月曜の3時半。私がリーダーを務めるプロジェクトコントロール・チームの、6人目のメンバーを選ぶ二次面接がありました。私とシャノン、若い部下のカンチーとアンドリュー、そして大ボスのテリーが、小会議室で候補者を出迎えます。と言っても今回一次面接を突破したのは、現在地元の銀行に勤める大卒二年目のテイラーただ一人。驚くべきことに、ポジション獲得にかける真摯な熱意を感じさせてくれたのは彼女だけでした。大抵の候補者は自分自身の売り込みに忙しく、肝心の業務や役割に対する興味をアピールしそこなっていたのです。
「職務内容を読んでものすごく興奮したんです。これこそずっと自分のしたかったことだって!」
と、一次面接で彼女が見せた目の輝きは、強く印象に残りました。
実は既に彼女の採用は決定していたのですが、メールで通知するという味気ないプロセスを避け、チーム全員に会わせた上で直接オファーレターを手渡そうという目論見で招いたのです。もちろん皆にはダンマリを通してもらい、彼女には本当に二次面接だと思いこませてのこと。
「今度の面接には上層部からも面接官が参加するから、質問を沢山持って来てね。」
と予めメールしておいたのですが、彼女が手書きの質問で二頁を埋め尽くしたノートを手に現れたのには、再び感心。
他のメンバー達に質疑応答を任せ、私はテイラーの受け答えの様子をつぶさに観察していました。まるで大人になった「長靴下のピッピ」という感じの、好奇心みなぎるそばかす顔。ひとつひとつの質問に全身の神経を集中させて聞き入った後、消防ホースのような勢いで回答を浴びせ返す。聞き手に回っている間はやや心細げに見える彼女のおちょぼ口は、その大量のエネルギーを放出するにはいささか小さすぎる、といった格好。
「私たちからの質問は以上だけど、シンスケから最後に何かある?」
とシャノン。ひとつだけあるよ、と私が応じます。
「前回も似た質問をしたけど、プロジェクトの成功のために一番大切なことって何だと思う?コミュニケーション以外で答えてね。」
トリッキーな質問ですが、これには理由があったのです。一次面接の定番だったこの「プロジェクト成功の秘訣」クエスチョン。なんと全ての候補者が、判で押したように「コミュニケーション」と答えていたのです。これにすっかり飽き飽きしていた私は、捻りを加えた上でもう一度投げ込んでみた、というわけ。さあどう打ち返す、テイラー?
「それは良い質問ね、シンスケ。私も一番大事なのはコミュニケーションだと思うけど、二番目って何かしら。」
と、左隣で大ボスのテリーが、天井を見つめて黙りこみます。当のテイラーは、小さな口を一秒ほど堅く結んだ後、
「スコープとバジェット(予算)とスケジュールの管理だと思います。」
と答え、それからエネルギッシュに補足説明を開始しました。
“No, that’s a wrong
answer.”
「いや、その解答は間違いだね。」
ここで静かに彼女を制する私。ギョッとして振り向くテリーの顔を視界の左端におさめつつ、テイラーの様子を窺います。あからさまに当惑して発言に急ブレーキをかけた彼女でしたが、ようやく気を取り直してこう問いかけました。
「すみません。正しい答えを教えて頂けますか?」
この素直な切り返しに満足しつつ、私が答えます。
「プロジェクトの成功にとって本当に大事なのはね、強力なプロジェクトコントロール・チームの存在なんだよ。」
ここで笑いが起こる予定だったのですが、テイラーの緊張が部屋の空気を張りつめさせていたのか、リアクションは薄いまま。
「君は今、プロジェクトコントロール・チームに入ろうとして面接を受けているんだろ。だったらここは、そう解答しておくのが妥当ってもんじゃないか。」
ああなんだ、そういうオチね、と一同の緊張が若干和らぎましたが、それでもまだ完全には意図が伝わり切っていない模様。
“I was just kidding. Your
answer was fine.”
「冗談だよ。君の答えは良かったよ。」
やっと手の内をさらしたところ、
“Shinsuke does this."
「シンスケってこういうことするのよね。」
と苦笑いでフォローするシャノン。
調子こいてウケを狙った結果、コミュニケーションをしくじっちまいました…。
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