2013年11月3日日曜日

Dodge the bullet タマをよけ続けて40年

先週サンディエゴのオフィスで、私が8年前まで所属していたプロジェクト・デリバリー・グループの会議がありました。グループ長であるアルがウィスコンシンから、その部下のクリスがヴァージニアからやって来て、そのまた部下のエド、そしてエドの部下であるマリアとエリカ(ダラスから出張)が出席。私の部屋の隣の会議室で一日中議論していました。

アルが来年1月末に引退することを発表したため、この機会に皆でお祝いをしようとマリアとエリカが以前から企画を練っていて、私も送別の品などへ名前を連ねてもらうことになりました。

会議が終了し、皆で「94th Aero Squadron」という、大戦中の趣を漂わせたレトロな佇まいのレストランへ集合。幸運にもアルの左隣の席をあてがわれた私は、色々個人的な話を聞かせてもらうことが出来ました。なんと彼は就職してから40年間、一度も転職したことがない、というのです。正確に言うと、勤めていた会社が大きな会社に買収され、それがまたひとサイズ大きな会社に買収され、というのを繰り返して今に至っているのですが。

それはともかく、毎週のように理不尽なレイオフが横行していることを考えると、これは奇跡的な快挙と呼んで良いでしょう。

「そうだね、自分は幸運だったと思うよ。」

とアル。それから少し考えて、

“I just kept dodging the bullet.”

と付け足しました。皆が「40年間もね。」と誉めそやします。

”Dodge the bullet(ドッジ・ザ・ブレット)というのは「弾丸を回避する」という意味で、この場合はレイオフが弾丸ですね。つまり、レイオフの危機を巧みに逃れて来た、というわけです。

“There’re lots of bullets out there.”
「たくさんタマが飛び交ってるからね。」

と溜息交じりのアル。

本当に、いつクビになるか誰にも分からない状況が続いています。数ヶ月前には北カリフォルニアのトップだったチャックが、先週は財務の重鎮トムが突然解雇されました。つい先日はマーケティング部門のエースだったランディが「組織改変のため」というだけの理由でレイオフを受け、ダウンタウン・サンディエゴ支社に衝撃が走りました(もっとも、支社長のテリーが奔走し、一週間後に再雇用するという離れ業をやってのけましたが)。

我々のテーブルを担当した声の大きなおじさんウェイターに、

「この人、今度引退するの。みんなでお祝いしてるのよ。」

と、思わせぶりな笑顔で特別無料デザートをおねだりするマリア。そのサインに気づいたかどうか、

「私もちょっと前に引退したんですがね。かみさんがあんまり邪魔者扱いするんで、ここに舞い戻ったんですよ。」

と大声で笑うウェイター。

それぞれデザートを注文し、これを待つ間に、マリアとエリカが用意した引退祝い品(特大フォントサイズのスドクやクロスワード・パズルなど)をエドが贈呈します。そのひとつひとつに、冗談交じりの謝辞を述べるアル。

ウェイターがデザートとコーヒーを運んで来て、最後に短いろうそくを一本立てたチーズケーキをアルの前に置きました。

「さ、願いごとをしてからですよ。」

大きな拍手の中、小さな炎を吹き消すアル。

こんな風に、部下達に慕われたまま引退するのって理想的だな、としみじみ感動する私でした。

さて会計する段になり、私の左に座っていたクリスが「自分が払う」と請求書を掴むと、アルが右から「いや、これは自分が」と掴みとります。暫くそんなやり取りがあった後、結局アルが全員の分を払うことになりました。サインをした請求書をさっきのウェイターに手渡すと、

「上司の引退セレモニーのディナー費用を当の本人に支払わせるんだぜ、この部下たちは。どう思うよ?」

とアルが笑います。ウェイターは間髪入れず、こう返しました。

“I want to be friends with you.”
「お友達になりたい。」

2013年10月30日水曜日

Sandbagging サンドバッグする

昨日の朝トイレに行く途中、廊下で同僚ジムとリタが何やら話しこんでいるところに出くわしました。すれ違いざま、ジムがこう言うのが聞こえます。

“He’s just sandbagging.”
「彼はただサンドバッグしてるんだよ。」

トイレで用を足しているうち、この言葉が気になり始めました。これ、過去に何度か聞いてるんですが、意味をしっかりつかめずにいたのです。サンドバッグというのはボクサーが練習する時に使うもんでしょ。だからきっと誰かを「袋叩きにする」という意味だろう、と勝手に解釈していました。でもそれだと目的語を伴う他動詞のはず。ジムはそんな言い方してなかったし、今まで聞いた文例も全て「Sandbagging(サンドバッグする)」という言葉で終わってたのです。だとすると自動詞だよなあ。

トイレから戻るとさっそくジムのオフィスを訪ね、さっきどういう風に「サンドバッグする」という表現を使ったの?と聞いてみました。

「あ、それはね、意図的に低めの目標を出すという意味で使ったんだよ。」

へ?なにそれ?サンドバッグと何の関係があるんだ?

今年度の収益目標を設定する際、最初からやる気満々で高い数字を提案するのではなく、充分に達成可能な数字を出しておく。年度末になってそれを上回っていれば業績評価が上がるでしょ。そういう時に使うんだよ、と説明するジム。

「なんでサンドバッグというのかって?それは知らないなあ。」

部屋に戻ってさっそくネットで調べたところ、そもそもの語源はポーカーであるらしいという記述を発見。え?トランプの?やっぱりワカラン…。

更にじっくり読んでみたところ、これは靴下みたいに小ぶりな袋に砂を詰めた物を指しているらしいことが分かって来ました。この道具、見た目の割には強力な凶器になります。普段大人しい人がいきなりこれを振り回して誰かを痛めつけるというイメージから、「序盤はへたくそなふりをして対戦相手を油断させておき、後半戦にいきなり牙を剥く」という意味で使われたのが始まりだとか。後年それが他の場面にも適用され、例えばゴルフではハンデを稼ぐために下手なプレイをしておいて、いよいよ本番で真の実力を見せるという姑息な作戦を指すようになったそうです。

さてランチタイムには、リスクマネジメントをテーマとしたディスカッションが大会議室で開かれました。まだ全員が集合していない状態で、大テーブルのはす向かいに座ったジムに、

「語源見つけたよ!」

と囁きました。そして調査の結果を聞かせると、なるほどねえ、と感心しています。

会議が始まって30分ほど経ち、ある巨大プロジェクトのリスク・レジスターを見ながらコンティンジェンシー・リザーブの巨額さに皆で驚いていたところ、誰かが

“They needed to sandbag.”
「サンドバッグしておく必要があったんだよ。」

と発言しました。ジムがぴくっと反応し、こちらを見てニッコリ笑います。調べた表現がさっそく登場したね、という表情で。

意外なことに、それから5分くらいの間、あっちからもこっちからも「サンドバッグする」というセリフが飛び交い続けたのです。先ほどの我々の会話が、会議開始を待つ出席者たちの脳に刷り込まれていたのかもしれません。おかげで、どんな場面で使える表現なのかをとてもよく理解出来ました。

困ったことに、この単語が飛び出す度、ジムがいちいち大机の向こうで目を大きく見開き、

「聞いたか?また出たぞ!」

という表情を作るので、会議中に何度も吹き出しそうになりました。


ちなみに、ボクシングの「サンドバッグ」は和製英語らしく、Punching Bag(パンチング・バッグ)が正解だそうです。

2013年10月28日月曜日

「ハッスルする」は英語として有りか?

ずっと以前、「英検一級にチャレンジする」という表現はおかしい、というような記述を読みました。日本語の「挑む」は英語の「チャレンジ」と微妙なズレがあり、敵対しているわけでもない対象に「挑む」場合、「チャレンジ」は使えないのだ、と。なんとなく分かったような分からないようなこの説明に、

「よし、チャレンジするって言い回しを使うのはやめとこう。」

と完全敬遠策を取ることに決めました。

そんな経験があったためか、後に「ハッスルする」という表現を耳にした時も、「こりゃまた間違った和製英語を張り切って使っちゃってるな。」と苦笑していた私。英語のHustleと我々日本人の使う「ハッスル」には隔たりがあるに違いない、と半ば確信していたからです。

話は変わって木曜日の夕方、息子を学校で拾ってから6時半開始の剣道の練習に連れて行き、彼が一時間稽古をつけてもらっている間に残りの仕事を片付けてしまおうと、オフィスに戻りました。

うちの会社、5時半までにはほぼ全員が退社します。なのにこの日は、7時近くだというのに建物がほんのり明るい。鍵を開けて廊下をどんどん進んでいったところ、灯りの主が判明しました。ディカプリオの若い頃に似ている同僚ジェイソンが、ペンを握り締めたままこっちを向き、驚いたような表情を浮かべています。

“What are you doing here?”
「な~にやってんだよ?」

とからかい気味に間延びした声で尋ねる私。すると彼が、気色ばんでこう答えたのです。

“I’m hustling, dude!”
「ハッスルしてるんじゃん!」

そんなわけで「Hustle(ハッスル)する」は、「頑張る」という意味で使っても大丈夫なのだということが確認出来ました。


それだけです。取り急ぎの報告でした。

2013年10月18日金曜日

ハロウィンの憂鬱

10月の声を聞くと、毎年ちょっぴり気持ちがふさぎます。31日のハロウィン当日やその前後に、オフィスでコスチューム・パーティがあるのです。暗黙の了解で仕事を午後4時くらいに切り上げ、大会議室や中庭に集合して仮装大賞みたいなイベントが始まるのですね。業務時間中に平気でコスプレやるってどうなのよ?私の常識からするとかなり変なんですが、誰もそういう疑問が湧かないみたい(これは我が社に限ったことではなく、学校でもショッピングセンターでも、銀行や図書館でもやってます)。

確かにへんてこりんな格好をした同僚達を眺めるのはちょっと楽しいけど、いざ仮装する立場に身を置くと、途端にブルーになります。ごく親しい少人数の友達とだったらまだしも、百人近いコスプレ集団の中で張り切るのってシンドイんだよなあ。ノリ、良くわかんないし。しかも私は三つの支社にオフィス・スペースがあるため、毎年招待状が三通届くのです。

「いや、その日はちょうど別件で外出してて…。」

となんとか切り抜けて来た私ですが、今年はダウンタウンサンディエゴ支社で部下のシャノンが「一緒にチーム組んでやりましょうよ」と笑顔で誘って来るので、曖昧な返事をしてしまいました。

そもそもこの仮装イベント、業務に関連付けたシャレを表現するのがミソ。ああ、確かにこの人だったらこのコスチュームだよね!と皆が納得しつつ笑う、という段取り。

「シンスケはアイディア・マンだから、すごいのが登場しそう!」

と別の同僚ボブに話しながら無駄に期待値を上げる無邪気なシャノンを見て、これはもう退けないな、と観念します。

で、たどり着いたテーマが「忍者」。我々の携わる「プロジェクト・コントロール」は、PMたちがプロジェクトを成功させるために陰でしっかりサポートするお仕事。コンセプト的にはどんぴしゃで、むしろ当たり前すぎて笑えないのですが、この発案にシャノンが大興奮。

「私、この週末にパーティーシティー(というお店)で試着してくる!」

う~ん。大学生の息子がいるような中年女性でも、ここまで張り切れるんだな。まさか「お色気クノイチ」みたいなコスチューム選ばないよな。私は内心、顔もほとんど隠して誰だか見破られないまま時間が過ぎるのを待とうかな、と考えてたんだけど…。

シャノンは更に気分が高揚してきたのか、我が社のPMソフトウェアのアイコンを拡大コピーして胸にど~んと貼り付けよう、と言い出しました。

「あ、そうだ!ほら私、ラップトップ・コンピュータを開けたまま両手で抱えて社内を行ったり来たりしてるじゃない。だからダンボールでそういう形を作って、おなかのところに貼り付けちゃおうっと!」


ダメだこの人、「忍者」の意味分かってない…。

2013年10月15日火曜日

女性がくしゃみを連発したら

カラダの芯が冷えてしょうがないので、昨日は上着のチャックを顎のところまで上げて仕事してました。くしゃみをひとつしたところ、ちょうど背後を通りかかった同僚のジェシカが、

“Bless you!”

と声をかけてくれました。

アメリカでは、誰かがくしゃみをすると「ブレス・ユー」と合いの手を入れる習慣があります。先日、会議中にある同僚が激しくくしゃみを連発した際、最初はほとんど全員が一斉に「ブレス・ユー」と返していたのに、4回目くらいから誰も反応しなくなりました。このことがちょっとひっかかっていたので、同僚ステヴに質問してみました。

「くしゃみした人にブレス・ユーって言ってあげる習慣は知ってるんだけど、アレルギーなんかで連発する人にもいちいち付き合ってあげるべき?ひどい人は20回くらい平気でやっちゃうからね。合いの手入れる方もあまり続くと辛いんじゃない?」

「俺は一回でやめとくね。そんなもん付き合ってらんないよ。大体、なんでそんなことをするかの起源も曖昧だしね。」

くしゃみをすると胸に小さな扉が開いて、そこへ悪魔が侵入を試みる。周りの人が「ブレス・ユー」と唱えると扉が閉まる。くしゃみをした本人は隣人の助けによって救われる。そういう言い伝えが元だとステヴは解釈しているそうです。

「友達や家族への気遣いとして言ってあげる人は多いし、俺も言うよ。全くの他人に対して言うかどうかは判断の分かれるところだね。」

ここで彼が、突然思い出し笑いをします。

1992年の映画に「シングルズ」という恋愛映画があり、その中のエピソードにこの「ブレス・ユー」が登場するのだそうです。「完璧な彼氏」を見つけようとさんざん奮闘するヒロインが、最終的には自分がくしゃみした時「ブレス・ユー」を言ってくれた普通の男性を好きになる、というオチ。これがアメリカ女性に、「ブレス・ユーを言ってくれる男性は真のナイスガイだ」という、歪んだ常識を植え込んでしまった。

「というのが、俺の唱えてる説ね。」

とステヴ。

「じゃあさ、同僚の女性がくしゃみした時にブレス・ユーを言ってあげないと、いやな奴だと思われちゃうわけ?」

と私が尋ねると、

「まあ、残念ながらそういう危険性はあるね。」

と、うんざりしたような表情になります。

「こないだシェリル(ステヴの隣のキュービクルにいる同僚)が風邪ひいてくしゃみを十回以上連発した時、俺が何て言ったと思う?」

「え?もしかして毎回ブレス・ユーって言ってあげたの?」

と驚く私。彼は一瞬怒ったような表情になってから、こう小さく叫びました。

“Stop sneezing!”
「くしゃみ止めろよ!」


全然ナイスじゃないじゃん。

2013年10月10日木曜日

Mnemonic 記憶術

日本語学習中の同僚アルフレッドが、こんな質問をして来ました。

「熱い」と「暑い」は同じ発音なのに、どうして「冷たい」と「寒い」は違うのか?

これには唸ってしまいました。まだ漢字を習い始めていない彼にとってはもっともな疑問なのですが、「違うから違う」としか言いようがない。そんな話をしていたら、別の同僚ジャック(日系アメリカ人)がやってきて、「しばらく!」と「ひさしぶり!」はどう違うのかを尋ねられました。う~ん、言葉ってホント難しい。

外国語の習得って、単語をジャカスカ覚えないことには始まりません。でも、それがなかなか憶えられないから大変なんですね。アルフレッドが呟きます。

「良いヌマネックがあればいいんだけど…。」

え?なんだって?なんて言ったの?彼が教えてくれたのが、この単語。

Mnemonic

これ、「ニーモニック」じゃなくて「ヌマネック」と発音します。意味はずばり、「記憶術」。大量の情報をすばやく、しかも長期間残るように記憶するテクニックのことを指します。時々テレビの「びっくり人間登場」みたいな番組で図抜けた記憶力を披露する素人が出てきますが、彼らのほとんどは、対象を想起させる手がかりを頭の中でひとつひとつ結び付けて覚えていくのですね。ウィキペディアには、握った拳の形を使って大の月と小の月を記憶する方法が載っています。

その15分後、別の同僚リチャードの部屋を訪ね、

「何か面白いヌマネック知らない?」

と切り出してみました。特に無いなあ、という気の無い返事。そこへアルフレッドがやって来て、会話に加わります。

「そういえば、こんなヌマネック知ってるよ。」

“King Henry died drinking chocolate milk.”
「ヘンリー王がチョコレートミルクを飲んで死んだ。」

「へ?なにそれ?」

「理科の授業でさ、単位の憶え方として教わるんだよ。King の頭文字Kはキロ、HenryはヘクトのHDied Dだから…。あれ?Dは何だっけ?」

Dはデカじゃなかったっけ?で、次のD (Drinking) がデシ、C (Chocolate) はセンチ、M (Milk) はミリだね。」

と、助け舟を出すリチャード。アルフレッドが決まり悪そうに笑います。

「憶え方だけ憶えて、何を憶えなきゃいけないのかを忘れちゃったよ。これじゃダメだね。」



私としては、Nmemonic のスペルを覚えるための記憶術が知りたいです。

2013年9月29日日曜日

She’s upset. 怒ってんの?悲しいの?

オレンジ支社へ出張した際、弁当を食べようとランチルームへ入ると、同僚ベスが一人で座ってブリトーにかぶりついていました。隣のテーブルに腰掛けて弁当箱を開け、軽く世間話を交わしていたところ、彼女が週末の出来事を話し始めました。

ロサンゼルス郡に住むベスには三人のお子さんがいるそうなのですが、末娘がサンディエゴの大学に進学することになり、週末に彼女を夫婦で送って来たというのです。アメリカの大学というのは全寮制が多く、「子供が大学に通い始める」イコール「独り立ち」という公式がアメリカ人の意識に浸透していると言っても良いでしょう。ロスからサンディエゴなんて車で2時間の距離なので、ものすごく遠くへ去ってしまうわけではないのです。でもこれで我が家から子供の声がすっかり消えてしまうとなると、夫婦の心にぽっかり穴が開いてしまうのですね。

「私、自分があれほどエモーショナルになるとは予想もしてなかったの。帰り道ね、二人ともすっかり落ち込んじゃった。意外だったのがうちの夫の反応で、普段はとってもドライなのに、」

そうしてベスが次に発したセリフに、箸を持つ手が止まります。

“He was upset.”
「彼、アップセットだったの。」

え?アップセットって、怒った時に使う言葉じゃなかったっけ?この文脈で、ご主人が怒ってたとは思えないんだけど…。

翌日、ダウンタウン・サンディエゴ支社へ行った際、同僚ステヴにこの質問をぶつけてみました。

「これはまた厳しいとこ突いて来たなあ。」

と唸るステヴ。

「たとえばさ、君のボスがやって来て “What did you say to Hillary? She’s upset.” (ヒラリーに何を言ったんだ?彼女はアップセットだぞ。)と言われたら、ヒラリーが怒ってるか悲しがってるか、どっちだと思う?」

暫く考えた後、彼がこう答えます。

「俺の経験から言うと、75パーセント怒りで25パーセントが悲しみかな。必ず両方の感情が入ってると思うよ。」

「ふ~ん、そうなの。日本語にはそんな言葉存在しないと思うなあ。悲しいのか怒ってんのか、どっちかしかないもん。」

そこでふと、腑に落ちない点に気づきます。「ベスの旦那がアップセットだった」という場合、75パーセント怒りというのはおかしくないか?

「なるほど。その場合、割合は逆転してるね。90パーセント悲しみで、10パーセント怒りかな。」

「ちょっと待ってよ。怒りなんかないでしょ、このケースで。」

私が反論すると、

“He’s angry at the world.”
「世の中に対して怒ってるんだよ。」

と、拳を振り上げて見せるステヴ(この場合のWorld とは、自分の周りで起こっている出来事の総体と解釈しました)。そこへ、さっきから我々の会話を楽しそうに聞いていた同僚シャノンが割り込んできます。

「もっと娘とたっぷり話をしておけば良かった、なんで俺は子供との時間をもっと大切に過ごさなかったんだろう、って自分自身に対して怒ってるっていうのも有るかもね。」

なるほど。悲しくって同時に腹を立ててる時に使うフレーズなのね。

席に戻って仕事をしてたら、ロス支社のマドンナからメールが入って来ました。

「昨日辞職届けを提出したの。二週間後に退社するわ。今まで色々有難う。」

ええっ?なんで?慌てて返事を書いて、動機を尋ねます。

「ディレクターのジェイソンが辞めてから仕事量が倍増してたでしょ。そのすぐ後に、産休に入ったヘザーのプロジェクトが全部私に回ってきたじゃない。とてもじゃないけどまともな成果を出せないわ。ずっとサポートを頼み続けてたのに、結局誰も動いてくれなかった。もう限界よ。」

なんてこった。上層部は何もしてやらなかったのか!そんなことで優秀な社員をまたひとり失うなんて…。マドンナとはずっと良いチームワークを組んで来ていたので、本当にがっかりでした。

再びステヴの席へ行き、マドンナの件を聞いてるかと切り出すと、

「うん、知ってる。残念だね。」

と苦々しい表情になって首を振ります。そこで私が、

“I’m upset!”

と小さく叫びました。彼はすぐに親指を立て、

“That’s correct!”
「それ正解!」

と答えてくれました。

“You are sad, and a little bit angry at the world.”
「悲しい気持ちもあるけど、ちょっとばかり周囲に対して怒ってるんだよね。」

その通り!

これでアップセットの意味を会得しました。

2013年9月17日火曜日

ボインの問題

半年くらい前、同僚アルフレッドが日本語の勉強を始めました。担当プロジェクトの現場までの長距離ドライブを有効活用し、語学学習用CDを聴き始めたというのです。彼が時々私のオフィスに顔を出して、

「すみませんとごめんなさいはどう違うの?」

などと微妙な質問をして来るようになり、こっちも良い勉強になるからどんどん聞いてね、と励ましています。

そんなある日、彼が決まり悪そうな表情で、

「シンスケ、実は白状しなきゃいけないことがあるんだ。」

と告白口調。

「なんで日本語の勉強を始めたか、まだ話してなかったよね。」

言われてみれば、確かに動機は聞いていませんでした。彼が私の目をじっと見つめ、こう呟きます。

“It’s enemy.”
「敵がいるんだよ。」

そう、私の耳には確かに「エネミー」と聞こえたのです。え?敵がいるから日本語を学習し始めた?一体どんなシチュエーションだ?

「ナルトって知ってるかな?」

と彼が続けます。

「漫画のNARUTOなら知ってるよ。うちの息子が好きだから。」

と私。忍者漫画の中のライバルの話でも持ち出すのかな、と思ってたら、アルフレッドは更に恥ずかしげな表情を浮かべ、

「実は僕、高校生の頃からずっとNARUTOのファンでさ、いつかきっと原書を読めるようになりたいって思ってたんだ。それで日本語をね…。」

ん?だからどうしてそれが敵の話になるの?

三秒ほど空白の時間が過ぎた後、ようやく分かりました。彼が言ったのは、「エネミー」じゃなくて「アニメ」だったのです(Animeは英単語としてアメリカで普通に流通しています)。英語でAnimeを発音すると、Enemyに聞こえるんですね。この単語は子音(しいん)が少なく、母音(ぼいん)がむき出しになった感があります。英語の母音というのは、日本人には特に難物だと思うのは私だけでしょうか?

Anime を構成する母音の発音は、以下の通り。
a は「え」に限りなく近い「あ」
i は「え」に限りなく近い「い」
e は「い」に限りなく近い「え」


はい、これでAnime を発音すると「エネミー」になりますね。

2013年9月11日水曜日

この指なあに?

金曜と土曜の二日間、アナハイムのヒルトンホテルで会社主催のPMトレーニングを受けて来ました。

「え?シンスケが教えるんじゃないの?」

と同僚達に驚かれたのですが、これは外部のプロ講師を正式に招いての全社的イベント。このトレーニングを受けてテストに合格しなかったら、PMの座を下ろされるとまで囁かれています。

登場した講師は、60代後半と見られる太った白人のおじさん。アメリカ空軍に長く勤務していたという大ベテランで、この人のパフォーマンスが期待をはるかに超えてました。

一度聞いたら忘れられないほど刺激的な彼自身の体験談を、絶妙なタイミングで放り込んで論点を補強します。ひとつひとつのエピソードが脳みそにグサグサ突き刺さり、暫く抜ける気配が無い。こういう芸当は若い者には出来ないよなあ。

レゴ・ブロックを使った演習は圧巻でした。まずは24人の受講者を二人一組の12チームに分けます。一人がPM,もう一人が作業する人。次に、スポーツカーと思しき完成写真を載せたレゴブロックのパッケージ(6~12歳用)を一つずつ渡されます。PMが中身を机にぶちまけてからインストラクションを開く。作業者は目隠しをされ、PMからの指示を口頭で受けます。PMは一切ブロックを触れません。

「与えられたレゴ・ブロックで、車を作って下さい。制限時間は10分間です。準備はいいですか?完成形をスクリーンに映しておきますね。では、スタート!」

私とペアを組んだのは、ベテラン女性PMのジョーン。目隠しをした相手にレゴを作らせるのは、思いの他困難でした。大体、ブロックの描写の仕方が分からない。

「2x6の平べったいヤツ!」

「今、右手の人差し指が触ってるピース!」

「もうちょっと手前、そう、斜め左!」

などと英語で指示するのはなかなかにキビシイのですね。一番困ったのが、右手の薬指が触れていたブロックをつまんでもらおうとした時に、この指の英語名が全く浮かばなかったこと。クスリユビ?英語でなんて言うんだっけ?

「はい、時間です!」

無情のホイッスル。一斉に唸り声で抗議する受講生たち。ぜ~んぜん終わってないよ!

同じテーブルにいた同僚達に、ひそひそ声で、

「ねえ、この指なんて言うんだっけ?」

と右手の薬指を指す私。いつも優しい同僚のレベッカが、

Ring Finger(リング・フィンガー)よ。」

と微笑みます。

「ええっ?リング(指輪)は左にするもんじゃないの?」

「両方リング・フィンガーって呼ぶのよ。」

するとベテランPMのハリーが、

「ヨーロッパでは右手の薬指に結婚指輪をするんだよ。」

と補足情報を提供してくれました。

こういうちょっとした英単語を知らないばっかりに、大幅に遅れを取ってしまった私。インストラクションの6ページまで進んだところで時間切れになってしまったのですが、大半のチームは8ページ辺りまで進んでいました。ノン・ネイティヴは、こういう時不利なんだよな、と悔しがる私…。

ところが、作業スピードが重要なのではないことを、この後すぐ悟ることになります。注目を促す講師の方を振り向くと、スクリーンに三種類のレゴ・カーが映し出されており、その中のひとつに丸がつけてあります。私達のチームが完成を目指していた形も出ていますが、それは選ばれていません。

「今回私が発注したのは、丸をつけたパターンです。この車を作っていたチームはありますか?作り方は、インストラクションの12ページ目からになっています。」

一同、あっけにとられて顔を見合わせます。

確かにレゴ・ブロックには、同じピースで数種類のパターンを作れるものがあります。でも、これがそうだとは思いもしませんでした。

「おやおや皆さん、クライアントが何を求めているかをきちんと理解してから仕事を始めなければいけないと、10分ほど前に話したばかりじゃないですか。どうして突っ走っちゃったんです?このスクリーンは、さっきからずっとこの完成形を映していましたよ。」

さらには、10分で完成させられると思った人なんて一人もいないのに、どうして誰も工期延長の要求をしなかったのか、と突っ込む講師。

「皆さん、これで分かりましたか?たとえ頭でPM理論を理解していても、目の前にプロジェクトを差し出され、制限時間を与えられると、人はいきなり走り出してしまうものなんですね。」


見事に一杯食わされました。

2013年9月1日日曜日

Contingency コンティンジェンシー

月曜日の夕方、ダウンタウン・サンディエゴ支社のトレイシーからメールが来ました。

「水曜日のスタッフ・ミーティングで5分くらい枠を空けるから、財務関連のトピックで何かプレゼンしてくれない?」

スタッフ・ミーティングとは、月に一度社員が全員集合して情報交換を図る会議です。こんな突然のリクエストでも、快く引き受ける私。というのも、話したい内容が既に頭にあったのです。

それは、Contingency(コンティンジェンシー)。

コンティンジェンシーを辞書で引くと、「不測の事態」とか「不確実性」などという訳が出て来ます。プロジェクトマネジメントの世界ではKnown unknowns(予測しうる不測の事態)をコンティンジェンシーとし、そのために積んでおく予算をContingency Reserveと呼びます。プロジェクト予算の話をする際は、この積立金自体を「コンティンジェンシー」と呼ぶのが一般的。英治郎には「偶発損失積立金」という、一口では飲み込みにくい漢語和訳が出ていますが、私が無理やり意訳するとすれば、これ。

かもしれない予算」

事故防止のために「かもしれない運転」を推奨する人がいますが、プロジェクトの予算を作成する際にもやはり、「重要な現場作業のタイミングで大雨が降るかもしれない」とか「主要メンバーが突然解雇されるかもしれない」などという不測の事態を組み込んでおくべきなのですね。特にその事態が起こった場合にかかるコストをクライアントに請求出来ない、つまり我々自身で賄わなければならない場合、これをプロジェクトの予算に予め含めておかないと大変です。不測の損失が続けばPMの組織内での信用は落ちるし、財務部門を含めた上層部からの質問攻めや資料要求に忙殺され、本来業務に集中出来なくなるのです。成果品のクオリティも落ち、スケジュールは遅れ、じわじわと泥沼に…。

「そんな地獄を見ないためには、きっちりコンティンジェンシー(かもしれない予算)を積んでおきましょう。」

プレゼンを締めくくると、皆が大きく拍手してくれました。

ミーティングを終え、席に戻って間もなく、同僚のPMシェインがやって来ます。

「プレゼン有難う。勉強になったよ。質問していいかな?」

彼の口からは、折角積んでおいたコンティンジェンシーを財務部のシェリーに削除させられたことがある、という聞き捨てならぬ実話が飛び出しました。プロジェクトの内容をよく知らない人間が、PMに向かってコンティンジェンシーを減らせと指示するのは明らかに越権行為です。もしそれが本当なら、シェリーと事を構えなければなりません。

「ちょっと待って。もう少し詳しく話してくれる?」

いきなり結論に飛びつく前に事態の詳細を知っておこうと、深掘りを開始。そうしてシェインから話を聞くうちに、じわじわと真相が明らかになって来ました。

「整理すると、こういうことだね。クライアントがコンティンジェンシーとして積んでいた予算を、プロジェクトの収入として見込んでいた。それをシェリーが予算から削れと言ってきた、と。」

「そうそう、そうなんだよ。」

「シェイン、それは僕の言ってるコンティンジェンシーとは別モノだよ。」

「え?なんで?」

クライアント側のコンティンジェンシーは「彼らにとっての」不測の事態。それが発生すれば我が社に業務が発生し、業務量に見合った金額が支払われるでしょう。しかし発生しなければ何も支払われない。それを当初から我が社の収入として見込んでおくのは、いわゆる「とらぬ狸」な発想なのです。まだ見込むのは早いから予算から削っておけ、というのは財務部として当然の判断。

「じゃ、シンスケの言ってたコンティンジェンシーはどういうこと?」

「我が社のコンティンジェンシーはクライアントの支払いと関係ないんだよ。我々のコンティンジェンシーは我々の支出であるのに対し、クライアント側のコンティンジェンシーは我々にとって収入なんだ。僕は支出の話をしてたんだよ。」

「そうか、な~るほど。やっと分かったよ。有難う!」

この後、先日支社長に就任したテリーがやってきて、私のプレゼンを誤解してる人がいるようだ、と指摘してくれました。

「クライアントのコンティンジェンシーとうちのコンティンジェンシーをごっちゃにしてる人が多いのよ。次にプレゼンする時には、その点を解きほぐしてから説明した方がいいと思うわ。」


う~む、こいつは痛い!どっちのコンティンジェンシーかを誤解する人がいる「かもしれない」という予測をし損なった、私のミスでした。