間もなく2月です。我が社の新PMツール全米使用開始まであと半月。この一週間はオレンジ支社へ出張してエンドユーザーのトレーニングに時間を費やしました。アカウンタントのアンドレアとペアを組み、朝8時から夕方5時半まで教え続ける毎日。トレーニングは四つのモジュールに分かれており、それぞれ二時間、30分の休憩を挟んで行います。受講者は都合の良い時間帯を選んでモジュール1から4まで順に受けて行く。一週間のスケジュールがこれです。
月曜 1,2,1,2
火曜 3,4,3,4
水曜 1,2,1,2
木曜 3,4,3,4
金曜 1,2,3,4
一月九日の週を皮切りに四週間、各支社で繰り広げられているこのトレーニング。講師の数が少ないため、各員が支社間を飛び回って幾週も教える運びとなりました。部下のシャノンはパートナーを変えつつ、第一週にサンディエゴ支社、第二週はオレンジ、そして第三週は再びサンディエゴで教えるという、過酷な巡業。今週私の相方を務めたアンドレアは、先週シャノンと二人で同じことを繰り返したばかり。同じ週に全く同じモジュールを5回ずつ教えるため、途中で頭がクラクラして来る、と言います。
「ようこそエンドユーザートレーニングへ。今回講師を務めるのはサンディエゴ支社から来た私シンスケとアンドレアです。それではまず、…。」
受講する社員は入れ替わるのですが、講義内容は全く同じ。喋る対象や道筋をクラスによって変えることは御法度なのです。限られた時間内に本社から提供されたスライドを順番通りに進めなければならないため、オフザケもほとんど無し。トレーニング慣れしている私ですが、構成に自分のテイストが盛り込めないという今回の縛りには結構苦しみました。総合格闘技の選手がK-1ルールでフルラウンド闘うようなものですね。
実際、早くも初日の晩には飽き飽きしていた私。相棒のアンドレアに告白すると、彼女も同じ感想を述べた後、こう言いました。
“It’s Groundhog Day!”
「まるでグラウンドホッグ・デイよ!」
グラウンドホッグというのは、俗にウッドチャックと呼ばれる巨大なリス。2月2日の「グラウンドホッグ・デイ」にフィラデルフィア州パンクサトーニー(Punxsutawney)で開かれるイベントでは、フィルという名のグランドホッグが主役。檻から出されたフィルに、イベント司会者が耳を傾ける。フィルが「自分の影が見えるよ」と囁けば、冬の終わりは遠い。「影は見えない」と言えば春は目の前、という公開占いみたいなイベントなのですね。
「まるでグラウンドホッグ・デイみたい!」というのは、ビル・マレー主演のコメディー映画が元になった表現です。2月2日にパンクサトーニーへ取材に出かけた自惚れ屋のテレビ・レポーター、フィルが、吹雪のために街から出られなくなる。翌朝ホテルで目覚めると、前日と全く同じ出来事が繰り返される。同じ人が同じタイミング、同じフレーズで話しかけて来る。そして日付が前日と変わっていないことを知る。それ以降、毎日どんなにあがいても翌朝になるとやっぱり2月2日に戻っているので、頭がおかしくなってくる。しかし途中で、「だったら好き放題暴れてやれ」と無茶をしたり、前から好きだったレポーター仲間の女性リタを落とそうと無理にアタックして振られたり、と色々もがいているうち、段々と自分自身の生き方を見つめ直すことになる。
映画の後半、それまでエゴの塊で皮肉屋だったフィルが、他人を思いやることの大切さに気付き、次第に周囲と調和して行きます。すると全てがうまく回り始め、リタの方から彼に近づいて来る…。フィルの発言内容や態度にも余裕が出て来て、途中こんな会話まで…。
リタ “Do you ever have déjà
vu?”
「デジャ・ブを経験したことってある?」
フィル “Didn’t you just ask
me that?”
「さっき同じことを僕に聞かなかった?」
ルーティーンの繰り返しから何とか脱しようと闇雲にもがいた挙句、「今この時を幸せに生きよう、出会う人々を心から愛そう」という境地に達したフィル。その瞬間、彼を取り巻く世界に大きな変化が…。
無理のある設定なのに不思議に納得してしまえる、よく出来たプロット。「アメリカ人なら誰でも知ってる」レベルの人気作品です。この映画が有名になってからというもの、「何度も繰り返されるイベントや日々」を指して「グラウンドホッグ・デイみたい」という表現が使われるようになったのですね。
この週末、たっぷりと英気を養った私。月曜にはオレンジ支社に戻り、別のパートナーと再び5日間のトレーニングを展開します。また同じ内容を5回ずつ!う~む。やっぱりちょっと気が重いぞ。
最終日にはフィルのような境地に達していると良いのですが…。