2015年1月31日土曜日

Tree Hugger 環境オタク

火曜日の夕方、うちのオフィスビルの三階テラスで、Mixerイベントがありました。三支社が合体して出来た新組織なので、まだまだ知り合うチャンスの無い同僚も沢山います。要らぬ垣根は早いうちに取っ払ってしまおうということで、総務の女性陣が企画したイベントでした。

先週、「自分に関することで、皆にあまり知られていない情報を教えて下さい」という一斉メールがトレイシーから届きます。イベントのゲームに使うから、とのこと。自己紹介については以前苦い思いをしているので、今回はびしっとキメました。

「合気道の黒帯で、趣味は折り紙です。」

さて当日、夕闇迫る会場に若干遅れて到着したところ、ビル群の灯りにほんのり顔を照らされた50人近い同僚たちが、既に談笑しています。手にはビールやワインの小瓶。よく見ると皆何か、コピー用紙のようなものを持っています。何それ?とそこらにいた人たちに尋ねると、「人間ビンゴだよ」と答えます。

飲み物が冷やしてあるケースの横に積まれた紙の束から一枚つまんでみると、縦横四マスずつのマトリックスに短い文章が書かれています。

「腎臓のドナー経験者です。」
「一卵性双生児の兄弟がいます。」
229日生まれの子供がいます。」
「中国で一年間英語を教えたことがあります。」

私の自己紹介文も発見。要は、ひとつひとつ該当する人を探し出してマスを潰していくゲームなのだと。なるほど、それはいい考えだな、と感心しました。ビンゴを口実に、初対面の人に話しかけられるんだから。

陽がすっかり落ちてから、同僚ジェフがやって来ました。

「このビンゴの表に君のプロフィールは入ってる?」

と尋ねると、

「いや、申告しなかったよ。」

という返事。

「なんで?僕は若い頃お店で肉を買ったことがありませんでした、なんて書けたんじゃない?」

ジェフはカナダに住んでいるころ、週末になると猟に出かけ、アーチェリーで仕留めた獲物を捌いて食糧にしていたのです。彼の返答がこれ。

“I don’t want to upset tree huggers.”
「ツリーハガーの気分を害したくないからね。」

このTree Hugger ですが、一般には「環境保護論者」と訳されます。「木に抱き付く人」と直訳すれば、そう受け取られるのも当然ですが、この時のジェフの発言は明らかに皮肉混じり。

ジェフや私が所属していた旧オフィスの社員は大多数がエンジニアで、当然ながら男所帯。一方、元々ダウンタウンにオフィスを構えていた支社は3倍以上の社員数を抱えていて、ほとんどが環境保護の専門家です。しかもその過半数が女性社員。私はこの支社に行くたび、ほんわかした気分になったものです。エンジニアの社員が断定的な、時に攻撃的な物言いを得意とするのに対し、環境部門の人々は概ね「聞き上手」で、しかも笑顔を絶やさない。ジェフの言いたかったのは、統合後の支社の大多数を占める「環境に優しい人々」に、動物をじゃんじゃん殺して食ってたなんて話をしたらどんな目で見られるか分かったもんじゃない、という話ですね。

そんなわけで、私の訳はこれ。

“I don’t want to upset tree huggers.”
「環境オタクらの気分を害したくないからね。」

後でちょっと調べたところ、1730年にインドで起きた事件がこのフレーズの語源だという記事を発見。

王様の宮殿を建造するために木を伐りに来た人たちに対し、アムリタ・デヴィという女性が、この土地の木は伐採を禁じられているはずだと抵抗。木を切られたくなければ賄賂をよこせと言われ、代わりに私の命を取りなさい、と答える。彼らは彼女を斬首。アムリタの三人の娘たちも母にならい、次々に斬首されます。構わず伐採を続ける王の手下どもに対し、村人たちが手を繋ぎ、木々の周りを囲むようにして抵抗。計363名の村人が命を落としたところで、王様が伐採を止めさせた。

本当かどうかは分かりませんが、もしもこれが事実なら、恐ろしい語源です。軽はずみに使っちゃいかんな、と思ったのでした。

さて、ジェフと話をしている最中、エンジニアの若き同僚ジェイソンも加わりました。

「俺も申告しなかったからこれには載ってないよ。シンスケは?」

「この中にあるよ。探してごらん。」

私のマスを探し当てた彼らは、仰天。すかさず私がこう釘を刺します。

「僕にはちょっかい出さない方がいいよ。気づいた時には身体が宙を舞ってるからね。」

後ずさりしながらビビりまくるジェスチャーでおどける、ノリの良いジェフとジェイソン。

「ところでさ、ずっと気になってるプロフィールがあるんだけど、これ、どう思う?」

と私が二人に尋ねます。

“Had a pet turtle named Otto as a child, and released it into a pond.”
「子供の頃、オットーという名のペットの亀を池に放した。」

「他のプロフィールとだいぶ趣が違うでしょ、この文章。ダジャレになってるのかな、と思って。」

と私。ジェフもジェイソンも、顔をしかめて何度も文章を読み返します。

「なぞかけになってるんじゃないかな。」

とジェイソン。

「う~ん、俺には解読出来ないな。なんだろう、この自己紹介?」

とギブアップするジェフ。

そこへ環境部門のピーターがやってきたので、僕のプロフィールを当ててみてよ、と挑んだところ、

「シンスケが日本人だと分かってるだけにちょっとベタ過ぎるけど、合気道のやつ?」

と即答しました。その通り!と笑うと、

「この中で一番クールなプロフィールだね。」

と、優しい笑顔で褒めてくれました。

「で、ピーターのはどれ?」

彼は照れながら、ペットの亀のやつが自分のだ、と言います。

「君だったのか!あのさ、聞きたかったんだけど、これって何かダジャレとかなぞかけになってるの?」

怪訝な顔で首を振るピーター。

「いや、これがそのまんま僕のプロフィールだよ。飼ってた亀を池に放したことがあるって。」

私はあっけにとられ、暫く彼の顔を見つめてしまいました。我々エンジニア軍団は、完全に無駄な深読みをしていたわけです。ピーターはただ、子供の頃の切ない記憶を自己紹介に使っただけだったのですね。


ほんわ~かした気分になりました。


2015年1月25日日曜日

Nerves of steel 鋼鉄の神経?

建築部門の大出血プロジェクト10件に加え、終結を迎えた空港プロジェクトのPMを任されて以来、まるで「消防ホースから水を飲む (Drink from a firehose)」ような状態が続いています。毎日複数の副社長たちから問題プロジェクトの経営状況に関する質問が飛び込み、「経営改善策を大至急作成してくれ」などというリクエストを一日に何十本も受け取ります。当然、ほとんどのメールに返答する時間もないので、未解決の課題がみるみる山積されていく。

電話会議では出席者が総じてカリカリしており、中にはためらいも見せずに怒りをぶちまける人も。

「一体全体、なんでこんなことになったんだ?」

プロジェクト開始からだいぶ経った時点で引き継いでいるので、答えられない質問も多く、時に禅問答のようなやり取りが続きます。更にタイミング悪く、11月から大規模な組織改編が始まりました。上層部にも新顔がちらほら加わって来て、プロジェクトの背景を全く知らない彼らからすれば、いきなり火のついた爆弾を渡されたようなものです。パニックになって直接電話して来る副社長も。

PMのサポートというお気楽ポジションを10年以上楽しんで来た私ですが、人並みに「ストレス」を抱えるようになりました。誰よりも早く出社して誰よりも遅く退社する毎日。しかもその間、まともに呼吸した気がしないほどの猛烈なプレッシャーが続きます。

金曜の朝も、LA地区の建築部長に就任したばかりのジョン、北米の建築部門を代表する東海岸のリック、サンフランシスコからサンディ、それから私のプロジェクトのディレクターを務めるビバリーとの電話会議がありました。全員が副社長。ジョンはこのプロジェクトに一時関わっていたこともあり、私の出した数字に対して極度に苛立っています。

「去年の10月頃、各部門のリーダーが集まって作り上げたコスト予測はどこへ行ったんだ?

「ビバリーと私とで年末に作り直した予測を基にしたんですが。」

「それは断じて受け入れられないぞ。どれだけ時間をかけてあれを作ったと思ってるんだ?」

彼女も私も、比較的新しいプロジェクト・メンバーです。情報が不足しがちな中、模索しながら必死に取り組んでいるのですが、その努力がちっとも認められていないように感じました。

結局無数のダメ出しを浴びた後、月曜の朝一番までに書類を仕上げて再び会議で揉まれることになりました。これで週末出勤が正式決定です。電話を切ろうとした際、「ちょっと待った」とジョンが制します。正直、もういい加減にしてくれ、という心境だったのですが、彼が妙に落ち着いた声でこう言ったのです。

「この仕事を引き受けてくれて本当に感謝してる。色んな人と話したけど、誰もがシンスケのことを高く評価してるんだ。大変だけど、よろしく頼む。これを前から言いたかったんだけど、チャンスが無くてね。」

え?そんな展開?動揺する私。慌ててお礼を言うと、今度はビバリーがジョンに同調します。

「ジョン、その話を切り出してくれて有難う。私も同じ気持ちなの。」

おいおいなんなんだ?ふたりとも。気持ち悪いぞ。

「別の会議でもシンスケの話題になってね。皆にこう言ったの。Shinsuke has a very quiet demeanor, but he’s got nerves of steel.(シンスケってすごく静かな物腰だけど、鋼鉄の神経を持ってるのよ。)」

あれえ?なんだかものすごい勢いで褒められてるみたいだぞ。

「二人とも有難う。これで更にプレッシャーが増大したよ。」

と、ふざけながら切り返す私。

午後になって空港のオフィスに向かいながら、さっきのビバリーのセリフを思い返していました。なんなんだ?「鋼鉄の神経(nerves of steel)」って。図太いっていう意味か?だとすれば単純な褒め言葉じゃないかもしれないぞ。素直に喜び過ぎたかも。

オフィスに着いて、同僚の一人でシアトルから出張していたジョンに解釈を尋ねてみました。

「大丈夫。それは間違いなく褒め言葉だよ。」

「でもさ、神経が鉄で出来てるって言われたら、バカにされてるようにも感じるんだけど。たとえばどういう人のことを言うの?」

そうだな、と少し考えてから、彼がこう答えました。

「燃え盛るビルの中から助けを求める人に気が付いたら、迷いも無く飛び込めるような人だね。」

おお、それはスゴイ。強靭な精神力を備えた、勇敢な人のことですね。滅茶苦茶かっこいいじゃないか…。

帰宅して妻にそれを報告すると、

「日本人サラリーマンのすごさを見せつけてやったってわけね。」

確かに…。渡米するまで毎晩2時3時まで働いてタクシー帰りを繰り返していた彼女にとってみれば、今の私の働き方なんてちょろいもんです。実はちょっとだけ「心が折れそう」になっていた私。これでシャキッとしました。

2015年1月15日木曜日

Think of England イングランドのことを考えなさい

先日サンディエゴ支社の会議室で、環境部門のドンであるテリー、それに私の部下のシャノンと三人で会議をした際、プロジェクト予算におけるコンティンジェンシー・リザーブ(「かもしれない」予算)が話題に上りました。

これはまさかに備えて積んでおく予算ですが、最初から意識的に膨らませておき、プロジェクト終了間際にドーンと放出することも可能です。当初の約束より高い利益率を弾き出してハッピーエンドを演じる、というテクニックなのですが、これに目を光らせているのが財務部門。彼らは、毎月のように魔女狩りならぬ「コンティンジェンシー狩り」を敢行し、何故それだけの額が必要なのかをPMが明確に説明出来なければ、容赦なく没収して行きます。

財務部門にとっては、日夜プロジェクトを運営している社員よりもウォール街の方がはるかに大事。毎期の目標利益率を達成して株主の皆さんを満足させることが、彼らの何よりの喜びなのです。期末が近づき、いよいよ目標達成が困難になってくると、なりふり構わずコンティンジェンシー・リザーブを奪い取りにやって来ます。たとえ正当な理由と計算式を示しても、「株主利益の最大化」という錦の御旗の下、有無を言わさず根こそぎ持っていくことさえある。後になって本当に想定外の事態が起こった場合、当初用意していたコンティンジェンシー・リザーブがゼロになっているので、損失を計上する羽目になります。すると己の過去の蛮行など記憶から抹消したかのように、「なんで予算をオーバーしたんだ?」と食って掛かる。

「結局さ、我々PMの最大の敵は財務部門という構図になってるよね。」

と私。

「どっちにより大きな発言権があるかと言えば、やっぱり財務部門でしょ。最終的には彼らの好きなようにされるしかないんだから、抵抗しても無駄なのよ。」

とテリー。そこで彼女が思い出したようにくすっと笑い、私とシャノンに向かってこう尋ねました。

Think of Englandってフレーズ聞いたことある?」

私とシャノンは顔を見合わせて首を傾げます。二人とも初耳であることを告げると、

「セクハラ・トレーニングを受けたばっかりでこんな発言もどうかと思うけど…。」

と顔を赤らめながら説明してくれました。

“Close your eyes and think of England.”
「目を閉じてイングランドのことを考えなさい。」

というのがそのロングバージョンだそうで、どうやら夫婦の夜の営みに関する話らしい。テリーが照れながら早口で解説したためか、私には意味が分からず、帰宅してからネットで調べてみました。

これは、夜の行為に乗り気でない妻が、ベッドで夫を迎える際の心得なのだと。

イングランドには「緑豊かな土地」というイメージがあるようで、つまり「ちょっとの間、素敵なことを考えてやり過ごしなさい」という意味ですね。テリーはこのフレーズを使って、「目をつぶって財務部門の好きなようにさせるしかない」と言いたかったわけです。

この日のお昼に同僚ディックとランチを食べた時点では、イングランドを「飯のまずい退屈な場所」というイメージで捉えていた私。彼にこのフレーズの意味を尋ねたところ、

「いや、そんなの聞いたことないな。テリーはどういう文脈で使ってた?」

と首を傾げます。

「うん、財務部門の横暴エピソードには繋がらないんだけどさ、おそらく、少しでも長持ちさせようとする夫の努力を表現してるんじゃないかと思うんだよね。」

ま、完全に誤解してたわけです。

「なるほど。イングランドのことを考えたらそりゃ長持ちしそうだな。他にも色々方法はあるよ。自分のプロジェクトのことを考えるとかね。」

アイディアを列挙し始めるディック。私も調子に乗って、こう言いました。

Prime number (素数)を下から順番に数えてみるとかね。」

するとディックが、くすっと笑ってからこう返しました。

“That might be too effective.”
「そりゃ効果あり過ぎかも。」


2015年1月10日土曜日

Don’t bury your head in the sand! 恐ろしい現実から目を背けるな!

毎週水曜にはオフィスの近所までフードトラックがやって来るという話を聞いたので、さっそく同僚ディックと出かけてみました。細い裏通りの片側車線を通行止めにし、5台くらいのトラックが縦列駐車で営業しています。我々は暫く品定めした後、ニューオーリンズ風の能天気なデザインのトラックを選びました。プレイボーイ誌のグラビアから抜け出たみたいな金髪女性店員が、スリムな赤Tシャツ姿で頭上からサンドイッチを手渡してくれます。オフィスのビルに戻り、三階のオープンテラスに陣取って、お日様を浴びながらランチを楽しむ野郎二人。

新しいオフィスビルに移って約一か月。三支社が統合して一気に社員数が増えたこと、個室ゼロ、おまけに間仕切りが撤廃されてプライバシーが一切無くなったこと、私の席周辺は空調の調節が滅茶苦茶で、スキーヤーみたいな厳冬スタイルを余儀なくされていることなど、職場環境の劇的な変化の話題でひとしきり盛り上がりました。ディックの席は受付から目と鼻の先なので、社外から訪ねて来た人から丸見えです。居留守を使うことはほぼ不可能。これは大誤算だった、と。ディック。

「ま、そのうちこういうのにも慣れて行くんだよね。」

と私。

「そういうば昨日、チームリーダー会議があったんだ。そこでステイシーが、さり気無く爆弾発言をしたんだよ。」

顔を動かさずに、ちらりと隣のテーブルへ目配せするディック。当のステイシーが、ランチを終えて他の同僚達と談笑しています。

「三つの支社が統合した上、来週あたりには去年買収した会社の社員たちもごっそり移ってくる。従来のメンバーだけでチームリーダー会議を続けてて良いものなんだろうかってね。」

「うわぁ、それはどえらい爆弾をぶちこんだね。」

「そうなんだ。俺とあと二人くらいはその疑問に同調したんだけど、残りの大多数は全くの無反応だった。まるで彼女の発言は聞こえなかったとでも言うようにね。これにはイラッとしたよ。大きな変化の波が立て続けに押し寄せてるっていうのに、気付かぬふりをしてるんだよ。」

この時ディックが使ったフレーズが、これ。

“You are burying your head in the sand.”

直訳すれば、「頭を砂に埋めてるんだよ。」ですね。

ちょっと待った、と話を止める私。

「それ、どういう意味?なんで砂なの?」

あはは、と笑うディック。

「本当かどうかはともかく、語源はこうだと思うよ。ダチョウは敵が近づくと、恐怖のあまり顔を砂に埋めてしまうって。幼児が自分の顔を手で覆うのと一緒。自分から見えなければ相手も自分を見えないだろうって発想だね。」

「なるほど。要するに、恐ろしい現実から目を背けるばかりで何も対策を講じないって話だね。」

「その通り。」

「あ、それで思い出した。」

その日の朝一番、同僚ヘザーが訪ねて来たのです。彼女は先月の三支社統合まで、前の支社のオフィス・マネジャーを任されていたのですが、新オフィスではトレイシーにポジションを奪われ、マーケティング部門の見習いみたいな部署に回されたのだと言います。

「これまではずっとオフィス全体を仕切ってたじゃない。それがいきなりの格下げでしょ。打ちのめされたわよ。職があるだけましだって言いたいところだけど、正直かなりこたえたわ。」

彼女の得意部門は、オフィス環境を改善しつつ社員をサポートすることです。それが今度の仕事は、表の作成ばかり。ほとんど誰とも話すことなくコンピュータに向かいます。しかも、することが何も無い手持無沙汰の時間が長く、常に忙しく立ち回って来た彼女にとっては拷問です。しかも、このままではいつ失職するか分かったもんじゃない。過去三週間、鬱々と毎日を送っていたのだと。

「そこへ、シンスケがプロジェクト・コントロール・チームの増員を目論んで動いてるって聞いたの。私にやれることがあるかしら、と思って。」

完璧主義者ヘザーの仕事ぶりには、常々感心していた私。話し合いの結果、チームに加わってもらうことになりました。彼女は顔を輝かせ、何度もお礼を言います。いやいや、感謝したいのはこっちの方だよ、だって僕はここんところ、完全なオーバーワークで青息吐息なんだから。

Chef(シェフ)って映画観た?」

と私。いいえ、と首を振るヘザー。

この作品、私がここ数年鑑賞して来た映画の中では断トツの一位です。人気レストランのトップシェフの座を失ってどん底に陥った中年男が、離婚した妻による「内助の功」で、小さなフードトラックを始めます。同時に、疎遠になっていた10歳の息子との触れ合いも復活。マイアミからニューオーリンズ、オースティン、そしてロサンゼルスまでの道中、美味しい料理を作って人に味わってもらうシンプルな喜びが、抜け殻のようだった彼にじわじわとエネルギーを吹き込んで行きます。仕事に対する愛、友の支え、家族との絆をベースに、男の人生後半戦は大きな歓喜に包まれて行くのです。

「この映画を観てね、何かを失った時って実はチャンスの到来なのかもしれないなって思ったんだ。もしかしたら、君の人生にとっての素晴らしい転機が、今訪れているのかもしれないよ。」

目を潤ませて、大きく頷くヘザー。さっそく金曜の朝一時間半かけて、プロジェクト・セットアップの基本を教えます。懸命にメモを取りながら質問する彼女に、ちょうどロングビーチ支社のマークからセットアップを頼まれていた最新のプロジェクトを任せました。終業時間直前に仕上げてメールして来た彼女に、よく出来てるよ、と褒めた後、二、三の手直しをお願いします。返信は五時半を回っていたので、月曜に仕上げてくれることを期待しながら。

ところが翌土曜日の朝、「修正したわ。もう一回チェックしてくれる?」というメールが届きます。おお、休みなのに仕事してる!

強力なチーム・メンバーが、こうして一人加わったのでした。


2014年12月18日木曜日

Mistletoeとセクハラ

先週月曜、サンディエゴ地域の三支社が統合し、ダウンタウンの新しいオフィスに移りました。私の席は、港を望む絶好のロケーション。コンピュータ画面をにらみ続けるのに疲れたら、ちょっと右を向いて景色を楽しめます。隣の席との間には視界を遮るものが何も無く、日本で働いていた頃の島机を彷彿とさせます。私の周囲は何故かすべて女性社員。左隣は過去10年来の友人でもあるべス。二人とも猛烈に忙しく、折角お隣さんなのに、初日からほとんど会話するヒマがありません。

今朝も私が6時過ぎに出勤したところ、10分ほどして彼女がやって来て、挨拶もそこそこに戦闘開始。いきなりフルスロットルで仕事に没頭します。ところがその出鼻をくじくように、メールが一本飛び込みました。

「オンラインのセクハラ・トレーニングを受講して下さい。締切は...。」

思わずイラッとした私は、唸り声を上げてしまいました。これ、二年前にも受けたじゃん。数日前にも「Ethical Conduct(倫理的行動)のトレーニングを受けて下さい」というメールが来たばかりなんだぜ。ただでさえ目が回るほど忙しいのに、同じようなトレーニングを何度も受けさせるなよ!

「大体さ、何をしたらセクハラになるのかなんて、一回聞けば分かると思うんだよね。なんでこう度々同じ話を聞かされなきゃならないのかな。」

と毒づく私に、

「そうよね。行動がどうと言うよりは、被害者の側の心証が大事なのにね。」

それからひとりしきり、セクハラ話で盛り上がる二人。私が日本で働き始めた当時、職場のオジサンたちの机には、生命保険の外交員に貰った卓上ヌードカレンダーがあったけど、誰も気にしてなかったよ、とか。

「最近じゃ、女性社員相手の発言には毎回かなり神経使うよ。」

「反対に、女性が男性にセクハラっていうケースもあると思うわよ。例えば、昨日オンタリオ支社のボブが会議でこの支社に来たでしょ。久しぶりの再会だったから私、思わずハグしちゃったじゃない。後でね、もしかしたら彼はイヤだったかも、って心配になったわ。」

「なるほどねえ。それは考えなかったなあ。」

「難しいのは、何の下心も無いのに相手から誤解されちゃうケースもあるってことよね。」

とべス。

「たとえば、私の席の左側にぶらさげてあるミッスルトウを、シンスケと私の机の間に飾ったとするでしょ。それを私からのセクハラだと受け取るってことだってあり得るじゃない。」

は?ミッスルトウ?セクハラ?

Mistletoe (ミッスルトウ)とは、日本語ではヤドリギのこと。昨日の午後、総務のトレイシーが、

「リンドンが現場で拾って来たMistletoe を、ランチルームの大テーブルに置いておきました。欲しい人はご自由に。」

と皆に一斉メールを送信。べスはそこから一本頂戴して来た、というわけ。しかし私には「ミッスルトウ」が何のことかさっぱり分からず、わざわざ聞きに行ったのでした。

「クリスマスの飾り付けに使うのよ。」

とトレイシー。

「ちょっと可愛いでしょ。」

「ほんとだ。何だかちょっと愛らしいね。」

ミッスルトウが何かはこれで分かりました。でも、何故べスはこれをセクハラ話として持ち出したのか。解説をお願いしたところ、

「クリスマスには、ドアの上とかにこれを飾るの。でね、この下に立ってる女性にはキスしていいっていう習慣があるのよ。だから、もしも私がシンスケと私の机の間にこれをぶらさげておいたら、私がキスを強要してるんじゃないかって勘繰る可能性もあるじゃない。」

ええ~っ?そんな展開?

アメリカ生活長いけど、こんな話は初めて聞きました。知らないというのは恐ろしいなあ…。

さて、午後になって上階のジェイソンを訪ねました。彼の周囲は、私と好対照なまでに男所帯。真向いはリチャードです。

「ねえ、ミッスルトウの下に立ってる女性にはキス出来るっていう話、本当なの?」

と男二人に質問したところ、どちらも真顔で頷きます。

「相手もキスを期待して立ってる確率は高いと思うよ。」

とリチャード。今朝のべスの発言を紹介したところ、

「ちょっと無理のある展開だけど、絶対無いとは言えないケースだね。」

とジェイソン。間髪入れず、リチャードがこう言いました。

“I’ll have mistletoes on my belt buckle.”
「ベルトのバックルにミッスルトウをぶら下げておこうっと。」


久しぶりに職場で聞く、百パーセント混じり気無しの下ネタでした。


私のデスクでこの発言をしたら、間違いなく人事部に呼び出しを食らうことでしょう。

2014年11月29日土曜日

ストックホルム症候群とクライアント・マネジメント

色々あって、専門外である建築部門のプロジェクトを10件以上担当しています。そのうち5件は、大量出血状態。プロジェクト中盤でのバトンタッチだったので、中身はまだ勉強中なのですが、一体何がどうなったらこんな事態になるのかね、と首を捻りたくなるほどの惨憺たる有様。

このうち二件のプロジェクトにオレンジ支社の同僚ブライアンが深く関わっていると知ったので、彼に解説をお願いしました。それで分かったのが、次のような背景。

クライアント側にプロ・アマ含めて建築家はひとりもいない。だからこそコンサルティング・ファームに仕事を依頼しているわけだけど、専門知識ゼロなのを良いことに、思いつきでどんどんデザイン変更を要求して来る。それがどのくらいコストに影響するかについては何も考えない。チーム全員がほぼ徹夜で練り直したデザインをプレゼンすると、建築コストの増加にたじろぎ、「やっぱりそれはやめとこう。」とあっさりひっくり返す。設計変更に費やしたコンサルタント側のコストについては、「そこは何とかしてよ。頼むよ。」と笑って済ませる。こんなやり取りが毎週のように繰り返される。気が付けば、膨大な損失を抱えている…。

これにはぶったまげました。プロジェクトマネジメントの基本中の基本である、「どんなに小さな変更依頼も必ず文書化し、費用をクライアントが負担することを文書で確認してから進む」というルールを全く守ってない。歴代のPMが全員クビになっているのも、これで説明がつくじゃないか…。

「皆、そんなやり方がまずいのは重々分かってるんだよ。でもこの不景気じゃ、クライアントの機嫌を損ねるリスクも取れないでしょ。だったら他の会社に頼むからいいよ、と切り捨てられる可能性を考えると、些細な変更ならちょいと残業して凌いでしまおうという意識が働くんだな。それが地獄の入り口だと薄々勘付いていながらも。」

私が普段担当している上下水道や高速道路設計などのプロジェクトは、クライアントが公共団体でしかも専門家の担当者を抱えているケースが多く、彼らからまず設計標準等を与えられるのが一般的。プロジェクトの成果は開始前からある程度分かっている上に、条件変更がどの程度のコスト増に繋がるかのイメージは、双方がほぼ共通認識として持っています。これが建築の世界では、だいぶ事情が違うらしい。成果品のイメージが曖昧なままスタートし、クライアントからの気まぐれな変更要請に辛抱強く応えつつ長時間労働を続け、社内では「何を大損こいてんだ!」といたぶられる。

「顧客を満足させつつきちんと儲けを出す」というビジネスの基本ルールは、もはや二律背反の大難題なのですね。確かに、この不景気にクライアントからの無償変更要請を毅然とした態度で押し返すのは容易ではないでしょう。会社を放り出された歴代PM達の苦悩を思い、初めて同情心が湧きました。

後で担当副社長のビバリーにこの話をしたところ、

「分かってくれて有難う。でも、それだけじゃないと思うのよね。建築家は、元来アーティストなのよ。アーティストは顧客の夢や情熱に共鳴すると、ビジネスパーソンとしての意識が飛んじゃうの。気が付くと、クライアントの言いなりになってるのね。エンジニアとはそこが違うと思うわ。」

なるほどね。

Stockholm Syndrome (ストックホルム症候群)って聞いたことある?ある業界誌に記事が出てたんだけど、建築家のプロジェクトマネジャーはこれに罹りやすいって書いてあったの。うちのグループ内でこの記事を回したら、すごい反響。あるある!って。」

「ストックホルム・シンドローム?何それ?」

これは初耳のフレーズです。

「確かスウェーデンのストックホルムで起きた人質立てこもり事件から名前がついてると思うんだけど、長いこと監禁されているうちに人質が犯人の思想や主張に共感し始めて、段々と自ら進んで言いなりになって行く、という現象を指してるのよ。確か、犯人と結婚した人質もいたと思うわ。」

「ええっ?そんな!」

「建築業界でコンサルティングやってると、散々こき使われているうちに自分の上司よりもクライアントの言うことを聞くようになっちゃう、それで会社に大損させても気にならなくなるっていうことね。」

長いことプロジェクトマネジャーのサポートをやって来ましたが、そんな奇妙な現象を聞いたのはこれが初めてです。翌日、エンジニアのPMエリックに意見を聞いてみました。

「それは建築業界に限った話じゃないと思うよ。これだけ景気が悪いと競争は熾烈だからね。クライアントだって強気に出られるでしょ。無理な要求を呑まされるケースも多いよ。ポイントは、いかに支援体制を保ちつつ譲れない線を示すか、だ。クライアント・マネジメントにおける最大の難問だね。」

「そうだねえ。何か良い手はないものかなあ。」

と、溜息をつく私。これに対し、

「あるよ。」

と事も無げに笑うエリック。

「クライアントの担当者に、私個人としては是非ともやらせて欲しいんです、でもうちの上層部が黙ってないでしょうね、下手すりゃ私、クビになっちゃいますよ、そう言うんだな。」

「おお、なるほど。中古車セールスマンがよく使うテクニックだね。」

「その通り。ベタだけど、大抵の苦境はこれで切り抜けられるよ。ま、相手が自分を気に入ってくれてるという確信が無ければ使えない手だけどね。」

エリックは急に何か思い出したような顔になり、

「そういえば前のボスのクリスがさ、困った時には俺を悪者にしていいぞ、と言ってくれたことがあるんだ。で、すかさずこう答えたね。」

と笑いました。

“Thank you. I’m doing that all the time.”
「有難うございます。その手は使いまくらせてもらってますよ。」

2014年11月26日水曜日

Therapeutic 癒しのチカラ

久しぶりに休暇を取り、ソノマ・カウンティに来ています。ここは全米最大のワインの産地。ワイン商の友人マイケルの一家と一緒に、7人でのロードトリップ。ここ数か月間働きづめだった私にとって、これは待ちに待った骨休めです。なだらかにうねるブドウ畑の間を縫う細い道路をゆっくりと進みながら、巻ききったゼンマイがゆっくりとほぐれていくのを感じる日々。

到着した日曜日は、まず完全無農薬の農園を見学した後、「ゴッドファーザー」や「地獄の黙示録」で有名な映画監督、フランシス・フォード・コッポラ氏のワイナリーへ。

「ゴッドファーザー Part II」の開始15分、タホ湖に面したコルレオーネ・ファミリー邸でのパーティー場面が出て来ますが、そこでバンドが演奏していたステージを模した設えが、ワイナリーのプールサイドに作られています。

館内の壁面には映画で使われた本物のグッズや写真が展示されていて、コッポラオタクなら絶対外せないスポット。


二階のバーカウンターでワイン・テイスティングの後、一階のレストランへGo! 

牛ステーキ、ラム、サーモン、パスタ、と色々注文しましたが、どれひとつとっても絶品。デザートのパンナコッタに至るまで、皆で顔を見合わせていちいち絶賛してしまうほどの傑作です。アメリカでこんなに美味しい料理を出す店があったなんて!

余韻にひたりつつ、二階のゲストハウスへ移動。ここは一般公開されていないのですが、コッポラ氏と仲の良いマイケルのおかげで、一泊させて頂きました。

月曜の朝はレッドウッドの巨木が茂る森を散策した後、Paul Hobbs(ポール・ホブス)氏のワイナリーへ。私の妻はこの人のPino Noir (ピノ・ノワール)が大好きで、今年のバレンタインに一本プレゼントしたばかり。

収穫の終わったブドウ園を子供たちが駆け回って遊んでいる間に、大人4人は高級ワイン(シャルドネ、カベルネ・ソービニヨン、ピノ)のテイスティングを愉しみます。

その後、こじんまりした醸造所を見学。ピノは栽培も製造も非常に難しい品種で、良いワインを作るためには計算し尽くされた製造手順はもとより、作り手の強い情熱が不可欠だそうです。少しでも妥協すればたちまちクオリティが下がってしまう。

「ポールの下で働く私たちは皆、彼のワインに対する情熱と誠実な人柄に惚れ込んでいるんです。」

と案内してくれた女性が話してくれました。

スーパー下戸の私は、ちょっぴりだけ口に含んでうがいをするみたいにワインを口内に沁みわたらせ、それからおもむろに吐き捨てる、という動作を繰り返しました。これが非常にウマかった。後で聞いたら、最後のカベルネは一本175ドル。ひえ~!

その後、やぎや羊の飼育とチーズの製造をしている小さな農園、Toluma Farmを見学。若いスタッフ数人が楽しげに働いており、そのうちの一人クリスティは、この仕事に就く前はサクラメントのショッピングセンターで7年間、顧客サービスに従事していたとか。

「今の仕事のどんなところが好き?」

チーズを試食しながら彼女に尋ねたところ、

「毎日朝から晩まで動物達を相手にしてるでしょ。生まれたての赤ちゃんヤギの世話をしたりね。忙しいけど、人間関係から来るストレスが全然無いのよね。」

と答えてくれました。そして、こう結びます。

“It’s so therapeutic.”
「とってもセラピューティックなのよ。」

Therapeutic とは、「セラピー」の形容詞。「癒される」という意味ですね。実はこの旅行のスタート時から、「Relaxing(リラックスさせる、くつろげる)」では表現しきれない独特の感覚を伝えられる言葉をずっと探していたのです。やっとみつかりました。

“It’s so therapeutic.”
「とっても癒されるのよ。」

2014年11月20日木曜日

Sheepish 恥ずかしがり屋

ちょっとした会議、特に非公式の社内プレゼンなどでは、出席者が冗談交じりの質問やコメントをじゃんじゃんぶち込みます。アメリカで働き始めて12年、未だにこういう場面で活躍できずにいる私。トレーニングや正式な会議ではほぼ不自由なく発言出来るようになりましたが、語意の豊富さとクリエイティビティ、それにほんの少しの度胸に支えられた「気の利いた一言」を捻り出すのは、私にとってはまだまだハードルの高い技。もしも激しくスベったらどうしよう、という恐怖心が先に立ってしまうのですね。人によっては、他の人と声が被って発言出来なかった場合でも、ジョークを披露するまでくじけずに何度もトライします。たとえそれが「ややうけ」レベルの作品だとしても。すごいガッツ。

今日の夕方、生物環境保護の専門家であるエレンとアンドリューが、ハイウェイを横断しようとして轢死する動物たち(Road Kill)に関する調査結果を同僚たちに向けてプレゼンしました。動物が安全にハイウェイを横断出来るよう作られた地下トンネルが実際にどれだけ成果を上げているか、の確認調査です。モーション・センサー付きの赤外線カメラを数台設置し、トンネルの入口と出口でカシャッ!

結果、動物の種類によってその効果に差があることが分かったそうです。ボブキャットは躊躇なくトンネルを通るが、コヨーテは非常に用心深く、入り口付近を行ったり来たり。

こうしたプレゼンの合間に、聴衆は絶え間なく茶々を入れます。

「ハイウェイを調査してたら自分が車にはねられちゃったりして。」

「見つけた動物の死骸はどうやって料理したの?」

ひとつひとつはなんてことないジョークなのですが、皆タイミングが絶妙なのです。

このテーマに関する情報を集めたウェブサイトをスクリーンに映した時も、

「レシピのページに飛ぶリンクはどこ?」

と誰かが素早く突っ込みます。

プレゼンの中身は勿論のこと、私は同僚たちの創造的な参加姿勢にすっかり感心してしまい、自分のような英語学習者が出る幕じゃないな、と早々に参入を諦めてしまいました。

同僚ダグラスが、こんな話をシェアします。

「そう言えばこないだカナダへ出張した時、動物用に作られた横断橋を見たよ。トンネルじゃなく。ムースを対象にしてるんだって。」

するとプレゼンターのエレンが、

「最近になって、アメリカでもビッグホーンシープ用の横断橋が出来たのよ。国内初の試みだって。」

と答えます。ビッグホーンシープとは、カリフォルニアの砂漠地帯に出没する、巨大な角を備えた羊です。ここでアンドリューが、

「ビッグホーンは絶対トンネルを通らないんだ。」

と説明します。なんで?と私が尋ねると、エレンが、

「弱い動物で、いつも天敵の攻撃にさらされてるの。飛びぬけて用心深いから、暗くて狭い場所になんか入っていかないのよ。」

彼女が答えるのと同時に、私の左隣にいたトレイシーが何か発言し、これに群集がどっと沸きました。急いで彼女に何を言ったのか尋ねます。するとトレイシーが、

 “Because they are so sheepish.”
「とってもシーピッシュだから。」

と悪戯っぽく笑いました。シーピッシュ(恥ずかしがり屋)とシープ(羊)をかけたダジャレですね。


う~ん、うまい!

2014年11月14日金曜日

Were your ears ringing? 耳鳴りしてた?

先週金曜のランチタイムに、職場の休憩室で携帯が鳴りました。iPhone画面を見ると、オレンジ支社のヴィヴィアンから。ちょうど温まった弁当を電子レンジから取り出しつつ電話に出たところ、

「今、大丈夫?リチャードも一緒なんだけど、話せる?」

リチャードとは、南カリフォルニア建築部門のトップ。副社長です。

「いいよ。何?」

するとリチャードが、いきなり本題に入ります。あるPMを今日付けでクビにした。その人物が担当していた7件ほどのプロジェクトの面倒を見てくれないか?

「ええっ?」

私は既に、この部門で大規模プロジェクト二件をサポートしており、さらにはサンディエゴ空港のプロジェクトも三つ担当しています。長時間残業と休日出勤が恒常化して来ていて、長いこと絶縁状態にあった腰痛とも久しぶりによりを戻したところ。数年ぶりに出現した下唇の口内炎を噛んで出血もしました。身体が悲鳴を上げ始めていることは明らかで、心配の声が妻子から上がっています。ここで新たに7件も引き受けて良いものか?

「私の多忙さを承知の上での依頼なんですよね。ということは、他に候補者がいない、という状況だと推察しますが。」

「その通りなんだ。なんとか頼めないかな。」

「分かりました。成果のクオリティは保証出来ませんが、それでも良ければベストを尽くしますよ。」

「良かった。有難う!よろしく頼む!」

そんなわけで、既に「大車輪」状態を続けていたところへ、伸膝宙返り二回半ひねりも挿入するような事態になりました。現在、四つのオフィスに私の席が設けられ、各所に出没しては仕事をこなしています。

昨日もダウンタウン支社でひとつ仕事を終わらせて、大急ぎでメイン・オフィスに戻ったところ、同僚リチャード(副社長とは別人)がやって来てこう尋ねました。

“Were your ears ringing?”
「耳鳴りしてた?」

はぁ?耳鳴り?なんのこっちゃ?

「今さっき、マリアと一緒にサンドイッチ屋まで歩きながらシンスケの話をしてたんだよ。あちこち飛び回って大忙しだってね。」

「うん、滅茶苦茶忙しいよ。でも楽しいんだな、これが。君はどう?」

「僕もかなり忙しいけど、なんとかやってるよ。」

「最近、誰も彼もが多忙だね。」

「あのさ、皆に頼りにされるのはいいことだけど、どこかできっぱり断ることも覚えないと、そのうち手が付けられないくらいの仕事量を抱えて機能停止に陥るよ。」

う~ん、これは耳が痛い。いい友達だなあ。

「確かにそうだね。有難う。アドバイス、しかと受け止めたよ。」

リチャードの背中を見送った後、さっそく仕事をバッサバッサと片付けます。しかし突然、彼の口にしたフレーズが耳に蘇ります。Ears ringing(耳鳴り)?

「あのさ、さっき何て言ってたの?耳鳴りとか何とかいうフレーズを使ってたでしょ。」

彼のオフィスを訪ねて解説を求める私。

「ああ、あれはね、誰かの噂をすると、対象になった人の耳が鳴る、というフレーズだよ。」

「え?なんで?噂と耳鳴りとがどう繋がるの?」

「それは分かんないなあ。ただそう言うんだよ。」

ふ~ん、分からないのか。

「日本ではね、噂の対象になった人に、さっきくしゃみしてなかった?って聞く習慣があるよ。」

と私。

「え?なんで?どうしてくしゃみ?」

と驚くリチャード。

「う~ん、なんでだろ?それは分からないや。」


語源を調べて教えてあげようという気力が、二人とも全く湧かないのでした。いか~ん!