私の仕事のひとつに、プロジェクトの週刊速報があります。依頼をくれたPM達のために、彼らのプロジェクトのどのタスクに誰がいつ何時間チャージしたか、そして予算はいくら残っているか、利益率の推移は?などを簡単にまとめたメールを、週の初めに発送する業務。
これ、最初の頃は「どうも有難う」という返事が来るのですが、そのうち皆、うんともすんとも言って来なくなります。ロングビーチ支社のマークもその一人。アイルランド系特有の荒っぽさを持つこの男には、過去6年近くもこのサービスを提供していますが、ほぼノー・リアクション。受け取ったとも、有難うとも言って来ない。あまり無反応なので、もうレポート要らないのかな、と訝って送らないでおいたところ、
「今週のレポート来てないぞ!」
と激怒されたことがあるので、それからはどんなにゼロ・リアクションが続いても送り続けています。うつ伏せになった父親の腰を揉んであげてたら、いびきをかいて寝てしまったので、そっと立ち去ろうとすると、
「なんでやめるんだ!」
と怒鳴られるので手を止められない、みたいな感じ。
さて先日、ロングビーチ支社を束ねる若きマネジャーのジェイが、私とマークの両方に宛ててメールを寄越しました。
「○○プロジェクトにケヴィンが参加していると思うんだけど、彼が過去何時間チャージしたか教えてくれ。」
さっそくフォルダーを開いて今週のレポートを調べてみると、ケヴィンは先週末までに63時間働いていたことが判明。表をメールに張り付けてジェイに返信。この間、約30秒。ところがそれより一秒ほど早く、全く同じデータを貼り付けたメールをマークがジェイに送っていたのです。
“Shinsuke, your spreadsheet is excellent.”
「シンスケ、君のスプレッドシートはすごいよ。」
ジェイにCCを入れた上で、彼が私への賛辞を述べます。
“You beat me!”
「先越されたよ!」
とからかう私に、
「もしも俺が自分自身でデータベースを調べなければならなかったら、この簡単なリクエストに応えるのに30分くらいかかってたかもしれない。その上、ストレスのせいで二ヶ月くらい寿命が縮まってたかも。シンスケの速報のお蔭で、二ヶ月は寿命が延びたぜ。」
おお、あの気難しいマークからこの手放しの褒め言葉!毎週レポートを送っているのに過去数カ月間何の反応も無かったため、メールを開いてすらいないんじゃないか、とまで疑い始めていたところでした。なので、ちょっとばかし胸が熱くなった私。ところが、ジェイがこんなメールを返して来たのです。
“I thought you would have the number of hours Kevin spent memorized
Mark! Come on man…step up your game.”
「ケヴィンのかけた時間数くらいちゃんと頭に入ってると思ってたぞ、マーク!頼むぜ、しっかりしてくれよ。」
語尾にスマイル・マークが足してあるので、もちろんこれはジェイ流のジョークです。でも、普段滅多にポジティブな発言をしないマークが折角興奮して褒めてくれてるんです。この茶化し方はちょっぴり興醒めだよなあ、とがっかりしていました。この気持ちを英語でどう表現したらいいんだろう?と考え始めた時、マークからこんな返信が届きました。
“Don’t rain on my parade.”
「俺のパレードに雨降らせんなよ。」
これは、「楽しい気分に水差すんじゃないよ!」という意味の言い回しです。それよそれ!
どんぴしゃのフレーズを頂きました。