2011年4月29日金曜日

Crackerjack スゴ腕

4月も明日でおしまい。今月前半は、別部門で行われたトレーニングのサポートに毎日出かけていました。これは直接収益を生み出す仕事ではないので、私の所属部門にとってはエラい出費です。自分の業績評価にも、どれだけプラスになるかは疑問でした。でも、助けを求められたら行かねばならぬ。それに、もしかしたらこれがきっかけで、別部門のプロジェクトにちょこっと参加させてもらえるかもしれない、という下心もありました。ボスのリックにも、
「これは営業活動だと思ってるんです。顔を知ってもらうのは良いことですからね。」
と説明してありました。蓋を開けてみると、トレーニング会場の隅に黙って座り、時々質問に答えてあげるというだけの仕事だったので、空振りだったかな、と拍子抜けした感がありました。

ところが、今週月曜。
「どうも有難う。あなたがトレーニングをサポートしてくれて、本当に助かったわ。ちょっと話したいんだけど、電話くれる?」
とリサからメールが入ったのです。リサというのは、今回私が助けた別部門の、南カリフォルニア地域ナンバー2。

「サンディエゴで、30ミリオンドルのプロジェクトがスタートするの。あなたにPMを任せたいんだけど、考えてくれる?」
これが、彼女がコンタクトしてきた本当の理由でした。受話器を握ったまま、一瞬固まる私。
「うちの部門ね、技術分野の人材は豊富なんだけど、プロジェクト・マネジメントを分かっている人はそういないのよ。しかもこれだけの規模でしょ。皆で頭を悩ませてた時、あなたの顔が浮かんだの。」

面白半分に石鯛狙って沖へ出たら、カジキマグロがかかっちゃった…。

アメリカでキャリアをスタートして8年半。この間、プロェクト・マネジャーを務めたことは一度もありません。プロジェクト・コントロールの仕事でだって、過去最高の契約額は10ミリオン。藪からぼうに、どデカい仕事が舞い込んで来たぞ。これを断り、今の仕事を淡々と続けて平穏に引退するか、それともこのチャンスに飛びついて実績を上げ、次々と大型プロジェクトを渡り歩くか…。突如として、二手に分かれた未来への道が、霧の向こうに現れたのです。

「とても興味があります。でもまずはプロジェクトの中身を知らないと、答えられません。プロジェクト・チームと話せますか?それに、スコープが書かれた書類を送ってもらえます?」

そして今日の午前中、ダウンタウンのオフィスでミーティングがありました。一時間ほど話してみて、プロジェクト・マネジメントのイロハを理解している人がチームにいないことがよく分かりました。このまま進んだら大変なことになるぞ。これは絶対自分が参加してコントロールしないと…。やる気がムラムラと湧いて来ました。

私の最大の懸念は、これからサインされる契約書が、法務部のチェックを受けてあるのかどうか、という点でした。ざっと草案を読んだところ、何だか怪しいのです。契約形態が書かれていないし、支払い方法についても記述が見当たらない。私の質問にチームの誰一人として答えられなかったことで、余計不安が募りました。ミーティング終了後、自分のオフィスに戻り、弁護士の同僚ラリーにこの件を話してみました。
「それはすごいチャンスじゃないか。良かったな。ところで、クライアントは誰?」
私がクライアント名を告げると、顔色が曇ります。
「あそこの契約書は、昔から穴が多いんだよね。」
「そのことなんだけど、僕も何だか不安なんだ。PMの座を引き受ける前に、契約内容をしっかり理解しておきたいんだ。もしも僕が契約書を持ってきたら、チェックしてくれる?」
「ああ、もちろんだ。いつでも持ってきてくれよ。」

そしてラリーがこう付け足しました。

“I’m sure you will be a crackerjack!”
「君ならきっとクラッカージャックになるよ!」

去りかけていた私の足が止まりました。
「え?何て言ったの?クラッカージャック?」
当然、説明を求めます。
「大昔から子供たちの心をつかんで話さない、お菓子の王様があるんだよ。」
「知ってる。僕も子供の頃、日本で食べたよ。おまけが楽しみでね。」
「お菓子の歴史上でも稀に見る大ヒットを飛ばしてね。アメリカじゃ知らない人はいないよ。それでこの名前は、エクセレンスを表すようになったんだ。つまり、褒め言葉さ。」
なるほど、彼が言ったのは、
「君ならきっとスゴ腕PMになるよ。」
ということですね。

Face the music 潔く困難に立ち向かう

昨日の午後、カマリロ支社のケンという人から電話がありました。
「プロジェクト・マネジメントのソフトウェアの使い方を教えてくれるかな。最終予測コストの出し方が分からないんだ。」
彼のプロジェクトのデータを同時にコンピュータ画面に映しながら、電話で一時間ほど指導しました。
「げげっ。こんなにコストがかかるのか?いつの間にここまで恐ろしい事態になってたんだ?利益が2万ドルもそぎ落とされてたなんて!」

プロジェクトの終盤になるまで財務状況をチェックしないからじゃん。スタート時点からコントロールしてなきゃ駄目なんだよ…。ま、そんなことを言っても仕方ないので、出来る限りの改善策を提案してみました。

「う~ん。今後かかるコストをこれだけ絞っても、利益率が上がらないのか。」
とケン。
「そうだね。今までかかったコストが大きすぎるから、残りわずかで何とかしようと焦っても、大きな変化は起こせないよ。このレポートを提出したら、上層部から電話がかかってくるのは間違いないね。こうなったら出来るだけコンサバな予測をして、悪いニュースは一回で済ませる、という戦略を取った方がいいと思うよ。」
すっかり落ち込んでしまったケンは、
「分かった。とにかくこれで提出してみるよ。」
とため息をつきました。そして最後にこう付け足しました。

“Then I’ll face the music.”

「音楽と対面」する?これ、前に何度も聞いたフレーズ。ちょっと楽しそうな響きです。でも彼の置かれた状況を考えると、どうもそんなポジティブな意味には思えません。さっそくネットで調べたところ、「潔く困難に立ち向かう」という意味だと分かりました。何で音楽が困難なの?

語源は諸説紛々。ド緊張した舞台役者が演技を始める際、オーケストラ・ピットの方を向く、とか、兵士が軍の音楽隊の方を向くこと、とか。はっきりしているのは、この場合の「音楽」が、大変な緊張を強いられる場面を象徴しているということですね。

2011年4月28日木曜日

Why the long face? どうしたの?

先月のこと、同僚ラリーがインド出身のウデイに、

“Why the long face?”
「なんで長い顔してんの?」

と尋ねる場面に出くわしました。ウデイはちょうど私に背を向けていたのですが、彼は知っている中でも群を抜いて丸顔です。一体どんな表情をしてるんだろう?と興味をそそられたのですが、顔を拝む前に彼が自分のオフィスに引っ込んでしまいました。後で聞いたところ、一ヶ月以内に解雇するぞという宣告をボスから受けたばかりだったとのこと。ひえ~。

すぐにネットでこの Long Face を調べたところ、「悲しそうな顔」という意味であることが分かりました。今日の午後オレンジ支社のスティーブンに、この表現について説明を求めました。
「悲しい時って、ちょっと長い顔になるでしょ。」
とスティーブン。
「え~?そうかな。僕はならないけど。」
「ほら、アゴがこう落ちて、長くなるじゃん。」
二人で悲しい顔をしてみました。うん、確かに若干長くなるかも。
「激しく泣いている人にも言う?」
「いや、そこまで感情的になってたら使えないな。」
「少し沈んでる時に使うの?」
「そうそう。」
「ふ~ん。ところで、このフレーズにはなんで動詞が含まれてないの?」
「それはね。Why do you have the long face? を省略してるんだよ。もう決まり文句になっててね。長い表現は聞いたことないな。」

一旦納得して席に戻ったのですが、もう一度スティーブンの席に行きました。
「じゃさ、本当に顔が長い人にこのフレーズ使ったらどうなる?君はどうしてウマヅラなの?って聞いたことにならないかな?」
普段あまり笑わないスティーブンに、これは思いのほかウケました。ひとしきり笑ってから真顔になり、
「そういう冗談を言うのは、近しい友達だけにしといた方がいいと思うよ。」
と、実に生真面目なコメントをくれました。

ちなみにインド出身のウデイは、社内の知人に電話をかけまくった結果、めでたく東海岸の支社に空きポストを見つけ、つい最近引っ越して行きました。

2011年4月23日土曜日

That’s a good question. 良い質問ですね。

日常会話、特にプレゼンやトレーニングの場で、

“That’s a good question.”
「良い質問ですね。」

というセリフにしょっちゅう出くわします。ビジネス・スクール時代に、ある友人がこう言っていました。

「質問を理解出来ない場合とか、答えに窮するような鋭い質問を受けた際の時間稼ぎ用に、よく使われるフレーズだね。とても便利な切り返しだよ。」

実際のところよく注意して聞いていると、本当にそういうケースが多いことに気付きます。先日も、ダウンタウンのオフィスで行われたトレーニングに参加していた時、インストラクターのナンシーがこのフレーズを連発していたので、相当答えに詰まってるな、と可笑しくなりました。

ところで今日の昼過ぎ、カーラジオでNPRという公共放送にチャンネルを合わせました。A Way with Words という、英語を巡るリスナーからの質問に答える番組があるのですが、ちょうど司会の男女二人組が電話を受けたところでした。
「質問した相手から、That’s a good question. (良い質問ですね)と言われることが多いんですけど、どうも落ち着かないんですよ。だって私は、質問のクオリティを評価して欲しいなんて思ってないんです。ただ答えが聞きたいだけ。どうして人は、そんな切り返しをするんでしょうね。いえ、怒ってるわけじゃないんですよ。分かります?私の言いたいこと。」

ここで司会者の女性の方(マーサ)が話し始めたので、お、これは「時間稼ぎをしてるだけです」とか言うかもな、と期待してたら、彼女、なんとこう言ったのです。

“I know what you’re saying. You raised a very good po…. Never mind.”
「分かりますよ。とても良いポイントを挙げて下さっ…。なんでもないです。」

慌てぶりが、とっても可愛かったです。

2011年4月21日木曜日

Like pulling teeth 滅茶苦茶大変

今朝オレンジ支社で仕事してたら、同僚のクリスが契約担当のリアンに愚痴をこぼしていました。

“Getting an answer from her is like pulling teeth!”
「彼女から返事をもらうのは歯を引っこ抜くみたいなもんだよ!」

この Like pulling teeth というイディオムが、「極めて困難なこと」を指すというのは前から知っていました。でも、歯を抜くってそんなに大変かな?虫歯なんか、凧糸で縛って足の親指に結んでグイっと引っ張れば…。というわけで、直感的にはイマイチ飲みこめない。語源は一体何だろう、と調べてみたのですが、何も見つかりません。ただ「困難なこと」の一点張り。文例をいくつか拾ってみたところ、

Trying to get information out of that man is like pulling teeth.
あの男から情報を引き出すのはえらく大変だ。

Getting her to tell me about her childhood was like pulling teeth.
彼女に子供時代の話をさせるのは容易じゃなかった。

など、通常なら楽にこなせそうな件で苦労している場合に使う表現であることが分かりました。

と、ここまで書いたところで、Teeth が複数形であることに気付きました。おおそうか、一本じゃなかったのか。それなら話は別だ。一回に何本も抜かれたら、そりゃたまらんぞ…。

2011年4月19日火曜日

Farm-to-Table 産地直送

先日、映画「Food Inc.」を観ました。ぶっ飛びました。滅多にやらないことだけど、我が家用に一枚、DVDを購入しようと思います。これはアメリカで暮らす人間には必見の作品。

ファスト・フード産業の成長拡大とともに、アメリカ人の食生活は急激に変化しました。我々が日々口にしているものが、どうやって育てられ、どう加工されているのか。日常的にはあまり考えることのないテーマですが、この映画を見たが最後、考えずにはいられなくなるのです。

以前この映画を薦めていた同僚のマリアと、今日の午後この話題で盛り上がりました。詰まるところ、ファスト・フード産業をここまで育てたのは消費者である我々自身であり、食品会社を責めるのはお門違いというもの。ひとりひとりが、一回一回意識して何を食べるかを選ぶ。業界の体質を変えるには、これしかない。

マリアがこう言います。
「実際、世の中は少しずつ変わってきてると思うわよ。うちの近所でもこの五年間に、Farm-to-Table のレストランが五軒もオープンしたの。」

おっと、これはまた新しいフレーズだぞ。自分のオフィスに戻ってFarm-to-Table を調べたところ、「食材が産地から食卓に直接運ばれる」という意味らしい。いきおい、「産地は地元」というパターンが多くなるので、そういう意味合いもあるようです。

新鮮な食品をおいしく頂く。これ、シアワセな生活の基本だと思います。ただ問題は、これが高くつく、ということ。映画の中で、ファースト・フード漬けになっている家族が取り上げられているのですが、二人の娘にハンバーガーを食べさせつつ、お母さんがこんなことを言います。
「子供たちにちゃんとした物を食べさせたいと思っても、値段が高くて買えないの。ジャガイモ一個が1ドル以上するのに、ハンバーガーならひとつ1ドルで買えるのよ。主人は糖尿病を患っていて、こんな食生活を続けていたら大変なことになるというのも分かってる。でも今の収入じゃ、他に道がないのよ。」

図式としては、ファースト・フード業界とそれを支える食品会社グループが低所得者をどんどん追い詰めている形です。でも、本当にその家族には他の選択肢がないのでしょうか?厳しいようだけど、そうとは思えません。上の娘が歯の矯正してるの、ちゃんと映ってたし…。

以前、82歳にして職場で一番の健康優良児ジャックが、毎日何を胃に入れるかというのは人生で一番大事な問題のひとつだ、と力説してました。

“What you eat is what you are, man!”
「あんたの食ったものこそが、あんた自身なんだぜ、メーン!」

2011年4月18日月曜日

Jaw-dropping 度肝を抜く

今朝のこと。同僚リチャードが私の顔を見るなり、興奮した面持ちでこう言いました。
「週末にテレビで、ナショナル・ジオグラフィック・チャンネルを見てたんだ。そしたら日本の津波の特集をやってたんだよ。これまでテレビで流れたことがなかったような、一般市民の撮ったビデオが次々に流れてね。もう信じられないシーンの連続だった。」
そして彼が発したのがこのセリフ。

“My jaw was on the ground the whole time I was watching the program.”

直訳するとこうです。
「番組を観てる間ずっと、僕のあごは地面の上だったよ。」

よく聞く表現に、

Jaw-dropping

というのがあり、「あごが落ちるような」つまり「度肝を抜くような」という意味なのですが、リチャードはこれを更に強調したわけですね。
「番組を観てる間ずっと、度肝を抜かれっぱなしだったよ。」

さっそくネットでナショナル・ジオグラフィックへ行って抜粋版のビデオを観ました。家や車がおもちゃのように流されていくシーンの裏で、
「終わりだ。もう駄目だ。」
という人の声が聞こえ、“It’s over.” という字幕が踊ります。ショッキングな映像が終わり、画面を下にスクロールすると、俳優のマイケル・ダグラスの顔を発見。クリックしたところ、彼が喋り始めました。
「日本の皆さん、あなた方はひとりぼっちではありません…。」
どうやら各界の著名人が日本支援の表明をしているビデオが集められているようです。マイケル・ダグラス、だいぶ老けたな。彼が最後に、カタコトの日本語でこう言います。
「オウエンシテイマス。」

涙がこみあげました。

2011年4月16日土曜日

Shoot holes in 論理の穴を見つける

火曜日の朝、建設業者とのミーティングがありました。工期の延長がもたらした工事費の増額を補償してくれ、と業者の代表がクライアントに申し入れたのですが、これがまた常識を逸した金額。コンストラクション・マネジャーのクリスに頼まれ、会議に同席することになったのです。

クライアントのチーフ・エンジニアであるダン、そして彼に外部から雇われているマネジャーのバート、それにクリスとで前日に打ち合わせをしました。私の提案で、会議ではまず業者の言い分を聞こうじゃないか、ということになりました。

そして本番。会議室に入ると、30歳前後と見られる白人の若者がのけぞるような格好で、椅子に浅く腰掛けています。スキンヘッドに近い坊主刈り。眼光鋭く、何となくふてぶてしい態度が、ラップ・ミュージシャンを連想させます。ジーンズの長い脚を大きく開いて投げ出していて、なんとチャックは全開。この男が建設業者の代表だと紹介され、軽いショックを受けました。ヤバい会議になりそうだぞ、という予感がしたのですが、ニッコリ笑って立ち上がった彼が私と握手を交わした後、ハッとしたように
「あ、全開だ。失礼。」
と顔を赤らめながらチャックを閉めたので、よく分からなくなりました。

彼の言い分を30分ほど聞いた後、我々からの質問に答えてもらったのですが、
「これは誰がどうみても明らかにクライアント側の責任でしょ。」
の一点張り。スケジュール分析の専門家として紹介された私の質問は、
「予想外に長かった雨季、そしてクライアントからの追加作業の要請、このことはあなたのクレームに書かれています。しかし、あなた方自身による作業の遅れについては一切触れていませんね。これではまるで、あなた方は作業を全て予定通りにやってきた、という風に聞こえます。それは事実なんですか?」
彼は顔の下半分で笑いながらも目をギラギラさせて、笑い飛ばす感じで応戦します。
「そりゃ少しの遅れはありますよ。でも我々はいつも、遅れを取り戻すように対応してます。建設業者は、常に工期を守るべく、あらゆる工夫をするんです。現在の遅れも、必ず取り返してみせますよ。」
巧みに論点をすりかえて明るくまくしたてる若者。会議が終わる頃には、何となく彼が正しくて我々が分からず屋、みたいな雰囲気になっていました。このまま終了するのはまずい、と思った私は口を開きました。
「あなたの言いたいことは分かりました。でも私はスケジューラーとして、あなたのクレームをそのまま受け入れるわけにはいきません。過去のスケジュールにさかのぼり、詳細な分析をしてみたいと思います。」

若者が帰った後、クリスとバートが私にこう頼みます。

“Do whatever you can do. We’ll need to shoot holes in his argument.”
「何でも出来ることをやってみてくれ。彼の議論に shoot holes in しないといけない。」

この shoot holes in というフレーズですが、「論理の穴を見つける」という意味で使われています。分からないのが、「もともとあった穴をshoot する」のか「shoot して穴を開けるのか」という点。職場に戻るとさっそく同僚リチャードに聞いてみたのですが、後者が正しいと言います。
「でもさ、この場合 holes は shoot されるわけだから、もともとそこに無いものは shoot 出来ないでしょ。やっぱり前者の解釈が正しいんじゃないの?」
と私が反論しても、「shoot して穴を開けるんだよ。」と言い張ります。う~ん、納得行かないなあ。だって、それがもし本当なら「論理の穴を見つける」という和訳が間違いってことになるでしょ。…引き続き調査します。

夕方になり、クリスが電話してきました。
「うちの人間があの後、現場で奴(建設業者の代表)を見たって言ってたぞ。すっかりしおれちゃって元気が無かったって。あの時は自信満々って感じだったけど、実は我々の追及がコタえてたみたいだな。」
なんだかちょっと可哀想になったけど、ここはビジネスの場です。彼の論理の穴を指摘するのが私の仕事。勝負です。

{後日談}
同僚スティーブンに聞いてみたところ、彼の回答はこうです。
「Cut a hole (切って穴を開ける)と同じ動詞の使い方だと思うよ。Shoot holes で、撃って穴を開ける、ってことだね。」
な~るほど~。

2011年4月15日金曜日

上を向いて歩こう SUKIYAKI

三日前の早朝、会議のためオレンジ郡へ向かう車で、NPRという公共ラジオ局の放送を聴いていました。ふと気がつくと、アナウンサーの女性がこんなことを喋っています。
「日本ではまだ地震や津波の傷が癒えていません。そんなムードの中、盛んに陽気なテレビCMを流すことは憚られているようです。CM提供をする企業は各社苦労しており、中でもサントリーという会社は、商品の宣伝ではなく、国民を元気付けるようなCMを作りました。」
ここで、大勢の有名人が出てきてワンフレーズずつ歌う「上を向いて歩こう」が流れます。
「この歌は、涙がこぼれないように上を向いて歩こうよ、という歌詞で始まります。」
とアナウンサー。ほどなくして、彼女がこう付け足しました。
「ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、50年近く前、この曲はスキヤキというタイトルで紹介され、アメリカで大ヒットを記録したのです。」

ここで突然、坂本九の元祖「上を向いて歩こう」がかかりました。微妙にハスキーで細かいビブラートのかかった彼の声に引き込まれ、思わずボリュームを上げて聴き入ってしまいました。う~ん、美しいメロディだ。中村八大はやっぱり天才だな。全米ヒットチャート第1位を記録したのも頷けます。たとえ歌詞の意味が通じなくても、そしてタイトルがとんでもなく馬鹿げていても(というか馬鹿にされていても)、良いメロディは、国境を越えて人を感動させるんだな。

気がつくと、運転しながら激しくむせび泣いていた私。

曲が終わったのでラジオを切り、静けさの中でひとしきり感動を味わっていたのですが、ふとあることに気付きました。作曲した中村八大と作詞の永六輔、そして坂本九…。あれ、ちょっと待てよ。この三人、全員名前に数字が入ってるぞ!だからどうしたと言われるかもしれないけど、この発見にちょっぴり興奮した私は、帰宅して妻に話してみました。ところが彼女、これには全然食いつかず、
「サントリーにはやられたよ。」
なんて言ってます。日本にいた頃はサントリーの競合会社で働いていた彼女は、今回の彼等の快挙が悔しいというのです。
「どこの広告会社がやったんだろう。電通かな。持ち込み企画だったのかな。」

関心を持つポイントって、本当に人それぞれだな、と思ったのでした。

2011年4月14日木曜日

On the fly 連動して同時に

今日は、プロジェクトマネジメント・プログラム・トレーニングの最終日。ダウンタウンのオフィスに行ってきました。インストラクターの面々は、皆プログラムの使い方を習ったばかりで、実戦で活用した経験がありません。そのため、過去一年半ヘビーユーザーとして知られてきた私がサポートする、という訳。

インストラクターの一人ナンシーが、
「こちらのデータを変えると、あちらのデータが自動的に変わるので、それを見ながらアップデートするといいですよ。」
という説明をしたので、私が割って入りました。
「いや、その二つは連動してないよ。一旦データをセーブして承認を得るまで、あちらのデータはそのままなんだ。」
「あら、私が教わったのと話が違うわ。」
困惑した彼女が使ったフレーズがこれ。

“This should be updated on the fly.”
「オン・ザ・フライで変わるはずよ。」

オン・ザ・フライ??なんじゃそれ?

ま、前後の文脈から考えて、「同時に」とか「即座に」という意味であることは想像がつくのですが、フライとどう関係しているのかが分かりません。自分のオフィスに戻り、さっそく同僚のリチャードに質問。

「飛行中に、というのが語源だと思うよ。飛びながら同時に何か他のこともする、つまり大急ぎで、という意味に使われてるよ。僕なんかはよく、 “I grabbed lunch on the fly.” (大急ぎで昼食を取った)みたいな感じで使うね。」
なるほど、今回の場合は「大急ぎでデータが変わる」ってことね。でもこの訳し方はあんまりクールじゃない。

帰宅後あらためて調べたところ、これはコンピュータ業界でよく用いられる表現だということが分かりました。データベースがリンクされていて、一方を変えたら即座にもう一方が変わる、というダイナミックなシステムを指して言うみたい。こうなると、途端にクールな感じに聞こえますね。さっそく本日のトレーニングでこの表現を使いました。

“You may think it will change on the fly but it won’t.”
「連動して同時に変わると思うかもしれないけど、変わらないんだな、これが。」

2011年4月9日土曜日

Dinged ダメ出しされる

先週から今週にかけ、プロジェクトマネジメント・ソフトウェアのトレーニングに参加するため、ほぼ毎日よその支社に出かけています。基本的には会場の隅っこに座ってるだけ。インストラクターが答えられないような質問が出た時だけ、しゃしゃり出てお答えする、という役割です。

一昨日はサンディエゴのダウンタウンにあるオフィスが会場。終盤になって、インストラクターのダグラスが参加者にこう言います。
「それでは、力試しのためにテストを受けてみて下さい。デスクトップ上にあるこのアイコンをダブルクリックしたらスタートです。」
しばらく静まり返っていたのですが、しょっぱなからバンバン質問して強烈な存在感を放っていた高齢の男性社員が、ダグラスに文句を言い始めました。

“I got dinged when I clicked on the scroll bar!”
「スクロール・バーをクリックしたらding されたぞ!」

するとダグラスが、
「そのスクロール・バーは単なる画像です。クリックしても、何も動きません。」
と冷静に返答。その時、後ろの方でテストを受けていた女性社員が、

“I already got dinged three times!”
「もう3回もding されちゃったわよ!」

と欲求不満気味に叫びました。

この “ding” ですが、さくっと調べたところ、もともと「鐘をゴーンと鳴らす」という意味だということが分かりました。でもそれじゃ、今回の文脈には当てはまりません。確かにテストで不正解だった場合「ビーッ」という音が出るようにはなってるのですが、「ゴーン」とは音色が違い過ぎるでしょ。

で、以前サーファー社員のマットの発した一言を思い出しました。勝手に判断して仕事を進めたりしたら上司のトラヴィスに怒られる、と心配した場面。

“Travis is gonna flip! And I will get dinged.”
「トラヴィスはきっとキレるよ。僕は ding されちゃうだろうな。」

この場合、どう考えても「鐘をゴーンと鳴らされる」じゃおかしい。で、今晩きちんと調べたところ、三つ意味があることが分かりました。

ひとつ目は、何かを却下する際にゴングをチーンと鳴らすことから、「ダメ出しをする」という意味。二つ目が、「軽く叩いて表面にへこみをつける」。これから派生したのか、三つ目が「小言を言う」でした。マットの発言はこの三番目、「小言を言われる」でしょう。そして一昨日のトレーニングでの発言は、一番目の「ダメ出しされた」だと思います。

2011年4月7日木曜日

Only the saving grace せめてもの救い

朝一番で、同僚のリタが私のオフィスにやってきました。

“Aftershock!”

ひと声発した後、深刻な顔で私を見つめています。
「え?何?また地震があったの?」
「出勤途中のカーラジオで聞いたの。マグニチュード7.4 だって。」
あわててネットのニュースをチェック。
「本当だ。また東北じゃないか。なんてこった。」
「ひどい話よね。私、車の中で泣いちゃったわよ。」
リタが目を潤ませています。ため息をつきながら、彼女がこう言いました。

“Only the saving grace is that most of the people there have already evacuated to safe places.”

この Saving grace というのは頻繁に聞くフレーズ。「救い」とか「とりえ」と言う意味ですが、まだ自由に使いこなせる気がしなかったので、後で同僚マリアを訪ねて意味を聞いてみました。

「Grace はもともと聖書の言葉だと思うわ。神様の愛って意味ね。Saving grace は、悪い状態の中で何かひとつ神様の愛を受けてるものがある、つまり救いがある、ということね。よく使う表現よ。」

というわけで、リタの発言はこういうことになります。

“Only the saving grace is that most of the people there have already evacuated to safe places.”
「せめてもの救いは、被災者達の多くが既に避難所にいるってことよね。」

さて、午後になり、同僚リチャードからメールが届きました。題して「日本に学ぶべき10の教訓」。数日前、SKYNEWS というニュースサイトに出ていたとのこと。あまり嬉しかったので、訳をつけて下に書いておきます(訳の正確さは保証しませんが)。この4項目目にもGrace が出てくるのですが、この場合は「品位」「優しさ」「寛大さ」という意味になるようです。


10 things to learn from Japan

1. THE CALM 「冷静さ」
Not a single visual of chest-beating or wild grief. Sorrow itself has been elevated.
泣き喚いたり叫んだりしているシーンは一切見られない。ただ哀しみが募るだけ。

2. THE DIGNITY 「威厳」
Disciplined queues for water and groceries. Not a rough word or a crude gesture. Their patience is admirable and praiseworthy.
水や食糧の配給に並ぶ、規律に満ちた人たちの列。罵声も乱暴な振る舞いもない。彼らの辛抱強さは称賛に値する。

3. THE ABILITY 「技術力」
The incredible architects, for instance. Buildings swayed but didn’t fall.
驚異的な建築技術。ビルは揺れても倒壊せず。

4. THE GRACE (Selflessness) 「品位(無私の心)」
People bought only what they needed for the present, so everybody could get something.
人々は現在必要なものだけを買う。そのため、皆が何かしら入手できる。

5. THE ORDER 「規律」
No looting in shops. No honking and no overtaking on the roads. Just understanding.
商店での強奪が一件もない。道路上でも、クラクションを鳴らしたり無理な追い越しをしたりする者がいない。ただお互いを思いやるのだ。

6. THE SACRIFICE 「犠牲精神」
Fifty workers stayed back to pump sea water in the N- reactors. How will they ever be repaid?
50人の作業員が原子炉への海水注入のため職場に戻った。彼らの犠牲をどうやってあがなうのか?

7. THE TENDERNESS 「思いやる心」
Restaurants cut prices. An unguarded ATM is left alone. The strong cared for the weak.
レストランは値段を下げた。ATMはそのままガードマンも付けずに置かれている。元気のある者が弱った者を介抱していた。

8. THE TRAINING 「訓練」
The old and the children, everyone knew exactly what to do. And they did just that.
老人も子供も、何をすべきかをしっかり心得ていた。訓練の成果を発揮しただけだ。

9. THE MEDIA 「メディア」
They showed magnificent restraint in the bulletins. No silly reporters. Only calm reportage. Most of all – NO POLITICIANS TRYING TO GET CHEAP MILEAGE.
ニュース速報の内容は素晴らしく抑制が効いていた。レポーターに馬鹿者はいなかった。冷静なレポートばかりだった。特筆すべきは、政治家の誰一人として、今回の災害を票集めに利用しようとしなかったことだ。

10. THE CONSCIENCE 「良心」
When the power went off in a store, people put things back on the shelves and left quietly.
商店が停電した時、客は商品を棚に戻して静かに立ち去った。

With their country in the midst of a colossal disaster - The Japanese citizens can teach plenty of lessons to the world.
この甚大災害のさなか、日本国民は世界の人々に多くのことを教えてくれる。

2011年4月6日水曜日

Everything but the kitchen sink 何でもかんでも手当たり次第

週末にコンストラクションマネジャーのクリスからメールがあり、至急ヘルプを頼むと言って来ました。先週後半、建設業者がクライアントに宛てて、数十万ドルを請求するクレーム・レターを送りつけて来たというのです。
「工事期間が2009年のスタート時と較べ、随分延びている。これは我々の責任ではない。あなた方が余分な仕事を上乗せして来たからだ。この間の超過コストをお支払い頂きたい。」

クライアントをサポートすべく、私にこの要求の妥当性を検証してもらいたい、というのがクリスの依頼。彼がメールに添付してきた手紙を開いたところ、建設業者は遅れの原因(だと彼らが思う項目)をリスト化し、その日数を単純に合算しています。あらら、これはまた初歩的なミスを…。

プロジェクトの遅れというのは、そう簡単に分析出来るものじゃありません。遅れの原因追求は、クリティカル・パスの決定が第一歩。一般的には、一旦時計を過去に戻し、現在に至るまで実際に起きたことを、さも当初から計画していたかのように考えてスケジュールを再構築します。その上でクリティカル・パスを求め、その中から遅れの原因を抽出するというわけ。

今回建設業者が出して来たクレームには、この作業が抜け落ちているため、彼らが主張する「遅れの原因」には全く根拠が無いのです。たとえある作業が大幅に遅れたとしても、それがクリティカル・パス上に無ければ工期延長の因子ではない。そのことを彼らは理解していない。

昨日現場事務所に行ってクリスにその旨を説明したところ、彼はため息をつきながら、
「そうだろう。俺もそう思ってたんだ。あいつら、何でもかんでも手当たり次第に放り込みやがって。」
と毒づきました。ここで私の耳が、ぴくりと反応します。

彼の発言を再現すると、

“They threw in everthing but the kitchen sink.”
「台所のシンク以外なんでもかんでも放り込んで来やがった。」

です。この “Everything but the kitchen sink” は、過去に数え切れないほど聞いたイディオム。「なんでもかんでも」というニュアンスは分かるような気がするけど、なんで「台所のシンク以外」なんだ?といつも疑問に思っていました。

というわけで、さっそく本日調べました。語源はどうもこういうことらしいです。
「第二次大戦時のアメリカ人は、武器弾薬の製造にあてるため、所有していた金属類をなんでもかんでも寄付した。後に残ったのは台所の陶製シンクだけだった。」

な~るほど。確かに昔は陶磁器のシンク、あったよなあ。ちょっと前までは古臭いイメージだったけど、最近じゃ逆にオシャレですね。

2011年4月3日日曜日

Kinky Kids 変態っぽい子供たち

ロングビーチ支社の中堅PMマークは、我が社の構築したプロジェクトマネジメント・プログラムを心から憎んでいます。私が作った訳じゃないんだけど、ユーザーサポートをしている手前、彼からの罵声を浴びる立場に陥ることしばしば。

先日も、彼がこんなメールを送って来ました。

“We need to test the boundaries of this program and hopefully find the kink in the armor that will bring it down so that we can go into a financial renaissance focused on aiding the worker bee….”

う~ん、これは入念に練られた悪口だぞ。しかも、 “Kink in the armor” が分からない。さっそく、弁護士の同僚ラリーに質問しました。

Kinkというのは「よじれ」とか「もつれ」という意味で、この場合の armor は中世の騎士が着ていた甲冑、さらにその下にまとった鎖帷子(くさりかたびら)のことだろう、とのこと。その鎖がよじれているところ、つまり弱点を指しているのだ、というのがラリーの解釈。つまり、マークが述べていたのはこういうことですね。

「このプログラムの限界を試して弱点を見つけ出し、破壊するべきだね。そうすりゃ本当の意味で働き蜂たちのためになる、財務システムの再生が出来るだろう。」

この kink というのは実に良く耳にする単語で、特に

Work out the kinks.

というフレーズが頻繁に現れます。これは「細かな問題点を解決する」という意味で、何箇所かもつれた糸を少しずつほぐすイメージ。先日の電話会議でも、大ボスのクリスが、クライアントとの大きな交渉が終了した、と報告した後、

“We will still need to work out the kinks.”

と発言してました。

ところで、この kink の形容詞に kinky という単語があるのですが、8年前、朝の通勤時に聴いていた低俗ラジオ番組に登場したことがあります。一般のリスナーが番組に電話してきて、
「私の体験した、人生で最もkinky な行為」
を披露して皆で爆笑する、というもの。想像を絶する破廉恥なエピソードをいくつも聞かされた後、職場に着いてから辞書で調べたら、案の定、

kinky = 変態的な

となっていました。おいおい、Kinki Kids を普通に発音したら「変態的な子供たち」になっちゃうじゃないか、と笑った記憶があるのですが、この時はkink までさかのぼって調べませんでした。今回調べてみて、ようやく8年越しに意味が繋がりました。Kink が「よじれ」であれば、Kinky は「よじれた」「倒錯した」となり、「変態的な」と変化するわけですね。

すっきりしました。

2011年4月1日金曜日

Know-it-all 知ったかぶり?

先日のこと。そろそろ帰宅しようと机の上を片付け始めたところで、電話が鳴りました。
「ヴェンチュラ支社の〇〇という者だけど。」
初めて聞く名前です。プロジェクト・マネジメントのソフトウェアの件で質問があるとのこと。

“People say that you are a know-it-all guy regarding this software.”

そして私が彼の質問に即答すると、

“They were right. You really are a know-it-all guy. Thank you!”

と電話を切りました。半笑いで職場を後にする私…。

このKnow-it-all というフレーズですが、私の理解では「知ったかぶり」という意味なんです。

「みんなが言ってることは正しかったよ。あんた、ほんとに知ったかぶりだな。ありがとさん。」

そういう風にも訳せるところですが、彼の声のトーンからはどうもそんな嫌味は感じ取れません。Know-it-all は文字通り、「物知り」とか「〇〇通」とかいう意味合いで使われていたように思えました。翌日、いつものように弁護士の同僚ラリーに質問。

「一般的には、知ったかぶりという意味で使われてるけど、ポジティブな場合もあるね。僕は大抵ネガティブな文脈で使うけど。Know-it-all jerk (知ったかぶりの嫌な奴)とかね。そうだなあ。ポジティブ3割、ネガティブ7割、ってところかな。」

そんな微妙なフレーズだったのか!とするとヴェンチュラ支社の彼は、誤解されるかもしれないことを覚悟の上で、3割に賭けたわけですね。

“They were right. You really are a know-it-all guy. Thank you!”
「みんなは正しかったよ。君は本当にこのソフトのエキスパートなんだね。有難う!」