2016年5月8日日曜日

Too many cooks in the kitchen 料理人が多すぎる

カマリヨ支社への出張から戻った翌週の月曜、デンバー支社エネルギー部門のメンバー達とのカンファレンス・コールがありました。彼等はつい最近我が社に買収された部隊なのですが、のっけから予想外に高飛車な物言いが炸裂します。

「今回のプロジェクトは疑いも無く我々の得意分野だ。うちのメンバーでPMチームを編成する。おたくたち環境部門には我々と下請け契約を結んでもらうことになるだろう。うちで開発したプロジェクト・コントロールのツールを使う予定だ。使ったことがない?いや、心配ご無用。他の下請け会社たちも集めてトレーニングをするから。そのうちメールでインビテーションを送る。マイクと、それから何とか言う名前のプロジェクト・コントロールの人(私のことです)宛てでいいよな。」

デンバー支社には正式なプロジェクト・コントロール部門があり、そこのディレクターという肩書の人物を押し出しています。我が環境部門にはそういう組織が存在せず、私が勝手に「プロジェクト・コントロール・マネジャー」と名乗っているだけ。これじゃさすがに分が悪い。

そんなこんなで、我が部隊の誰ひとりとして彼等の独壇場に水を差すこともないまま電話会議が終了しました。先週の会議で「このプロジェクトは何が何でも獲りに行くぞ!」と気炎を上げていたリーダーのポールですら異議を唱えなかったのは妙でした。あの場では私がプロジェクト・コントロールの責任者だと持ち上げてくれてたのに。釈然としないまま別の仕事に取り掛かろうとした時、コンピュータ画面の右隅にインスタント・メッセンジャーのウィンドウが開きました。カマリヨ支社のマイクです。

「面白いことになってきたね。」

いやいや、何を呑気な反応してんだよ。全然面白くなんかないぞ。なんでカリフォルニアのプロジェクトの主導権をコロラドの部隊に奪われなきゃいけないんだよ!

後で大ボスのテリーに報告したところ、

「あっちのトップはクライアント企業の出身者なのよ。しかも退職当時、かなりの大物だったらしいのよね。」

なるほど。地勢的な観点からは我々が主導権を握るのが当然だけど、政治的な力関係では向こうに分がある、ということか。

「更に一段上層部でもこれから話合いが持たれるみたいよ。まだどっちが主導権を握るか最終決定したわけじゃないと思うわ。」

プロジェクトのスコープが複数の専門分野に跨っている今回のような場合、それを狙う我が社のような巨大企業の内部で熾烈なつば迫り合いが演じられることもあるんだなあ。だけど同じ組織内で反目しあっていては、仕事の効率に差し障ります。この後、よほど責任分担を明確にしておかないと、メンバー達が余計な緊張感の中で働かなきゃいけなくなるでしょう。

さて今週木曜は、同僚ディックとの打ち合わせがありました。私は彼のプロジェクト8件の財務管理を担当していて、このミーティングは月一回の健康診断みたいなもの。その中の一本に、広大な土地の周囲に張り巡らすフェンスをデザインする、というやや地味な仕事があったのですが、彼のコンピュータに映し出された提出前のプランを見て、おや、と思いました。コンクリート製の基礎構造物に、幅20センチほどの鋼板をわずかな隙間を開けて互い違いに差し込んだ格好。板同士はお互いに接触していません。まるで植木鉢から伸びる植物のようなフォルム。彼のコンセプトは、「風に揺れるフェンス」。おお、これは新しい!感嘆の声を漏らす私に、

「多分これはボツになるよ。」

と苦笑いするディック。

「クライアントのトップが、何か思い切ったことをしろ、と部下たちに常々言ってるのは知ってるんだ。だけどその部下たちってのが揃いもそろって官僚的で、冒険を嫌うんだな。しかも部門間の意見のすり合わせを全然してくれないから、こういうアイディアを出しても、大抵たらい回しにあった挙句、コストがどうだ、住民の反発がどうだ、とかでやり直しを繰り返させられる。そしてようやく無難で凡庸なデザインにおさまったところでトップに上げると、何でこんな退屈なプランを持って来るんだ?って怒られる。で、やり直せ、と俺に突き返してくる。そういう展開が今から全部見えてるんだよ。」

その時、彼が使ったフレーズがこれ。

“Too many cooks in the kitchen.”

直訳すれば、「厨房に立つ料理人が多すぎる」ですね。日本語で一番近いのが「船頭多くして船山に上る」でしょう。

Too many cooks spoil the broth.
「料理人が多すぎるとスープが台無し」

というイディオムが元らしいですが、キッチンを含めた表現の方をよく耳にします。私の意訳は、これ。

「意思決定者が多いとろくなことにならない。」


巨大プロジェクトが大失敗に終わる要因のひとつが、実はこういうことなのかもしれません。

0 件のコメント:

コメントを投稿