金曜の夕食後、妻のノートパソコンの前に家族で集合。冬季オリンピックの男子フィギュアスケートを観戦しました。羽生と宇野の金銀フィニッシュで、一同大興奮。完璧な演技を見せながら銅メダルに終わったスペインのハビエル・フェルナンデス選手が、この大会を最後に引退することを表明したという解説を聞き、
「しょうがないよ。もう26歳だもん。」
としたり顔で息子に言う私。え?「もう26歳」だって?自分の発言を耳の中で反復し、あらためて愕然とします。彼らがトップアスリートでいられる時期って、人生の中でたかだか10年くらいなのか。よくよく今回の出場選手たちを見てみれば、弱冠23歳の羽生が既にベテランの風格です。日本の会社員だったら、まだまだ花見の場所取りに動員されるような年齢なのに…。
羽生の演技がスローリプレイで解析されているのを見ると、とんでもない数の回転を超高速で繰り返していたことが分かります。感嘆の声を上げる私に、
「この人たちって、氷じゃなくて床の上でも、その場で普通にジャンプしてクルクル何回転も出来るのよ。」
と妻。う~ん、それはすごいなあ。やってみようとも思わんぞ。やれば絶対ケガするし。若い肉体の持つポテンシャルって、驚異としか言いようが無い。
人生において、爆発的にエネルギーを燃焼出来る時期はほんの一瞬。一旦通過してしまえばもう二度とその輝きは訪れない。多くの人は年を取ってもあの年代に味わったワクワク感が忘れられず、もう一度体験出来たら、とどこかで思っている。オリンピック観戦って、線香花火の前半に一度だけ起こる、ほんの刹那の激しい発光を瞼に焼き付ける経験に似ているなあと思うのでした。
さて、先週末は16歳の息子を水球トーナメント大会に参加させるため、家族でロサンゼルス郡に二泊旅行。彼の所属するクラブは、サンディエゴ郡の複数の高校から集まった選手で構成されています。真冬の屋外プールで白い息を吐きながら共に苦しい夜間練習に耐えているチームメイト達。息子にとっては、同じ学校の級友たちよりもはるかに親しい仲間なのだそうです。
二日目の昼、この日の二試合目が終了し、午後の三試合目まで数時間の間があったので、チームのほぼ全員で近くのショッピングモールまでランチに行きました。メキシカン・ファストフード「チポトレ」のオープンテラス。上半身の筋肉が発達した若者たちがTシャツ姿で額を寄せ合うようにして座り、スマホをいじったり品の無いジョークで笑ったりしながらブリトーをむさぼります。うちの息子以外は白人ばかりで、プールの塩素も手伝ってか、ほぼ全員が嘘みたいな金髪。少し離れて、彼等の親御さんたちと自己紹介し合いながら席に着きます。みな社交的で話し上手。すぐに打ち解けて話し込みました。早々に食事を済ませて立ち上がった少年たちの一人キャメロンが、こちらへやって来てお母さんに話しかけます。
「ちょっと皆でターゲット(巨大ショッピングセンター)に行ってくる。」
何しに行くの?と他の親が尋ねると、別の男子が
「Hide and Seek
(かくれんぼ)。」
と応えます。思わず顔を見合わせる父母たち。身長180センチを超えるムキムキの若者たちが、キャッキャと浮かれながら跳ねるように立ち去って行くのを、複数の親の声が追いかけます。
“Make good choices!”
「良い選択をしなさいよ!」
これって日本語に無いフレーズだよなあ、と思う私。アメリカ人の親が十代の子供にかける決まり文句で、言わんとしているのは、「基本的な社会ルールはきちんと教えてあるんだから、善悪の区別くらいはつくだろう。あとは自覚をもって行動しなさい。」つまり、
“Make good choices!”
「よく考えて行動しなさいよ!」
ということですね。
週が明けて月曜の朝、息子を乗せて学校まで連れて行った際、彼に尋ねてみました。
「そういえば、ターゲットでかくれんぼって、具体的には何したの?」
すると彼は、ニヤニヤ笑いながら記憶を辿ります。売り物のスケボーに乗って通路をガンガン滑ったり、大型衣装ケースに身体を折りたたんで入ったり、商品棚によじ登ってペーパータオル・ロールを押しのけ、隙間に隠れたり。
「おいおい、そんな大暴れして大丈夫だったのか?店員には注意されなかったの?」
とのけぞる私。制服姿のセキュリティ隊員たちが一旦は近づいて来たけど、盗みを働こうとしているのではないことを理解し、また離れて行ったとのこと。それでますます調子づいて、かくれんぼを満喫する若者たち。
「行動がまるで小学生だな。親たちがMake good
choices って言ってたの、聞いてなかったのか?」
とやや説教口調で詰め寄る私。これに対し、いまだ興奮冷めやらぬといった表情で答える息子でした。
“That was the best choice ever!”
「最高の選択だったよ!」
路肩で息子を降ろして会社へ向かう道中、「ターゲットでかくれんぼ」に没頭する屈強な水球選手たちの映像を頭に描きながら、思わず微笑んでしまう私でした。愚かな行動であることには間違いないが、滅茶苦茶楽しそうな企画じゃないか。そんな真似が出来るのも、あと数年だぜ。せいぜい楽しんどけよ…。
その日のランチタイム、隣に座った古参社員のビルに週末のエピソードを披露しました。十代の若者に、「良い選択をしなさい」という忠告がどれだけ有効かは謎だよね、とまとめる私。その選択が良いか悪いかなんて、解釈ひとつでどうとでもなる。十代の若者というのは結局のところ、はち切れそうなエネルギーのやり場を常に求めているわけで、たとえ親が止めたところでやりたい事をやるのだ。だから下手に制止して反抗されるよりも、「ちゃんと理性を働かせなさいよ」と小さな釘を刺す方が、まだましな結果に繋がるのかもしれない、と。
「俺の娘が16歳だった時の話なんだが、」
とビル。現在、彼のお嬢さんには一歳前後の赤ちゃんがいて、彼女から時々スマホに送られて来るというキュートな動画を見せてもらったことがあります。
「週末に家族で一泊旅行へ行くことになってたのに、あたし行きたくない、家に残るってごねるんだ。まあそういう年頃だから仕方ないか、と諦めて置いていくことにしたんだな。で、娘にこう言ったんだ。友達呼んでも構わんが、でっかいパーティー開くのだけはやめろってな。」
おお、アメリカ映画で良く見るパターン。そういうの、本当にあるんだなあ。
「旅行から戻った途端、留守中に娘が何をやらかしたのかをすぐに悟ったよ。」
「何したの?」
「でっかいパーティーを開いたんだよ!」
部屋はそこそこ片付いていたものの、シャワードアのサッシが微妙にずれているし、家具調度の位置も少しずつ変わっている。庭に出ると、隣家の敷地から塀越しに枝を伸ばしていたオレンジの樹から、実がひとつ残らず無くなっている。周囲の家々を見渡すと、それぞれの屋根にオレンジ色の球体が何十個も散らばっている。通りを挟んで向かいの家に住む親しい友人を訪ね、昨夜の様子を聞いてみたところ、
「叫び声やら爆竹音やらが絶え間なく聞こえて来て、とにかく一晩中うるさかったよ。」
とのこと。携帯番号を教えてあったのにどうしてすぐ連絡してくれなかったんだ?と詰ったところ、
「もう夜遅かったし、旅先からすぐには戻って来れないだろう。それに君が知ったが最後、もう二度とこんなことは起こらないだろうと分かってたからさ。」
ビルは、近所でも有名なカミナリ親父だったみたいです。
「大目玉食らうことを承知でパーティーを決行したってことか。すごい覚悟だったんだね、娘さん。」
と感心する私。
「そうなんだ。その後何度か娘とこの日の話をしたんだが、何回生まれ変わっても同じことをするって言い張るんだな。自分の一生の中でも、断トツ一位のグレートなパーティーだったって。」
何故だか、じわっと来ました。
先日のお騒がせ youtuber 発生の土壌みたいなものがそちらの国にはあるのだね。グレートなパーティーは、度を越すと葉っぱの出番になったりするのかねぇ・・・
返信削除以前にも話した気がするが、K-1の角田氏はシニアのボディビルに入れ込んでいるようで、幾つになっても精進はできるというような事をよく言ってるね。
https://www.excite.co.jp/News/entertainment_g/20160823/Shueishapn_20160823_70144.html
別の何かには「ボクは70歳になった自分を見るのが楽しみです」なんて言ってるのが書かれてたゾ
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削除別にムキムキじゃなくてもいいので、元気なジジイになりたいな、と思います。
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