一週間のオースティン出張から戻りました。来月中旬オーストラリアの全支社で一斉に使用が開始されるPMツールのユーザーサポートを支援するため、全米から選抜された6人のNinja達(エリック、キャリー、ズービン、ティム、アダム、そして私)が仕上げの訓練を受ける、というのが主目的。これにアメリカのITチーム、それにオーストラリア、ニュージーランド、イギリス、中東のスーパーユーザー達も加わって、30名を超える大所帯になりました。
開催地がテキサスのせいか、来る日も来る日も食事は肉中心。ポテトサラダとかコールスローが、思い出したように時々少量付け足されるのみ。奇跡的にか意図的にか、ベジタリアンの参加者がゼロだったので何の苦情も出なかったのですが、菜食主義でない私でさえこれはさすがにキツかった。みんな胃腸が丈夫に出来てるんだなあ…。イギリスから参加したベンは、この食事攻勢を「Meat Bomb(肉爆弾)」と呼んでいました。
二日目の晩には、ダラス在住のズービンが彼のワゴン車に男性Ninja達を載せて、コロラド川を見下ろす絶景スポットに連れて行ってくれました。ここにオーストラリアから来たレナータという女性社員も加わって私の前に座ったのですが、彼女が「前の晩にバーピーを100回以上やった」と発言しました。私が「バーピーって何?」と尋ねると、車内の連中が「え?知らないの?」と一斉にこっちを振り向きます。Burp(バープ)は「げっぷ」なのですが、いくらなんでも女性がゲップ百連発を誇らしげに語るわけがない。バーピー(Burpee)とは、スクワットと腕立てとジャンプを連続で行う有酸素運動メニューで、効率的にエクササイズがしたい人に好都合なのだと言います。え?何?みんなそんなこと日常的にやってんの?と驚愕する私に、他のNinja達が、俺は20回、とか僕は3分やったよ、とまるで今回予め与えられていた日課のように発表していきます。げげっ!僕だけ宿題の範囲を聞き逃してたみたいじゃんか。レナータが、
「今晩何回バーピーしたか、明日報告してもらうからね。」
と悪戯っぽい目で言いました。車内の野郎どもが、
「あまり無理するなよ。意外にキツイからな。」
と、まるで新人に忠告する先輩レスラーみたいな態度。その晩さっそくホテルのジムでやってみたところ、30秒でグロッキー。回数にして10回程度。全然駄目じゃん…。翌朝、まわりから散々からかわれたことは言うまでもありません。
木曜の晩は男性Ninja5人、再びズービンの車でオースティンのダウンタウンに繰り出します。議事堂を見学した後、バーで食事をし、最後はデュアル・ピアノ(二台のピアノ)をコメディアンみたいな男たちがガンガン弾きながら歌う懐メロ・バーへ。客はグラスを手に歓声を上げたりジョークに応えたり、知ってる歌を一緒に口ずさんだりして楽しみます。飲まない私は純粋に雰囲気を楽しみつつも、段々時間が気になり始めました。帰りの運転を頼まれているのに、眠くなって来たぞ…。11時を超えたっていうのに誰一人立ち上がろうとしないばかりか、歌手の煽りでますますテンションが上がって行きます。明日はトレーニング最終日だぞ。大丈夫なのかな…。居眠りしちゃったらどうしよう?他のNinja達をちら見するのですが、皆さん普通に楽しんでいらっしゃる。この人たちの体力、尋常じゃないぞ…。
11時半を過ぎ、さすがに痺れを切らした私がトイレに立ったのを潮に、ようやく腰を上げるNinja達。慣れないワゴン車を慎重に発進し、高速を30分ほど走らせます。間もなくホテル到着という段になって、ズービンが
「腹減った。俺、さっきあまり食べてないから。」
と、寄り道を促します。
「ええっ?今から?こんな夜中に開いてる店ないでしょ。」
と抵抗する私に、
「ワラバーガーは24時間営業だよ。」
と返します。What a burger (ワラバーガー)というチェーン店に、12時過ぎてからどやどやと入るおっさん5人組。
「ここのバーガーは最高なんだぜ!」
と大声でしきりに売り込むズービンに、客として立っていた若くてハンサムなポリスマンが、「その通り!」と厳しい顔のまま同調します。それに応えてティムとアダムは巨大シェーク、エリックはチキンナゲットを注文。そしてズービンは油ギトギトの特大バーガーにかぶりつきました。数時間前から内臓が就寝状態に入っていた私は、ブースシートに腰を下して目を開けたまま充電スタート。
深夜の活動でテンションが上がったためか幾分下ネタが増えて来た仲間たちの会話をぼんやりと聞きながら、今回のニンジャ・チームについてちょっと考えてみました。既に副社長だとか地域部門長だとかの要職にある彼等は、並外れた知力、体力、リーダーシップ、コミュニケーション能力、ユーモアセンスを実証済み。これほどのAチームの一員として選ばれた自分には、一体何があると言うのだろうか?英語力だってまだまだだし(辞書を引きつつトレーニングに参加しているのは、きっと私だけでしょう)。受講中、瞬時に的確な質問やコメントを加えていく仲間たちを横目に見ながら、ひたすら黙ってメモを取っていく私。英語を読み聞き話す、という三つのプロセスを同時に処理できないので、それだけでかなりの後れを取っているのです。じゃあどうして選ばれたんだろう…?
さて金曜日。いよいよトレーニング最終日です。午後の総括で、講師のクリスティーナが皆に感想を訪ねます。カタールから参加していた若いスーパーユーザーのピーターが挙手し、
「学べば学ぶほど、自分の知識の浅さを知って不安になります。中東地域でツールの使用開始をする時は、ここにいる皆さんの助けを借りなければいけないなあと思いました。」
と謙虚な発言をしました。確かに冷静に考えてみれば、プロジェクトマネジメントをトータルでカバーする巨大ツールをこんな短期間でマスター出来るわけなど無いのですが、私はここで、おや?と思いました。その感じ方、自分と違うぞ、と。ここまでみっちりトレーニングを受けたんだから充分務めを果たせるに決まってる、まかせろよ!と口にしかかっていた私は、ピーターのこの謙遜に違和感を感じていたのです。
「じゃあ、オーストラリアに派遣されるアメリカのニンジャたちはどう?」
とクリスティーナが我々6人に投げかけます。隣同士に座っていたエリックと私は、ほぼ同時に
“I’m ready.(準備できてるよ)”
と答えました。最後列のズービンも、イエーとか何とか奇声を上げます。そして間髪入れず、エリックの後ろに座っていたティムが、
“Bring it on!(ブリング・イット・オン)”
と叫びました。
ブリング・オンは「持って来いよ」。Itは、「困難な挑戦」という意味。「いつでも来い」とか「どんと来い」など、いろいろ和訳出来ると思いますが、この時のティムの声の調子などを加味すると、
「かかって来いや!」
くらいのニュアンスでしょう。この発言に呼応し、ニンジャ・チームが一斉に鬨の声を上げました。
「心強いわね。安心したわ。」
とクリスティーナが微笑みます。
この時、はっきりと分かりました。私がこのチームに選ばれたのは、結果を恐れずとりあえずどんな挑戦でも受けてみる、という超楽観的な性格のせいなんだなあ、と。
迷わず行けよ。行けば分かるさ。