2018年4月15日日曜日

Connected コネクテッド


金曜の早朝、朝日の上る前に自宅を出発し、一時間半ほど車を飛ばしてオレンジ支社へ。10時半のミーティングに備え、まずは四階のビジター用オフィスを確保。コンピュータを立ち上げました。振り向くと窓の外で、澄み切った空気の向こうに青い空が広がっています。

「元気?どうしてる?」

8時半、東海岸のパットから携帯に電話が入ります。本社副社長の彼女とは、月一回くらいのペースで連絡を取り合うようになっているのです。

「週明けにサンディエゴへ戻ったんだ。時差ボケが抜けなくて、予想外に苦しんでるよ。」

二週間の一時帰国を終え、帰宅したのは月曜の昼。体調を整えるため火曜日も有給を取っておいたのですが、体内時計が一日では補正できず、頭痛や眠気と闘いつつ復帰三日目を迎えたのでした。

「桜は見られたの?」

とパット。今回は、息子に人生初の花見をさせるために帰国日程の調整をしたのだ、と出発前に話してあったのです。

「ドンピシャで開花日に間に合ったんだ。どこへ行っても何億という薄ピンクの小さな花が視界一杯に咲き乱れていてね。まるで桃源郷だよ。」

「まあそれは素敵ね!」

「おかげで、いまだに気分は半分夢の中ってわけさ。」

「そうでしょうね!友達にも会えたの?」

「うん、大勢の人に会えたよ。何年もご無沙汰していた友達や元同僚たちに会えたのは良かったな。若い頃一緒に馬鹿やって騒いでた仲間が、今ではそれぞれの居場所で重責を担って活躍してるんだ。なのにみんな、あの頃のままの無邪気な笑顔で迎えてくれてね。何人かはわざわざ平日に有給まで取って付き合ってくれたんだ。思い出すだけでちょっと泣けて来るよ。なんて言ったらいいかな、この感じ…。う~ん、」

ぴったりした英語表現が思いつかずに言い淀んでいると、パットが助け舟を出してくれました。

“You felt connected.”
「コネクテッドって感じたのね。」

「そう、それだよ!」

コネクテッドは「繋がっている」という意味なので、彼女の使ったフレーズはこう訳せると思います。

“You felt connected.”
「絆を実感したのね。」

渡米して18年になるけど、やっぱり自分の根っこは日本にある。沢山の仲間が、まだ忘れずにいてくれる。このことを自覚した途端、激しく動揺している自分がいました。あれ?もしかして僕は日本に帰りたいのかな?

実は時差調整日の火曜、東京で買い漁った十冊の日本語書籍をベッドサイドに積み上げ、人知れずちょっぴり沈んでいた私。翌日からの職場復帰に対し、イマイチ士気が湧いて来ないことに気付いていたのです。ここに積んだ日本語の本、一気に読んじゃいたいけど、そんな時間無いよなあ。明日からまた英語で仕事するのか。しんどいなあ。かなりの期間、英語使ってないしなあ。ちゃんと喋れるかな。長年かけて培った日本の仲間たちとの絆を再確認した後だけに、「勤務時間内だけの付き合い」に終わりがちなアメリカの同僚達との関係が妙に薄っぺらく思えて来たことも、浮かない気分の一因でした。

そして水曜日の早朝、18日ぶりの出社。12階でエレベーターを降り、キーカードをスワイプしてオフィスに入ります。

「シンスケ!」

私の姿を見るやいなや、既に出勤していた部下のカンチーが飛び上がるようにして席を離れ、島机をぐるりと回って小走りに近寄り、伸び上がってギュッとハグしてくれました。

“Welcome back! It’s so nice to see you again!”
「お帰りなさい!また会えてホントに嬉しい!」

え、そう来るの?いいじゃん、これ。ここまでの歓待は予想外だぞ…。それからティファニー、テイラー、と順々に現れ、まるで地球防衛の任務を完遂して帰還したヒーローを迎えるかのように、私との再会を喜びます。普段あまり会話しない人事部のアシーナまでわざわざやって来て、お帰りなさい!と目を輝かせます。何これ?ドッキリ?

木曜には長年の同僚マリアから、

「ちょっと話せる?近況報告会をしましょうよ。」

とメールが入ります。オッケー、今度一緒にランチ行こう、と返信します。

金曜の12時過ぎ、会議室から戻ってコンピュータを見ると、サンディエゴの同僚ディックから日本語でテキストメッセージが入っています。

「今日の昼食?」

英日翻訳ソフトにかけてから貼り付けているために、ややぎこちない文体ですが、Lunch today?というディックの英語原文を機械が訳すとこうなるのでしょう(「昼飯行かない?」あたりが妥当な和訳だと思います)。すかさず英語で返信します。

“may i take a rain check? i’m in orange.”
「また今度ってことでいい?今オレンジにいるんだ。」

すると暫くして、彼が再び日本語で返して来ました。

「私は大きな悲しみで待たなければなりません。」

ひとしきり笑った後、しみじみ思うのでした。そうだ、ここアメリカにも大勢仲間がいるじゃないか。彼等との絆も日々固まって来ているのに、そのことに今日まで気付かなかった。久しぶりの再会で日本の仲間たちとの絆を意識したように、こうしてちょっと離れたことで、アメリカの仲間たちとの繋がりも確認出来た。今回の旅の最大の収穫はこれだな!

“I felt connected!”
「絆を実感したぜ!」 

4 件のコメント:

  1. なんか「宇宙戦艦ヤマト」とか「機動戦士ガンダム」の最終話っぽい展開だね(笑

    オイラが使っている Blue Tooth 対応のイヤホンはどうもアメリカ製みたいなんだが、耳に挿してスイッチを入れると対応機器に繋がった瞬間 ”Connected” という音声が流れて、ちょっとカッコいい(日本製もそうなのかもしれないが)。オイラ的には仮面ライダー555で変身の時に流れる”Standed by...Complete!"を思い出してしまうのだね。

    で、「何億という花びら」のくだりでイメージ伝わったのかな?日本人はあまりしない表現だね。

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  2. うーん、仮面ライダーに繋げるか…。

    パットには、千鳥ヶ淵の写真を送りました。アメイジング!というリアクション。でもあれはやっぱり360度その情景に囲まれないと、インパクトが伝わらないよね。

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  3. そういえば、最近になって仮面ライダー555の変身ベルトの高級版(30,000円位)が発売になって「大きなお友達」達がこぞって買っているらしいゾ(笑
     http://p-bandai.jp/item/item-1000102770

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    1. 「大きなお友達」の心をくすぐり切れれば商売繁盛だろうね、この分野は。いっそのこと、仮面と着ぐるみタイツと改造バイクもセットにしちゃえばいいのに。

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