「素晴らしいPMツールを作りました。これさえあれば、進捗管理や人員計画、それにアーンドバリュー管理が簡単に出来ます。木曜のランチタイムにウェブで使用説明をしますので、是非参加して下さい。」
こんなメールが火曜日、西海岸とハワイのPM達に向けて一斉に送られました。これは、去年この地域のプロジェクトコントロール部門トップに座ったR氏のチームによるもの。彼は次々に外部から優秀な人材を雇い入れ、各種PMツールの構築に注力して来ました。
プロジェクトコントロールという仕事には、二つの種類があります。一つは、クライアントの側に立って事業全体の管理を手伝う、というもの。これは空港建設などの大規模プロジェクトに要求されるサービス。スケジュールやコストの分析をしてクライアントに報告する仕事です。二つ目は、社内のPM達の仕事を助ける役割。PMの仕事の大半は、コミュニケーションと意思決定。意思決定のためにはデータの分析が不可欠ですが、ここに多くの時間を費やせば肝心の業務がおろそかになる。で、プロジェクトコントロールというサポートが求められるのです。
私のチームは、この後者の役割に集中して来ました。PMごと、プロジェクトごとにツールをカスタマイズし、二人三脚でプロジェクト管理をする。まるでアスリートとトレーナーのような関係を築いて来たのです。ツールを渡して自分でデータ分析をしてもらおうと試みたこともありますが、その度に失敗して来ました。多忙なPMには、ツールの使い方を学ぶ時間さえ無いのが現状なのです。ではこのトレーナー役の人材を増やせばいいじゃないか、と思われがちですが、会社としてはコストが心配。結局のところ、PMが一人で何でも完璧にこなしてくれるのが一番安いわけですから、プロジェクトコントロールの大幅増員には二の足を踏まざるを得ないのです。それじゃあ最適なバランスはどこなのか?これはなかなかの難題です。
水曜日、オレンジ支社へ出張した際、ロングビーチ支社のウィルとランチルームでバッタリ会いました。挨拶もそこそこにR氏達のPMツール宣伝活動の話題になりました。そもそもの趣旨に一応の賛意を示した後、彼がこう言いました。
“So, where’s the beef?”
「で、ビーフはどこ?」
これは、かつてハンバーガー・チェーンのウェンディが出した人気TVコマーシャルで使われたセリフ。バーガーの中身(大きなバンズの真ん中にミニサイズの肉がちょこんと載せられている)を覗き込んだおばあちゃんたちが、顔を見合わせて怪訝そうに発するセリフがこれなのです。ハンバーガーの主役であるはずのビーフをケチる他社に対し、ウェンディの製品は特大サイズを使ってますよ、という主張。
このCMが元となり、色々飾り立ててはいるが肝心の中身が貧弱な企画や提案を批判する際に使われるようになった表現が、「ビーフはどこ?」なのですね。ウィルが言いたかったのは、こういうことでしょう。
「すごいPMツールを作ったから使ってみろ、と言われてもねえ。PM達が本当に必要としているのは、データを分析した上で問題点の洗い出しとその改善策の提案をしてくれる人的サポートなのに。」
私が訳すとすれば、こんな日本語。
“So, where’s the beef?”
「能書きは分かったよ。で、結局何してくれるの?」
「残念だよね。PM達を苦境から救おうという意図でやってることは確かなんだけど。」
と溜息をつく私に、ニコニコ笑いながらウィルがこう言いました。
“I’d say, thank you for
being sorry about us.”
「言わせてもらえば、同情してくれて有難う、だね。」
気遣いは見せても本気で手を差し伸べてくれてはいないじゃないか、同情するなら人寄越せ!という指摘。綺麗にキマッた痛烈な皮肉に彼と二人で大笑いした後、問題の根深さに暫し考え込む私でした。