先週、ランチルームでベテラン社員のビルが隣に座ったので、彼の陸軍勤務時代の体験談をひとしきり聞かせてもらいました。そして気が付くと、いつの間にかトランプ大統領の話題になっていました。己の言動の一貫性など知った事か、と言わんばかりに突然銃規制の強化を訴え始めたので、副大統領や共和党員はもちろん、民主党の人々も度肝を抜かれたという最近のニュース。
「前々から予測不能な人物だとは思ってたけど、側近たちをも簡単に裏切っちゃうんだから、スケールが違うよね。」
と私。するとビルは首を大きく振りつつ、
「あの野郎はホントに大っ嫌いだよ。毎朝起きる度に、あんな奴が大統領やってるんだと思い出して、滅茶苦茶気分が落ち込むんだ。」
と溜息をつきます。
「このままだと二期目も有りだよね。誰か有望な対抗馬はいないの?」
と疑問を投げかけたところ、ビルが更に浮かない顔。
「今のところ、勝てる見込みのある奴は見当たらんな。」
「ポール・ライアンなんかはどうなの?」
48歳で下院議長を務めるライアン氏はなかなかのルックスで、そこそこ人気もあるのです。
「ダメだよあんな奴。」
と一蹴するビル。
“He’s just a whippersnapper.”
「単なるホイッパースナッパーだからな。」
え?何それ?と思わぬ新単語の登場に食いつく私。
「え?ああ、若くて元気が良いだけだってことさ。」
「何でそう言うの?」
「う~ん、それは知らんな。」
翌日、部下で大卒二年目のテイラーと食後の会話を楽しんでいた際、急に思い出してこう尋ねました。
「ねえ、ホイッパースナッパーって知ってる?」
すると、聞いたことあるけど意味は知らないわ、答える彼女。あ、そうなの?じゃああんまり流通していない単語なのかな、と追及を諦めかけたのですが、テイラーは素早くスマホを取り出し、三秒もしないうちに検索結果を読み上げ始めたのでした。
「若い世代の人に対して使われる、Insulting(侮辱的)な言葉だって。」
エラそうな口のきき方をする若者、つまり「生意気な若造」という意味の単語だとのこと。でもなんでホイッパーとかスナッパーとか出て来るのか?「ホイッパー」は鞭をピシピシ打つ人、「スナッパー」は紙クラッカーをパンパン鳴らす人、という意味で、これがつまり、「重みの無い話を調子良く喋る小賢しい若者」のイメージに繋がるのですね。へえ、こんな言葉、アメリカにもあるのか。
「年寄りが好んで使う単語なんだって。」
とテイラーが補足説明を読み上げ、クスクス笑いながらこちらを見ます。
「おいおい、年寄りを侮辱する気か?」
と一応おどける私。
この国に来てからもうすぐ18年が経とうとしていますが、私は未だにアメリカ人の「年長者に対する敬意の欠如」に慣れることが出来ません。日本でたっぷり刷り込まれた「相手の年齢や社歴が上ならとりあえず敬語」という条件反射が抜けないので、親子ほども年の離れた若者がまるで友達みたいな気さくさを振りまいて話しかけて来た時など、思わず一瞬うろたえてしまうのですね。「ど、どういうつもりだ?」と。
権威に対して怖じる必要が無いのだから、誰でも自由に意見を言える。それが社会や組織の風通しを良くし、革新的なアイディアが生まれる土壌になる。この点ではアメリカと言う国を高く評価している私です。しかしその一方で、大した知識も経験も無い奴が臆面も無くいっちょ前な口のきき方をする場面に出くわす度に、どうリアクションを取ったら良いか分からず落ち着かないのですね。
「何を偉そうにとんちんかんな事を言ってやがんでえ。すっこんでろ!」
と怒鳴りたくなるケースも少なからずあり、これってきっと日本人ならではの特殊な感覚なんだろうな、と自分に言い聞かせて来ました。そんな時このWhippersnapperという単語をバリバリのアメリカ人であるビルの口から聞いたことで、若者の傍若無人な態度を内心面白く思っていない年長者もこの国に結構いるのかも知れないな、と思い直したのでした。
その日の午後、コンピュータ画面を睨んで仕事に没頭していたら、視界の左隅で部下のアンドリューがこちらをじっと見つめているのに気が付きました。どうしたのかと彼の方へ顔を向けると、
「電話鳴ってるけど。」
と指さします。マナーモードになっていた私の携帯電話が、控え目な振動を繰り返しているのです。
「あ、ほんとだ。有難う。」
慌てて電話に出て会話を終えたところ、アンドリューがクスクス笑いながら、「若者にしか聞こえないリングトーン」って知ってるかと聞きます。いや、初耳だけど?
彼の学生時代、ある周波数を超えると高齢者に聞こえなくなるという特徴を活かし、授業中に携帯電話が鳴っても先生にバレない種類のリングトーンを皆で使っていた、と。
「ええ?そんなのあんの?」
と驚いてから、おいおい、何でそんな話をしてるんだよ?と我に返る私。
「いや、さっきので思い出しちゃって。」
とニヤニヤし続けるアンドリュー。ううむ。なんかナメられてる感じ...。
さて一昨日の昼飯時、植物学チームのジョンが隣に座ったので、前々から聞こうと思っていた彼の副業について質問してみました。彼は地元のコミュニティーカレッジで、週何回か講師をしているのです。コミュニティーカレッジというのは、州政府や市が経営する格安の短大。ここで二年学んでアソシエート・ディグリーと呼ばれる学位を取得し、これを持って四年制大学に編入しようと目論む学生が大勢います。
「学生さんってどのくらいの熱心さで授業取ってるの?」
「いや、それはもう千差万別だよ。必要な単位数を稼ぐだけのために来てるような奴は、当然ほとんどやる気ないし。」
ある年、学期の半分が終わる頃、男子学生がひとりジョンを訪ねて来たそうです。
「四年制大学に編入したいので推薦状を書いて欲しいって言うんだ。ところが彼は、僕の出した宿題を、学期前半に一回も提出してなかったんだよ。」
「うわあ、そんな状況でよく推薦状頼んで来るねえ。で、どうしたの?」
「さすがに断ったね。」
と笑うジョン。
「そしたらその後にさ、学生課から連絡が来たんだ。中間試験前のストレス発散イベントに参加して欲しいって。学生からの推薦があったんだと。」
「何のイベントだって?」
「テスト勉強で溜まったストレスを発散しようっていう行事なんだ。内容を聞いたら、板にくり抜かれた穴に顔を突っ込んで立っててくれって言うんだよ。学生たちがパイを投げつけるからって。」
「ええ?何それ?で、行ったの?」
「いや、たまたま先約があったから辞退したよ。」
「先約が無くても断るだろ、普通!」
いつの間にか、昼飯を食べ終えていた同僚のリンドンやビルもジョンと私の会話に聞き入っていて、一斉に突っ込みます。しかし当のジョンは、静かにニコニコ笑っています。
「学生課には一応聞いてみたんだ。」
「何を?」
「誰が僕を推薦したの?ってね。」
当然ながら、匿名の推薦だったとのこと。
「学生がパイを投げる寸前まで顔出しといて、推薦人が誰なのかを突き止めるって手もあったよな!」
とビル。
それから皆でゲラゲラ笑いつつ、ランチルームを去ったのでした。
う~ん、これってジョークとして済ませていい種類の話なの?
…何だかまた良く分からなくなりました。
ここのところ日本のバラエティ番組では、ローラとか藤田ニコルとかの”タメ口タレント”が重宝されているよね。彼らも実は営業タメ口だったりしてるらしく、まだまだ日本文化には馴染んでないのがよく判るヨ。
返信削除https://www.excite.co.jp/News/entertainment_g/20170827/Cyzowoman_201708_post_150693.html
ただ、タメ口タレントでも中身がしっかりしてれば逆に評価が上がったりするみたいで、梅沢富雄が藤田ニコル好きを公言してたりするね。要は中身の問題なのか・・・オイラにも今回紹介されたエピソードはどうにも受け入れがたい感覚があるねぇ、嗚呼日本人!
息子の親友の二コラですら、「シンスケ!」と呼び捨てして来るので、この国じゃ長幼の序だとか年功序列みたいな観念は通用しないのだよね。だからハーフ(今は違う呼び方するのかもしれないが)でちょっと美人だったりすると、タメ口でも「カルチャーが違うからしょうがないか、それに可愛いからOKにしよう」ってことになるんだろうね。いちいち目くじら立てて「めんどくさいオヤジだなあ」と思われるのも悔しいので、大抵の人は黙ってしまう、と。
返信削除かく言う私、ダレノガレ結構好きなんだけど…。
そこはやり方で、近所の子供とか娘息子の友達には「Mr.X(またはMrs.X)と呼んでね」と最初きちっと言っておけば、ファーストネームで呼び捨てにされないで済みます。まるで長幼の序感がないわけでもないです。
返信削除なるほど。確かにミスターつけて呼んでくれる子供もいないではないです。でも一旦タイミングを逸すると、言いにくくなるんですよね。
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