2010年9月30日木曜日

I’ll count on it. 楽しみにしてるわ。

コンストラクション・マネジメントの総務を担当しているカレンは、いかつい男達が群れる工事現場でも、臆することなくバンバン発言出来るタイプの女性です。暫くは気圧されて彼女に近づけなかったんだけど、先日オックスナードで披露した私のプレゼンをいたく気に入ってくれたようで、後日わざわざメールをくれました。
「グレート・プレゼンテーションを有難う。またお願いね。」

さて、10月半ばにロサンゼルス本社で二日間トレーニングを受けることになり、カレンがチャージ・ナンバーを送ってくれました。彼女がロス勤務であることを、その時初めて知りました。
「君はその日、オフィスにいるの?いるなら挨拶に行くけど。」
「私のオフィスは、トレーニング・ルームから中庭を挟んで向かいのビルにあるの。同じ階だから、窓から全部見えるのよ。」
「じゃ、着いたら手を振るね。」
これに対する彼女の返信に、一瞬戸惑いました。

I’ll count on it!

カウント・オンというのは、

You can count on me.
僕にまかせてよ。

などのように、「当てにする」という意味だとずっと思っていたのですが、それだとこの状況に馴染みません。手を振らなければ彼女の身に大変なことが起こるというなら話は別だけど。

調べてみると、微妙な違いながら、「期待する」という意味もあるのですね。
「じゃ、着いたら手を振るね。」
「楽しみにしてるわ。」
ってことでしょう。

粋な表現を覚えました。

2010年9月28日火曜日

アメリカで武者修行 第25話 マイクが笑ってるぜ。

2003年8月中旬、月曜の朝のことでした。その日の運転当番だったケヴィンが私のアパートに迎えに来たのですが、いつになく固い表情。高速道路に入ってすぐ、
「後部座席にあるファイルを見てくれよ。」
と重たい声で言いました。助手席から身をねじってファイルを手に取ります。
「この週末、家でずっと仕事してたんだ。クラウディオからのプレッシャーがきつくてね。そいつは先週彼から渡されたファイルなんだ。三ページ目を開いてくれないか。」
ページをめくると、そこには組織全員の名前がリスト化されています。そしてなんと、そのうち数人の備考欄に、任期切れの時期が記してあるのです。ケヴィンの名前の横には、2003年9月という文字。マイクの予告通り、今月一杯でクビということです。ショックを受けつつも、反射的に私の目は自分の名前を探していました。そして、自分の任期切れが来年3月となっていることを確認しました。老フィルは「10月からパートタイム」となっていました。
「このファイル、先週半ばに渡されてたんだけど、忙しくてずっと見てなかったんだ。土曜日にようやくそのページに気付いて、自分があと二週間でクビだと知ったわけさ。最近大事な仕事をどんどん任されるから、この先も俺を使い続けようとしてるんだと思いこんでた。甘かった。」

ケヴィンの担当業務である用地選定はほぼ終了しており、あてにしていた有料区間道路設計の業務契約が破棄されたことで、足元の氷が急速に溶け始めていることを彼自身よく分かっていました。そんな折クラウディオは、成果物の提出スケジュール管理システムなど、マネジメントツールの作成をケヴィンに任せるようになりました。そして先週、より包括的なツール作りを促すため、自らのマル秘ファイルをまるごとケヴィンに渡したのだそうです。もちろん門外不出という条件で。
「でも、仮に解雇しようとしてるとしても、二週間前までには本人に告知しなきゃいけないって規則なんじゃないか?」
と私が言うと、
「今日がその二週間前なんだ。宣告を受けるとしたら今日の夕方かな。参った。こんな気分のままじゃ、一日働き通せるとは思えないよ。」

職場に到着し、会議室のドアを内側からロックして二人で対策を検討した結果、ここはやはりクラウディオの口からきちんと真意を聞くべきだろうという結論に達しました。いくらなんでも、それとなく解雇の日付を見せて告知代わりにしようなんて話はないだろう、と。そして午後遅く、ケヴィンが私のキュービクルにやってきて言いました。
「クラウディオと話してきた。今月一杯という話はなくなったよ。気が変わったんだって。いつまでかは言われなかったけど、ひとまず生き延びた。」
安堵で顔がほころんでいました。

有料区間道路設計の契約破棄通告を受けてからというもの、クラウディオはオフィスのドアを閉め切って仕事することが増えました。就任当時「いつでもドアは開けておく。自由に出入りしてくれ」と言っていた彼がドアを閉め始めたとあって、職場に緊張感が漂います。期待させるだけさせておいて我々を無残に捨てた元請けに対し、クラウディオは全面戦争をしかける覚悟を決めました。
「現在の設計業務で損を出しても次の仕事で挽回出来ると踏んでいたからこそ、これまで我々は元請けの横暴な要求にも度々応じて来たんだ。このまま引き下がれるか。」
彼は同時に現組織の財政を引き締めるべく、大胆な人減らしを開始しました。

ケヴィンの解雇騒ぎから一週間後、フィルが出勤早々私のキュービクルにやって来ました。
「お前さんには知らせておいた方がいいと思うので言っておくが、昨日解雇通知を受け取ったよ。今週一杯でおさらばだ。」
クラウディオのマル秘ファイルでは「十月からパートタイム」となっていたのに、いきなりの解雇です。
「明日から来なくていいと言われたが、進行中の仕事にケリをつけておきたいから、今週一杯に延ばしてもらったよ。」

翌日、彼を誘って近くのイタリアンレストランへランチに行きました。二人で食事をするのはこれが初めて。彼は今回のことについては何も触れず、今まで手がけてきたプロジェクトにまつわる愉快なエピソードをいくつも披露してくれました。建設中の橋の上に軽飛行機が真夜中に不時着し、パイロットが飛行機から降りて初めて足元の橋桁がすかすかの穴だらけなのに気づいて肝を冷やした話には、二人で大笑いしました。しかし、日米の労務慣習の違いに話が及んだ時は、急に顔をこわばらせてこう言いました。
「この国にはびこる悪しき慣習は、何か問題があるとすぐ他人のせいにして責任をとらせようとすることだ。」
彼がどの程度自分自身の解雇に関連付けてそんなことを言ったのかは分かりませんが、印象的なセリフでした。翌週、彼は十ヶ月働いたサンディエゴを後にして、奥さんや子供の住むサンフランシスコへ帰りました。
「手当たり次第、友達に電話をかけてみるよ。どこかに仕事はあるだろう。」
と、笑顔で固い握手を交わしつつ。

その翌週、ニューヨーク支社から派遣されていたトムとヨンが八ヶ月ぶりに元のオフィスへ戻り、後任はゼロ。続いて、都市施設担当のニキータの辞任が決まりました。ちょうど雇用契約更新時期が来ていた彼女は、クラウディオから現在よりはるかに低い報酬を提示されたそうです。これまでサービス残業も厭わず馬車馬のように働いて来たというのに、そのお返しがこれか、と憤りに身を震わせていたところ、以前解雇されシアトルで職を得たジムが、「都市施設の専門家を探してるんだが」と電話してきたそうです。これ以上ないタイミング。彼女は高給でシアトルへ引っ張られることになりました。

ある日のこと、Eメールでイラクから送られてきたと見られるマイクの写真が、掲示板に貼られていました。迷彩色の戦闘服に身を包み、右肩にはM16小銃。青く渇いた空の下、橋の真ん中に仁王立ちしてニッコリ笑っています。
「おい見ろよ、マイクが笑ってるぜ。」
通り過ぎる人たちが思わず立ち止まって見入ってしまうほど印象的な写真です。いつも苦虫を噛み潰したような顔をしていた彼が、灼熱の戦場で少年のように清々しい笑顔を見せているのですから。ケヴィンが感慨深げにこう言いました。
「命がかかっているとはいえ、この混乱した職場から抜け出して秩序に満ちた世界に身を投じたんだ。案外救われた気分でいるのかもしれないな。」

2010年9月27日月曜日

Scosh 少~し

今日の昼過ぎ、日本通の同僚ダグが私のオフィスにやって来ました。
「昨日、PBS(こっちの公共放送)を聞いてたら、scosh (「すこうし」という発音)ってどういう意味ですかって質問してるリスナーがいたんだよ。え?知らないの?って驚いちゃった。」
私もその単語を知らないと言うと、二度驚いて、
「僕のワイフも知ってたよ。日本語の少しから来てるんだよ。中西部じゃ皆使ってるな。」
と説明してくれました。

ネットで調べてみると、いくつか例文が出て来ました。その一例がこれ。

Google just made it a scosh easier to become a mobile app developer.

なるほど、a little bit をa scosh に言い換えたわけだ。とすると、こっちじゃ日本語の「すこ~し」がクールな言い回しとして使われてるということ。なんかちょっと可愛い。

2010年9月26日日曜日

On top of 状況を完璧に把握している

先週、南カリフォルニアの環境部門長であるジョエルが、サンディエゴ支社の交通部門のトップに対して私のことをべた褒めしているメールが、エリック(私の大ボス)から転送されてきました。

こういうのは悪い気がしません。得意になって、思わず妻に転送してしまいました。すると彼女が、

「On top of ってどういう意味?」

と返信。え?そんな言葉あったっけ?

読み返してみると、確かにそういうくだりがあります。私を褒めてるところとは全然関係ないけど。

We are on top of the situation.

On top of という表現は、色々言ったあとで、「さらには…」と何か付け加える時に使うことが多いのですが、この場合にはちょっとあてはまりません。ちゃんと調べたところ、「状況を完璧に把握している」という意味になることが分かりました。物見台に上った人が、眼下の町を見渡して様子をつぶさに観察し、状況を把握しているイメージ。

She is always on top of her division’s financial status.
彼女は管轄部門の財務状況を、常に完璧に把握している。

という感じで使えます。いいですね。とてもかっこいいフレーズだと思います。

2010年9月25日土曜日

Wake-up call モーニングコール?

先日のジムの送別会で、昨年転職してわが社を去ったメリッサと再会しました。彼女は凄腕のエンジニアであると同時に、有能なプロジェクト・マネジャーとしても知られていました。新しい会社に入って一年も経たないうちに、南カリフォルニアを統括するPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)の長を任され、我々元同僚を感心させたほど。ところがこの新しいポジションがかなりの激務らしく、私の最近のメールに二週間も返信出来なかったほど。

数ヶ月前、彼女の新居に家族で招待された際、最初は恥ずかしがっていた4歳の娘シルビアが、我々の帰り際に綺麗なお姫様の衣装に着替えてダンスを披露してくれました。その四歳児が先日、顔を紅潮させて小さなこぶしを机に叩きつけたのだそうです。
「ママ!うちで仕事するのヤメテよ!」

このところ、あまりの忙しさに仕事を持ち帰って週末もパソコンに向かっていたメリッサ。それがどれだけ娘を傷つけていたか、この時初めて気がついたのです。両手で胸をおさえてメリッサが苦しげに言いました。

“That was a wake-up call.”

この表現、最近よく耳にするのですが、一般にはホテルでフロントに「朝5時に起こしてね」とお願いするモーニングコール(これは和製英語)のことです。でも、今回メリッサが意味していたのは、固い表現だと「警鐘」。こりゃやばいぞ、と思わせる報せですね。柔らかい言い方だと、「これにはギクリとして我に返ったわよ」というところでしょうか。

母親であり妻でありつつフルタイムで働く女性というのは、こういう苦しさを避けて通れないのでしょう。母親であるだけでも充分大変なのに!私なんかは、こういう立場にいる女性は無条件で敬服してしまいます。能天気にタラタラ仕事してて、ほんとに申し訳ない。

2010年9月22日水曜日

Under the gun 切羽詰って

5年以上の付き合いになる熟練PMのジムが、ワシントンDCのオフィスに転勤することが決まりました。かつて一緒に仕事した仲間が集まってオレンジ郡のレストランで送別会を催すことになり、昨日の夕方、出張先のロングビーチから現地に向かいました。ところが、高速道路が予想以上に渋滞していて、駐車場に車を停めた時は既に集合時間を5分ほど回っていました。急いでいたにも関わらず、車を降りる前に何気なく携帯電話をチェックしたところ、メッセージが入っています。南カリフォルニア地区の上下水道部門長、クリスからでした。

I’m sort of under the gun and need to talk to you right away. Can you give me a call?
ちょっと切羽詰ってるんだ。今すぐ話したい。電話くれるか?

この Under the gun という表現は、直訳すれば「銃を突きつけられてる」で、「切羽詰った」「プレッシャーのかかった」状況を指します。まるで「24」のジャック・バウアーが、武装した敵グループに捕えられた仲間からのSOSを受けた時のような感じ。迷わず折り返し電話をかけましたよ。

というわけで、すぐに返事が欲しい時は、この I’m under the gun. という一言をメッセージの冒頭で使うと効果的だということが分かりました。

2010年9月20日月曜日

Up to Snuff お眼鏡に適う

熟練PMのジムが先日、フロリダ在住のチームメートに宛てて、こんなメールを送りました。

Our client has added another layer of review on our invoices and we have had to accept short payments because receipts have not been up to snuff.
クライアントは請求書を念入りにチェックするため、人を増やした。彼らの基準を満たさなかったため、満額支払われなかった請求書もある。

そして、「出張の際は、食事しても駐車場で料金を払っても、必ず明細入りのレシートを貰っておくこと」という注意を付け足しました。

ジムの使ったこの Not up to snuff ですが、語源を調べると、Snuff というのは「嗅ぎタバコ」もしくは「においをクンクン嗅ぐ人」という意味でした。昔、嗅ぎタバコを吸う人というのは地位が高く裕福で、いわゆる「違いが分かる」人だとされていたようです。そういう人のお眼鏡に適うのが Up to snuff で、Not up to snuff は「基準に満たない」ということになったのだそうです。

ところでこの表現を調べている過程で、Snuff というのはムーミンに出てくるスナフキンの「スナフ」だということを知りました。原語でのスヌスムムリクも、「嗅ぎたばこを吸う男」という意味だそうです。彼の孤独な後姿、かっこよかったなあ。いかにも「違いが分かりそうな」男でした。

2010年9月19日日曜日

アメリカで武者修行 第24話 このままおめおめと引き下がれないわ。

2003年7月中旬。ケヴィンは実家のあるオークランドで結婚式を挙げた後、新婚旅行に出かけるために二週間の休みを取りました。ほぼ同時に、私も週末を挟んで三日間だけ有給休暇を取り、東海岸へ飛びました。義理の両親と合流し、家族五人のドライブ旅行です。まずはヴァージニア州ノーフォークに飛び、義父母の知り合いで、海辺の豪邸に住む老夫婦の家に二泊させてもらいました。翌日はペンシルバニア州ランカスターという、アーミッシュで有名な街へ行きました。アーミッシュとは、質素な生活様式を貫くキリスト教徒。電気は一切利用せず、冷蔵庫はガス式、アイロンは圧縮空気式という徹底ぶり。もちろん自動車は使わず、馬車か自転車で移動します。時速80キロで車が突っ走る道路の脇を、トコトコと行き交う馬車を何度も目にしました。電気も電話も、もちろんインターネットもない生活なんて、今の自分には耐えられそうもないなあと思いました。デジカメの充電が切れて記念写真が撮れず、地団太踏んで悔しがっていた妻も、きっと私と同意見でしょう。そして最終日の日暮れ前、ニューヨークのワールド・トレード・センター跡地に到着しました。新しいビルの基礎工事が既に始まっていて、まるで巨大隕石が落ちた後のように、広大な面積の地面が深くえぐれていました。

さてその翌日、ニューアークの空港で義父母と別れ帰途につきました。ところが、飛行機に乗り込んだ途端雷雨が激しくなり、待機状態が長時間続きます。結局、飛び立ったのは三時間後の午後五時でした。中継地のクリーブランドでは、一日一本しか無いサンディエゴ行きが既に飛び立った後で、翌日の夕方まで便はないとのこと。しかたなくこの地で一泊することになりました。空港の公衆電話から職場に電話すると、老フィルが
「そりゃまた退屈なところで足止めを食ったもんだな。」
と愉快そうに笑いました。
「仕事の方は順調だよ。せっかく一日延びたんだ。夏休みを最後まで楽しんで来るんだな。」

一日遅れで帰宅し、翌朝は早起きしていつもより一時間早く職場に入りました。さっそく溜まったメールのチェックを開始。すると、何かただならぬ雰囲気のやりとりがいくつか混じっていることに気付きました。どうやら留守中に事件が起きたみたいだな、と覚り、ちょうど出勤してきたフィルに尋ねました。彼の口から飛び出したのは、我々JVにとって最悪のニュースでした。
「火曜の夕方、有料区間道路の設計契約が破棄されたんだよ。お前さんとの電話を切ったすぐ後だった。」

現在進めている無料区間の道路設計はあと半年で終わる見込みですが、有料道路の設計が始まればあと三年は食い繋げる予定でした。元請けのORGから毎日ギリギリと絞り上げられながらもこれまで我慢してきたのは、予算数十億の有料道路設計業務を目の前にちらつかされていたからなんです。正式なゴーサインを今か今かと待ちながら従順に働いて来て、ちょうど無料区間の設計が峠を越えたところだった我々に、ORGは契約書のTermination for Convenience (いかなる都合によっても中途で契約破棄できる)条項を適用し、あっさりと三行半を叩きつけたのです。有料区間の仕事が無いと分かれば、50名以上いる現在のチームは、どう考えても所帯が大き過ぎます。
「これからどうなっちゃうんですかね。」
とフィルに聞くと、
「さっぱり分からんよ。今日明日中に解雇ということはないだろうが、お前さんもわしも尻に火がついたことだけは確かだな。」
と答えました。

続いてリンダが現れたので話しに行くと、
「訴訟に向けて行動開始よ。このままおめおめと引き下がれないわ。」
と鼻息を荒くしています。
「あちらの都合でいつでも契約破棄できるという条項がある以上、勝ち目はないんじゃないですか?」
と聞くと、
「手はあるわ。それにこういうのはタイミングが大事なの。すぐにクレーム文書を作るわよ。今日中に証拠書類をまとめあげて、明日の朝一番でクラウディオとマイクに上げましょう。」
休み明けだというのに、結局夜11時まで残業する羽目になりました。

翌週の月曜、新婚旅行から帰ってきたケヴィンにとっても、契約破棄のニュースは衝撃でした。彼は結婚を機にサンディエゴで家を買おうとしていたのです。あわてて購入計画を中止し、アパートの月借りを検討することにしました。
「なんて週だ。結婚して帰ってきたら、いきなり職の危機とはな。」

さらに、三人の契約社員が私の留守中にひっそりと解雇されていたことも聞かされ、気持ちが沈みました。ウォーキング仲間のカルヴァンもそのうちの一人でした。都市施設担当のニキータがやってきて、怒りをぶちまけました。
「カルヴァンの話を聞いた?彼、契約破棄事件の日はお休みだったからニュースを知らなかったの。次の日出社してコンピュータを使おうとしたらログイン出来ないのよ。で、何かソフトウェアのトラブルだろうと思って午前中ずっと格闘してたのね。まわりの皆も原因をつきとめようと頑張ったわ。で、一旦諦めて皆と一緒にランチに行ったの。オフィスに戻ってみたら、自分が朝一番でクビになってたことを、上の誰かから知らされたってわけ。こんなひどい仕打ちが許される?」
同じく契約社員であるニキータにとっては、他人事とは思えない話のようです。私も、マネジメント層の冷酷さに腹の底が冷える思いがしました。さっそくカルヴァンの携帯電話に電話してみました。彼はいつもと変わらぬのんびりした声で言いました。
「俺は大丈夫だよ。心配ご無用。次の仕事探しを始めるだけの話さ。」

水曜の午後、ケヴィンが私のキュービクルに来て言いました。
「聞いたか?マイクが今週金曜からまた召集らしいよ。今度は三ヶ月だって。」
「え?なんで?戦争は終わったのに?」
「今度は国土再建の仕事だってさ。」
どうやらイラクに行って建設関係の仕事をするようですが、当の本人も正式配属になるまでは、詳しい目的地も任務も分からないようです。
「彼がいるうちに、今後の身の振り方を相談しなきゃいけないな。さっそくマイクと話してくるよ。」
そう言って彼のオフィスに入って行ったケヴィンは、十分ほどして私のところへ戻って来ました。すっかり打ちのめされた様子です。
「なんてこった。最悪の場合、今月一杯でクビだってさ。」
「何だって?あと三週間しかないじゃない。」
「ああ、まったく参るよ。俺の仕事がほぼ終わりに近づいていることは分かってたけど、現実に最終日を宣告されるのはキツいよ。」
それから少し笑って、
「シンスケはまだ大丈夫だと思うよ。契約の仕事は当分続くだろうからね。それでも念のため、マイクと話しておいた方がいいとは思うけど。」

さっそくマイクのオフィスを訪ねました。
「次の仕事探しを始めるのはいつ頃がいいでしょうか?」
と恐る恐る切り出すと、返ってきたのは「そりゃ今すぐだ。」という答え。
「クラウディオも俺も、お前の仕事振りには満足してる。訴訟の行方次第じゃ、あと一年くらい今のポジションを維持できる可能性もないわけじゃないが、絶対あるという保証も出来ん。仕事探しを早めに開始したって、損にはならんだろ。」

その晩、妻と話し合いました。
「それで、どうするの?何かあてはあるの?」
「残念ながら、現時点では何も無いんだ。僕を採用したボス自身がいなくなっちゃうし、頼みの綱であるケヴィン自身が解雇寸前なんだよ。もうこうなったら、なりふり構わず就職活動を始めるしかないね。」

次の週、ボスのマイクはイラクへ向けて旅立ちました。私もケヴィンも、仕事を続けながら職探しを開始。アメリカで働き始めて9ヶ月。こんな事態を迎えることになるとは、予想もしていなかったのでした。

2010年9月17日金曜日

Persistence pays off. 粘り強さは報われる。

一昨日、ADPという団体からこんな手紙が届きました。
「ご請求いただいた 1,100 ドルは、残念ながらお支払い出来ません。」

つまり、約10万円の支払いを拒絶されたのです。会社を通じてFSA(Flexible Spending Account)というプログラムに参加しているのですが、これを扱っているのがADPという団体。この団体に、一年の初めに一定金額を納め、これを健康保険でカバーされない医療費に充てる、というのがプログラムの趣旨。この掛け金は課税されないので、全部使い切れば税金分得をするけど、使い切らない分は全部ADPに持っていかれる、という仕組み。当然、相手も商売だから、加入者が掛け金を使い切らないようにして儲けを出したいわけで、何かと難癖をつけて支払い申請をはねつけるのです。

「どうしよう。1,100 ドルは大金よ。」
とショックを隠せない様子の妻。「支払いできない」って、そもそも我々の金なのに…。
「大丈夫。任せといて。何とかするから。」
と私。

こういうことは初めてじゃないのです。ADPに限らず、支払いを理不尽に拒否したり、余分な金を騙し取ったりする会社はうんざりする程あります。クレジットカード会社はもとより、銀行もしょっちゅうやらかすし、公共サービスに近い電話会社だってそうなんです(日本では考えられない)。

こんなときモノを言うのは、「クレームレターを素早く書く能力」です。弁護士の上司の下で一日最低二通はクレームレターを書いて来た経験が、こんなところで活かされるわけですね。15分で「何故おたくが耳を揃えて全額払わなければならないのか」を筋道立てて執筆。これを一発FAX送信しました。

そして本日、支払いが行われたのをオンラインで確認しました。諦めずにコツコツとクレームレターを書くこと。これが出来れば、納得の行かない理由で金をむしり取られるリスクを軽減出来ます(怖い国です)。

同僚リチャードの部屋に行ってこのエピソードを披露した時、
「粘り勝ちってやつだよ。」
と言おうとしたのですが、英語が出てこない。何て言えばいいんだろう…?

“Persistence…”(粘り強さは)

と言いかけると、リチャードが

“Pays off.” (報われる。)

と続けてくれました。

Persistence pays off.
粘り強さは報われる。

う~ん、いい言葉だ。

2010年9月15日水曜日

Plain Vanilla ベーシック・タイプ

昔から、甘い物には全くそそられない私ですが、ラホヤにあるジェラート屋「Gelateria Frizzante」は別。大のお気に入りです。特にそこで食べるバニラ・ジェラートは至高の一品。チョコレートやらミントやら、フレーバーは何十種類もあるんだけど、私はずっとバニラ一筋。こんなに美味しいバニラがあるのに、みんなどうしてあんなにゴテゴテと色のついたものを食べたがるのか、不思議で仕方がない。

さて、今朝聴いてたCD本 “Crucial Conversations” に、

It’s just a plain vanilla.

というフレーズが出てきました。プレーンバニラ?バニラ味?ビジネスの話をしている場面で使われたフレーズなので、何だそりゃ?という感じでした。

さっそく、例によって同僚リチャードに質問。
「うん、それは基本形って意味だと思うよ。これといった味付けのない、一番ベーシックなタイプ。」
「じゃさ、僕がもしカローラに乗ってたら、 “My car is just a plain vanilla.” って言える?」
「それはまさにぴったりな例だよ。平凡で、これと言って特徴が無い車っていうことだね。」

う~ん、なんだかちょっと面白くないな。僕にとって、バニラは王様なんだけど…。