2010年9月9日木曜日

ヤギでごった返す現場

うちの部署で請け負う仕事の大半は、土壌や水質の汚染を調べて改善するというもの。若手PMのアリーシャがロサンゼルス郡のT市から受けている仕事もそのひとつ。一昨日、現場作業を監督しようと市役所の人に「今から行きますよ」と連絡を入れたところ、こう言われたそうです。
「あのですね、一応言っておきますけど、現場にヤギ(Goat)がいます。注意して下さいね。」
「は?ヤギですか?」

到着してみると、現場主任がフェンスの入り口のところで待ち構えています。何だかそわそわと落ち着かない様子。
「一、二の三の合図で開けますから、素早く入って下さいよ。」
「え?何?何なの?」
中に入ってみて仰天。ヤギと言っても二、三頭がのんびり草を食んでいる図をイメージしてたんだけど、そこはもう押すな押すなの大混雑。いきなり足やら腰やらをペロペロ舐められ、
「これ何なの?どういうこと?」

最近新聞でも読んだのですが、敷地の雑草を処理するのに機械を一切使わず、ヤギを動員するのが流行っていて、レンタル・ヤギのビジネスまであるそうです。環境に優しく仕事も丁寧な上、コストも安いとか。ここは市役所が最近買い取った土地で、近いうちに消防隊の訓練所を建設する予定なのだそうで、今回雑草処理に駆り出されたヤギは約百頭。この動物、人間であれ機械であれ、新入りが登場するたびに興味津々といった表情でぞろぞろ寄って来るそうです。

ふと目をやると、
「ヤギ作業中。邪魔するな。」
と書かれた簡易標識まであります。
「うそでしょ。何よこれ。」
ヤギの群れをかきわけて、何とか地下水調査の作業現場にたどり着くと、ちょうど掘削機を作業員が移動しようとしていたところでした。しかしあっという間に大群に取り囲まれ、身動きが取れなくなってしまいます。すかさずアリーシャが反対側に群れを誘導し、その隙に機械を移動して事なきを得ました。

実はフェンスの外では、シティマネジャーが今回のヤギの活用についてテレビの取材を受けている最中でした。撮影の合間にこのアリーシャの手際を観察していたマネジャー氏、近寄って来て、
「君は一体何者だね?」
彼女は会社名と現在実施中の作業内容を説明したのですが、
「いや、聞きたかったのはね、どうしてそういう人があんなに上手にヤギの群れを誘導できるのかってことなんだ。」
「実家が農家で、父は今でもヤギを沢山飼っているんです。」
シティマネジャーはこの答えに満足したようでした。アリーシャは、彼と仲良くなったついでに、
「ここのヤギの乳は飲まない方がいいですよ。地下の有害物質をたっぷり吸い込んだ雑草を食べてますからね。」
とジョークを飛ばそうとしたのですが、テレビカメラが回っているのに気付いてやめたそうです。

2010年9月7日火曜日

Coax 上手に説得する

今日のWall Street Journal の記事に、こんなタイトルがありました。

Coaxing a loved one in denial into treatment without ruining your relationship.
関係を悪化させることなく、身内をどう説得してカウンセリングに行かせるか。

配偶者などが、うつ病に苦しみつつも医者やカウンセラーを毛嫌いしている場合、それをどう説得するかという話題です。以前から、私はこのCoax(コウクス)という単語のニュアンスがどうも理解出来なくて、ずっと使えずにいました。いい機会なのでちょっと調べてみたところ、「おだててその気にさせる」「まるめこむ」という訳が並んでる。でも、身内をカウンセリングに行かせるのに「まるめこむ」はどうかなあ。

というわけで、同僚リチャードを訪ねて確認しました。
「そうだね、確かに下心のある場合に使われることが多いよね。でも、好意を持って説得する場合もありだな。共通しているのは、もともとそうする意思がなかった人にある行為をさせる点だと思うよ。」
同じ「説得する」でも、“Persuade” はこの「その気がなかったのに」というニュアンスが強くない。Coax には更に、「上手に」とか「言葉巧みに」という含みが上乗せされる。彼はそう言って、いくつか文例を教えてくれました。

I didn’t want to go to the party but he coaxed me into it.
パーティに行くつもりなんかなかったんだけど、彼にうまく乗せられて行っちゃったよ。

I went there to buy a Corola but I got coaxed into buying a Mercedez.
カローラを買いに行ったんだけど、うまく言いくるめられてベンツを買わされちゃった。

以上を総合すると、今回私が読んだ新聞記事の見出しに使われているCoaxは、「上手に説得する」程度の意味だと思います。

2010年9月4日土曜日

アメリカで武者修行 第22話 彼はまともだよ。

5月末にやってきた新しいディレクターの名は、クラウディオ。ペンキ用の刷毛みたいに厚ぼったい口髭、そして堂々たる太鼓腹。スーパーマリオが眼鏡をかけたみたいな風貌です。就任の挨拶にあっては、その体型にありがちなガラガラ声で、
「オフィスのドアは常に開けておく。自由に出入りしてくれ。」
と言い放ちました。しかしその豪放磊落そうな外見にもかかわらず、実は意外に神経質で短気。未解決の問題を発見すると、即座に片付けないと気がすまないタイプです。

ある日、追加費用要求をめぐる交渉案件について、クラウディオから説明を求められました。ガス管や送電線といった、地下埋設物の位置確認作業。契約上やるべきことは全て終了したにもかかわらず、州政府が「更に三十メートルおきに試掘して再確認せよ」と指示してきた件です。この指示を受けた元請けのORGは、我々に自腹でやるよう圧力をかけて来ました。試算すると、約三万ドルの出費です。埋設物の位置確認をどの程度徹底するかについて、契約書の記述は極めて曖昧。しかし既に調査結果は全て元請けに提出し、彼らの承認を得ているのです。その上での追加指示なので、これが予定外の仕事であることを論理立てて主張すれば、勝ち目は七割程度あると思いました。リンダにこれを話すと、
「そうね。私は五分五分だと思うけど、勝機があるとあなたが思うなら、要求書を書いてみなさい。」
とゴーサイン。さっそく追加費用要求文書を作成し、マイクの承認をもらいに行きました。
「俺はOKだが、これは道路設計チームのトップであるグレッグの管轄だ。彼の承認も得てくれ。」

ところが、文書案をグレッグのところへ持っていくと、
「こんな要求はできないよ。これはうちがやるべき仕事だろ。」
と渋い顔。根気強く私の論拠を説明したのですが、首を縦に振りません。州政府出身者だけに、古巣に逆らうのが嫌なのかな、と一瞬訝りました。
「一旦こんな指示を受け入れてしまえば、さらに十メートルおきに試掘しろと言われても文句言えないんですよ。後々のことを考えれば、ここは戦うべきだと思います。」
それでもグレッグは判断を保留し、要求文書の草案はそのまま彼の机の上で、2ヶ月も眠ることになったのです。グレッグに何度も催促しながら、こうまで決断できない人間がどうして組織のトップグループにいられるんだろう、と不快になりました。そして、もうどっちでもいいから早く白黒つけてくれ、と苛立っていました。誰の費用でやるのか決まらないと下請けに発注できず、私の仕事が滞るのです。

そんなすっきりしない案件でしたが、クラウディオは私の話を聞き始めて15秒後には資料を掴んで立ち上がり、「すぐ戻る」と元請けトップのジャンのところへ直談判に行きました。そして十分後に帰ってきて、
「この交渉は勝ち目が薄い。費用はうちが持つ。たかだか三万ドルのためにこれ以上無駄な時間は使えない。本件はこれにて終了。」
電光石火でした。

6月末の月曜日。元請けのORGからこんな要請を受けました。
「有料区間の設計業務を実施するための組織体制を明示し、提案書にまとめて今週中に提出せよ。」
我々が請け負っている高速道路設計は、無料区間と有料(通行料を取る)区間に分かれており、プロジェクトは無料区間の設計からスタートしました。
「有料区間の設計費用は、無料区間の約5倍。これが始まればあと3年は食いつなげるんだ。」
と、かつてケヴィンが話していました。契約書にサインを交わしてはあるものの、未だ正式なゴーサインが出ていないのです。今回ORGから提案書の提出要求が出されたことで、いよいよ大規模設計プロジェクトがフル始動するぞ、という興奮が組織を満たしました。
「これまで無茶な要求を随分呑まされて来たけど、有料区間の設計がスタートすれば、損失を取り戻せるだろうと上の人間は踏んでるんだ。これでようやく辛抱が報われるってところだろうな。」
とケヴィン。

クラウディオは、さっそく自らエクセルを使ってリソース配分図を作りあげました。その作業の一環でしょう、彼はマイクに組織図の修正を任せました。マイクはいつものように、これをケヴィンに「丸投げ」。ケヴィンは半日間この仕事と格闘していましたが、午後遅くなってから私のところにやって来ました。赤ペンの書き込みで一杯になった修正案を私に見せながら、薄笑いを浮かべています。
「うちの組織がどうしてこうまで混乱しているのか、これで一目瞭然だよ。」
出すべき成果を基に組織図を作ろうとすると、人員配置のモレやダブリが浮き彫りになってしまうというのです。例えば先ごろ解雇されたジムは、組織図上当てはまる場所がありません。また、私の上司がフィルなのかリンダなのか、はたまたマイクなのかもはっきりしません。
「組織図づくりにこれだけ悩むってこと自体が、おかしな話だよな。」

この後、彼はクラウディオに修正案を見せに行ったのですが、間もなく戻って来てこう言いました。
「クラウディオがこの組織図を見て、なんて言ったと思う?」
彼のことだから、仕事がうまく進まなかった原因を一目で見抜いたんじゃないか、というのが私の予想でした。
「一体どうして君がこの仕事をやってるんだ?だとさ。」
これには二人で大笑いしました。少し落ち着いてから、ケヴィンが呟きました。
「彼はまともだよ。」
組織図上、ケヴィンは用地選定担当です。その彼が組織図作りに取り組んでいる理由なんて、答えられるわけありません。結局クラウディオは、ケヴィンの組織図案を大胆に修正して仕上げ、金曜の夕方遅くに提案書が完成しました。

その晩、人が出払ったオフィスで社内保管用の提案書コピーをパラパラめくっていた時、最後の章にチーム全員の履歴書が束ねられていることに気付きました。自分の履歴書が最新版かどうか心配だったのでそれをチェックした後、ふとグレッグの履歴書に目が留まりました。そして彼の大学卒業年が私と同じであることを発見し、愕然としました。若く見えるなあとは思っていたけど、まさか同期だったとは…。彼は一昨年の夏から、副プロジェクトマネジャーとして道路設計チームを率いて来ました。配下には年長者が何人もいます(フィルなどは大きな孫がいる年齢)。3年前にふらりと日本からやってきた私をそんな彼と較べること自体あまり意味がないのですが、それでも「自分はこのままでいいんだろうか」という小さな問いを頭の隅に芽生えさせるには、充分な衝撃でした。

ここは実力社会。組織内での地位は、年齢とほとんど関係ありません。能力と経験、そして人脈が物を言うのです。私は通勤の車内で毎日ケヴィンと話しながら、この国で長期的に安定した職を維持する方法は何か、という疑問にずっと自問自答していました。そして、実績を積みつつ人脈を広げること以外には、「資格を取ること」しかない、という結論に達していました。私にとって最短距離にある資格といえば、プロフェッショナルエンジニア(PE)。クラウディオもマイクもグレッグも、そしてケヴィンもPE。クラウディオが就任間もない頃、
「私の名前で外部に文書を出す時は、氏名の後に必ずPEとつけてくれ。」
と私に指示したこともありました。

ケヴィンによれば、PEは医者や弁護士と同格で、この資格ひとつで報酬は段違い。またこの資格がないと、たとえMBA保持者でもエンジニアリング系の仕事で決裁権のあるポジションにはつけないそうです。
「どうしてケヴィンは、僕にPEを取れって一度も勧めないの?」
この仕事を始めて数ヵ月経った頃、彼に疑問をぶつけたことがありました。
「俺自身、PEの仕事に嫌気がさしてるからだよ。シンスケはこれから、エンジニアとしてやって行くつもりなのか?違うだろ?はるばる日本からやって来てMBAを取ったのは、技術屋になるためじゃないよな。」
「そりゃそうだよ。でもね、今のままじゃジリ貧だよ。実力をつけて人脈を広げるのには時間がかかる。気づいた時にはもう白髪のお爺さんだよ。手っ取り早い打開策は、資格しかないじゃない。」
これにはケヴィンも黙ってしまいました。
「確かに、持ってる俺がそんなもの要らないって言っても、説得力無いよな。」

PEの資格を取るためには、まずEngineering In Training(EIT)という試験にパスしなければなりません。将来自分が技術者としてやっていくかどうかはともかく、ステップアップのための武器を手に入れるチャンスがあるのだから、やるしかない。年明けから試験勉強を開始し、4月に受験。そして7月1日にEITの合格通知が届きました。さあ、あとは翌年4月のPE受験に向けて猛勉強です。今回グレッグの年齢を知ったことで、そのやる気に拍車がかかったことは言うまでもありません。

2010年9月3日金曜日

Housekeeping Issues 諸々の注意事項

先日受けた外部トレーニングで、教師のロンが

Let’s take care of housekeeping issues first.

と言った後、トイレや非常口の場所、ランチの注文の仕方、終了予定時刻などを説明しました。この housekeeping issues というのは、外部の会議やらトレーニングやらに参加した際に良く聞く表現。不慣れな場所でのイベントでは、参加者が戸惑わないよう事前にきちんと説明をしておくことが重要です。今日の午後、同僚のラリーに確認した結果、「モロモロの注意事項」が一番近い和訳だと思いました(他に良い日本語が思いつかない)。ラリーが言います。
「この表現はわりと最近出来たものだと思うよ。コンピュータ用語から始まったんじゃないかな。ほら、コンピュータを快適に動かすためにやっておかなきゃいけないこと(デフラグとか?)ってあるだろ。それを housekeeping と誰かが言ったのが起源だと思うよ。」

Housekeeping の本来の意味は「家事」で、この言葉自体はちっともクールじゃありません。でも、ぴったりの状況で housekeeping issues という表現を上手に使えるのは、とってもクールだと思います。

2010年9月1日水曜日

Gun-Shy 用心深い

会社のミーティングで、こんなセリフを聞きました。

He was gun-shy about 〇〇〇.
彼は用心深く、〇〇〇をやろうとしなかった。

このGun-shy の語源はよく分からないのですが、「弱気な」とか「用心深い」とかいう意味。Yourdictionary.comによると、過去の経験に懲りて過度に用心深くなる、というニュアンスがあるようです。思わず、日本語の「あつものに懲りてなますを吹く」を連想しましたね。

今年の正月休み、8歳の息子が雑煮で舌を軽くヤケドした後、なますを吹いているのを目撃しました。こんな古臭い慣用句を現実にやってしまう人間がいるとは!

しばらく笑いが止まりませんでした。

2010年8月31日火曜日

Courtesy 礼儀・儀礼

先日、極彩色の鳥の絵を配した見慣れない切手が貼られた封書が届きました。夫婦あてです。差出人の名には見覚えがなく、住所は南アフリカ共和国と書いてあります。咄嗟に、
「これは詐欺だな。」
と思いました。アフリカから儲け話が書かれた手紙が届き、今すぐ金を送ってくれればすごい倍率で増やしてあげる、などという手口は有名です。

用心深く中身を取り出すと、手作り風の可愛らしいカード。なんと、元同僚のデニスの結婚式への招待状だったのです。差出人は新婦の親。見覚えがなかったのは当然です。カリグラフィの文字は読みにくく、式の場所が書いてある箇所を捜し当てるのに時間がかかりました。どうやら、南アフリカのケープタウンでやるらしい。

う~ん。これは困った。南アフリカにおいでませ、と簡単に言われてもね。調べたところ、飛行機二回乗り継いで、片道にまる二日かかります。デニスはいい奴だし、出席したいのは山々だけど、ちょっと東海岸まで行ってくる、というのとはワケが違う。どのくらい本気で招待してくれてるんだろう?絶対来いよ、という本人からの念押しは受け取ってないしなあ…。

で、さっそく同僚達に意見を聞いてみました。全員口をそろえて、
「いくらなんでも、本気で来るとは思ってないでしょう。」
元ボスのエドがこう言いました。

It’s more of a courtesy invitation.
儀礼的な招待だと思うよ。

このCourtesy(カーテシー)というのは、よく聞く単語です。礼儀とか儀礼のほか、優遇、優待という意味にも使われます。よく聞くのが次の表現。

Courtesy call
表敬訪問

Courtesy car
送迎車

Courtesy seat
優先席

Courtesy phone
空港などにある無料案内電話


結局、メールで欠席を告げました。ちょっぴり残念…。

2010年8月30日月曜日

Bait and switch おとり商法

先週サクラメントで行ったクライアントへのプレゼンは、こんな具合で進みました。最初にこちらが売り口上を20分間展開し、続けて質問状を受け取る。審査員三人が15分間席を外している間に大急ぎでこれを検討し、戻って来た審査員たちが質問をひとつひとつ読み上げ、我々がこれに答える。

質問は8つほどで、それぞれが結構な難物です。15分間というのは思ったよりも短く、結局どの質問に誰が答えるかを割り振るので精一杯でした。私は結局3問を受け持ったのですが、担当しなかった質問のひとつにこんなのがありました。

We have experienced bait and switch many times. そういうことをしないという保証は?

なんとなく意味は分かったのですが、これにどう答えて良いのかなんて見当もつきません。

Bait and switch のBait (ベイト)は釣りなどのエサのこと。問題はSwitchです。切り替える、という意味は知っていたのですが、それじゃ話が見えません。今日調べてみたら、Switch には「小枝などでムチ打つ」という意味があるのですね。そう言われてみると、電気回路のスイッチは「しなやかにたわむ小枝」っぽい。

Bait and switchは値引き商品をおとりとして高額商品を買わせる、いわゆる「おとり商法」を指すのですが、ここでは「うちにはこんな優秀なコンサルタントがいますよ」と人材の豊富さを売りつけておいて、いざプロジェクトをゲットしたら「彼らは現在、ちょうど他のプロジェクトで忙しくて…」と二軍クラスの社員をあてがう、というやり方を意味しています。

プレゼンチームの大御所のひとりフィルが、
「我々の辞書に、そんな言葉はありません。大体そんな会社は二度と雇ってはいけません。我々の仕事は信頼で成り立っているのです。」
と噛んで含めるように言うと、別の大御所のケヴィンが、
「仕事を始める前に、そんなおかしな真似はしないという合意書を交わすというのはいかがです?」
と落ち着いて付け足しました。

私にはそんな回答、思いもつきませんでした。経験の長さというのは、こういう時に物を言うんだなあ、と感心したのでした。

2010年8月29日日曜日

The buck stops here 責任は私がとる

昨日は土曜だというのに、朝から会社のミーティングがありました。コンストラクションマネジメントに関わる社員が集まって、人脈作りをするのが主目的です。オックスナードの工事現場にあるトレーラーオフィスに朝8時集合。我が家からは270km(福岡から鹿児島くらいまでの距離)も離れた場所なので、金曜の晩に現場近くのホテルで一泊しました。

いくつかの議題の後、私がスケジュール作りに関するプレゼンを30分やりました。出席者は総務担当から現場の工事監督まで幅広いので、難しい話は避け、プロジェクトマネジメントの歴史を盛り込んだ写真中心のスライドを作って臨みました。予想通り、これがウマクイッタ。終了後、何人も私のところへやって来て、
「いいプレゼンだった。すごく面白かった。」
と肩をポンポン叩いてくれました。ああ良かった。これで往復8時間の運転も、苦痛でなくなります。

さて、会議の後半は自由闊達な意見交換があり、私の大ボスであるエリックが、
「この中でプロジェクトマネジャーは何人いますか?」
と質問しました。4人ほど手を挙げたのですが、オックスナードのプラント建設プロジェクトのマネジャーであるジムが、
「一応僕がこの仕事のマネジャーだけど、実務はそれぞれのチームリーダーに任せてるんだ。文書管理はそこのロバートが責任持ってやってくれてるし。」
すると私の隣に座っていた若手エンジニアのロバートが、笑いながらこう言いました。

The buck stops there, though.
最終責任はそちらが取るけどね。

The buck stops here というのはかつてトルーマン大統領が使って有名になった表現です。そもそも pass the buck(責任を転嫁する)という言葉があって、これをもじったわけ。「俺のところで責任は止まる」つまり「最終責任は俺にある」という意味です。ま、大統領なんだから当たり前っちゃ当たり前なんだけど。

問題は、何故 Buck(バック)なのか。Buck は1ドル札のことも指すのですが、それだとこの表現全体の意味が分からない。ちょっと調べてみたところ、またしてもこれがポーカー絡みの語源を持つらしいことが分かりました。

19世紀後半、アメリカではポーカーの人気が高かったのですが、いかさまが横行していた。それがもとで殺し合いが絶えなかったので、親は目印としてナイフを持つことになった。そのナイフの柄には大抵、鹿の皮 (Buck) が使われていた。Pass the buck は文字通り次の親にナイフを回す行動で、ここでポーカーの親と「責任」とが繋がるわけ。後にこのナイフが1ドルコインに取って代わられたので、今でも1ドル札をバックと呼ぶのですね。

トルーマン大統領はこのThe buck stops here! で知られているのですが、ロバートは昨日、これをちょっぴり変えて使ったというわけ。

こういう英語表現って、きっとアメリカを一歩出たら通用しないんだよなあ。

2010年8月26日木曜日

Digress 横道にそれる

今日はプロジェクトレビューのための電話会議がありました。ベテランPMのダグが現状を説明していたんですが、突然黙ってからこう言いました。

Sorry. I digressed.
ごめん。横道にそれた。

このdigress(ダイグレス)、過去に何度も聞いてるのにいざ使おうとすると思い出せない単語の代表例。分解すると、di(離れて)gress(歩く)で、アクセントは「グレス」にかかります。近いうちに、このセリフを使うためにわざと話を脱線させようと企んでいます。

2010年8月25日水曜日

Wordsmith  言葉の達人

火曜の朝サクラメント支社に到着し、今回のプレゼンをコーディネートしているデニスと初めて対面しました。ラテン系をイメージしていたのですが、バリバリのアジア系。外見はほぼ中国人ですが、目ヂカラが半端じゃなく、若い頃の仲代達也を彷彿とさせます。まだ三十代だと思うのですが、全身から自信がみなぎっていて、あの若さでディレクターのポジションにいるのも頷けます。

少し遅れて到着したプレゼンリーダーのエリックは、35年の経歴を持つ大ベテラン。エリックが8分、私が12分話す段取りです。三人でスライドを一枚一枚めくりながら、合わせ稽古をしました。もともとデニスがまとめたスライドだということもあるのですが、どうも調子がつかめません。不本意ながら箇条書きを棒読みするしかなかったのですが、それでもしどろもどろ。デニスがニコリともせず、

“What’s the take-home message here?”
ここで一番重要なポイントは何?

“You lost me. It didn’t transition well.”
意味が分からなかった。流れが悪いな。

などと、容赦なく注文をつけてきます。

“I won’t buy that. You sounded like, trust me because you can trust me.”
今のは受け入れられないな。「私は信頼出来る人間です。だから信頼して下さい。」って感じに聞こえたよ。

とダメ出しされた時には、さすがにちょっと凹みました。そんな私の心の内を知ってか知らずか、彼はすかさず提案を畳み掛けます。

“We shouldn’t paint a rosy picture. We should say, there were bumps in the road.”
先行き明るいなんて思わせちゃ駄目だ。正直に、色々大変なこともあったと言うべきだ。

ここに至って、「売り込み型」プレゼンには自分の持ち合わせている語彙じゃ、全くもって不十分なんだということを悟りました。デニスはいとも簡単に、状況に即した表現を次々と繰り出して来ます。まるで倉庫一杯に工具が納められていて、必要に応じて最適な一品を棚から取り出すように。私はプラスとマイナスドライバー一本ずつしか持ってないってのに!

久しぶりに、嫌な汗をじっとりかきながら合わせ稽古を終えました。デニスは私の出来の悪さに落胆したようで、顔をこわばらせていました。この後、彼とエリックが別のミーティングのため2時間ほど席を外したので、その間にスライドに書かれた内容を、すっかり自分の言葉に書き変えてしまいました。彼らが戻って来たので再び通し稽古をしたところ、
「随分良くなったね。」
との評価。

この後、残りのメンバーのケヴィン、キース、フィル(彼らは各業務分野の重鎮で、プレゼンではQ&A対応)が登場し、一緒に夕方までリハーサルを続けました。デニスの出す細かく的確な指摘は、このベテラン陣をも唸らせていました。
「デニス、君が来て全部まとめてプレゼンしてくれたらいいのに。」
と皆で笑いました。彼はコーディネートだけやって、プレゼンには参加しないのです。あとでフィルが、
「彼は大したWordsmith だな。」
と感心していました。

Wordsmith の「スミス」は、Blacksmith(鍛冶屋)、Silversmith(銀細工師)などで使われるように、「職人」という意味。Wordsmithは差し詰め、「言葉を操る職人」とか「言葉の達人」ってところでしょう。

そして今朝、クライアントに対するプレゼンを無事終了しました。昨夜はホテルの部屋で遅くまで何度も練習したので、自信を持って喋ることができました。今回はつくづく、「売り込み型」プレゼンの大変さを味わいました。帰りの飛行機で爆睡したことは言うまでもありません。帰宅して体重を量ったら、2キロほど痩せてました。