2019年10月26日土曜日

Tough as nails 釘のようにタフ


今月中旬、ユタ州ソルトレイクシティまで、三泊の出張をして来ました。進行中のプロジェクトのサポートを頼まれてのこと。折角久しぶりに遠出の機会を与えられたので、帰りは午後遅い便を押さえ、土曜の半日を街の散策に使おうと計画していました。ところが日々の仕事はそこそこ忙しく、しかも二ヶ月に渡る「うっすらとローな気分」からまだ抜け出せていなかったため、ほぼ下調べゼロでサンディエゴを出発。夜9時頃ソルトレイクシティ空港へ到着し、レンタカーを借りてホテルへ。数マイルおきに出現する夜間工事の車線制限が緊張感を強いる不慣れなハイウェイを走行中、ヘッドライトの中を白い粉が舞い始めました。あらら、雪かよ。想定外だぜ。思わず前傾姿勢になり、ハンドルを強く握って暗闇を凝視する私。こんなとこで事故ったらシャレにならんな…。

二ヶ月ほど前から、家へ帰ってもただカウチに深く腰を沈めてテレビを観る生活が続いていました。

「ローな時は敢えてもがくな。潮の流れに身を任せ、底を打つまで沈み続けろ。浮上のきっかけは必ずやって来る。」

若い時分からこの持論を実践して来ました。大抵のピンチはこれでしっかり乗り越えて来られたのですが、今回の潜水はいつになく長い。部下たちにバースデーを祝ってもらった日を境にグッと盛り返すかと思いきや、海底に足がタッチしそうな気配も無く、陽光も届かぬ深い水中をじわじわと沈み続けるのでした。オフィスでは不思議にテキパキ業務をこなせているのですが、自宅に帰ればまるで抜け殻。やらなきゃいけない細かな家事がじわじわと溜まっていくのを横目で見ながら、ひとつもアクションを起こすことが出来ずにいる。例えば寝室のトイレ。一旦水を流すと、タンクへ送られる水流の音がその後何分間も止まらなくなる。原因と解決法を調べて修理しなきゃ…。あ、そうだ、知り合いから届いてた残暑見舞いメールにも返事を書かなきゃ(既に季節が変わっちゃってるけど)。それから車の買い替え計画も、いい加減スタートしないとな…。ああ、でもやっぱやる気が出ない。さすがに息苦しくなって来たぞ…。そういうタイミングでの出張でした。

肩に力を入れて夜の高速を進むうち、気が付くと雪は止んでいました。無事ホテルにチェックインした私は、シャワーも浴びずに就寝します。翌朝ソルトレイクシティ支社に到着し、あてがわれたデスクでメールのチェックをしていたところ、背後から今回の主役が登場します。

「シンスケ!来てくれて有難う。やっと会えたわね。」

インド訛りの英語の主は、キラン。編み物の毛糸玉のようにぎっしりと厚みのある黒髪を、後ろで固く束ねています。二ヶ月前に赴任して来たというエンジニアの彼女。下水処理場設計プロジェクト・チームに加わりプリマベーラでのスケジューリングを任されたのですが、このソフトの使用経験はゼロ。遠隔から彼女をサポートしてくれないか、とPMチームから依頼されたので、これまでメールや電話で質問に答えていました。今回はクライアントから大量の質問が届き、とても駆け出しの彼女のみでは対応しきれないということもあり、出張依頼が来たというわけ。

「シンスケから二日間みっちりトレーニングしてもらいつつ、案件を全て片付ける、というのが今回のミッションよ。よろしくね。」

と目を輝かせるキラン。そこへ、もうひとり若いインド人男性が入って来ました。

「この人はラヴィよ。プリマベーラのエキスパートが来てくれるって話したら、僕にも勉強させてくれ、って手を挙げたの。いいかしら?」

ラヴィというのはヒンズー語で「太陽」、キランは「陽の光」という意味だ、と解説してくれる二人のインド人。スケジューリングをちゃんと学ぶのは初めてで、とても楽しみにしている、と微笑みます。

「必ずコピーを保存してから作業を開始せよ」、とか「カレンダー設定の方法」とか、スケジューリング上の基本的な約束事からトレーニングを開始します。そしてプリマベーラ初心者が陥りがちなトラップ、マイクロソフト製品との用語の違いなどについて解説。

三時間半の集中講義を終え、腹が減ったので近くのアジア風ファストフード店へラヴィの運転で出かけます。私は海鮮丼みたいなものを注文し、三人でテーブルに陣取ります。

「そもそも二人はどうしてソルトレイクシティへ来ることになったの?」

と切り出す私。ラヴィもキランもインドで大学を出た後すぐ渡米し、工学系の修士号を取得したとのこと。その後はそれぞれ小さなエンジニアリング・ファームで働いた後、今の会社に移ります。キランの方は北カリフォルニアの支社で四年務めた後、お父さんの体調が悪いと聞いてインドへ帰り、実家に住みつつデリー支社に勤務。9年後、お父さんが奇跡的な回復を遂げたのを機に、アメリカへ戻る決意を固め知り合いに当たったところ、ちょうどユタ州のポジションが空いたため一も二も無く飛びついた、とのこと。

「親御さん、残念がらなかった?」

と私。

「もちろんすごく悲しそうだったけど、私としてはもう限界だったの。」

「え?喧嘩しちゃったの?」

「そうじゃないわ。デリー支社にいたら私のキャリアには未来が無いってことが分かったのよ。」

修士号を武器にアメリカ企業で経験を積み、特に品質管理の分野では自信を深めた。「錦を飾る」心意気で帰国したところ、その情熱は木端微塵に打ち砕かれた、とキラン。

「女であること、そして若いということ。その二つで完全にアウトよ。私の話に耳を貸す人なんて一人もいないの。もちろんインドがそういう社会だってことは重々分かってたし、どんな困難が待ち受けているかも承知の上で帰国したんだけど、考えが甘かった。ひょっとしたら組織を変えることが出来るかもって自分に言い聞かせながら9年間もがいたけど、結局無力さを思い知らされただけだったわ。」

新進気鋭の女性エンジニアに活躍の場を与えて大きく育てようなどという展望は無く、古参の男性社員たちが全てを仕切る組織。壁の厚さを悟った彼女は、アメリカに戻るための行動を開始します。そして何とか手繰り寄せた仕事の口が、たまたまユタ州ソルトレイクシティだった。地縁も無く友達もいないこの土地で、アパート暮らしをしながら一からスタート。アメリカにありがちな「人事総務の不手際」で最初の一ヶ月は健康保険にも加入出来ず、かなり体調が悪かったのに病院へ行けなかった。あれは苦しかったわ、と笑うキラン。ふと見ると、彼女の耳の上の生え際には僅かに白い物が混じっています。横で聞いていたラヴィが、

「僕も、今の給料の何倍積まれたとしてもインドに戻って働く気は無いな。」

と笑いを浮かべます。

「ここは慣れない土地だし冬は寒くもなるけど、あっちにいるよりはずっとましだよ。」

「そうよね。私達は本当にラッキーよね。」

その晩ホテルに戻ってベッドに入っても、若い彼等の明るい笑顔がずっと頭の隅にこびりついていました。艱難辛苦の末に辿り着いた異国の地で、闘志を燃やしている二人。それに引き換え、自分は一体何をくすぶってんだ…。実は昼すぎから猛烈な頭痛に襲われ、吐き気まで催していた私。海抜千二百メートルの高度と極度の乾燥とで、軽い高山病に掛かっていたのでしょう。こんな厳しい環境でも、人はちゃんと生きていけるんだなあ、とあらためて驚嘆します。その時、三日ほど前に息子と電話で交わした会話が蘇りました。

コロラドスプリングスの大学に行った彼は、水球部が無いというので水泳部に入部しました。自分以外の部員はすべて水泳で奨学金を貰っている手練れ達だということを後で知ることになるのですが、とにかく皆スピードが途轍もない。劣等感を味わいながらも日々厳しい練習で鍛えられている、と息子。標高千三百メートル超という過酷な土地で、最初は息苦しくて死ぬかと思ったそうなのですが、一ヶ月で慣れたよ、と彼。先日は二時間以上泳ぎ続けるトレーニングに耐え抜き、ロッカールームでチームメートに感心された、と嬉しそうに話します。その子にこう言われたの、と息子。

“You’re tough as nails.”
「釘みたいにタフだな。」

これは初めて聞く表現でしたが、何となく意味は分かりました。釘って強いもんな。それにしても、あんなに根性無しだった息子が短期間で随分成長したもんだ、と嬉しく思う私でした。

さて翌朝目覚めると、喉はカラカラ唇カサカサで、両脚は太腿から足首まで一面に粉をふいています。あちこち痒くて堪らない。なんだこの嘘みたいな乾燥度合いは?バスルームまで歩いてライトを点け、Tシャツを脱いで巨大な鏡に自分の姿を映します。運動不足でたるんだ全身に、激しく掻きむしった跡。ところどころに血も滲んでいます。思わず吹き出し、「これはひどい!」と独り言。その瞬間、海底にトンと足がついたような感覚を味わいました。

「あ、今どん底だ。」

思わず右手をピンと伸ばして人差指を突き出し、「今!」と叫びたくなるほど明確な最下点。この劇的瞬間の後、にわかに気分が明るくなって来ました。やったぞ、遂に上昇の時がやって来た。潜航期間は終わりを告げ、太陽の光に導かれながらゆっくりと水面に向かって浮上して行く時が来たんだ。あ~長かった!これからはしっかり運動して身体を鍛えよう、雑事の先送りも止めよう、将来の計画も立てよう…。

土曜の午後出張から戻るやいなや、寝室のトイレタンクの蓋を外し、フロート部分の型式を調べGoogleやYouTubeで解決方法を調査します。そして翌朝、妻が出かけている間にてきぱきと修理を完了させました。心身にエネルギーが漲って来るのを感じます。前より一層タフになった実感もこみ上げて来ました。辛い環境を乗り越えてパワーアップしたキランや息子から、たっぷり元気をもらえたお蔭ですね。

後日職場で同僚ジョナサンに、「Tough as nails」の意味を確認してみました。

「釘ってさ、ハンマーでガンガンぶっ叩かれても耐えられるだろ。そこから来てる表現だと思うぞ。すごい褒め言葉だよ。」

なるほどね。叩かれる経験を経て人は強くなるもんな。そういえば、私が寝室のトイレタンクの修理を終えたことを得意げに報告したところ、妻が即座にこう返して来ました。

「有難う。ついでにもう一つのトイレも直してくれる?」

メインのトイレは、以前私がタンクレバーを付け替えた時、何故か上に半転させないと水が流れないようになっちゃってたのですね。来客が使用する際に混乱するため、いつか下向きになるよう修理しなきゃと思いつつ、すっかり忘れてました。もちろん!と明るく答える私でしたが、やっとどん底から抜け出したタイミングでそれ要求して来るかね…。

我が家のハンマーは、容赦ないです。


2019年10月6日日曜日

Lucid dreams ルーシッド・ドリームス


月曜の朝、白いブラウス姿で職場に現れたジゼルが、いつもより明るめな笑顔で声を上げました。

「ハッピー・バースデー!」

先に出社していた隣のブリトニーが、ハッとしてこちらに顔を向け、

「え?今日が誕生日なの?知らなかった!」

まるで朝のトップニュースを見ずに出勤し、話題に乗り遅れてしまった人のように当惑するブリトニー。どうしてジゼルが私の誕生日など知っていたかというと、給湯エリアの壁にマンスリー・カレンダーが貼ってあり、各マスにその日誕生日を迎える社員の名前が書き込まれているからなのです。そんなミニ情報コーナーに捨て目を使っていたのですね。

「別に上司の誕生日なんて知らなくていいよ。大体この歳にもなると、さして特別感無いしね。」

笑ってそう答えたのですが、他ならぬジゼルから朝一番でお祝いの言葉を聞けたことで、実はちょっぴり感動していた私でした。というのも、この三週間ずっとうっすらテンションが低く腹の調子もイマイチで、何でこんなに長期間気分がローなのかな、とよくよく考えてみたところ、どうやら原因は彼女みたいだということに気付いたからなのです。

五カ月前、ブリトニーとほぼ同時期に採用し、勤続三年の先輩社員カンチーに任せて日々じっくりトレーニングを重ねて来ました。そんな折、空港プロジェクトのPMウォーレンが大ピンチに陥っているというニュースをカンチーから伝え聞きました。契約・経理関係を担当していた社員が、突然テキサスへ引っ越すことになったというのです。その窮状を救うため、後任が見つかるまでジゼルを週20時間限定でレンタルすることにした私。するとたちまち職場にとけ込み、めきめき成果を上げ始めたジゼル。ほっと胸を撫でおろしていた矢先の金曜午後、「今の仕事をこのままフルタイムで続けたいと彼女は言ってるんだが、シンスケはOKか?」とウォーレンから電話で尋ねられたのです。本人からでなく先にウォーレンから告げられた、ということがまずショックでした。まるで恋人に捨てられ落ち込んでいた友達の家に自分の彼女を相談相手として送り込んだら、あっという間にデキてしまい、「ごめん、実は…」と男の方から告白されるパターン(だいぶ事情は違うけど)。

月曜の朝さっそく彼女を会議室に呼び出して、本心を聞き出します。

「空港の仕事の方が自分の性格に合ってるんです。プロとしての成長の機会もあちらの方が豊富だと思います。」

「このチームで働き始めて五カ月も経ってないのに、成長の機会はあっちの方が多いって感じてるの?」

「はい。」

決然とした彼女の目にドキリとし、怯む私。なんだか寝取られ男の悪あがきみたいで情けなくなり、強く引き止めるのは思いとどまったのですが、この会話の後味はその後じわじわと身体の芯を蝕み、日に日に元気を失って行った私。まるで延々と続く悪夢から、夢とは知りながらもなかなか目覚められずにいるような気分。その後カンチーにこの件を打ち明けたところ、

「ウォーレンから聞いたんですか?私も最初はショックでしたけど、本人の気持ちが一番大事だと思うんです。」

という反応。なんだよ、知ってたのかよ…。再びちょっぴり傷つきます。

「ジゼルがここで受けたトレーニングが実を結んでよそで信用を勝ち取ったってことじゃないですか。喜ぶべきですよ。うちのチーム全体を高く評価してるってウォーレンは常々言ってるんですよ。」

「でもさ、始めたばかりの社員にここでの将来性をあっさり見限られるってのは、やっぱ堪えるよ。」

とうなだれます。

「若すぎてまだ世界がよく見えてないだけですよ。どの仕事に将来性があるかなんて、そんなの分かるわけないじゃないですか。気にすることないですって。」

「トレーニングだって君に任せきりだったし、僕自身が充分ケアしてやれなかったところも正直ある。もしかしたら疎外感を味合わせちゃってたのかも、と思うと悔やまれるんだ。」

「グループがどんどん拡大してるんだから、リーダーが全てのメンバーにたっぷり時間を割いてはいられないですよ。それはチーム成長のコストじゃないですか。」

そんなカンチーの慰めも特効薬にはならず、人知れず黒々とした心の海底へ向かって少しずつ沈んでいく私でした。

よくよく考えてみれば、チームのメンバーと言っても所詮は他人。こちらがいくら家族のように思って接したところで、それぞれにプライベートライフがあるのだし、目指す方向が変わってある日やむなく袂を分かつことだってあるだろう。ジゼル以外のメンバーからだって、いつそんな告白を聞かされるかも分からない。いいチームを作ろうと日々心を砕いて来たつもりだけど、今はただ儚い夢の瞬間を生きているに過ぎないのかもな…。

先週金曜日になり、転籍手続きの状況をジゼルに尋ねてみたところ、

「籍は今のままで、週40時間空港オフィスに勤務するということでも良いですか?」

と言われ、戸惑います。

「今のチームは大好きだし、学べる環境はとても大切なんです。ウォーレンも賛成してくれました。」

う~ん、そのやり方って機能するのかな…。不審には思いつつも、

「分かった。とりあえずその形でやってみよう。」

と承諾します。

そんなことがあった翌週月曜の朝、彼女からの第一声が「ハッピー・バースデー!」だったわけです。

その後間もなく、ティファニー、シャノン、テイラー、そしてカンチーと続けて登場します。最後のカンチーが席に着きつつ「ハッピー・バースデー!」と私に笑顔を向けたところ、残りの一同がこれにぴくりと反応し、ざわつきます。そして、知らなかったことを白状しつつ口々にお祝いを述べます。

「いいからいいから、僕の誕生日なんてそんな大したもんじゃないって。」

と笑う私。するとシャノンが暫くして、

「みんなでバースデー・ランチに行きましょうよ!」

と提案します。え?そんなのいいよ、と辞退しかけたところ、二つ左隣のテイラーが、

「どこ行きたい?バースデー・ボーイに決める権利があるのよ。」

と参入します。すかさず

「じゃ、Grab & Goだな。」

と答えたら、

「100%そう来るって予測してたわよ。」

と笑います。Grab & Goというのは、速い、安い、うまい、の三拍子そろったサンドイッチ屋。5ドルも払えば腹いっぱいにさせてくれるファストフード・ショップなのですね。

“We all know you very well, Shinsuke.”
「みんなあなたのこと良く分かってるんだからね、シンスケ。」

そして行きたいお店をちゃんと決めてよ、とせっつくテイラーでした。

結局リトルイタリーにあるCivico 1845という、そこそこ高級なイタリアンに決定。表通りに面した窓際の大テーブルに、七人で着席します。当然私は「お誕生席」に着き、女子社員たちが片側に三人ずつ座る格好。パスタやサラダに舌鼓を打ちつつ、最近観たネットフリックス・テレビシリーズや地元のファーマーズマーケットの話題で盛り上がります。

食事もほぼ終わり、「これだけコッテリしたもの食べると、午後は眠くなっちゃうんだよね。」という私のコメントがきっかけとなって、眠りについての考察に話の花が咲きます。シリコンバレーの会社みたいに「仮眠ポッド」と呼ばれるカプセルがオフィスにあったら、ひと眠りしてすっきりした頭で仕事に集中出来るのにな、という私に、

「下手に仮眠なんかしたら、余計だるくなって仕事にならないわ。」

というテイラー。

「前にどんな人が使ったか分からないようなカプセルで横になること自体、絶対無理。」

と身震いする、潔癖症のシャノン。

「私、真っ暗にして音も完全にシャットダウンした環境でないと眠れないの。」

と、人生で一度も仮眠を経験したことが無いというブリトニー。

「僕なんか眠くなったら、明るかろうがうるさかろうが、どこででも眠れるけどね。」

眠り方ひとつとっても、人によって様々なんだねえ、という結論になりました。それから、普段夢を見るか、見た夢をどれだけ憶えているか、という話題に移ります。

「あ、そうだブリトニー。こないだ君が教えてくれたLucid Dreams(ルーシッド・ドリームス)の話をしてよ。」

え?何それ?と皆が一斉にブリトニーの方を向きます。ちょっぴり赤くなったブリトニーが、突然のフリを咎めるような目で私を見た後、諦めて解説を始めます。

「これは夢だって分かりながら見続ける夢のことなの。訓練次第で、自分の望む方向にストーリーを修正することも出来るんですって。」

日本語では「明晰夢」と訳されるようですが、夢と気付いた瞬間に目覚めるのが当たり前と思っていた私は、そのまま眠り続けた上に更に自らの意思で流れを変えられると聞いてたまげたのでした。

「もちろん私は出来ないわよ。」

と慌てて質問を制するブリトニー。

そこへ突然ウェイターがやって来て、小さな白いお皿を私の目の前に置きます。白いパウダーシュガーをたっぷりふりかけたカノーリ(シチリアの代表的なデザート)と、黄緑色のミニろうそくが一本。ウェイター氏がライターで手早く点火し、シャノンの音頭で女子六人が大声で「ハッピー・バースデー」を歌い始めました。予想もしなかった展開。思わず両手で顔を挟み、周りのお客さん達と目が合わないようカノーリに視線を集中して歌が終わるのを待ちます。火を吹き消すと、女子六人が一斉に拍手。シャノンがやや興奮気味にこう言うのでした。

「八年間も一緒にいるけど、シンスケが赤くなるの初めて見たわ!」

それからテイラーが私に封筒を手渡し、

「分厚過ぎてちゃんと封が出来なかったの。ごめんなさいね。」

と笑います。封筒から突き出すような格好で折り畳まれたコピー用紙には、サンディエゴの主だったレストランで食事出来るという、万能ギフトカードが印刷されています。そして二つ折りの小さなカードには、六人からのメッセージが細かい字でぎっしりと書かれていたのでした。

ジゼルからは、

“Thank you for all you do and for being understanding.”
「色々してくれて、そして良き理解者でいてくれて有難う」

とあります。ブリトニーは、

“Thank you for being the most supportive and fun boss. We’re so lucky!”
「一番頼りになって、しかも面白いボスでいてくれて有難う。私たちは本当にラッキーよ!」

テイラーも、

“Happy birthday to the best boss around.”
「この界隈で一番のボスに、ハッピーバースデー。」

シャノンも、

“You are by far the best manager I’ve had.”
「過去最高のマネージャーよ。」

と最大限の賛辞を添えてくれています。おいおいみんな、これ以上無いタイミングで深い淵から救い出してくれたな。僕が最近どんなにローな気分でいたかなんて知らないだろうに…。暫くの間カードに目を落としたまま、口を開くことが出来ずにいたのでした。

うららかな初秋の陽射しの中、賑やかにさえずる女子たちと職場へ戻る道をそぞろ歩きつつ、まるで夢の中を浮遊しているような錯覚に浸る私。こんな素敵な夢なら、修正の必要は全く無いな。自然に目覚めるその時まで、たっぷりと幸せを味わおう。…そう思うのでした。



2019年9月22日日曜日

問題発生

ラップトップが突然充電不能になりました。ブログが書けない!ということで、暫しの休止状態です。

2019年9月8日日曜日

Moral of the story 物語のモラル


木曜の朝は久しぶりに6時出社。もちろん一番乗りです。暗いオフィスの照明を全てオンにし、席に着きます。仕事を開始して一時間後、チーム最年少のブリトニーがやって来て隣の席に座ったところで、

「ねえ、いつもより空調冷え気味じゃない?」

と尋ねました。

「そうかしら。」

と天井を見上げながら、数秒間動きを止めるブリトニー。そしてニッコリ笑ってこう言うのでした。

“It’s like Goldilocks and the Three Bears.”
「まるでゴールディロックスと三匹の熊みたいね。」

はあ?何の話か皆目見当がつかないので、素直に質問してみました。

「え?知らない?」

純粋に驚いた表情で彼女が説明してくれたのが、これ。

「アメリカの小学校に通った人なら誰でも一度は読み聞かせされた経験のあるお話だけど、ゴールディロックスって女の子が散歩中、森の中で一軒家を見つけるのね。中に入ってみると誰もいなくて、テーブルにオートミールの入った器が三つ置いてあるの。ひとつはとても熱くて、もう一つはすごく冷たくて、三つ目がちょうどいい温度だから美味しくいただいちゃったの。椅子も三つあってね、ひとつは固すぎて二つ目は柔らかすぎて、三つ目がちょうどいいサイズだったから座ってみたら、壊れちゃったの。で、ベッドでも同じようなことが起きて…。結局それは熊の家族のおうちで、帰って来たら家の中が滅茶苦茶になってたって話。」

う~む。何が何やら…。

「で、それと空調の温度と、何の関連があるの?」

と私。

「だからね、オフィスって暑過ぎたり寒過ぎたり色々でしょ。ちょうどぴったり快適な温度になることなんて無いのよねって言いたかったの。」

「あ、そういう話なの?わがままなガキみたいに文句ばっか垂れるなって怒られた気がしたんだけど。」

「そうじゃないわよ。ただ単純に、自分の思い通りになることなんて滅多に無いって話。」

ふ~ん、そうなの。でも何だかスッキリしないので、仕事を中断して検索してみました。

「ちょっとブリトニー、さっきの話だけどさ、ネットでは違う解釈ばかりだよ。他人の領域に入り込んで思うがままに行動してはいけないっていうのが、一般的に受け取られてるメッセージみたい。」

「え?なんですって?」

あっけにとられた後、不審な目になるブリトニー。そこへシャノンが出社して来ました。

「ねえシャノン、ゴールディロックスと三匹の熊ってお話知ってるでしょ。」

「ああ、何となくは覚えてるけど…。」

そこでブリトニーが使った表現が、これ。

“What’s the moral of the story?
「物語のモラルは何?」

モラル(「モ」にアクセント)というのは日本語で「倫理」と訳されるのが普通ですが、この場合は「良い人間になるための教訓」という意味ですね。つまり、ブリトニーの質問はこう。

“What’s the moral of the story?
「このお話の教訓って何だっけ?」

ちょっとの間首を傾げていたシャノンですが、

「う~ん、それは全然覚えてない。」

と肩をすくめました。ブリトニーは自分の理解を説明しましたが、それが正解とも不正解とも判断できないようで、するっと会話から離脱して席に着くシャノン。

「ざくっと流れを聞いただけだと、ネットの解釈の方がぴったり来る気がするんだよね。」

率直な意見を述べる私のモニター画面を覗き、解説文の横に白人中年男性の顔写真が添えられているのを見た若いブリトニーは、

「それ書いてるのはおじいさんでしょ。きっとわざとユニークな見解を発表しようとしてるのよ。小さい時に私が受け取った教訓はあくまでもそういうことなんだから、今更変えられないわ。」

結局のところ物語の教訓なんて、聞く側の解釈次第でどうにでもなるのですね。単に大多数の人間が見解を一致させているからと言って、それを誰にでも押し付けて良いわけではない。「赤ずきんちゃん」だって「三匹のこぶた」だって、教訓の解釈は読者の勝手。とりわけ場面転換が激しく変化に飛んだストーリーになると、読者側の解釈はもはや作り手にも予測出来なくなると思うのです。日本の学校では「この物語の教訓を述べよ」という国語のテスト問題があったし正解を聞いてなるほどと納得してたけど、ブリトニーのこの居直りには、アメリカ社会の柔軟性と度量の大きさを垣間見たような気がしました。

さて話変わってこの日の夕方は、毎月第一木曜日に開かれる恒例イベント「Light Table Presentation」がありました。港を見下ろす窓際の小劇場型会議室で、社員の誰かが自由題で話をするお楽しみ企画。軽いスナックや飲み物を手に、時にヤジを飛ばしながら仲間のプレゼンを聞くのです。今回のタイトルは、「Discovery of Beautiful Japan (美しい日本の発見)」。もちろん、プレゼンターは私です。イベントのまとめ役ダンがわざわざ日系スーパーMitsuwaまで走り、巻き寿司(といってもアメリカ式ですが)、歌舞伎揚げ、たまごボーロ、抹茶味のお菓子各種を買い込んで来てカウンターに並べます。私は大型スクリーンにパワーポイントのスライドタイトルを映してリモコンの具合をチェックしつつ、入場者を待ちました。

実は今回のプレゼン準備中、いつにも増して産みの苦しみを味わっていた私でした。去年の春と冬の一時帰国がネタ元で、花見や初詣らの写真を見せようと考えてはいたのですが、「自分は結局聴衆に何を伝えたいのか」がなかなか定まらず自問自答を繰り返した末、とうとう前の晩遅くになってようやく見つかったのでした。

五時少し前になって社員がぞろぞろ集まり始め、皆カウンター前に列を作って物珍し気に覗き込みながらスナックを手に取ります。三十人程の出席者がほぼ自分の座席や立ち位置を定めたのを見計らい、ダンが立ち上がります。

「皆さんようこそ。今日はシンスケが、日本についての話をしてくれます。食べて飲んで、楽しんで下さい。」

まずは「自分年表」からスタート。2000年8月、日本の勤め先を辞して渡米したこと、翌年息子が誕生したこと、2002年に今の会社に入ったこと、その後ほぼ四年おきに一時帰国して来たが、2013年夏を最後にルーティンが途絶えていたこと。2019年に大学進学する息子の一人立ち前に最後の家族旅行をしようじゃないかという話になったこと…。

この後私が伝えることになる情報は、前の晩になって急に付け加えたものでした。

「現在息子は日本とアメリカふたつの国籍を持っていますが、日本の法律によれば、22歳になる前にどちらかを選ばなければなりません。彼は一度も日本で暮らしたことが無く、このままではフェアな比較が出来ない。妻と相談し、春のお花見、そして冬の初詣という、多くの日本人にとって大事なイベントに照準を合わせ帰国することに決めたんです。」

正直なところ、「国籍の選択」という要素が今回の「一年に二度の一時帰国」という決断にどの程度影響していたかは、プレゼン前夜まで脳裏をよぎりもしませんでした。しかし突き詰めて考えれば、わざわざこの二つのシーズンを選んだのは「日本の素晴らしさを今のうちに息子に伝えておきたかったから」に他なりません。

「しかし今回の二回の旅で、むしろ親の私の方が日本の美、日本人の凄さを再認識することになったのでした。暫く距離を置くことによって、母国を客観的に眺めることが出来たのかもしれません。これから皆さんに、私の見たこと感じたことをお話して行きたいと思います。」

まずは成田空港のリムジンバス乗り場で、出発するバスに向かい深々とお辞儀する係員の映像を流します。

「自分が何年もちゃんとお辞儀していないことを、この時初めて意識させられました。」

それから駅で迎えに現れた83歳の父が30メートル先のバス停に違法駐車していた自家用車までダッシュした話、彼がATMの帰りに落とした「封筒にも入っていない」三万円を誰かが拾って交番に届けてくれた話を続けます。健康長寿で人に親切、という日本人のイメージを印象付けるエピソードですね。

更に東京各地で撮影した桜満開の写真、湖面に映った富士山の映像、新しくなった東京駅、神宮前のクリスマス・イルミネーション、蔦屋書店内の日本刀コーナー、酒とビールのコーナー、と続きます。建物や内装はもちろん、空間全体がとにかく清潔だということを強調します。

「どこへ行っても塵一つ落ちてないんですよ!」

ここで突然画面が変わり、話は急転回を見せます。

「色々出かけはしましたが、実は息子が一番行きたかったのはコンビニなんですね。」

日本のコンビニが外国人旅行者にとっても人気スポットなのは周知の事実らしく、笑いが起こります。小綺麗なパッケージに包まれた何十ものキャンディやグミ、お酒のおつまみ、そして色とりどりのドリンクが映されます。聴衆からおお、と溜息が漏れます。

「街中で至る所に設置されている自販機も、息子のお気に入りです。」

そして、自販機の中身に注意を促します。よくよく眺めると、大半はお茶やコーヒーなどの低カロリー商品。糖分過剰な炭酸飲料がひしめいているアメリカの自販機とはだいぶ違います。飲料がそうなのは分かった、じゃあ食べ物は?ということで、滞在中の食事をいくつか紹介。焼き魚定食、ナス豆腐定食、釜揚げシラス丼、鯵のたたき定食、など低脂肪メニューが続きます。

「こんな食事を続けていれば、健康になりますよね。」

そして世界各国の平均寿命グラフを映します。もちろん日本が堂々のトップ。女性87歳、男性81歳という数字を聞いて、オーディエンスから溜息が漏れます。

「食事もそうですが、とにかく歩く機会の多い事も長寿の秘訣だと思います。」

電車やバスといった公共交通機関の発達により、自家用車を使う時間が少ない日本人。その分歩かざるを得ないので、自然に日々の運動量が上がる。

「花見のハシゴをした日なんて、三万歩近くも歩いたんですよ。」

と、歩数計アプリのスクリーンショットを映します。

「旅行中は毎日山ほど食べたのに、結局体重は全然増えませんでした。」

街歩きといえば、東京は良く歩きました。そう繋げ、日本橋高島屋開店の映像を流します。制服に帽子姿の二人の若い女性が並んでお辞儀をしてから、まるで正倉院宝物殿開門みたいに恭しく正面ドアを開く様子が流れます。次に、街のそこここに突如現れる神社の写真が続きます。近代化を遂げた高層ビルの谷間に佇む、朱色の鳥居や瓦屋根の建物。そこへお参りのための列が出来ている。今回あらためて調べたところ、日本の神社というのはコンビニよりもお寺よりも数が多く、日本人の生活に日々触れているのだという話をします。神道は宗教というより日本文化の根っこにあるもので、「浄める」という思想がその中心にある。暮らしを浄め、心を浄める。プロジェクトの着工にも神主を招いてお祓いしてもらう。結婚式でも浄めてもらう。

正月二日には、夫婦で皇居の一般参賀へ行って来ました。丸の内から行列がスタートし、約5時間じりじり進んでようやく長和殿ベランダに到着。15秒ほどしかない天皇陛下のご挨拶を拝聴した後、またゆっくりと列に従って東京駅方面へ。平成天皇最後の一般参賀ということもあり、この日は15万人以上もの人が皇居に詰めかけました。私が一番驚いたのは、これだけの数の人が長時間文句も言わず列に並び続けたこと。少なくともその三割はお年寄りだったのに、よく耐えられたなあ、と。これはきっと、みな子供の頃から足腰を鍛錬していたからかもしれない、と小学校の体育授業の写真を映します。低学年の児童たちが体育館の中、体操服に紅白の帽子という出で立ちで、「前へ倣え」と列を作っています。

「息子が九歳くらいの時、親戚の人に頼んで一週間ほど日本の小学校で体験入学させてもらったことがあります。その時の写真を後で見たら、うちの子だけ普段着の黄色いTシャツを着てるんです。体操服や靴一式は予め調達して渡してあったのに、着替えを拒んだらしいんですね。その写真を見て、ああ彼はすっかりアメリカ人なんだなあ、と思った記憶があります。」

後で事情を聞いたら、クラスメート達が更衣室にも行かずいきなり教室で一斉に着替え始めたのに度肝を抜かれたらしいのですね(アメリカではあり得ない習慣)。皆と一緒の着替えは恥ずかしいけど、一人だけ違う服装で授業に出るのは恥ずかしくない、と。これには感心すらしました。

そんな彼に今回、実家に一人で泊まらせ、私の父と一日二人で行動させる機会を作りました。沢山話が出来て楽しかったそうなのですが、別れ際に息子がハグを求めたところ、父は両手を突っ張らせて後ずさりし、接触を拒絶したとのこと。

「日本では、人と身体を触れ合うことってあまり無いんですね。ハグはもちろん、握手だって一般的じゃありません。少し距離を取ってお辞儀をするのが通例なんです。」

ここで、日本人男性二人が向かい合って深々とお辞儀する写真を映します。聴衆は、ああ知ってる知ってる、という感じで頷きます。

次に、日本橋で買った折り紙用の色紙セットを映します。「青」というタイトルで、様々なバリエーションの青色がおさめられています。

「日本の伝統色ってこうなんです。同じブルーでも微妙に違う色合いが含まれてて、どれ一つとして主張し過ぎていない。でも全体で見ると絶妙に調和している。これって、日本人の生き方を象徴しているような気がするんです。礼儀正しく規律に従い、目立とうとせず周囲に合わせる。その結果、平和で落ち着いた社会が出来上がる。まあその分静かにプレッシャーがかかっているんですけどね。私は元々ずけずけ喋ってしまうタイプなので、正直、息苦しく感じる時もありました。だからアメリカに渡った時、自由な空気を胸いっぱいに吸い込んだことを憶えています。」

ここで、青い空と椰子の樹、色鮮やかなブーゲンビリアや極楽鳥の写真を出します。

「でもそのうちこの国では、そんな自由と引き換えに、不平等やとんでもない貧富の差、社会不安などが生まれていることも実感しました。社会の安定か個人の自由か。日本とアメリカって、そんなスケールの両極端にあるような気がします。」

ここで、満開の桜に挟まれた目黒川の遊歩道をそぞろ歩きつつ撮影した動画を流します。カメラを少し空へ向けると、早くも散り始めた花びらがひらひらと舞っています。

「桜の花って、完全な白でもなくピンクでも無く、そのどこか中間にあるんですね。よく見れば樹によっても花びらそれぞれも、少しずつ微妙に違ってる。でもちょっと引いてみると、全体で見事に調和してるんです。そのことが、日本人の心の琴線に触れるんだと思います。」

最後の動画は、息子が桜の花びらを追いかけ、その一片をふわりと右手で受け止めて嬉しそうに私に見せるところで停止しました。

「息子はこの夏一人立ちしました。将来どちらの国籍を選ぶかについては、彼の判断に任せます。でも今回の二度の旅で、二つの全く異なる文化をバックグラウンドとして持つことの幸運を再認識し、どちらも等しく愛せる人になってくれたらいいな、と願っています。ご清聴ありがとうございました。」

大きな拍手と共にプレゼンは終了し、Q&Aタイムに入ります。

「犬連れてる人があまり出て来なかったけどペットはいないの?」
「日本人の健康長寿に貢献している要素って他に何があると思う?」
「サンディエゴでお薦めの日本食レストランはどこ?」

テーマは盛り沢山ながら一応ラストで伏線を回収したつもりだった私は、このあまりにもバラバラな質問内容に、あ、やっぱり伝わらなかったか!とプレゼン編集の失敗を悔やんでいました。ところが最後に会計担当のマーゴがおずおずと手を挙げ、

「このプレゼン、息子さんには見せた?」

と尋ねます。いや、見せてないけど、と答えると、

「絶対見せるべきよ。私もう、泣きそうになっちゃったんだから(I choked up)。」

おお、少なくとも一人、こちらのメッセージを素直に受け取ってくれた人がいたぞ!ほっとする私。その後会場を片付けていると、他の参加者たちと談笑していたマーゴが近寄って来て、涙目でこう言いました。

“Can I give you a hug?”
「ハグしていい?」

あ、もちろん!と答える私。マーゴは両手を拡げ、固いハグをくれました。そして急に思い出したかのように身体を離し、両腕を身体の脇にぴたりとつけ、一礼して「サンキュー。グッバイ。」と固い口調で付け足すのでした。

え?そこが響いてたの?