ぎ去ってしまった可能性」という堅い訳にしてもらったお蔭で、ずしんと心に響いたのですね…。

そんなわけで急に興味をそそられた私は、何か他に悲しい言葉は無いかな、とネットを検索してみました。そして見つけた最高に悲しいフレーズが、一時期ドラッグ中毒に苦しみ昨年末に亡くなった女優キャリー・フィッシャーが、晩年に放ったこの一言。

What party?”
「何のパーティー?」

自分が招かれなかったパーティーの話を偶然聞かされた時のリアクションですね。これはキツい…。

合掌。


6 件のコメント:

  1. 天才プロレスラーと言われた三沢。どんどん過激化する技を見事に受けきって、最後には逆転勝利!というスタイルで自分の団体であるNOAHに集客していたのだけど、だんだん団体経営が厳しくなり、スポンサー探しと接待漬けでロクに練習もできない日々・・・そこにこれまで受け続けて蓄積していた過労が重なり、リング上で最期を迎えたときの言葉が
      「ダメだ、動けねえ。。。」
    http://kakutolog.cocolog-nifty.com/kakuto/2009/06/post-e41d.html

    プロレスマニア筋では有名な悲しいフレーズだが、仕事世界にも通じる所があるような気がするね。ただ、言葉の経緯をちゃんと説明するのには30分かかるのだが(笑

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  2. その前からフラフラだったのに、「あの人だったら大丈夫」と皆が思ってしまった、そこが鍵だよね。一流選手ゆえの悲劇。
    …黙祷。

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  3. 悲しい話は置いておいて

    思春期を迎えた子供とは、1対1の大人としての付き合いをする日が早々と来るんだろうね。リチャード氏は高校入ったばかりくらいの頃からエミちゃんと普通の大人のように楽しく会話してたヨ。

    あと、ネットで見つけたちょっとイイ話
    http://www.zakzak.co.jp/sports/etc_sports/news/20170313/spo1703130830004-n1.htm
    隆の里、首の後ろの僧帽筋がスゴかったね。

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  4. うちの息子も社会的な話題では堂々と反論してくるよ。精神面ではまだまだ教えることがあるけどね。心臓から汗をかけ!ってね。

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  5. When I was surfing the internet, accidentally I bumped into your blog.
    Since then, I’ve REALLY enjoyed reading it.
    How come you’re so talented?
    You’re a great writer while you’re a good PM!
    I like your writings, and this time, I especially liked the part, 小さな後悔の数々を閉じ込めて押入れの隅に押しやっていた小箱の蓋を、うっかり開けてしまったような気分.
    What a poetic phrase it is! You’re genius!
    I got impressed so much, and I decided to leave a comment.
    I’m always ready for your new episode! (Can’t wait!)

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  6. とてつもなく過分なお褒めを頂き、有難うございます。あまりの興奮で、身体が震えました(嬉しくて身震いしたのは生まれて初めてかも)。自分が面白いと思ったことを書いていても、それが読まれる方にきちんと伝わっているかを確認する機会はほとんどありません。こうして丁寧に感想を書いて頂くと、このブログを続けてて本当に良かったなあ、としみじみ思います。実際、さっきちょっぴり涙が出ました。あらためて、有難うございました!

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