2019年5月5日日曜日

Finish other people’s sentences 人の発言を遮って下の句を言う


先週月曜から、新たなチームメンバーが加わりました。一昨年UCサンタバーバラを卒業したばかりの若手で、名前はジゼル。フィリピン出身です。屈託ない笑顔でこちらの目を見つめ、黒く大きな瞳を輝かせ何度も強く頷きながら話を聞くタイプ。初日の朝、総務のデビーから社員としての基本事項を講義された後、先輩社員カンチーの案内で社内を挨拶回り。その後私と会議室に入り、一時間ほど業務内容についての総括説明を受けます。

プロジェクトコントロールというのはデータ分析能力を駆使してPMを支える仕事ですが、私は何よりチームメンバー全員に、ハイレベルのホスピタリティを要求しています。PM達を、同僚であると同時に大切なクライアントと考え、彼等がそれぞれの専門分野で存分に実力を発揮出来るよう心を砕く。ホテルのコンシェルジュになぞらえるとPMは宿泊客であり、我々は彼等の快適な滞在のため、地図案内や郵送サービス、タクシーの手配、クリーニングから靴磨きまで細部に渡り誠心誠意尽くす。当然ながら会社の公式書類にそんな業務内容は記載されておらず、私が勝手に布教しているチームのモットーなのです。

心を込めたサービスには大抵温かい感謝の言葉が返って来るもので、うちのメンバーは日々やりがいを実感しています。チームが順調に成長を続けているのは、この「顧客第一」精神が深く浸透しているからだと自負していている私。新入社員のジゼルにも、初日からきちんと心構えを叩きこんでおこう、と熱を込めてくどくど語りました。

ミーティングを終え、給湯コーナーでマグカップにお茶を汲んだ時、ふと何か心に引っ掛かっているのに気付く私。暫し沈思の結果、さっきジゼルと交わした会話の中にその原因があることをようやく突き留めました。あれはちょっと気になるな。早目に釘を刺しておいた方がいいだろう。しかし初日にそんな指摘をされたらさすがに凹むかな…。マグカップを手にその場で十秒ぐらい考えた後、意を決して彼女の席に向かいました。

「ちょっといいかな。」

微かに緊張の色を滲ませて振り返るジゼル。言葉の選択に注意を払いつつ、こう告げる私。

「さっき会話してて、ちょっぴり気になったことがあるんだ。大事なことだから、今のうちに言っておくね。」

“Please resist the temptation to finish the other people’s sentences.”
「人の発言を遮って下の句を言いたくなっても我慢して。」

このFinish the other people’s sentences(相手の文章を終わらせる)という表現ですが、しっくり来る和訳に出くわしたことがありません。そもそも日本人には馴染みのない行動なのかな、とふと思ったのですが、よくよく考えると我が家では妻と息子にしょっちゅうこの仕打ちを受けている私。私の喋り方がゆっくりすぎて聞いているうちに段々イラついて来て、ついついお手付きしてしまう、ということなのかもしれません。

それはさておき、私のこの指摘にさっと顔を赤らめ、あからさまに動揺を見せるジゼル。

「あなたに同意してますよという姿勢を示したい気持ちは分かるけど、それは危険な癖だと思うよ。相手の話はなるべく遮らずに耳を傾けた方がいい。だって、満を持して出そうとしていたキメ台詞を最後の最後でかすめ取られる側の気持ちになってご覧。あるいは、意図してたのと違う言葉で下の句をすげ替えられちゃった人の気分はどう?どう考えてもこの行動は、百害あって一利なしでしょ。」

初日にこんな辛辣な忠告を受け、しゅんとしょげたり必死に言い訳したりとか、色んな対応が考えられる中、果たしてジゼル、少し口を開けて息を吸い込み、純粋な驚嘆と感心の表情を浮かべます。そして、

「全く自覚がありませんでした。これから気をつけます。ご指摘有難うございました。」

と、笑顔でお礼を言ったのです。

なんてすがすがしい対応なんだろう。この人を雇って正解だったな、と感動する私でした。

実はこの忠告、ちょっと前に17歳の息子に与えたのですが、この時は全く違う結果になりました。彼がいちいち私の話を遮って先を言おうとするので、

「あのさ、うまい表現が日本語で見つからないから英語で言うけどさ、」

と一旦区切ってから、

“Don’t finish.,,”

と私が言いかけた瞬間、

“the other people’s sentences!”

物凄い速さで下の句を奪い去った息子。あっけにとられて彼の得意顔を見つめていたら、三秒ほどしてようやく自分の過ちに気付いたようで、

「あ、ごめんなさい」

と言ってから大笑いしてました。

まだまだだな、君は…。


4 件のコメント:

  1. 辞書とかには載っていないカモしれないが、最近のバラエティ番組とかでは「オチ泥棒」って表現をたまに聞くね。マツコDXなんかは良く使ってる気がする。そんな話のときには大概「ムカツクのよネ~こういう女!」みたいな流れがあるから、日本人でもそういう行動は好まれていないだろうね。

    話は全く変わって申し訳ないが、小林克也のラジオで懐かしい曲がかかっていた。このクイズ、誰のなんて曲の紹介だか判るカナ?オイラは初めのほうでピンときたゾ。
    https://www.youtube.com/watch?v=VkE3FrsNnu8

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    1. 曲名はすぐ出たんだけどねー。歌手名がどうしても思い出せなかった。
      オチ泥棒ってなかなかナイスな訳だね。いただきます。

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  2. 我々が大学生だった頃、人のダジャレを言い終わるか終らないかのうちに「面白いっ!」って突っ込むブームがあったよね。あの頃は他人のダジャレに対してセンサーが異常に敏感だったので、察知して脊髄反射のように口を突いて言葉が出たケド、この手の人たちはイディオムに対して同様のセンサーが勝手に働いてしまうのではないだろうか?

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    1. 皆なんでそんなに人の話の後半を奪いたがるのかなあ。我が家の妻子は、早押しクイズ挑戦者みたいに先を争って僕のオチをお手つきするんだよね。そして話題を明後日の方向に逸らせたままどんどん成長させて楽しみ始め、こちらは腰をばっくり折られたまま置き去りにされるパターンが少なくない。時々数分後になって思い出し、「で?」と先を促して来るんだけど、そりゃいくらなんでも失礼だろ君たち!

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