2010年6月29日火曜日

The tip of the iceberg 氷山の一角

何かを思い出せそうで思い出せない場合、

It’s on the tip of my tongue.

と言うことがあります。これ、知ってるけどなかなか使えない表現のひとつです。言葉が「舌の先まで」来てるんですよ。「そんなとこまで出て来てるならもう言えるだろ!」と突っ込みたくなるわけです。日本語の「喉元まで出かかってる」の方は、声帯まで届いていない段階なのでまだ説得力がある。

ところでこのTip を使った別の表現に、

It’s just the tip of the iceberg. (それは氷山の一角に過ぎない。)

というのもありますが、これを聞くたびに学生時代のある出来事を思い出します。私は某工業大学の合気道部に所属していたのですが、他大学との最初の合同合宿の際、かなり偉い師範(先生)に「気」についてのご講話を頂きました。師範がこう話します。
「普段使っている力というのは、実は本当の力のほんの一部でしかない。君達は氷山の一角という言葉を知っていると思うが、あれと一緒で、表面に見えている部分の何十倍もの大きさの力が眠っているのだ。」
その時、機械工学専攻だった近藤くんという仲間が、うつむいて笑いをこらえながら囁いたのです。
「氷山の水面上と水面下との体積比は常に1対10なのに、何十倍というのはおかしいよな。」
そう、水が凍ると体積が一割くらい増え、一方氷山は体積分の水と同じ重量の浮力を受けて浮かぶため、11分の10が水中にある計算になるのです。

せっかく神秘的に始まった「気」の話に、とんだケチがついたな、とトホホな気分になった記憶があります。理科系の学生にはうっかり出来ないたとえ話だということを学んだのでした。

At large 容疑者は逃走中!


腕利きPMのエリックが、電話でのレヴューでマネジメント層の質問に応え、

“By and large, the project is going well.”

とか何とか言ったことがありました。このBy and large というのが「おおむね」とか「全般的に」という意味であることは知っていたのですが、なぜ前置詞であるBy と形容詞であるLarge が並列で扱えるのか、ずっと引っかかっていました。昨日ちょいと調べてみたところ、これは船乗り言葉から来ていることが判明。

船が追い風を受けている時は
The ship is sailing large.
と言い、航行可能な角度の向かい風を受けている状況を
The ship is sailing by the wind.
と表現するそうなのです。

よってBy and large は「航行できる条件下にある」ということで、それが「おおむね」となったようなのです。ちなみに、新聞やテレビのニュースでよく見聞きする「容疑者は逃走中です」は
The suspect is at large.
ですが、このAt large も同じ語源だそうです。容疑者は追い風を受けている、というイメージですね。

すっきりしました。

2010年6月28日月曜日

Dark Circles 目の下のクマ

先週の火曜日から7日間ぶっ続けで腹を壊すという、生まれてこの方経験したことのない異常事態に見舞われています。体重が数キロ落ちました。今日は午前中休みをとって朝飯も抜き、昼もほんのわずかのご飯をよく噛んで食べた後出勤。同僚のエリカに状況を話すと、
「痩せたわねって言おうと思ってたのよ。」
と心配そうな様子。
「平気だよ。仕事には全く差しつかえないんだ。」
目の下のクマ、すごいでしょ、と言おうとして口ごもります。クマって何て言うんだ?「熊」じゃなくて「隈」だな。そんな単語知らないな。で、素直に聞いてみました。

Dark Circles

だそうです。直訳すると「色の濃い輪っか」ですね。言われてみればその通り。

Did you notice the dark circles under my eyes?

と言えば良かったのでした。ま、この英語表現はクールでも何でもないけど。

2010年6月26日土曜日

アメリカで武者修行 第12話 お前が聞いてみろ。

ORGのマイクからの要求を満足させられる品質のシミュレーション作りが出来るかという質問に対し、KU社のマイクからの返答メールが、私とボスのマイク宛に届きました。
「できないことはありません。でも、そのためにはそちらで充分な設計データを揃えて頂き、内容を確認した上でないとお約束は出来ません。仮にできたとして、費用はこれくらいかかると思います。」
ボスのオフィスを訪ねたところ、案の定苛立ちをあらわにしていました。
「あの野郎、ふっかけやがって。たかだか住民説明用のシミュレーションに、こんな大金が払えるか。」
「どうします?値切りましょうか?」
「グレッグに当たってみろ。あいつならCGシミュレーションが出来るかもしれん。」
思わず振り向いて、ナンバー2のグレッグと顔を見合わせました。
「そのグレッグじゃない。製図チームのグレッグだ。」

製図チームのグレッグは、度の強い眼鏡をかけた長髪・長身の三十代。口髭が唇の両端から垂れ下がっていて、色褪せたGジャンを羽織った姿はまるで80年代のハッカー。
「ああ、そんなのはお安いご用だ。何なら空を飛びながら下を眺めてるような動画を作ってやってもいいぜ。」
軽いノリで答えます。
「有難う。でも今回のは静止画でいいんだ。解像度、高く出来るかな。」
「ああ、道路の座標は全部このコンピュータにおさまってるからな。朝飯前よ。」
その時、彼のキュービクルの壁越しに、張りのある声が聞こえました。
「ちょっと待った。俺の許可なくうちの人間に仕事を依頼されちゃ困るな。」
壁の上から顔を出したのは、製図チームのマネジャー、デイヴでした。彼はボリュームのある口髭と顎鬚の持ち主で、ギリシャ神話の絵本に出てくるゼウスのような風貌。
「ちょっと出ようか。グレッグも一緒に来い。」

三人連なって、非常口から裏庭に出ました。デイヴはパイプを取り出して火をつけ、ハッカーのグレッグはタバコをくゆらせます。説教が始まるかと首をすくめて待っていたら、二人で暢気な世間話を始めました。暫くして、デイヴが思い出したようにこちらを向きました。
「で、何の仕事だって?」
後で分かったのですが、この二人は大の愛煙家で、何かと理由をつけては外に出てニコチンを補給していたのです。あらためてデイヴに、仕事の内容を説明しました。
「で、グレッグに頼めますか?」
「ああ、もちろんだ。チャージナンバーを教えてやってくれ。」
「チャージナンバー?何ですか、それ?」
二人同時に私の顔を覗き込みました。
「チャージナンバーを知らんのか?冗談だろう?」
「いえ、知りません。」
「君は毎週タイム・シートに勤務時間を記録する時、どんな番号を書いてるんだ?」
「さあ、渡されたサンプルを使い回しているだけなので、憶えてません。」
「呆れたな。シェインに聞いてみろよ。」

シェインというのは、総務・経理担当。小柄な割に、大声で元気良くしゃべる中国人の中年女性です。
「シンスケは下請け契約業務を専門にやってるからひとつの番号しか使ってないけど、他の人は仕事によって番号を使いわけてるのよ。今日はこの区間の道路設計を2時間やって、残りの6時間は別の区間の道路を設計したっていう風に、毎日チャージするの。」
「その番号、どうやったら分かるの?」
「WBSをメールしてあげる。」
「ダブリュビーエス?何それ?」
「何の略だか忘れたけど、そこにチャージナンバーが全部載ってるのよ。」

キュービクルに戻ってコンピュータを見ると、WBSのファイルがシェインから届いていました。開くと、こう書いてあります。

Work Breakdown Structure (WBS)

「ワーク・ブレイクダウン・ストラクチャー」か。かっこいい名前だな…。タイトルに続き、業務名とチャージナンバーが十数ページに渡ってリストされている。階層構造になっていて、道路設計という大きな括りの下には基本設計、詳細設計、などの小項目が並び、さらにそれぞれの下には区間名称が記載されている。なるほど、仕事の内容を整理して細かく分類したというわけか。

5分ほどかけて徹底的にリストを洗いましたが、住民説明用のシミュレーション作成業務に使えそうなチャージナンバーは見当たりません。シェインのキュービクルに戻って尋ねてみました。
「あたしに分かるわけないでしょ。アーロンに聞いてみた?」
アーロンというのは台湾出身で、年齢は三十前後。髪は七三、銀縁眼鏡。「秀才君」とあだ名をつけたくなるような外見です。遠くオークランドから週三日のペースで飛行機通勤していると聞きました。
「本当だ。見つからないね。」
と冷静なアーロン。彼は自分のコンピュータ・モニターをこちらに向け、WBSの各項目に金額が追加された予算一覧を見せてくれました。
「でしょ。こういう場合、チャージナンバーはどれを使ったらいいのかな?」
「いい質問だね。でも僕には答えられないよ。チャージナンバー毎に割り振られた予算の管理をするのが僕の仕事で、予定外のタスクをどう扱うかまでは分からない。」
「WBSにこの業務を加えることは出来る?」
「可能だけど、それなりの手続きが必要になるよ。それに、どのタスクから予算を振り分けるかが問題だ。マイクに聞いてみなよ。オーケー?」
「うん。そうするしかなさそうだね。」
マイクの返事なら、聞く前から分かっていました。

「そんなこと知るか!お前が調べろ!」
「もう一度言いますが、この業務はWBSに含まれていないんです。つまり予算がゼロなんですよ。」
「なんで入ってないんだ?」
「さあ、それは分かりませんが、契約書のScope of Work のパートから漏れていたことを考えると、WBSを作った人たちが見逃した可能性が高いと思います。予算を他から回す必要があります。どのタスクの予算を使ったら良いですか?」
「・・・。」
ナンバー2のグレッグが席を立ったのをちらりと見やり、マイクが私にこう言いました。
「道路設計の予算を回せないか?設計業務の一部と考えられなくもないしな。」
「そうでしょうか?グレッグが同意するとは思えませんが。」
「お前が聞いてみろ。」
「ええ?私がですか?」

マイクは橋梁と上下水道設計を、グレッグは道路設計全体を統括する立場にいます。オフィスに戻って来たグレッグをドアの前でつかまえて尋ねると、お前正気か?という顔で笑いました。
「それは道路設計のスコープに書いてある仕事じゃないだろう。」
「ええ。」
「じゃあ僕のチームの予算を使わせるわけにはいかないじゃないか。」
「はあ。」
「マイクと相談してみなよ。」
「はい。」
この会話は部屋の中のマイクの耳に届いていたようで、彼のそばへ行くと観念したようにこう吐き捨てました。
「プロジェクトマネジメント用のチャージナンバーを使え。」
つまり、自分用の予算を切り崩すしかないことを認めたわけです。結局、下請けを諦めて内部の人間を使ったところで、予算ゼロの仕事をするにはそれしか方法がなかったのでした。

その晩ケヴィンと夕食に出かけた際、彼にこの一件を話しました。
「このプロジェクト、大丈夫なのかな。契約書がひどい代物だというだけでも問題なのに、どうやらうちのチーム自体もガタガタしてる。春になったらミシガンから家族を呼び寄せるつもりなんだけど、このまま計画通り進めていいものかどうか悩むよ。」
「ああ、それはこっちも同じだよ。俺だって今度の夏に結婚式と新婚旅行を予定してるんだ。それまでは職を失うわけにいかないからな。」

この時は二人とも、自分達の行く手に途方も無く凶暴な荒波が待ち受けていることを、知る由もなかったのでした。

オー、メーン!

出勤途上、アパートの駐車場を出た直後でした。別の駐車場出口から走り出してすれ違った車から、カシャーンと何か黒い物が落ちるのが見えました。携帯電話っぽかったな、あのまま放っておくと他の車に轢かれちゃうな、と気になり、Uターンして拾ってみたらiPhone。アパートのオフィスに届けようと考えたけど、7時半じゃまだ開いてない。歩道に置いておこうかな、と思ったけど誰か心無い人に持っていかれちゃうかもしれない。オフィスが開くまで待ってたら遅刻しちゃう。どうしよう…。そのまま佇んでいたら、ちょっと前に猛スピードで駐車場に入って来た車から飛び出して来たアラブ系の若者が、キョロキョロしながらこちらへ歩いて来ました。
「これ?」
とiPhoneを差し出すと、ぱっと顔が明るくなり、
“Thank you man!”
と言いました。そして一旦車へ向かってから振り返り、
“You’re a life saver, man!”
と続けました。

朝からちょっと良いことしたな、と嬉しく思いながら、どうも最後の「メーン」が引っかかります。
「あんた命の恩人だぜ、メーン!」
それって、きちんとお礼言ったことになるのかな?この「メーン」は喜怒哀楽すべてに使われる感嘆詞らしいんだけど、実際には「くそっ」って言いたくなる場面でよく聞くので、あまりポジティブな印象がないんです。これが果たして今朝の状況に適した英語表現なのかどうか、今度アメリカ人に聞いてみようと思います。

2010年6月24日木曜日

有難うと言われたら


凄腕PMのジムから、こんなコメントを聞いたことがありました。
「サンキューって言われて、サンキューって返す人っているでしょう。状況がどうあれ、その返答はおかしいと思うんだよね。それに、ノー・プロブレムっていうのも濫用されてる気がする。有難うって言われたら、やっぱりYou are welcome と応えるべきだと思うんだよね。」
それから私は、明瞭な発音でYou are welcome と言うよう心がけています。

ところで昨夜、クールなオヤジの代表選手ジョージ・クルーニー主演映画、「マイケル・クレイトン」を観ました。ベテランの役者揃い。見ごたえのあるサスペンス・ドラマです。その中で、借金漬けになった主人公が、法律事務所のボスから8万ドルの小切手入り封筒を渡されるシーンがあります。これを受け取る代わりに、関わっている案件から綺麗に手を引くという条件で。封筒を握って立ちすくむ主人公。そこでボスが一言。

“You’re welcome.”

お礼の言葉はどうした、と言わんばかりの決めゼリフ。これ、そこまで緊迫感のない場面で使ったことがあるのですが、結構ウケました。

2010年6月23日水曜日

月の輝く夜


私はプロジェクトのセットアップをよく頼まれるのですが、今日はロング・ビーチ支社のマークを電話でサポートしました。
「予算を立てる段階で、非現実的な収益率を見込むのはまずい。プロジェクトには予想外の出来事が付き物だからね。」
と私。
「そうか、それじゃどうしたらいい?」
「高すぎず、低すぎずのところでセットアップすることを薦めるよ。人件費のマルティプライアーは2.60 でセットしてみたんだが、どうだい?」
「よし、それで行こう。そうやって控えめな収益率でスタートを切り、実際は高みを目指すってことだな。」
その時彼が使った表現がこれ。

We’re shooting for the moon, right?

この、月を目指す(shoot for)、という言い回しがとてもクールだと思いました。

ところで、月ってどうして写真に撮ると小さく写るのでしょうか?こないだオレンジ郡のホテル前で巨大な月が見えたので、急いで撮影したのですが、やっぱり小さく写ってました。不思議だあ。

2010年6月22日火曜日

アメリカで武者修行 第11話 ちゃんと契約書に書いてあるだろう。

12月中旬のある朝、ボスのマイクがやってきて言いました。
「KU社のマイクに、住民説明に使う高架区間のシミュレーション画像づくりを頼んであるんだ。お前のところにファイルを送るよう言ってあるから、届き次第ORGのマイクに提出してくれ。」
このプロジェクトチームには「マイク」という名の人物が七名います。マイクがマイクに仕事を頼まれ、そのマイクが別のマイクに頼む。よく皆こんがらがらないな、と感心することしきり。

午後おそく、KU社のマイクから画像ファイルが届きました。「データ量が足りないのであまり画質は良くないのですが。」という断り書き付きで。そのままORGのマイクに転送したところ、激しい怒りのメールが返って来ました。
「こんな質の悪いシミュレーションが住民説明会で使えるか!」
悪いことに、ボスのマイクの名前もccに入っています。案の定、夕方になって外の会議から戻って来たボスが、顔を上気させて私のキュービクルに飛び込んで来ました。
「お前、中身も見ないで送ったのか?」
「はあ、すみません…。」
「あんなクソみたいな画像を送ってどうしようっていうんだ!お前が見てこれは駄目だと思ったら、質が悪いので今日は提出できませんと言うべきだろうが!」
「すみませんでした。」

そもそもどんなレベルの画像が要求されていたのか聞かされていないので、仮にファイルを開けたところで、提出物の良し悪しが私に判断出来るわけありません。しかしそんな言い訳が通用するはずもなく、黙って暫く頭を冷やしてから、あらためてボスのオフィスを訪ねました。マイクと部屋を分け合っているナンバー2のグレッグは、こちらを見向きもせずコンピュータに向かっています。
「すみません。どの程度の解像度が要求されているのか、教えていただけますか?」
とあらためて質問すると、
「そんなこと知るか。マイクを満足させられるレベルだ。」
と吐き捨てるボスのマイク。そんな曖昧な仕事の依頼があるのだろうか?と不審に思いましたが、その足でORGのマイクのオフィスを訪ねます。
「どういうクオリティのシミュレーションを要求されているのでしょうか?」
すると彼は椅子の背にもたれながら、
「それは、俺がOKと言えるレベルだ。」
と不敵な笑みを浮かべています。
「もう少し具体的に教えていただけませんか?下請けに指示しなきゃいけないので。」
と食い下がると、
「いいか、渓谷を渡る道路部分が完成後にどう見えるかを百人以上の出席者に見せなきゃならないんだ。おそらく横7フィート以上のパネルに貼り付けて展示することになる。それなのに、あんなぼやけた画像じゃ使い物にならんだろう。」
自分のキュービクルに戻ってから、KU社のマイクに宛ててメールを書き、要求に応えられるかどうかを打診しました。

その夜、電話帳ほどもあるぶ厚い契約書を丹念に読み返しました。ところが、シミュレーション作成業務に関する条項など、どこにも見当たりません。もしかしたらボスは、契約書に書かれていない業務を不当に要求されているのではないか、そしてそのことに気付いていないのではないか、という疑念が芽生え、それが段々と確信に変わっていきました。すぐにボスを止めなくちゃ!翌朝一番でマイクのオフィスを訪ねました。

「シミュレーション作成業務なんて、契約書のどこにも書いてありません。何故契約外の仕事をしなければならないのですか?」
マイクは苦虫を噛み潰したような表情で私の顔を数秒間見つめた後、
「ちゃんと契約書に書いてあるだろう。」
とぶっきらぼうに答えました。私は自信を持って続けました。
「何度も読み返しましたが、そんな条項はどこにもありません。これは明らかに、契約外業務です。」
すると彼は契約書をパラパラとめくり、無言のまま一箇所を指差してこちらへ差し出しました。

「設計JVは、ORGの実施する住民説明会をサポートするものとする。説明会用の図面などを用意するよう依頼された場合、これを提供するものとする。」

顔から血の気が引いていくのを感じました。信じられない思いで前後のページをめくり、
「なんでこんな場所に書いてあるんだろう?」
と呻きました。契約書は一般に二つの部分から成り、前半(Terms and Conditions)は契約そのものの取り扱いに関する内容、例えば支払い方法や損害賠償、そして設計変更の要求をした場合にどんなプロセスを経て許可されるか、などが書かれています。そして後半(Scope of Work)が、業務内容の詳細説明になっているのです。当然私は後半を探していたのですが、なんとこの条項は前半に、まるで土壇場で誰かが慌てて書き添えたような形で紛れ込んでいたのです。
「俺には分からんよ。書いてあるんだから仕方ないだろう。」

ボスに警告するつもりが、とんだ勇み足になってしまいました。それにしても納得が行かないのは、書かれていたページもさることながら、その表現がお粗末過ぎるということ。どんな品質の提出物が要求されるているのか、まるで読み取れない。「図面などを用意する」という言葉が、コンピュータ・グラフィックによるシミュレーション作成まで含むというのは拡大解釈が過ぎるのではないかと思ったけれど、あんな曖昧な文言を契約書に載せた時点で我々の負けです。してみると、ORGのマイクの「俺がOKと言えるレベル」というセリフは、まんざら嘘でもなかったのか…。

リンダのところへ行って一部始終を報告したところ、微かに笑みを浮かべてこう言いました。
「もう分かり始めてると思うけど、この契約書は弁護士が目を通してない、とんでもないガラクタよ。あちこちに意図的な変更が見られるの。3年以上前に書かれたものだし、今では当時の関係者が誰も残っていないから、質問をしたくても出来ないのよね。でもね、いかに質の悪い契約書であっても、一旦両者がサインしたらもう文句がつけられないの。私達に出来るのは、隅から隅までこの契約書を理解して、相手につけ入る隙を与えないってこと。あなたと私がその防波堤にならなくちゃいけないのよ。」

午前10時になり、ORGとの間で今月から毎月開催されることになった変更要求(Change Order)会議の第一回に出席しました。設計JVからはマイク、リンダ、ケヴィンと私が、そしてORGからはマイクの他計4名が会議机を挟んで席に着きます。あらかじめ提出してあった追加予算要求書に沿って、ボスのマイクが説明していきます。明るい笑顔と握手でスタートしたミーティングでしたが、進行とともに彼の横顔がじわじわと引きつって行くのがうかがえました。
「我々はあなた方の依頼に応えてこの設計を仕上げたんですよ。」
とボスのマイク。
「俺たちの誰が、何月何日、何時何分に依頼したって?」
とORGのマイク。
「要求書にも書きましたが、うちの製図スタッフのヴィクターが、おたくのジェフに先月頼まれたんですよ。」
「そうか。ジェフとは昨日話したんだが、憶えてないと言ってたぞ。ヴィクターは腕がいいと褒めてはいたけどな。」
「先週おさめた設計図は、明らかに契約外の業務です。頼まれなかったとしたら、どうしてヴィクターがわざわざそんな仕事をするんですか。」
「さあ、それは知らんなあ。あんたら設計チームのボランティア精神には頭が下がるよ。」

いつも強気なボスが、激しい苛立ちとそれを隠そうとする無理な笑いで顔を紅潮させ、何とか譲歩を引き出そうと耐えていました。しかし結局終始そんな調子で、十件以上あった追加予算要求は、とうとう1セントも引き出せぬままことごとく却下されたのでした。追加業務の依頼があったことを証明出来る文書は?契約外だと主張する根拠条項は?要求額の積算根拠は?と畳み掛ける質問に、最後は極度のフラストレーションで真っ赤になっていたボスのマイク。悄然と会議室を後にする我々に、ORGのマイクが勝ち誇ったような顔でこう言いました。
「あんたらの弱点は、契約書に精通している人間が一人もいないってことだ。俺達はみな何十回も読んで全条項を暗記してると言っても過言じゃない。毎月会議をやるのもいいが、時間の無駄にならないよう、しっかり勉強して来いよ。」

はらわたの煮えくり返る思いでキュービクルに戻りました。そもそもORGの都合の良いように仕組まれた契約書だという可能性もあり、既に「勝負あり」なのかもしれませんが、こうなったら可能な限り条文解釈を突き詰め、必ずや一矢報いてやろうとこの時心に誓いました。

2010年6月20日日曜日

十戒

今日は父の日だということを言い訳に使い、お父さん友達二人(両方クリスチャン)とTGI Friday(ファミレスみたいなの)へ晩飯に行きました。モーゼの「十戒」のことが話題にのぼったのですが、英語でこれを

Ten Commandments

と言います。「汝殺すなかれ。汝姦淫するなかれ。」という、あれです。クリスチャンの世界以外でも、戒律、おきて、という意味でCommandment は広く使われる言葉のようです。

先日、同僚のマリアと彼女の飼っている犬の話をしていた際、「犬を飼う人のための十戒」というものを見せてもらいました。全て犬の視点で書かれているのがミソで、読んでるうちに泣けて来ました。特に四番目のこれ。

Don't be angry at me for long and don't lock me up as punishment. You have your work, your entertainment and your friends. I have only you.
私を長時間叱ったり、罰として閉じ込めたりしないで下さい。あなたには仕事や楽しみがありますし、友達だっているでしょう。でも、私にはあなたしかいないのです。

軽い気持ちで犬を飼おうと思ってる人は、きっとギクッとするでしょう。

2010年6月19日土曜日

Don't let it snowball. 雪だるま式


コートニーという名の、コネティカット在住の若い(たぶん)女性から、月一回の割合で電話がかかってきます。彼女は私のヘルス・コーチで、会社から雇われている模様。「最近どんな食事をしてますか?先月教えたエクササイズとストレッチは続けてますか?」
などと細かく質問して来るので、自然と毎日の生活に気をつけるようになります。私の持ち出しはゼロ。社員が健康でいることは会社のためにもなるので、損得を考えたらこういうプログラムの費用なんて安いもんだということでしょう。

彼女との電話では最初のうち、腰痛の話ばかりしていました。デスクワークだし週一回は長距離ドライブしているので、何もしないと腰が痛くなってたまらんと訴えると、ストレッチのインストラクションを送ってくれました。その時彼女が言ったのが、

You don’t want to let it snowball. (どんどん悪化させちゃ駄目よ。)

このSnowball は、雪の降らないサンディエゴでも度々耳にする単語で、私はずっと「雪だるま式に何かを悪化させる」という直訳風の理解をしていました。でも私の経験によれば、「雪だるま」を大きくするのはなかなか大変で、しかもその過程は結構楽しい。「どんどん悪化させる」という負のイメージはないのですね。

で、ようやく思い至ったのが、これは「雪だるま」ではなく、「斜面をころげながら大きくなる雪玉」のことだということ。それなら腑に落ちます。

そのうち会社の会議などで使おうと思います。


追記:この表現、ポジティブにもネガティブにも使うことが後で分かりました。