2013年12月13日金曜日

Sorry to get on my soap box. 石鹸箱の上に立ってごめんね。

昨日の朝、同僚ジェイソンが私のオフィスに来て話していたところ、ベテランPMのジムが神妙な面持ちでやって来ました。

“Sorry about my language yesterday.”
「昨日はひどい言葉遣い、申し訳ない。」

前日の夕方、会議室から出て来たジムとジェイソンが休憩室にやって来て、コーヒーを飲んでいた私とひとしきり立ち話をしたんです。

「今の会議、どう思った?」

と尋ねるジムに対し、当たり障りの無い返答でお茶を濁すジェイソン。

「ジムはどう思ったの?」

と尋ね返すジェイソン。するとジムは静かに扉を閉めるや否や、猛烈に毒づき始めました。

「あんな無意味な会議、二度と出席しねーよ!」

会議のテーマは「サンディエゴ地区の顧客開拓のための戦略策定」。ロスの支社から複数のお偉方が電話で参加して、ああしたらどうか、こうしたらどうか、とアイディアを出して来たそうです。

「下らん会議に費やす時間があったら、クライアントに電話の一本でもかけやがれってんだ。サンディエゴに足を踏み入れたこともないくせに。ロスの高層オフィスでふんぞり返ってたって、客は増えないだろうが!」

ジムは知り合いの中でも群を抜いて穏やかなジェントルマン。何年も一緒に働いて来ましたが、これまで一度だって声を荒げるのを聞いたことはありませんでした。彼のこの突然の「大魔神化」には度肝を抜かれましたが、よく考えてみれば怒るのも当然です。

10月に入って間もなく、彼は週40時間から32時間勤務に減給されているのです。理由は簡単、仕事量の低下。コスト削減のため、会社は営業系の人材を大量解雇。もともと不景気だということもあり、これで新しい仕事がなかなか入って来なくなりました。そんな仕打ちをしておいて、さらに「アイディア出すから営業に行って来い」とでも言うのかよ!という憤りですね。

「そういえば、あいつらしょっちゅう高いランチ食ってたなあ。」

つい最近結婚したジェイソンは、今年の初めまでロスの支社に勤務していました。奥さんになった女性は、ロスのオフィスが入っているビルのレストランでアルバイトしていたそうで、誰が何を食べていくら払ったかの情報は彼に筒抜けだったのだと。

「高給取りがあれこれ指図するだけして自分は全然手を汚さない」状態を二人で呪う会話が、それから10分ほど続きました。そしてようやく落ち着きを取り戻したジムが、笑顔になってこう言ったのです。

“That was my soap box.”
「以上、僕のソープボックスでした。」

はあ?ソープボックス?石鹸箱?なんのこと?

この後さっそく、同僚アルフレッドに確認。

「あ、それはよく聞く表現だね。」

“Sorry to get on my soap box.” っていうのが多用されるフレーズだそうです。

「石鹸箱の上に乗ってごめん?どういう意味?」

ハハハと笑ってから、アルフレッドがこう答えます。

「長々と弁舌を振るうってことだよ。」

「え?そうなの?なんでそれをSorryって謝るわけ?」

「ベラベラ一方的に喋るばかりで相手の話を聞かないからだね。」

「なるほどね。でもどうしてそれが石鹸箱と関係あるの?乗っかったら簡単に潰れちゃうよね。」

「う~ん、それは分からないなあ。」

「え?分からないの?」

自分の部屋に戻ってから調べてみました。

かつて石鹸は問屋で木箱に詰めてお店に届けられたようで、当時はそういう箱が街のあちこちに転がってたんでしょう。これが即席の演壇として重宝がられたそうで、いきなり木箱の上に立ち上がって演説をぶち始める人が少なくなかったのだと。

いいフレーズを憶えました。今回憶えた語源をいつかアメリカ人相手に延々と説明した後、このセリフでキメようと思います。

“Sorry to get on my soap box.”
「一方的にしゃべっちゃってごめんね。」


2013年12月10日火曜日

Bio Break バイオ・ブレーク

先週の金曜、同僚のジェイソンとランチに行こうという話になりました。さあ出かけようという段になって、彼がふと思い出したようにこう言って姿を消したのです。

“Let me take a leak.”

ん?一瞬戸惑う私。「リークして来る」?何だそりゃ?リークって「漏らす」だよな…。

三秒ほど考えて、ようやく分かりました。これは、

「しょんべんして来る。」

という意味ですね。すっきりして戻ってきたジェイソンが、

「さ、行こうか。」

と微笑みます。

あとで同僚マイクに、このフレーズの説明をお願いしました。

「それはよく使う言い回しだね。Let me take a dump.(ダンプして来るね)だと大の方になるんだよ。」

と笑うマイク。

「なんでTake a で始めて名詞形のLeakで受けるのかな?動詞のLeakじゃダメなの?」

と私。

マイクによれば、“Let me go leak.” だと「お漏らしして来るね」になってしまっておかしいのだそうです。

「これって男女とも使える表現なの?」

「いや、男だけだと思うよ。」

「そうなの?なんでかなあ。どっちもリークはするのにさ。」

念のため本日、若手の女子代表、同僚サラに確認してみました。

「そんな下品なセリフ、女性は使わないわよ。男性だって、職場では普通言わないんじゃない?もしも知り合いの男性に面と向かってそんなこと言われたら、引くと思うな。」

女性が言うとしたら、

Let me go to the bathroom.(バスルームに行ってくるね)
Let me go to the restroom.(レストルームに行ってくるね)

のふたつが無難だとのこと。

「どっちもお行儀良すぎて、何だかつまんないねえ。僕はTake a leakって表現、結構気に入っちゃったよ。」

と私。

誰かと一緒にいる時、「トイレへ行ってくるね」をさらっと優雅に告げる方法はないものか、と投げかけたところ、サラがちょっと考えてからこう答えました。

「そうそう、こないだのミーティングで、ある人がこんな言い方したわ。」

“Let’s take a bio break.”
「バイオ・ブレークを取ろうじゃないか。」

Bio(バイオ)は「生物の」とか「生理的な」で、Break(ブレーク)は「休憩」ですから、

“Let’s take a bio break.”
「生理現象のための休憩を取ろうじゃないか。」

となりますね。


これはなかなかクールなフレーズだと思いました。こうして日本語に訳してみると、何故か野暮ったくなるんだけど。

2013年12月4日水曜日

It’s a shame! でも全然恥ずかしくないの。

師走です。忘年会シーズンです。とはいえ、ここはアメリカ。「皆で集まって年を忘れようぜ」みたいなノリは全然見受けられません(というか、そもそもなんで年を忘れようとするんだっけ?)。

その代わりというわけじゃないと思うけど、会社主催の「ホリデイ・パーティ」があちこちで開かれます。「クリスマス・パーティ」と命名すると非クリスチャンの気分を害する恐れがあるようで、当たり障りの無い「ホリデイ」に落ち着いた模様。

毎年ホリデイ・パーティへの招待状を三通も頂くのですが、実はこれが私にとっては悩みの種。楽しいのは楽しいんだけど、やっぱりパーティってシンドイんですよね。仕事を離れた場でアメリカ人の集団と英会話で盛り上がるってのは、やっぱりハードル高いんです。ノイズがひどくて英語が聞き取りにくいというだけの話じゃなく、アメリカ人のカルチャーによっぽど馴染んでないと、会話の内容が頭に入ってこないのですね。こないだのハロウィン・パーティでも「トリビア・クイズ」があり、「往年の人気テレビシリーズXXでヒロインを演じたXXが得意としていたXXは?」みたいなマニアックなクイズがポンポン出されました。周囲の盛り上がりを横目に、ただただ無言で途方に暮れる私。忍者の扮装だったので、誰にも気づかれなかったけど。

妻と相談の結果、今年はダウンタウン・サンディエゴ支社のパーティ一本に絞って出席することにしました。テーマは「ハリウッド・スタイル」。「夫婦で映画スターみたいに派手なお洒落をして現れてね」というお題を出されて一瞬くじけそうになったけど、同僚達が「ただスーツ着てけばいいんだよ」と軽く言うので一安心。問題は、他の招待状へのお断りを出さなければならないこと。特に自分のホーム・オフィスのパーティに出席しないというのは顰蹙だよなあ。そんな申し訳ない気分で総務のヴィッキーに、

「ごめんなさい。今年は欠席させてもらうね。」

とメールを送ったところ、

“It’s a shame!”

という返事が来ました。げげっ。Shame?シェイムって「恥」って意味だよな。なんだか恐ろしい勢いで詰られたけど、たかがパーティ欠席くらいでどうしてそこまで言われなきゃいけないんだ?

本日オレンジ支社で同僚フィルに、この件を質問してみました。

「あ、それは恥と全然関係ないよ。」

ん?どういうこと?戸惑う私。フィルによれば、「それは残念ね」くらいの軽~い気持ちから出たセリフだというのです。

「え?そうなの?僕はてっきり、あなたのしたことは恥ずべき行為だと責められてるんだと思ったよ。」

「全然違うよ。大体、パーティ欠席くらいでそこまで過激な反応する人いないでしょ。」

「そっか、おかしいと思ったよ。でもさ、だったらなんでシェイムなんて単語を使うかな?」

「う~ん。それは分からないなあ。考えたこともなかったよ。」

フィルの向かいで仕事をしていたクリスも、

「アメリカで生まれ育った僕達は日常普通に使っていて疑問も湧かないけど、確かに言われてみれば変だよね。」

同調します。

「じゃさ、君がコーチをやってる少年サッカー・チームが、格下チーム相手に惨敗したとするでしょ。試合後に君が選手達を集めて “It’s a shame.”って言ったら、これは恥ずべき敗戦だ、と戒めたことにならないわけね。」

「ならないね。むしろ、みんな残念だったな、くらいの軽い慰めになると思うよ。」

「ええ~?じゃあ、お前ら何やってんだ!って本気で怒る時、シェイムは使わないの?」

「そういう場合は、I’m ashamed of you. って言うね。」

なるほど。動詞のashame が来るのか。どうして名詞のshame を使うと途端に恥ずかしさが失せるのかについてはフィルもクリスも全く説明不能なことにビックリでしたが、一応納得。

そんなわけで、ヴィッキーのメールはこういう意味になりますね。

“It’s a shame!”
「それは残念ね!」

この後、Shame という単語をあらためてオンライン辞書で調べたところ、いくつかある訳の最後に、

「残念なこと」

とありました。あらら、辞書にちゃんと書いてあったのね。全然気づかなかった。人に聞く前に、まずきっちり調べなきゃいけません。これは恥ずべきことですが、It’s a shame! とは言えないケースですね。


ひとつ利口になりました。

2013年11月25日月曜日

Six Degrees of Separation ケヴィン・ベーコンの法則

「ジョン・ボビって知ってる?」

先週月曜、友人K子さんと夕飯を食べた時の発言。夏休み、香川の実家に一時帰国した時、親戚の若者たちからアメリカのミュージック・シーンについて質問攻めにあったそうなのです。四半世紀もアメリカに住んでいる彼女ですが、テレビは「テレビジャパン」ばっかり(半沢直樹とか)だし、ラジオは公共放送のみなので、有益な情報を全く提供出来なかったのだと。

「それ、ボン・ジョビのことじゃないですか?」

「あ、それそれ!うちの親戚の子達が、大ファンだって言うのよ。私、音楽聴かないから全然分からなくって。」

浮世離れしたK子さんならではのボケだな、とウケてたら、

「それがこないだの週末、クラスメートと喋ってたらね、」

現在彼女は週末だけ大学院(社会人対象)に通っていて、三つ目のマスター(修士号)を取得中なのです。

「その人が偶然にも、ボン・ジョビのコンサートツアーの裏方やってるって言うの。で、親戚の子たちの話を出したら、丁度日本でのコンサートがあるからって、チケット二枚送ってくれたのよ!」

おおっ!とのけぞる私。思い切り意表をつく展開じゃないか…。

さて金曜日の夕方は、息子をフルートの個人レッスンに連れて行きました。かれこれ2年ほど習っている教師のヴィヴィアンは、若い頃ロシアやウィーンのオーケストラで活躍していた東欧人。30分のトレーニングが終わって帰り際、私がふとこんな話を持ち出しました。

中学一年の頃、早朝にバロック音楽を流す日本のラジオ局がありました。ある朝流れて来た曲があんまり綺麗だったんで、急いでテープに録音したんです。この世の物とは思えない美しさで、それから30年以上も音源を捜し続けました。そして数年前、ここアメリカで遂にCDを入手。

曲名は「フルートとチェンバロのためのソナタ 変ホ長調」。フルートはジャン・ピエール・ランパル。色んな人の演奏を聴き較べてみたけど、この人のフルートは別格。この楽器について何の知識も持たない私ですが、聴くたびに「これは人間業じゃないだろ~」と圧倒的感動に浸ります。調べたところ、「20世紀でもっとも偉大なフルート奏者」と呼ばれるほどの実力者で、2000年に心臓発作で亡くなったとのこと。

「ジャン・ピエールは私の先生なのよ!」

突然ヴィヴィアンが、いかにも興奮を抑えきれないといった様子で立ち上がります。

「ええ?嘘でしょ?」

「ほんとよ。ロシアにいた時、彼が先生だったの。それからずっと親しくしてくれて、サンディエゴに来て我が家に泊まったこともあるのよ。」

おお~!もし彼が生きてたら会えたかもしれなかったのか!すんげ~!

さっそく帰宅してこの話を妻にしたところ、うちの子の友達のお母さんの知り合いのアメリカ人が、黒船来航で御馴染みのペリーの子孫で、日米友好イベントの際には皇居に招待されたというエピソードが飛び出しました。ひえ~。それもすごいな~。

「こういうの何て言うんだっけ?法則みたいのあったよね?」

と妻。そう、これは「ケヴィン・ベーコンの法則」とか「ケヴィン・ベーコン指数」と呼ばれるもので、英語ではSix Degrees of Separation とかSix Degrees of Kevin Bacon。全ての人類は繋がっていて、知り合いを6人介すると世界の誰とでも知り合いになる、という説。

ウィキペディアによると、
1994年のはじめ、映画雑誌『プレミア(英語版)』のインタビューに対してベーコンが「ハリウッドの全員が自分の共演者か、共演者の共演者だ」という趣旨の発言をしており、インターネット上などでは「ケヴィン・ベーコンはハリウッドの中心(あるいは「世界の中心」)」と言われるなど話題になった。実際、ハリウッドに限らず古今東西のほとんどの俳優は「ベーコン指数」3次以内に収まってしまう。」

私からジャン・ピエール・ランパルまではわずか2つ。ランパルの死を悼んだという元フランス大統領のジャック・シラクまで3つ。おお~!

でも、だから何?って聞かれると困るんだけど…。

昨日の朝、会社のみんなとひとしきりこの話題で盛り上がりました。同僚リチャードの知り合いにはハンバーガー・チェーンで有名なカールス・ジュニアの創始者の息子がいる(ほんとのジュニア)、とのこと。同僚マリアの元ルームメイトの男性は現在俳優で、レイディ・ガガと大の仲良しなのだと言います。
 
マリア。マリアの元ルームメイト。そしてレイディ・ガガ。
おお!レイディ・ガガまでわずか3ステップ!


う~ん、でもやっぱり、だから何?って話ですね。

2013年11月24日日曜日

理想のエンジニア

木曜の昼前、同僚たち数人とランチへ行こうとしていた時のこと。若いエンジニアのアルフレッドが、

「あ、ちょっと待って。もしかしたら僕、お昼休みはオフィスにいないといけないかもしれないんだった。」

と言い出しました。地元の大学生たちが企業見学に来ることになっていて、その相手をする担当者の一人に選ばれたのだとか。

「あ、その団体だったらお昼過ぎまではダウンタウンの支社にいると思うよ。というのは、たまたま昨日あっちでその話を聞いたんだ。」

と私。

サンディエゴ市内にある複数の大学から理科系の学生集団がやってきて、将来の仕事選びについて考えるため、現場で活躍する人たちと話す機会を持つ、というのが趣旨。企業側としても、大学とのパイプを作る上で有効な活動と見なしているようで、他にも交通部門の若手エンジニアであるギャレットが担当者として選出されました。

「どんな話をするの?」

「うちの支社が手がけてるクールなプロジェクトをいくつか紹介するつもりだよ。ほら、海水の淡水化プロジェクトとかさ。」

「いいじゃん、それ。そうしてこの職業への憧れをかきたてようってわけね。」

学生の頃、自分が将来どういう仕事をするのかなんて全くイメージが湧きませんでした。どんなに情報を集めてみたところで、結局実際にやってみるまでは本当のところは分からないんだけど、それでも「こんな人になれたらいいなあ」という理想像を持つことは、モチベーションを維持するのに有効だと思います。

そこへ84歳の同僚ジャックが、「僕もランチに行くぞ」と現れました。

「そうだ、ジャックにも参加してもらえば?この道60年の経験を活かして、何か面白い話をしてもらえるんじゃない?」

とアルフレッドに提案すると、

「面白い話ならあるよ。」

と事も無げに喋り始めるジャック。

「僕の担当してたSedimentation Tank (沈殿地)にどこかの犬が落っこちちゃってね。」

セディメンテーション・タンクというのは、トイレなどから下水管を流れて来た汚水を一旦溜めて、固形物を沈殿させる施設です。大抵はフェンスで囲われているので動物が迷い込むことなどないのですが、どういうわけか犬が落ちていたのだと。

「たまたま市長が視察に来た日で、新聞記者やらカメラマンやらも集まってたんだよね。市長が現場の作業員に、早く犬を助けてあげなさいってもったいぶって命令したんだ。若い作業員が長い棒を慎重に操って犬を岸に寄せ、そっと持ち上げてやったんだな。良かった良かったってみんな喜んで拍手してたら、犬のヤツが思い切り身震いしてさ、そこにいた全員が汚い水しぶきを浴びちゃった。」

もちろん採用は見送られましたが、こんなエピソードをさっと提供出来るジャックに対し、あらてめて尊敬の念を覚える私でした。


コウイウヒトニ、ワタシハナリタイ。

2013年11月17日日曜日

ウィーって言うのやめてよ!

ラスベガスにいた同僚エリカが離婚し、傷心を抱えてダラスの実家に引っ越してから数ヶ月経ちました。先日久しぶりに出張でサンディエゴへやってきた彼女に、恐る恐る最近の暮らしぶりを尋ねてみました。

「あのね、実は私、来月結婚するの!」

「!?」

あまりに意外な展開に、言葉に詰まる私。

クレイジーな話でしょ、と笑いながら、地元でバツイチの男性と出会って意気投合したこと、びっくりするほど価値観が似通っていること、結婚式は家族だけでひっそり挙げるつもりであること、などを語ってくれました。

それは本当に良かったねえ、といつもより強めのハグで祝福する私。

その翌週、独身貴族(死語?)のリチャードとマリアと一緒にランチに行った際、エリカの再婚話になりました。

「とんでもないスピードで独身クラブを脱会しちゃったね、彼女。」

とマリア。

「うん、さすがにびっくりしたよ。」

と私。リチャードが笑いながらこう言います。

「なんかマリアがムカついてるみたいなんだよ。」

「ちょっとやめてよ。エリカが結婚することに腹を立ててるみたいに聞こえるでしょ。」

と弁明するマリア。わけを尋ねてみたところ、

「再婚を公表した途端、物の言い方が豹変したのよ。」

とのこと。

「たとえばさ、今評判のワインの話題を出すとするじゃない。そしたらね、 “We love that wine!”っていう反応なのよ。なんでもかんでも “We” で話を始めるようになったのね。これまでずっと “I” だったのに。まあ浮かれてる時期だからと思ってしばらくは大目に見てたんだけど、」

と言葉を切ってから、

“It’s become annoying.”
「うざくなってきたのよね。」

と渋い表情になるマリア。

マリアはエリカの再婚相手に会ったこともないし、ましてやその男のワインの好みなんかに興味は無い。そこへ「私達、あのワイン大好きなの」と来られたら、確かにイラっと来るかも。

それで思い出しました。

“How was your weekend?”
「週末どうだった?」

という月曜の朝の定番挨拶がありますが、この投げかけに対して所帯持ちの同僚はそのほとんどが、

“We went to ○.”
「私達、○○へ行ったの。」

と答えます。私の質問文に使われている「Your」という単語が「あなたの」と「あなた達の」と単複両方の意味を持つことは認めるけど、自分の「家族」が週末をどう過ごしたかを迷いも無く語り始めるって、一体どういう心境なんだ?とずっと違和感を感じていました。考えてみれば日本語の場合、「動物園に行ってきたよ」などと一人称抜きで話すことが出来るので、その辺は曖昧なんですね。聞き手の側からは、一人ぼっちで出かけたのか家族で行ったのかを、勝手に推測するか、あるいはあらためて尋ねるしかない。いや、そもそも聞かれてもいないのに家族の存在を会話中にちらつかせること自体、ハシタナイと見る文化が日本にはあるかもしれません。

一人称を省かない言語だからこそ生まれる摩擦。日米の違いがこんなところに現れるんだなあ、と一人で頷いてたら、

「昨日もエリカと電話してたんだけど、あんまりWeを連発するから、とうとう言っちゃったのよ。」

とマリア。

“Stop saying We!.”
「ウィーって言うのやめてよ!」

うそ?!エリカに直接そう言ったの?と、同時にぶったまげるリチャードと私。アメリカ人のリチャードも驚くくらいだから、これは日米の違いというより、マリアの個性なのだと思います。

2013年11月15日金曜日

Black Sheep 黒い羊

同僚ジャックと話していたら、彼の口からこんなフレーズが飛び出しました。

“I have always been a black sheep in my family.”
「僕はいつも家族の中の黒羊だったんだ。」

黒い羊?

彼には兄弟が4人いるのですが、その全員が幼い頃から常に優等生だったそうです。彼だけが「黒い羊」だったというのはどういう意味か?

ジャックとの会話を終えてから、同僚リチャードの部屋へ解説を求めに行きました。

「規律の整った集団の中で、変わった外見や行動をとる人のことを指すんだよ。一般的にはネガティヴな意味合いで使われるね。」

白い羊が群れを成しているところに、一匹だけぽつんと黒い羊が混じっている状態。ウィキペディアを見ると、黒い羊毛は染めにくくて使い物にならないとか、19世紀のイギリスでは黒羊が悪魔のシンボルだったとかいう話が紹介されています。

「要するに、トラブルメーカーとして見られるってことね?」

「そうそう。ジャックがそうだったとは到底思えないけどね。冗談めかして言ってるだけだと思うよ。」

「彼らしいよね。これってよく使う表現なの?」

「うん、よく聞くよ。」

それにしても、羊。日常触れ合う機会が無い動物だからか、いまいちイメージ湧かないんだよなあ。アメリカ人の頭にはすんなり入ってくるかもしれないけど、日本人の私にはぴんと来ない表現の一つだと思いました。

実はリチャードと話している間中ずっと、

「くろやぎさんたら読まずに食べた。」

という歌詞が繰り返し浮かんできて、心の中で

「それはヤギだろ!」

と自分に突っ込み続ける私。

これ分かってくれる人、職場にいないのがとっても残念です。


2013年11月10日日曜日

Buzzword バズワード

先週、オレンジ支社で元ボスのリックと久しぶりに会いました。北米西部トップのマイクと来月話す機会があるかもしれないんだ、というニュースから話題がひろがり、30分くらい話し込んでしまいました。

「会社はThought Leadership に投資する方針だってマイクが言ってるんだ。」

この「ソート・リーダーシップ」という言葉に私が引っかかってしまったのが、長話の始まりでした。

最近この単語よく聞くけど、全然具体的なイメージが湧かないんですよ、と苦情を述べる私。大体、これって一般に流通して共通認識になってるんですかね?Think(思う、考える)の過去・過去分詞であるThought とリーダーシップをくっつけても、連想できるのはこんなセリフだけ。

“I thought I was a good leader but it’s turned out that I’m not.”
「自分はいいリーダーだと思ってたけど、そうじゃないことが分かった。」

そんな「思い上がりリーダー」のことだと言うならまだ受け入れられるんだけど、リックの説明によれば、

「特定分野の第一人者」

という意味らしい。

「それならTechnical Leaderでいいじゃないですか。Thought と関係ないし。」

「いやいや、これはThink の過去形じゃなくて、名詞のThoughtなんだよ。Ideaと同じようにね。いっそのこと、Idea Leaderって呼んじゃってもいいんじゃないかな。」

とリック。

「う~ん、それでもやっぱり私にはピンと来ませんね。」

うやむやなまま会話を締めくくり、帰途につきました。

金曜日の夕方、サンディエゴのオフィスに遅くまで残っていた同僚クリスをつかまえてこの話題をぶつけてみたところ、苦笑を浮かべて首を振り、両足をどかっと机の上に投げ出してこう言いました。

Buzzword(バズワード)って言えば分かるかな?」

「インテリっぽい響きがする専門用語だよね。」

「その通り。耳障りが良い割りには相手に真意が伝わらない業界用語ね。こういうのを社内で濫用するのは、ほんとに止めて欲しいんだよな。」

「ま、それはともかく、意味を教えてくれない?」

と笑いつつなだめる私。

「ある分野の業務経験が長いだけだと、Thought Leader にはならないと思うよ。特に技術系の仕事って、一足す一は二でしょ。単に技術面で優れていたってリーダーにはならないよね。このThought という単語には、その分野に革新的な進歩をもたらすような考えを持つ人、という意味が込められてると思うな。」

「ふ~ん。でもさ、Thought Leaderってフレーズからそこまで連想出来る人いるのかな。」

とケチをつける私。

「いや、ダメだろうね。この言葉はそのうち絶対廃れるよ。」

と決め付けるクリス。

「むしろInnovation(イノベーション)の方が合ってるんじゃないかな。」

私のこの提案に、クリスが食いつきます。

「それだ!Innovation Leaderの方が断然いいよ。君と僕でこれから広めようぜ。お偉方がThought Leader という言葉を使うたびに、それはイノベーション・リーダーってことですよね、って言い直すんだ。一年後くらいに、社長が方針演説でこの言葉を使ってたりしてな。それを聞いて、僕らが作ったんだよなってニンマリ笑おうぜ。118日、今日がその記念日だ!」

大興奮するクリス。

「いいねえ!それで行こう!」

と一応調子を合わせながらも、いまいち乗れない私でした。


だって、「イノベーション」もやっぱりバズワードっしょ。

2013年11月3日日曜日

Dodge the bullet タマをよけ続けて40年

先週サンディエゴのオフィスで、私が8年前まで所属していたプロジェクト・デリバリー・グループの会議がありました。グループ長であるアルがウィスコンシンから、その部下のクリスがヴァージニアからやって来て、そのまた部下のエド、そしてエドの部下であるマリアとエリカ(ダラスから出張)が出席。私の部屋の隣の会議室で一日中議論していました。

アルが来年1月末に引退することを発表したため、この機会に皆でお祝いをしようとマリアとエリカが以前から企画を練っていて、私も送別の品などへ名前を連ねてもらうことになりました。

会議が終了し、皆で「94th Aero Squadron」という、大戦中の趣を漂わせたレトロな佇まいのレストランへ集合。幸運にもアルの左隣の席をあてがわれた私は、色々個人的な話を聞かせてもらうことが出来ました。なんと彼は就職してから40年間、一度も転職したことがない、というのです。正確に言うと、勤めていた会社が大きな会社に買収され、それがまたひとサイズ大きな会社に買収され、というのを繰り返して今に至っているのですが。

それはともかく、毎週のように理不尽なレイオフが横行していることを考えると、これは奇跡的な快挙と呼んで良いでしょう。

「そうだね、自分は幸運だったと思うよ。」

とアル。それから少し考えて、

“I just kept dodging the bullet.”

と付け足しました。皆が「40年間もね。」と誉めそやします。

”Dodge the bullet(ドッジ・ザ・ブレット)というのは「弾丸を回避する」という意味で、この場合はレイオフが弾丸ですね。つまり、レイオフの危機を巧みに逃れて来た、というわけです。

“There’re lots of bullets out there.”
「たくさんタマが飛び交ってるからね。」

と溜息交じりのアル。

本当に、いつクビになるか誰にも分からない状況が続いています。数ヶ月前には北カリフォルニアのトップだったチャックが、先週は財務の重鎮トムが突然解雇されました。つい先日はマーケティング部門のエースだったランディが「組織改変のため」というだけの理由でレイオフを受け、ダウンタウン・サンディエゴ支社に衝撃が走りました(もっとも、支社長のテリーが奔走し、一週間後に再雇用するという離れ業をやってのけましたが)。

我々のテーブルを担当した声の大きなおじさんウェイターに、

「この人、今度引退するの。みんなでお祝いしてるのよ。」

と、思わせぶりな笑顔で特別無料デザートをおねだりするマリア。そのサインに気づいたかどうか、

「私もちょっと前に引退したんですがね。かみさんがあんまり邪魔者扱いするんで、ここに舞い戻ったんですよ。」

と大声で笑うウェイター。

それぞれデザートを注文し、これを待つ間に、マリアとエリカが用意した引退祝い品(特大フォントサイズのスドクやクロスワード・パズルなど)をエドが贈呈します。そのひとつひとつに、冗談交じりの謝辞を述べるアル。

ウェイターがデザートとコーヒーを運んで来て、最後に短いろうそくを一本立てたチーズケーキをアルの前に置きました。

「さ、願いごとをしてからですよ。」

大きな拍手の中、小さな炎を吹き消すアル。

こんな風に、部下達に慕われたまま引退するのって理想的だな、としみじみ感動する私でした。

さて会計する段になり、私の左に座っていたクリスが「自分が払う」と請求書を掴むと、アルが右から「いや、これは自分が」と掴みとります。暫くそんなやり取りがあった後、結局アルが全員の分を払うことになりました。サインをした請求書をさっきのウェイターに手渡すと、

「上司の引退セレモニーのディナー費用を当の本人に支払わせるんだぜ、この部下たちは。どう思うよ?」

とアルが笑います。ウェイターは間髪入れず、こう返しました。

“I want to be friends with you.”
「お友達になりたい。」

2013年10月30日水曜日

Sandbagging サンドバッグする

昨日の朝トイレに行く途中、廊下で同僚ジムとリタが何やら話しこんでいるところに出くわしました。すれ違いざま、ジムがこう言うのが聞こえます。

“He’s just sandbagging.”
「彼はただサンドバッグしてるんだよ。」

トイレで用を足しているうち、この言葉が気になり始めました。これ、過去に何度か聞いてるんですが、意味をしっかりつかめずにいたのです。サンドバッグというのはボクサーが練習する時に使うもんでしょ。だからきっと誰かを「袋叩きにする」という意味だろう、と勝手に解釈していました。でもそれだと目的語を伴う他動詞のはず。ジムはそんな言い方してなかったし、今まで聞いた文例も全て「Sandbagging(サンドバッグする)」という言葉で終わってたのです。だとすると自動詞だよなあ。

トイレから戻るとさっそくジムのオフィスを訪ね、さっきどういう風に「サンドバッグする」という表現を使ったの?と聞いてみました。

「あ、それはね、意図的に低めの目標を出すという意味で使ったんだよ。」

へ?なにそれ?サンドバッグと何の関係があるんだ?

今年度の収益目標を設定する際、最初からやる気満々で高い数字を提案するのではなく、充分に達成可能な数字を出しておく。年度末になってそれを上回っていれば業績評価が上がるでしょ。そういう時に使うんだよ、と説明するジム。

「なんでサンドバッグというのかって?それは知らないなあ。」

部屋に戻ってさっそくネットで調べたところ、そもそもの語源はポーカーであるらしいという記述を発見。え?トランプの?やっぱりワカラン…。

更にじっくり読んでみたところ、これは靴下みたいに小ぶりな袋に砂を詰めた物を指しているらしいことが分かって来ました。この道具、見た目の割には強力な凶器になります。普段大人しい人がいきなりこれを振り回して誰かを痛めつけるというイメージから、「序盤はへたくそなふりをして対戦相手を油断させておき、後半戦にいきなり牙を剥く」という意味で使われたのが始まりだとか。後年それが他の場面にも適用され、例えばゴルフではハンデを稼ぐために下手なプレイをしておいて、いよいよ本番で真の実力を見せるという姑息な作戦を指すようになったそうです。

さてランチタイムには、リスクマネジメントをテーマとしたディスカッションが大会議室で開かれました。まだ全員が集合していない状態で、大テーブルのはす向かいに座ったジムに、

「語源見つけたよ!」

と囁きました。そして調査の結果を聞かせると、なるほどねえ、と感心しています。

会議が始まって30分ほど経ち、ある巨大プロジェクトのリスク・レジスターを見ながらコンティンジェンシー・リザーブの巨額さに皆で驚いていたところ、誰かが

“They needed to sandbag.”
「サンドバッグしておく必要があったんだよ。」

と発言しました。ジムがぴくっと反応し、こちらを見てニッコリ笑います。調べた表現がさっそく登場したね、という表情で。

意外なことに、それから5分くらいの間、あっちからもこっちからも「サンドバッグする」というセリフが飛び交い続けたのです。先ほどの我々の会話が、会議開始を待つ出席者たちの脳に刷り込まれていたのかもしれません。おかげで、どんな場面で使える表現なのかをとてもよく理解出来ました。

困ったことに、この単語が飛び出す度、ジムがいちいち大机の向こうで目を大きく見開き、

「聞いたか?また出たぞ!」

という表情を作るので、会議中に何度も吹き出しそうになりました。


ちなみに、ボクシングの「サンドバッグ」は和製英語らしく、Punching Bag(パンチング・バッグ)が正解だそうです。