2015年11月4日水曜日

ノーサイド

ラグビーワールドカップで日本が南アフリカ相手に劇的な勝利を遂げた翌朝は、フラストレーションが溜まりに溜まりました。職場の同僚たちに、「観た?昨日の試合、日本がさ!あの南アフリカをだよ!」と興奮して話しかけても、皆きょとんとしてるんです。シャノンはもちろん、リチャードもマリアもサラもエドも、「ラグビーって何?」くらいのレベル。ほんっとにアメリカ人って、アメフト一辺倒だもんなあ!

軍にいた頃ラグビー部に所属してたという話を以前本人の口から聞いたことがある巨漢の同僚アーロンに、最後の望みをかけてトライ。しかし、

「え?何のこと?」

と軽くいなされ、無念のホイッスル。帰宅してそれを妻子にこぼしても、イマイチ共感が得られません。ああ!誰かラグビー好きな人達ととことん話したいなあ!と溜息の夜でした。

さて、今週と来週はロスの本社にべったり出張。来年から世界の全支社で使用が開始される新PMツールのテスターとして約30名の社員が選抜され、私はアメリカ西海岸代表として出席。全米各地はもとより、香港、シンガポール、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、と様々な支社から派遣された人々と会議室に缶詰めになり、朝から晩までトレーニングとテストを繰り返します。バグを発見したり、ユーザーインターフェイスの改善点を議論したりするのが今回のミッション。

休憩時間、南アフリカから来たという白人男性社員と廊下で立ち話をしていたら、ニュージーランド代表の男性社員二人が加わりました。おお、そうだ、この時を待ってたぞ!とワールドカップの話を持ち出します。

「いやあ、ラグビーの話がしたくても、アメリカ人は誰もノッて来なくって。この国じゃ、どえらいマイナー・スポーツだからねえ。」

と私。南ア代表の男は、眼鏡をかけた色白のインテリ風。スポーツマンとは程遠い外見だったのですが、

「日本はすごく強くなったよね。体格も大きくなったし、スピードもすごいよ。」

と静かに論評します。対南ア戦の話題を出したところ、

「ああ、あの日は街中どこへ行っても皆死んだように落ち込んでたよ。」

と答えました。ニュージーランド代表の二人(巨漢の白人と中肉中背で褐色の男性)は、優勝国らしい余裕綽々の笑顔で、日本がいかに強くなったかを述べました。南アの男は、エディ・ジョーンズ監督の殊勲に触れ、

「彼は今度南アに移ってストーマーズのコーチをするんだよね。」

と微笑みます。ニュージーランドの二人は、日本代表チームに所属する複数の選手名を挙げ、「彼等はニュージーランド出身なんだよ。」とコメントします。ニコニコしながらもこの三人、「ラグビー好きなのは当たり前。大事なのは知識の深さでしょ。」という威圧感を漂わせています。よ~し、ここは日本代表として負けていられないぞ、と気合を入れる私。

近年、各国のチーム力が拮抗して来たことに触れ、

2013年にスクラムのルールが改正されたのが大きかったかもね。」

と思い切ってカマします。これは、スクラムの際に離れた位置からぶつかるのではなく、まずプロップ同士がしっかりジャージをつかみあってから組む、という方法にルールが変わったことを指していたのですが、三人ともゆっくり頷いて、

「ぶつかる力よりも、組んでからの勝負になったからね。それより、余計な怪我が減って良かったよ。」

と微笑みます。おっと、みんなこれ知ってたか。やばい、もう出す札が無いぞ。「ラグビー好き」と言っても、松尾、平尾の頃の知識で食ってるだけだからなあ。

南アの男が、日本代表の躍進ぶりについて再び語り始めたので、私が

「今、世界ランキング12位くらいかな。」

と言うと、ニュージーランドの大男が、

「いや、10位まで上がってると思うよ。」

と訂正します。え?そんな数字もチェックしてんの?ちょっと前までは日本なんて世界ランキングの話題にも入らなかったからねえ、と私が笑うと、南アの男は冷静に、

1995年のワールドカップでは、ニュージーランド相手に14517で大敗してたくらいだからねえ。」

とコメントします。おお~っ!過去のゲームのスコアまで暗記してんのか!ニュージーランドの二人は、

「笛が鳴ると数秒後にはトライっていうのを際限なく繰り返す感じだったからね。あの試合は本当にすごかった。」

と笑顔。ううむ、こりゃ知識量の差が半端じゃないぞ。

聞けば三人ともプレー経験があり、「男子なら全員、四の五の言わずにラグビー部」という環境で育ったそうで、そりゃ太刀打ちできるわけがありません。日本代表の私は、ラグビー大国たちに完膚なきまでに叩きのめされ、すごすごと引き下がったのでした。その時ニュージーランドの大男が、上の方から優しい声でこう言いました。

「ラグビーの醍醐味はさ、試合が終わると同時に敵も味方も無くなって、良い試合だったねってお互いを称え合うところなんだよね。」

じわっと来ました。そうだ、この「ノーサイド」の精神が、自分がラグビーを愛する一番の理由なのかもしれないな、と思い出しました。ラグビー「あるある」合戦では完敗だったけど、強豪国の人々と楽しく語り合えたことで、とてもハッピーになったのでした。

5 件のコメント:

  1. キミがラグビーに造詣が深いとは知らなかったヨ。ウチの高校は体育の授業でラグビーがあったのでオイラはルールが判るんだけど、一般的にラグビーを見ているだけの人にはルールを理解するハードルがかなり高いのじゃないかと思うのだがね。授業と言えどもplayしたことがあると、ラグビー観戦はかなり楽しめるね。

    ニュージーランドや南アの男子達も同様に体育の授業では必ずラグビーがあるんじゃないのかな。

    ちなみに、アメトークでもラグビー芸人というのをやったことがあるゾ
     http://www.pideo.net/video/pandora/09fc292405c6817f/

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  3. ありがと。この回、一番好きかも。ゴルゴ13芸人の回が二番。

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  4. さとうくん2015年11月20日 4:41

    ジャパンの躍進はエディ・ジョーンズHCによるところが大きかったと思います。
    うちの息子は去年の夏、菅平でエディさんにサインをもらった
    Tシャツを大事にとってあります。
    そのエディさんは、イングランドのHCになられるようです。http://www.yomiuri.co.jp/sports/etc/20151120-OYT1T50045.html
    (イングランドは本気です)
    日本も今大会の結果に満足せず、4年後はさらに
    上を目指してほしいものです。

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  5. おお~!コメントとリンクありがと。そうか、イングランドは強豪復活を本気で目指しているんだね。これはますます人々のラグビー熱を煽るね~。

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