先週、サンディエゴ空港のターミナル拡張プロジェクトを手伝った時、会議室に同じメンバーとほぼ3日間缶詰になってました。この中に、朝から晩まで口も塞がず悪質な咳を連発していた男がいて、具合が悪いなら家に帰って寝ればいいのに、と非常に不快に思っていました。
で、予想通り、ガッツリ感染。一昨日、昨日と猛烈な頭痛に苦しめられ、なすすべなく寝込んでいました。今朝ようやく起き上がって体重計に乗ったら、2キロ近く減っていました。おまけに、わき腹の贅肉もすっきり落ちてるじゃありませんか!
出社して同僚マリアにそのことを話すと、
「寝ただけでわき腹のお肉が落ちたの?すごいじゃない!」
と羨ましそうに笑いました。
ところで、この時私が使った表現がこれ。
“I lost my love handles.”
わき腹の余分な肉は、Love Handles と呼ぶのですね。何でそんな名前がついてるのか前々から不思議に思っていたので、本日調べました。諸説あるようなのですが、一番気に入ったのが、
「メイク・ラブする時につかむハンドル」
というもの。なんじゃそりゃ、だけど笑えるのでこれを採用します。
2010年10月14日木曜日
2010年10月11日月曜日
Pretty, Beautiful, Hot. 綺麗な女
以前、同僚エリカとマリアと一緒にランチしてた時、俳優の誰がかっこいいか、という話をしたのですが、トム・クルーズは Cute でもあり Hot でもあるらしい。エリカはマシュー・マコノヒーの大ファンで、彼の場合は最上級の Smokin’ Hot だそうです。
さて一方、綺麗な女性を表現する時にはどういう形容詞を使うべきなのか、というのは以前から悩ましいテーマでした。下手すると誰かを傷つけたり怒らせたりするかもしれないため、なるべくそういう話題は避けるようにしていたのです。
数年前、元ボスのエドに初めて妻を紹介した時のこと。あとで私に、
“Shinsuke, your wife is pretty!”
と言ってくれました。プリティって、日本語では一般に「可愛い」って意味で使われてるけど、エドがまさか人の(しかもピチピチって歳でもない)奥さんを「可愛い」とは言わないよな、と怪訝に思ったことを憶えています。
今朝マリアが、彼女のお父さんが先週シカゴから遊びに来て、彼女のガールフレンド達に紹介したら「おお、みんなプリティだなあ。」って顔をほころばせてた、という話を聞かせてくれました。彼女の友達だってみんな四十がらみだし、「可愛い」ってのはちょっとおかしいよな、とこれまた首を捻りました。
で、さっそく調べてみました。
Pretty: 外見が綺麗。
Beautiful: 外見が綺麗で、魅力を感じてる。
Hot: 性的な対象として魅力的。
つまり、プリティは「綺麗な人だね」と客観的に評価する感じですね。ビューティフルはその人に魅力を感じていて、「ちょっと好きになっちゃったかも」くらいの入れ込み方もありでしょうか。そうなると、人の奥さんを「ビューティフル」と表現するのはトラブルの元ですね。
もちろん、 Hot はヤバいです。ビジネス・スクール時代、学生6人でプロジェクト・チームを作って非営利組織の仕事を請け負った際、最年少メンバーのブライアンがクライアントの女性を見て、
“She’s hot!”
と囁きました。本人の耳には届かなかったけど、これを堅物の友人ケヴィンは聞き逃さず、ブライアンを厳しくたしなめていました。日本語だと「いい女だぜ!」ってとこでしょうか。公の場で使うのは避けた方が良い言い回しですね。
さて一方、綺麗な女性を表現する時にはどういう形容詞を使うべきなのか、というのは以前から悩ましいテーマでした。下手すると誰かを傷つけたり怒らせたりするかもしれないため、なるべくそういう話題は避けるようにしていたのです。
数年前、元ボスのエドに初めて妻を紹介した時のこと。あとで私に、
“Shinsuke, your wife is pretty!”
と言ってくれました。プリティって、日本語では一般に「可愛い」って意味で使われてるけど、エドがまさか人の(しかもピチピチって歳でもない)奥さんを「可愛い」とは言わないよな、と怪訝に思ったことを憶えています。
今朝マリアが、彼女のお父さんが先週シカゴから遊びに来て、彼女のガールフレンド達に紹介したら「おお、みんなプリティだなあ。」って顔をほころばせてた、という話を聞かせてくれました。彼女の友達だってみんな四十がらみだし、「可愛い」ってのはちょっとおかしいよな、とこれまた首を捻りました。
で、さっそく調べてみました。
Pretty: 外見が綺麗。
Beautiful: 外見が綺麗で、魅力を感じてる。
Hot: 性的な対象として魅力的。
つまり、プリティは「綺麗な人だね」と客観的に評価する感じですね。ビューティフルはその人に魅力を感じていて、「ちょっと好きになっちゃったかも」くらいの入れ込み方もありでしょうか。そうなると、人の奥さんを「ビューティフル」と表現するのはトラブルの元ですね。
もちろん、 Hot はヤバいです。ビジネス・スクール時代、学生6人でプロジェクト・チームを作って非営利組織の仕事を請け負った際、最年少メンバーのブライアンがクライアントの女性を見て、
“She’s hot!”
と囁きました。本人の耳には届かなかったけど、これを堅物の友人ケヴィンは聞き逃さず、ブライアンを厳しくたしなめていました。日本語だと「いい女だぜ!」ってとこでしょうか。公の場で使うのは避けた方が良い言い回しですね。
2010年10月10日日曜日
アメリカで武者修行 第26話 そこに立って何か考えているのかね?
2003年9月。イラクへ飛んだマイクの留守を預かるため、サンディエゴ支社から新しいプロジェクトマネジャーがやってきました。名前はジョージ。業界歴四十年の大ベテランであるだけでなく、海軍勤務が長かったようで、ベトナム戦争にも出征したとか。向かい合うと思わず目を逸らしたくなるほどの、強烈な威圧感があります。軍服を着ていないことがむしろ不自然に感じられるほどで、その風貌はまるで「最前線の司令官」。短く刈り込まれた銀髪、鍛錬を物語る太い首。「入りたまえ」と入室を促す張りのある声は、内臓に響きます。コンピューターの操作に使うのは、両手の人差し指のみ。文書は全て手書きです。そのくせ、エクセル表の中の小さなミスは瞬時に探し当てます。何かそのための特別な嗅覚でも備わっているかのようで、私の提出する書類をさらっとめくっただけで、ぴたりと計算ミスを指差すのです。仕事の指示は常に箇条書き。しかもすべて報告期限つき。普段の報告・連絡でも、中華包丁でザクザク白菜を切るような具合に会話を運ばないと、眉間の皺がみるみる深くなっていきます。込み入った事情を説明し始めると直ちに制止し、
「で、君の結論は?」
と、まるで喉元に短刀を突きつけるかのように容赦なく挑んで来ます。一問一答が淀みなく流れなければ、回答者は不合格、そして退場、という厳しいルールで動くマネジャーなのです。
ある日のこと、この十ヶ月間必要に応じて測量業務を頼んできた業者との契約額が上限に近づいて来て、今後更に仕事をしてもらうためには契約変更が必要だと上申したところ、
「金が足りないと言われてハイそうですかと払うわけにはいかん。何故その額で不足なのかを明らかにさせ、納得できない理由であれば現契約額で仕事をしてもらう。」
と言われました。至極真っ当なお答えです。
「しかし昨年秋の発注時点で、どれくらいの業務を依頼するか正確に見積もる術はありませんでした。必要に応じて測量を頼む、というだけの契約書を結んだのもそのためです。現実の業務量が当時の見積もりより多いことが分かった今、今後は無料で働いてくれ、という訳にはいかないと思うのですが。」
と言うと、
「君はある契約額で家の設計を業者に頼んだ場合、窓のデザインが難しかったから、と泣きつかれて更に金を払うのかね?」
と返されました。
「いえ、この場合、家の設計を任せると言っておきながら庭や生垣のデザインも頼んでしまった、というたとえの方が適切だと思います。」
と切り返すと、
「それではその追加分の設計額を算出して、まず元請けに申請するべきだろう。」
と即座に突っ込まれ、ぐっと詰まってしまいました。即答を心がけるあまり、とっさに中途半端なたとえ話を持ち出してしまったことを悔やみました。下請け会社と結んだ契約書があまりにも曖昧なため、過去の測量業務は「これは対象外」「これは元々頼んでいたこと」と明確に線を引くのが容易でなく、しかも私は発注事務を担当してきただけで、各測量業務の中身を熟知していたわけではないのです。
私がそのまま黙ってしまうと、二秒もしないうちに、
「君はそこに立って何か考えているのかね、それとも何も浮かばなくて黙っているのかね?」
と真顔で尋ねます。うわぁ、そんな非情な追い込みをかけるのかよ、と焦りながら、
「どうやって対象外の数字だけ弾き出そうか考えていたんです。」
と答えると、
「実際に仕事を依頼した設計担当者達に話を聞きたまえ。まず内容を分析しなければ数字は出せんだろう。」
おっしゃる通り。すごすごと退散です。
席に戻って落ち着いて考えているうちに、そのくらいのチェックは最初からやっておくべきだった、どうして自分は言われるまで動かなかったんだろう、と無性に悔しくなって来ました。しかしすぐに、責任の範囲が明確に定義されていないことがこうした問題の原因になっているのだという、何度も蒸し返し繰り返し考えてきた結論にまたもや辿り着きました。さっそく翌朝、ジョージに質問します。
「これまで私は、下請契約や支払い等の事務的業務を遂行するよう指示されてきました。実際、下請け業者の仕事内容にはほとんど関わって来なかったのです。昨日のご指示を総合すると、もう少し踏み込んだマネジメントを要求されているように受け取れるのですが。」
すると彼は、
「その通りだ。君には事務処理だけでなく、下請けのマネジメント全般をやってほしい。君の経歴から考えたら、そうすることが正しいと思う。これは君自身のためでもあるんだ。」
と、私の目を真っ直ぐ見据えました。これにはちょっと感動しました。この人は部下のバックグラウンドをしっかり把握しており、その成長まで考慮に入れて指示を出しているのだということが分かったからです。
そのジョージが、ある日我が社のスタッフを全員召集しました。ケヴィンと私、そして総務経理担当のシェインを含め、今やたった十人しかいません。会議の目的は、現在のプロジェクトに関する会社の方針説明でした。
「我々が社長から与えられた期限は、来年三月。クラウディオと話して、三月一杯でこのオフィスから撤退することにした。それまでに残りの設計業務を片付け、未解決の課題はすべて清算する。三月まで時間があるということではなく、最悪のケースが三月なのだと思ってほしい。このオフィスで我々JVチームが一日過ごすだけで、毎日数万ドルのコストがかかっている。一週間でも一日でも早くここを去れば、それだけ損を減らせるんだ。とにかく総員全力を挙げて成果を出して欲しい。」
会議の後、あらためて彼のオフィスを訪ね、ずっと心に引っかかっていた疑問をぶつけました。
「私の担当業務は、効率よく進めれば、年末までにすべて片付くかもしれません。その場合、三月を待たずにお払い箱になるということでしょうか。」
彼は微かに顔を歪め、少し間をおいてから、
「残念ながらそういうことだ。君もすぐに仕事探しを始めた方がいい。」
と答えました。
こうして、業務効率を上げれば上げるほど失職の日が早まるという、一種自虐的なゲームに組み込まれてしまった私。冷静にまわりの状況を眺めれば、そもそも残留組のひとりでいること自体が奇跡的と言うべきなのでしょうが、仕事探しの過酷さを一年前に経験している私に、このゲームを楽しむ心の余裕はありません。
オフィスの入り口近くの廊下の壁には、「在、不在」を示すマグネットボードが二枚かかっています。ある朝、左側の一枚から名前がすっかり消えているのに気付きました。よく見ると、去って行った人たちの名札が下の方に乱雑にまとめられているのです。そしてその上にマジックで、大きな下向きの矢印と Graveyard(墓地)という殴り書き。誰の仕業か知りませんが、それを見た人たちは皆顔を見合わせ、寂しい笑いを浮かべて立ち去るのでした。
「で、君の結論は?」
と、まるで喉元に短刀を突きつけるかのように容赦なく挑んで来ます。一問一答が淀みなく流れなければ、回答者は不合格、そして退場、という厳しいルールで動くマネジャーなのです。
ある日のこと、この十ヶ月間必要に応じて測量業務を頼んできた業者との契約額が上限に近づいて来て、今後更に仕事をしてもらうためには契約変更が必要だと上申したところ、
「金が足りないと言われてハイそうですかと払うわけにはいかん。何故その額で不足なのかを明らかにさせ、納得できない理由であれば現契約額で仕事をしてもらう。」
と言われました。至極真っ当なお答えです。
「しかし昨年秋の発注時点で、どれくらいの業務を依頼するか正確に見積もる術はありませんでした。必要に応じて測量を頼む、というだけの契約書を結んだのもそのためです。現実の業務量が当時の見積もりより多いことが分かった今、今後は無料で働いてくれ、という訳にはいかないと思うのですが。」
と言うと、
「君はある契約額で家の設計を業者に頼んだ場合、窓のデザインが難しかったから、と泣きつかれて更に金を払うのかね?」
と返されました。
「いえ、この場合、家の設計を任せると言っておきながら庭や生垣のデザインも頼んでしまった、というたとえの方が適切だと思います。」
と切り返すと、
「それではその追加分の設計額を算出して、まず元請けに申請するべきだろう。」
と即座に突っ込まれ、ぐっと詰まってしまいました。即答を心がけるあまり、とっさに中途半端なたとえ話を持ち出してしまったことを悔やみました。下請け会社と結んだ契約書があまりにも曖昧なため、過去の測量業務は「これは対象外」「これは元々頼んでいたこと」と明確に線を引くのが容易でなく、しかも私は発注事務を担当してきただけで、各測量業務の中身を熟知していたわけではないのです。
私がそのまま黙ってしまうと、二秒もしないうちに、
「君はそこに立って何か考えているのかね、それとも何も浮かばなくて黙っているのかね?」
と真顔で尋ねます。うわぁ、そんな非情な追い込みをかけるのかよ、と焦りながら、
「どうやって対象外の数字だけ弾き出そうか考えていたんです。」
と答えると、
「実際に仕事を依頼した設計担当者達に話を聞きたまえ。まず内容を分析しなければ数字は出せんだろう。」
おっしゃる通り。すごすごと退散です。
席に戻って落ち着いて考えているうちに、そのくらいのチェックは最初からやっておくべきだった、どうして自分は言われるまで動かなかったんだろう、と無性に悔しくなって来ました。しかしすぐに、責任の範囲が明確に定義されていないことがこうした問題の原因になっているのだという、何度も蒸し返し繰り返し考えてきた結論にまたもや辿り着きました。さっそく翌朝、ジョージに質問します。
「これまで私は、下請契約や支払い等の事務的業務を遂行するよう指示されてきました。実際、下請け業者の仕事内容にはほとんど関わって来なかったのです。昨日のご指示を総合すると、もう少し踏み込んだマネジメントを要求されているように受け取れるのですが。」
すると彼は、
「その通りだ。君には事務処理だけでなく、下請けのマネジメント全般をやってほしい。君の経歴から考えたら、そうすることが正しいと思う。これは君自身のためでもあるんだ。」
と、私の目を真っ直ぐ見据えました。これにはちょっと感動しました。この人は部下のバックグラウンドをしっかり把握しており、その成長まで考慮に入れて指示を出しているのだということが分かったからです。
そのジョージが、ある日我が社のスタッフを全員召集しました。ケヴィンと私、そして総務経理担当のシェインを含め、今やたった十人しかいません。会議の目的は、現在のプロジェクトに関する会社の方針説明でした。
「我々が社長から与えられた期限は、来年三月。クラウディオと話して、三月一杯でこのオフィスから撤退することにした。それまでに残りの設計業務を片付け、未解決の課題はすべて清算する。三月まで時間があるということではなく、最悪のケースが三月なのだと思ってほしい。このオフィスで我々JVチームが一日過ごすだけで、毎日数万ドルのコストがかかっている。一週間でも一日でも早くここを去れば、それだけ損を減らせるんだ。とにかく総員全力を挙げて成果を出して欲しい。」
会議の後、あらためて彼のオフィスを訪ね、ずっと心に引っかかっていた疑問をぶつけました。
「私の担当業務は、効率よく進めれば、年末までにすべて片付くかもしれません。その場合、三月を待たずにお払い箱になるということでしょうか。」
彼は微かに顔を歪め、少し間をおいてから、
「残念ながらそういうことだ。君もすぐに仕事探しを始めた方がいい。」
と答えました。
こうして、業務効率を上げれば上げるほど失職の日が早まるという、一種自虐的なゲームに組み込まれてしまった私。冷静にまわりの状況を眺めれば、そもそも残留組のひとりでいること自体が奇跡的と言うべきなのでしょうが、仕事探しの過酷さを一年前に経験している私に、このゲームを楽しむ心の余裕はありません。
オフィスの入り口近くの廊下の壁には、「在、不在」を示すマグネットボードが二枚かかっています。ある朝、左側の一枚から名前がすっかり消えているのに気付きました。よく見ると、去って行った人たちの名札が下の方に乱雑にまとめられているのです。そしてその上にマジックで、大きな下向きの矢印と Graveyard(墓地)という殴り書き。誰の仕業か知りませんが、それを見た人たちは皆顔を見合わせ、寂しい笑いを浮かべて立ち去るのでした。
2010年10月9日土曜日
With all due respect. お言葉を返すようですが。
昨日まで三日間、サンディエゴ空港のターミナル拡張プロジェクトの手伝いのため、現場のオフィスに詰めていました。スケジューリングの第一人者(グル)として、プロジェクト・チームのスケジュラー達を指導してくれないか、と声がかかったのです。誰の勘違いで私がグルに仕立て上げられたのか分かりませんが、依頼主のディレクターは週明け月曜の役員会に提出する資料を完成させなければならず、明らかに焦っています。助けてあげたいし、空港の仕事は初めてで、私にとっても良い経験になりそう。結局、我が社のトップスケジュラーであるボブにシカゴから駆けつけてもらい、二人で乗り込むことになりました。
蓋を開けてみると、現場のスケジュラー達6人は、年齢こそ若いものの、私よりはるかにスケジューリング経験の長いツワモノ揃い。見栄張って専門家面して、単独で来ないでよかったぜ~、と内心ドキドキしていました。毎日毎日額をつき合わせて仕事しているというこの若者グループは、仲の良さがビンビン伝わってくるほど結束が固く、冗談を飛ばしながら、絶妙なチームワークできびきびと仕事を片付けて行きます。
彼らの間で一時的に流行っていたのかもしれないけど、仕事中にこんなセリフが何度も飛び交っていました。
“With all due respect.”
まず相手の意見を手厳しく批判してから、もったいぶった声でこの言葉を付け足すパターンが横行しています。あとで調べたところ、「失礼ですが」とか「お言葉を返すようですが」とかいう意味だということが分かりました。Due というのは、赤ん坊の誕生予定日や借金の支払期限、レポートの提出締切日などを指す場合に良く使われる言葉。 “Due date” みたいに。知らなかったんだけど、実はそのほかに、「当然与えられるべきの」という意味があったのです。 “With due respect” は「当然敬意を払われるべき」となるのですね。
“I think it’s a bad idea, with all due respect.”
そりゃ駄目だと思うよ、お言葉を返すようだけど。
上の句が辛らつであればあるほど、この慇懃な下の句がピリッと効いて来る仕掛け。ふと昔、松尾貴史がやってた西部邁のモノマネを思い出しました。
「失礼ですがあなた、民主主義という言葉の意味、ご存知ですかぁ?」
あのヌメヌメした声の真似、ほんとに名人芸だったなあ。
蓋を開けてみると、現場のスケジュラー達6人は、年齢こそ若いものの、私よりはるかにスケジューリング経験の長いツワモノ揃い。見栄張って専門家面して、単独で来ないでよかったぜ~、と内心ドキドキしていました。毎日毎日額をつき合わせて仕事しているというこの若者グループは、仲の良さがビンビン伝わってくるほど結束が固く、冗談を飛ばしながら、絶妙なチームワークできびきびと仕事を片付けて行きます。
彼らの間で一時的に流行っていたのかもしれないけど、仕事中にこんなセリフが何度も飛び交っていました。
“With all due respect.”
まず相手の意見を手厳しく批判してから、もったいぶった声でこの言葉を付け足すパターンが横行しています。あとで調べたところ、「失礼ですが」とか「お言葉を返すようですが」とかいう意味だということが分かりました。Due というのは、赤ん坊の誕生予定日や借金の支払期限、レポートの提出締切日などを指す場合に良く使われる言葉。 “Due date” みたいに。知らなかったんだけど、実はそのほかに、「当然与えられるべきの」という意味があったのです。 “With due respect” は「当然敬意を払われるべき」となるのですね。
“I think it’s a bad idea, with all due respect.”
そりゃ駄目だと思うよ、お言葉を返すようだけど。
上の句が辛らつであればあるほど、この慇懃な下の句がピリッと効いて来る仕掛け。ふと昔、松尾貴史がやってた西部邁のモノマネを思い出しました。
「失礼ですがあなた、民主主義という言葉の意味、ご存知ですかぁ?」
あのヌメヌメした声の真似、ほんとに名人芸だったなあ。
2010年10月8日金曜日
Out of sight, out of mind. そばにいなけりゃ情も薄れる
数ヶ月前まで、オレンジ郡のオフィスに週二日か三日の割合で通っていました。私がサポートするプロジェクト・マネジャーの多くがそこで働いているから、というのが主な理由なのですが、そもそも私が提供しているのは電話とコンピュータとメールがあれば出来るサービス。果たしてそんな頻度でわざわざ出向く必要があるのだろうか、という疑問が日々膨らんで来ました。毎週ホテルに一泊させてもらっているとはいえ、長距離ドライブは肉体的にもキツイし、家族と過ごす時間だって犠牲になります。そこである日ボスのリックに、オレンジ支社に出向く回数を減らせないか相談してみました。
「賛成だよ。君はもう充分顔が売れてるんだから、サンディエゴからだって仕事は出来る。こっちのオフィスに来る頻度を減らせば、君は時間を有効に使える。それに毎週のホテル代だって浮く。うちの部門の経費節減にもなるから、一石二鳥だ。」
というわけで、オレンジ支社への出張は二週に一回まで激減。おかげで、毎日を規則正しく送れるようになりました。定時に会社を出て息子を学校まで迎えに行ったり、帰宅後エアロバイクを漕いだり、と極めて健全な生活がしばらく続きました。ところが最近になって、仕事量がじわりじわりと減って来ているのに気付いたのです。原因が分からず焦っていたところ、ある日経理のベスがオレンジ支社のマーカスと電話で話しているのを偶然耳にして、ギクリとしました。
「私だって、シンスケがそっちのオフィスに行ってる時は困ってたのよ。この頃はほとんどこっちにいるから、仕事をすぐに頼めて助かるわ。」
どうやらマーカスは、私が最近めっきり顔を出さなくなったことで、ベスに不満を漏らしていたみたいなのです。目の覚める思いでした。電話一本かけてくれりゃすぐに応えるのに、と思うのはこっちの勝手で、直接会って仕事を頼みたい人だっているんだよな。思い返せば、私がオレンジ支社内を歩いてる時、
「お、ちょうどいいところに現れたな。ちょっと頼みたいことがあるんだけど…。」
と仕事の依頼が飛び込んで来ることは何度もあったのです。仕事量の減少は、私の営業努力不足に起因していたのでした。
先週ボスのリックを訪ね、事情を話しました。
「これからはまた少し頻度を増やしたいのですが。」
と言うと、
「そうか、早く気付いて良かったな。君の言ってること、良く分かるよ。顔を合わせてないと、存在感も薄れていくものだからな。」
と理解を示してくれました。この時彼の使った言い回しが、
Out of sight, out of mind.
という常套句。「視界に入っていなければ、その存在は忘れられる」という意味。意訳すると、「そばにいなけりゃ情も薄れる」でしょうか。確かにその通りです。長距離恋愛が悲しい結末を迎えがちなのも、そんな人間心理が主要因なのだと思います。
「あなたのこと、ほんとに好きよ。でも私、いつもそばにいてくれる人の方が大事だって分かったの。」
PMたちに突然別れ話を切り出される前に、営業活動に精を出したいと思います。
「賛成だよ。君はもう充分顔が売れてるんだから、サンディエゴからだって仕事は出来る。こっちのオフィスに来る頻度を減らせば、君は時間を有効に使える。それに毎週のホテル代だって浮く。うちの部門の経費節減にもなるから、一石二鳥だ。」
というわけで、オレンジ支社への出張は二週に一回まで激減。おかげで、毎日を規則正しく送れるようになりました。定時に会社を出て息子を学校まで迎えに行ったり、帰宅後エアロバイクを漕いだり、と極めて健全な生活がしばらく続きました。ところが最近になって、仕事量がじわりじわりと減って来ているのに気付いたのです。原因が分からず焦っていたところ、ある日経理のベスがオレンジ支社のマーカスと電話で話しているのを偶然耳にして、ギクリとしました。
「私だって、シンスケがそっちのオフィスに行ってる時は困ってたのよ。この頃はほとんどこっちにいるから、仕事をすぐに頼めて助かるわ。」
どうやらマーカスは、私が最近めっきり顔を出さなくなったことで、ベスに不満を漏らしていたみたいなのです。目の覚める思いでした。電話一本かけてくれりゃすぐに応えるのに、と思うのはこっちの勝手で、直接会って仕事を頼みたい人だっているんだよな。思い返せば、私がオレンジ支社内を歩いてる時、
「お、ちょうどいいところに現れたな。ちょっと頼みたいことがあるんだけど…。」
と仕事の依頼が飛び込んで来ることは何度もあったのです。仕事量の減少は、私の営業努力不足に起因していたのでした。
先週ボスのリックを訪ね、事情を話しました。
「これからはまた少し頻度を増やしたいのですが。」
と言うと、
「そうか、早く気付いて良かったな。君の言ってること、良く分かるよ。顔を合わせてないと、存在感も薄れていくものだからな。」
と理解を示してくれました。この時彼の使った言い回しが、
Out of sight, out of mind.
という常套句。「視界に入っていなければ、その存在は忘れられる」という意味。意訳すると、「そばにいなけりゃ情も薄れる」でしょうか。確かにその通りです。長距離恋愛が悲しい結末を迎えがちなのも、そんな人間心理が主要因なのだと思います。
「あなたのこと、ほんとに好きよ。でも私、いつもそばにいてくれる人の方が大事だって分かったの。」
PMたちに突然別れ話を切り出される前に、営業活動に精を出したいと思います。
2010年10月3日日曜日
無ケーカクの命中男
最近、映画などで度々こんな表現を耳にします。
Do it already!
Already (既に)というのは過去形や現在完了形でしか使われない言葉だと思っていたので、こんな「おととい来やがれ!」みたいな不思議な言い回しには首をひねるしかありませんでした。
最初の出会いは、映画「Knocked Up」で、日本では「無ケーカクの命中男/ノックトアップ」というタイトルになってるらしいです(こんなふざけた邦題がまかり通るとは驚き)。 “Do it already!” は映画のストーリー上、とても重要なセリフ。この発言の解釈が、主人公となる男女の間で違っていたことから話がこじれていくのです。
さきほどネットで調べたところ、Already には「素早く」とか「すぐに」という意味もあるらしいことが分かりました。 “Do it already!” はつまり、「早くしてよ!」ってことですね。映画の中で、女性は「早く避妊具つけてよ!」のつもりでそう言ったのに、男性は「もうそんなのいいから早くしてよ!」と言われたんだと思ってた、というわけ。で、見事一発命中。
ま、そう考えると「無ケーカクの命中男」も悪くない邦題か…。
2010年9月30日木曜日
I’ll count on it. 楽しみにしてるわ。
コンストラクション・マネジメントの総務を担当しているカレンは、いかつい男達が群れる工事現場でも、臆することなくバンバン発言出来るタイプの女性です。暫くは気圧されて彼女に近づけなかったんだけど、先日オックスナードで披露した私のプレゼンをいたく気に入ってくれたようで、後日わざわざメールをくれました。
「グレート・プレゼンテーションを有難う。またお願いね。」
さて、10月半ばにロサンゼルス本社で二日間トレーニングを受けることになり、カレンがチャージ・ナンバーを送ってくれました。彼女がロス勤務であることを、その時初めて知りました。
「君はその日、オフィスにいるの?いるなら挨拶に行くけど。」
「私のオフィスは、トレーニング・ルームから中庭を挟んで向かいのビルにあるの。同じ階だから、窓から全部見えるのよ。」
「じゃ、着いたら手を振るね。」
これに対する彼女の返信に、一瞬戸惑いました。
I’ll count on it!
カウント・オンというのは、
You can count on me.
僕にまかせてよ。
などのように、「当てにする」という意味だとずっと思っていたのですが、それだとこの状況に馴染みません。手を振らなければ彼女の身に大変なことが起こるというなら話は別だけど。
調べてみると、微妙な違いながら、「期待する」という意味もあるのですね。
「じゃ、着いたら手を振るね。」
「楽しみにしてるわ。」
ってことでしょう。
粋な表現を覚えました。
「グレート・プレゼンテーションを有難う。またお願いね。」
さて、10月半ばにロサンゼルス本社で二日間トレーニングを受けることになり、カレンがチャージ・ナンバーを送ってくれました。彼女がロス勤務であることを、その時初めて知りました。
「君はその日、オフィスにいるの?いるなら挨拶に行くけど。」
「私のオフィスは、トレーニング・ルームから中庭を挟んで向かいのビルにあるの。同じ階だから、窓から全部見えるのよ。」
「じゃ、着いたら手を振るね。」
これに対する彼女の返信に、一瞬戸惑いました。
I’ll count on it!
カウント・オンというのは、
You can count on me.
僕にまかせてよ。
などのように、「当てにする」という意味だとずっと思っていたのですが、それだとこの状況に馴染みません。手を振らなければ彼女の身に大変なことが起こるというなら話は別だけど。
調べてみると、微妙な違いながら、「期待する」という意味もあるのですね。
「じゃ、着いたら手を振るね。」
「楽しみにしてるわ。」
ってことでしょう。
粋な表現を覚えました。
2010年9月28日火曜日
アメリカで武者修行 第25話 マイクが笑ってるぜ。
2003年8月中旬、月曜の朝のことでした。その日の運転当番だったケヴィンが私のアパートに迎えに来たのですが、いつになく固い表情。高速道路に入ってすぐ、
「後部座席にあるファイルを見てくれよ。」
と重たい声で言いました。助手席から身をねじってファイルを手に取ります。
「この週末、家でずっと仕事してたんだ。クラウディオからのプレッシャーがきつくてね。そいつは先週彼から渡されたファイルなんだ。三ページ目を開いてくれないか。」
ページをめくると、そこには組織全員の名前がリスト化されています。そしてなんと、そのうち数人の備考欄に、任期切れの時期が記してあるのです。ケヴィンの名前の横には、2003年9月という文字。マイクの予告通り、今月一杯でクビということです。ショックを受けつつも、反射的に私の目は自分の名前を探していました。そして、自分の任期切れが来年3月となっていることを確認しました。老フィルは「10月からパートタイム」となっていました。
「このファイル、先週半ばに渡されてたんだけど、忙しくてずっと見てなかったんだ。土曜日にようやくそのページに気付いて、自分があと二週間でクビだと知ったわけさ。最近大事な仕事をどんどん任されるから、この先も俺を使い続けようとしてるんだと思いこんでた。甘かった。」
ケヴィンの担当業務である用地選定はほぼ終了しており、あてにしていた有料区間道路設計の業務契約が破棄されたことで、足元の氷が急速に溶け始めていることを彼自身よく分かっていました。そんな折クラウディオは、成果物の提出スケジュール管理システムなど、マネジメントツールの作成をケヴィンに任せるようになりました。そして先週、より包括的なツール作りを促すため、自らのマル秘ファイルをまるごとケヴィンに渡したのだそうです。もちろん門外不出という条件で。
「でも、仮に解雇しようとしてるとしても、二週間前までには本人に告知しなきゃいけないって規則なんじゃないか?」
と私が言うと、
「今日がその二週間前なんだ。宣告を受けるとしたら今日の夕方かな。参った。こんな気分のままじゃ、一日働き通せるとは思えないよ。」
職場に到着し、会議室のドアを内側からロックして二人で対策を検討した結果、ここはやはりクラウディオの口からきちんと真意を聞くべきだろうという結論に達しました。いくらなんでも、それとなく解雇の日付を見せて告知代わりにしようなんて話はないだろう、と。そして午後遅く、ケヴィンが私のキュービクルにやってきて言いました。
「クラウディオと話してきた。今月一杯という話はなくなったよ。気が変わったんだって。いつまでかは言われなかったけど、ひとまず生き延びた。」
安堵で顔がほころんでいました。
有料区間道路設計の契約破棄通告を受けてからというもの、クラウディオはオフィスのドアを閉め切って仕事することが増えました。就任当時「いつでもドアは開けておく。自由に出入りしてくれ」と言っていた彼がドアを閉め始めたとあって、職場に緊張感が漂います。期待させるだけさせておいて我々を無残に捨てた元請けに対し、クラウディオは全面戦争をしかける覚悟を決めました。
「現在の設計業務で損を出しても次の仕事で挽回出来ると踏んでいたからこそ、これまで我々は元請けの横暴な要求にも度々応じて来たんだ。このまま引き下がれるか。」
彼は同時に現組織の財政を引き締めるべく、大胆な人減らしを開始しました。
ケヴィンの解雇騒ぎから一週間後、フィルが出勤早々私のキュービクルにやって来ました。
「お前さんには知らせておいた方がいいと思うので言っておくが、昨日解雇通知を受け取ったよ。今週一杯でおさらばだ。」
クラウディオのマル秘ファイルでは「十月からパートタイム」となっていたのに、いきなりの解雇です。
「明日から来なくていいと言われたが、進行中の仕事にケリをつけておきたいから、今週一杯に延ばしてもらったよ。」
翌日、彼を誘って近くのイタリアンレストランへランチに行きました。二人で食事をするのはこれが初めて。彼は今回のことについては何も触れず、今まで手がけてきたプロジェクトにまつわる愉快なエピソードをいくつも披露してくれました。建設中の橋の上に軽飛行機が真夜中に不時着し、パイロットが飛行機から降りて初めて足元の橋桁がすかすかの穴だらけなのに気づいて肝を冷やした話には、二人で大笑いしました。しかし、日米の労務慣習の違いに話が及んだ時は、急に顔をこわばらせてこう言いました。
「この国にはびこる悪しき慣習は、何か問題があるとすぐ他人のせいにして責任をとらせようとすることだ。」
彼がどの程度自分自身の解雇に関連付けてそんなことを言ったのかは分かりませんが、印象的なセリフでした。翌週、彼は十ヶ月働いたサンディエゴを後にして、奥さんや子供の住むサンフランシスコへ帰りました。
「手当たり次第、友達に電話をかけてみるよ。どこかに仕事はあるだろう。」
と、笑顔で固い握手を交わしつつ。
その翌週、ニューヨーク支社から派遣されていたトムとヨンが八ヶ月ぶりに元のオフィスへ戻り、後任はゼロ。続いて、都市施設担当のニキータの辞任が決まりました。ちょうど雇用契約更新時期が来ていた彼女は、クラウディオから現在よりはるかに低い報酬を提示されたそうです。これまでサービス残業も厭わず馬車馬のように働いて来たというのに、そのお返しがこれか、と憤りに身を震わせていたところ、以前解雇されシアトルで職を得たジムが、「都市施設の専門家を探してるんだが」と電話してきたそうです。これ以上ないタイミング。彼女は高給でシアトルへ引っ張られることになりました。
ある日のこと、Eメールでイラクから送られてきたと見られるマイクの写真が、掲示板に貼られていました。迷彩色の戦闘服に身を包み、右肩にはM16小銃。青く渇いた空の下、橋の真ん中に仁王立ちしてニッコリ笑っています。
「おい見ろよ、マイクが笑ってるぜ。」
通り過ぎる人たちが思わず立ち止まって見入ってしまうほど印象的な写真です。いつも苦虫を噛み潰したような顔をしていた彼が、灼熱の戦場で少年のように清々しい笑顔を見せているのですから。ケヴィンが感慨深げにこう言いました。
「命がかかっているとはいえ、この混乱した職場から抜け出して秩序に満ちた世界に身を投じたんだ。案外救われた気分でいるのかもしれないな。」
「後部座席にあるファイルを見てくれよ。」
と重たい声で言いました。助手席から身をねじってファイルを手に取ります。
「この週末、家でずっと仕事してたんだ。クラウディオからのプレッシャーがきつくてね。そいつは先週彼から渡されたファイルなんだ。三ページ目を開いてくれないか。」
ページをめくると、そこには組織全員の名前がリスト化されています。そしてなんと、そのうち数人の備考欄に、任期切れの時期が記してあるのです。ケヴィンの名前の横には、2003年9月という文字。マイクの予告通り、今月一杯でクビということです。ショックを受けつつも、反射的に私の目は自分の名前を探していました。そして、自分の任期切れが来年3月となっていることを確認しました。老フィルは「10月からパートタイム」となっていました。
「このファイル、先週半ばに渡されてたんだけど、忙しくてずっと見てなかったんだ。土曜日にようやくそのページに気付いて、自分があと二週間でクビだと知ったわけさ。最近大事な仕事をどんどん任されるから、この先も俺を使い続けようとしてるんだと思いこんでた。甘かった。」
ケヴィンの担当業務である用地選定はほぼ終了しており、あてにしていた有料区間道路設計の業務契約が破棄されたことで、足元の氷が急速に溶け始めていることを彼自身よく分かっていました。そんな折クラウディオは、成果物の提出スケジュール管理システムなど、マネジメントツールの作成をケヴィンに任せるようになりました。そして先週、より包括的なツール作りを促すため、自らのマル秘ファイルをまるごとケヴィンに渡したのだそうです。もちろん門外不出という条件で。
「でも、仮に解雇しようとしてるとしても、二週間前までには本人に告知しなきゃいけないって規則なんじゃないか?」
と私が言うと、
「今日がその二週間前なんだ。宣告を受けるとしたら今日の夕方かな。参った。こんな気分のままじゃ、一日働き通せるとは思えないよ。」
職場に到着し、会議室のドアを内側からロックして二人で対策を検討した結果、ここはやはりクラウディオの口からきちんと真意を聞くべきだろうという結論に達しました。いくらなんでも、それとなく解雇の日付を見せて告知代わりにしようなんて話はないだろう、と。そして午後遅く、ケヴィンが私のキュービクルにやってきて言いました。
「クラウディオと話してきた。今月一杯という話はなくなったよ。気が変わったんだって。いつまでかは言われなかったけど、ひとまず生き延びた。」
安堵で顔がほころんでいました。
有料区間道路設計の契約破棄通告を受けてからというもの、クラウディオはオフィスのドアを閉め切って仕事することが増えました。就任当時「いつでもドアは開けておく。自由に出入りしてくれ」と言っていた彼がドアを閉め始めたとあって、職場に緊張感が漂います。期待させるだけさせておいて我々を無残に捨てた元請けに対し、クラウディオは全面戦争をしかける覚悟を決めました。
「現在の設計業務で損を出しても次の仕事で挽回出来ると踏んでいたからこそ、これまで我々は元請けの横暴な要求にも度々応じて来たんだ。このまま引き下がれるか。」
彼は同時に現組織の財政を引き締めるべく、大胆な人減らしを開始しました。
ケヴィンの解雇騒ぎから一週間後、フィルが出勤早々私のキュービクルにやって来ました。
「お前さんには知らせておいた方がいいと思うので言っておくが、昨日解雇通知を受け取ったよ。今週一杯でおさらばだ。」
クラウディオのマル秘ファイルでは「十月からパートタイム」となっていたのに、いきなりの解雇です。
「明日から来なくていいと言われたが、進行中の仕事にケリをつけておきたいから、今週一杯に延ばしてもらったよ。」
翌日、彼を誘って近くのイタリアンレストランへランチに行きました。二人で食事をするのはこれが初めて。彼は今回のことについては何も触れず、今まで手がけてきたプロジェクトにまつわる愉快なエピソードをいくつも披露してくれました。建設中の橋の上に軽飛行機が真夜中に不時着し、パイロットが飛行機から降りて初めて足元の橋桁がすかすかの穴だらけなのに気づいて肝を冷やした話には、二人で大笑いしました。しかし、日米の労務慣習の違いに話が及んだ時は、急に顔をこわばらせてこう言いました。
「この国にはびこる悪しき慣習は、何か問題があるとすぐ他人のせいにして責任をとらせようとすることだ。」
彼がどの程度自分自身の解雇に関連付けてそんなことを言ったのかは分かりませんが、印象的なセリフでした。翌週、彼は十ヶ月働いたサンディエゴを後にして、奥さんや子供の住むサンフランシスコへ帰りました。
「手当たり次第、友達に電話をかけてみるよ。どこかに仕事はあるだろう。」
と、笑顔で固い握手を交わしつつ。
その翌週、ニューヨーク支社から派遣されていたトムとヨンが八ヶ月ぶりに元のオフィスへ戻り、後任はゼロ。続いて、都市施設担当のニキータの辞任が決まりました。ちょうど雇用契約更新時期が来ていた彼女は、クラウディオから現在よりはるかに低い報酬を提示されたそうです。これまでサービス残業も厭わず馬車馬のように働いて来たというのに、そのお返しがこれか、と憤りに身を震わせていたところ、以前解雇されシアトルで職を得たジムが、「都市施設の専門家を探してるんだが」と電話してきたそうです。これ以上ないタイミング。彼女は高給でシアトルへ引っ張られることになりました。
ある日のこと、Eメールでイラクから送られてきたと見られるマイクの写真が、掲示板に貼られていました。迷彩色の戦闘服に身を包み、右肩にはM16小銃。青く渇いた空の下、橋の真ん中に仁王立ちしてニッコリ笑っています。
「おい見ろよ、マイクが笑ってるぜ。」
通り過ぎる人たちが思わず立ち止まって見入ってしまうほど印象的な写真です。いつも苦虫を噛み潰したような顔をしていた彼が、灼熱の戦場で少年のように清々しい笑顔を見せているのですから。ケヴィンが感慨深げにこう言いました。
「命がかかっているとはいえ、この混乱した職場から抜け出して秩序に満ちた世界に身を投じたんだ。案外救われた気分でいるのかもしれないな。」
2010年9月27日月曜日
Scosh 少~し
今日の昼過ぎ、日本通の同僚ダグが私のオフィスにやって来ました。
「昨日、PBS(こっちの公共放送)を聞いてたら、scosh (「すこうし」という発音)ってどういう意味ですかって質問してるリスナーがいたんだよ。え?知らないの?って驚いちゃった。」
私もその単語を知らないと言うと、二度驚いて、
「僕のワイフも知ってたよ。日本語の少しから来てるんだよ。中西部じゃ皆使ってるな。」
と説明してくれました。
ネットで調べてみると、いくつか例文が出て来ました。その一例がこれ。
Google just made it a scosh easier to become a mobile app developer.
なるほど、a little bit をa scosh に言い換えたわけだ。とすると、こっちじゃ日本語の「すこ~し」がクールな言い回しとして使われてるということ。なんかちょっと可愛い。
「昨日、PBS(こっちの公共放送)を聞いてたら、scosh (「すこうし」という発音)ってどういう意味ですかって質問してるリスナーがいたんだよ。え?知らないの?って驚いちゃった。」
私もその単語を知らないと言うと、二度驚いて、
「僕のワイフも知ってたよ。日本語の少しから来てるんだよ。中西部じゃ皆使ってるな。」
と説明してくれました。
ネットで調べてみると、いくつか例文が出て来ました。その一例がこれ。
Google just made it a scosh easier to become a mobile app developer.
なるほど、a little bit をa scosh に言い換えたわけだ。とすると、こっちじゃ日本語の「すこ~し」がクールな言い回しとして使われてるということ。なんかちょっと可愛い。
2010年9月26日日曜日
On top of 状況を完璧に把握している
先週、南カリフォルニアの環境部門長であるジョエルが、サンディエゴ支社の交通部門のトップに対して私のことをべた褒めしているメールが、エリック(私の大ボス)から転送されてきました。
こういうのは悪い気がしません。得意になって、思わず妻に転送してしまいました。すると彼女が、
「On top of ってどういう意味?」
と返信。え?そんな言葉あったっけ?
読み返してみると、確かにそういうくだりがあります。私を褒めてるところとは全然関係ないけど。
We are on top of the situation.
On top of という表現は、色々言ったあとで、「さらには…」と何か付け加える時に使うことが多いのですが、この場合にはちょっとあてはまりません。ちゃんと調べたところ、「状況を完璧に把握している」という意味になることが分かりました。物見台に上った人が、眼下の町を見渡して様子をつぶさに観察し、状況を把握しているイメージ。
She is always on top of her division’s financial status.
彼女は管轄部門の財務状況を、常に完璧に把握している。
という感じで使えます。いいですね。とてもかっこいいフレーズだと思います。
こういうのは悪い気がしません。得意になって、思わず妻に転送してしまいました。すると彼女が、
「On top of ってどういう意味?」
と返信。え?そんな言葉あったっけ?
読み返してみると、確かにそういうくだりがあります。私を褒めてるところとは全然関係ないけど。
We are on top of the situation.
On top of という表現は、色々言ったあとで、「さらには…」と何か付け加える時に使うことが多いのですが、この場合にはちょっとあてはまりません。ちゃんと調べたところ、「状況を完璧に把握している」という意味になることが分かりました。物見台に上った人が、眼下の町を見渡して様子をつぶさに観察し、状況を把握しているイメージ。
She is always on top of her division’s financial status.
彼女は管轄部門の財務状況を、常に完璧に把握している。
という感じで使えます。いいですね。とてもかっこいいフレーズだと思います。
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