2016年6月26日日曜日

BYOD ビーワイオーディー

数カ月前に採用した女性社員のカンチーは、ベトナム生まれのアメリカ育ち。大学を出てからわずか数年なので、下手したら自分の子供でもおかしくない年齢です。うちの息子が何事にもちゃらんぽらんなのと対照的に、常に気を張って生きている感じの彼女。打合せ中は真剣な面持ちでメモを取り、席に戻って時々読み返しては頭に沁み込ませようとする姿をよく目にします。はす向かいのデスクでパソコンに向かう彼女に声をちょっとかけると、手を止めて素早く立ち上がり、私の横まで歩いて来てさっとメモ帳を拡げます。

彼女の年齢の頃はバブル景気に浮かれ、テニスだ飲み会だ、と仕事そっちのけで遊んでいた私。日中あまりにも眠いので、休憩室で仮眠することもしょっちゅうでした。業務中の私語は普通で、同僚や先輩との会話の大半は無駄話。社員旅行先の温泉旅館に呼ぶコンパニオンの手配にも、職場の電話を平然と使っていました。「少し年増の女も混ぜといてくれよ」と、横で課長が注文したりして…。大らかな時代だったのですね。そんな私の目に、カンチーの真面目さは驚異です。あまりに真っ直ぐで、逆に心配にもさせられます。仕事と遊びの境界を少し曖昧にしておくことも、心の健康のためには大事なことなんじゃないか、とちょっぴり思う私。最近はセクハラだ何だでがんじがらめになって、冗談のひとつも言えません。そんな職場が健全だとも思えないのです。

ちょっと前のある日、彼女が携帯プロバイダーらしき相手と電話で何やら言い争っているのを耳にしたので、こんな質問をしてみました。

BYOD(ビーワイオーディー)知ってる?」

BYODとは、Bring Your Own Deviceの略で、直訳は「自分のデバイス(携帯端末)を会社に持ってくる」という意味。意訳すると、「個人保有端末の業務上使用」って感じでしょうか。要は、個人のスマホを仕事で使うことを会社がサポートするプログラムです。業務のメールや電話を社員の私用スマホから出来るようにし、会社が一定額の費用払い戻しをする。社員は二台の端末を持ち歩かなくて済む上に、会社もコストを抑えられる。しかしその代償に、個人の携帯番号は社内で公開されてしまうし、企業機密が個人端末を通して社外に漏れる危険性も高まる。

発表当初は、「公私の境界がこんなに曖昧な制度をスタートしちゃっていいのかよ?」という声が大半でした。個人情報を拡散したくないから、と頑なに参加を拒む人も多数。それが今では、まるで当たり前のこととして受け入れられている。

「何ですかそれ?初耳です。」

というカンチーに、

「個人の携帯番号を社内で公開することさえ気にしなければ、会社から払い戻しが来るんだ、これは美味しいでしょ。」

とお気楽な説明をする私。暫く悩んだ末、彼女は意を決して総務のヘザーを訪ね、書類にサインしました。

ところが一昨日、大ボスのテリーから、この件についての質問メールが届きました。

「この制度は、一日の大半を社外で過ごすようなタイプの仕事をしている人のためにあるのよ。どうして彼女にこれが必要なの?」

え?そんな条件あったっけ?急いでイントラネットを検索したところ、どうやら最近付け加えられた条項みたいです。発足当初は無条件で一斉適用しておいて、一旦制度が広まったら更なるコストカットのために条件を厳しくする、というやり口か。会社もなかなか賢いじゃないの…。

「それは知りませんでした。却下して下さい。彼女には話しておきます。」

とあっさり引き下がる私。カンチーの横にいって書類棚に腰を下しました。

“I have bad news.”
「悪いニュースがあるんだ。」

そう真顔で告げる私を見て、急激に硬直する彼女。そのあからさまなうろたえ方が面白かったので、思わず必要以上に間を取って顔色の変化を窺います。

“Please don’t cry.”
「泣き出さないでほしい。」

わざとドラマチックにトーンを落とし、更に間を取りました。激しく動揺する彼女の隣の席で、ただならぬ様子に気付いたシャノンが、何事かとこちらを振り向きます。

「大丈夫です。何ですか?ちゃんと言ってください。」

顔を紅潮させつつも、どんなに恐ろしい宣告でもしっかり受け止める覚悟を決めた様子のカンチー。

「ビーワイオーディーが却下されちゃったんだよ。そもそもオフィスワーカーには応募資格が無かったんだってさ。」

と明るく告げる私に、更に顔を赤くした彼女が言いました。

“Oh, you scared me!”
「もう、ビビったじゃないですか!」

解雇宣告みたいに深刻なニュースを想像していたであろう彼女は、大きく息を吸って安堵します。あっはっは、と笑う私に、向こうからシャノンが笑顔で、

“Shinsuke does that!”
「こういうことするのよ、シンスケは!」


年齢の近いシャノンはちゃんと分かってくれているのですが、このおふざけが若いカンチーに好意的に受け取られたかどうかは謎です。人事に訴えられませんように…。

2016年6月19日日曜日

Big Kahuna 大物

南カリフォルニアとハワイ地区を統括するP氏が、Town Hall Meeting(タウンホール・ミーティング)のためにサンディエゴ支社を訪れました。就任から数カ月経って引き継ぎも終わり、いよいよ支社巡りを開始したようなのです。タウンホール・ミーティングとは、要職にある人物が大勢の人と対話するための集会。ランチタイムに150人ほどの社員を大会議室に集め、前四半期の業績と今後の展望などについて話します。三月に行った就任挨拶のカンファレンスコールでは、軍服姿が目に浮かぶような高圧的口調でした。しかし実際会ってみると、普通に身なりの良い、物腰柔らかな紳士です。ノーネクタイの純白シャツ、見る角度によって光る場所が変わるシルク混じりっぽい紺ジャケット。眼光こそ鋭いものの、演説の端々に軽いジョークを絡ませるなどして、集会は終始和やかに進みました。

「昨年までテキサスの建設会社でCEOを務めていました。しかし皆さんが働くこの会社の目覚ましい成長を知り、自分がキャリアの終盤を過ごすのはここしかない、と転職を決意したのです。」

更なるステップアップのためにCEO職を捨てるのか。しかも他州に引っ越してまで。よっぽど上昇志向が強いんだなあ…。彼はしきりに、我が社がどれほど強大で競合他社の脅威になっているかを繰り返します。特にカリフォルニアにおける環境分野の業績は群を抜いているらしく、こんな表現を使いました。

“We are the biggest kahuna in the environment business.”
「我々は環境部門では一番のビッグ・カフーナだ。」

Big kahunaというのはよく使われる表現で、先日同僚ディックに解説をお願いしたところ、ハワイの波の神であるカフーナが語源で、「ビッグ・カフーナ」は「大物」という意味だそうです。

“We are the biggest kahuna in the environment business.”
「我々は環境部門では一番の大物なんだ。」

辞めて行った社員の多くは、会社が大きくなりすぎて自分の存在がどんどん小さく思えて来る、という心情を吐露していました。P氏はこれと真逆のメンタリティーを持っているのですね。

三時からは、Coffee with Managers(マネジャー達とコーヒーを)と題した別のミーティングがあり、12名ほどの社員が中会議室に集められてP氏と対面しました。誰がどう選んだのか、メンバーには部下のシャノンと私が含まれています。P氏はまず、出席者の在籍年数や専門分野を尋ねました。次に、普段不満に思っている点、改善したい点などを順番に話させ、しきりにメモしています。

ITサポートの質が落ちています。一般的なサービスはともかく、専門分野のソフトウェアなどについては問題解決に異常に時間がかかります。」

「プリンターをキャノンからゼロックスに替えてからというもの、印刷物の質が落ちています。コスト削減のために品質を犠牲にした良い例だと思います。」

「オープン・オフィスが嫌だと言って辞めて行った社員が結構います。個室オフィスを撤廃することで、優秀な人材を確保しにくくなった点は否めないと思います。」

この話題には沢山の出席者が食いつきました。しかも揃ってネガティブな意見。部下たちと世間話を楽しめるオープンな環境をいたく気に入っている私は、思わず割って入りました。

「職種によると思いますよ。プロジェクト・コントロールのようなサポート職は、人が質問しやすい環境に身を置いた方が仕事しやすいですが、エンジニアのように長時間の精神集中を要求される職種には試練ですよね。」

私の目を見て、満足げに頷くP氏。

「お楽しみ企画やボランティア活動に、めっきり人が集まらなくなりました。社員同士のつながりが希薄になっている気がします。」

こう発言したリタは、日頃から率先して勤務時間外のイベントに参加するタイプ。確かに振り返ってみれば、私自身も最近は、多忙にかまけて食事会企画などが出来ずにいます。いいポイントついてるじゃないか、リタ…。この後、彼女の発言を引き継ぐ形でシャノンが言いました。

「効率追求が行き過ぎて、みんな忙しさが極まっているんだと思います。私も毎日夕方になるともうヘトヘトで、余力が全然残っていません。何か楽しい行事に誘われても断るしかないんです。忙しさの原因の一つは、ランチタイムに開かれるトレーニングやミーティングの増加です。社員の稼働率を落とすなというプレッシャーが強すぎて、プロジェクトに時間をチャージ出来ないような集まりは、最近みんなランチタイムに開かれるんです。一週間の昼休みが全部仕事で埋まってしまうことも珍しくありません。そもそもお昼休みは休むためにあるのに、全然休めないんです。」

じっと聞いていたP氏が、皮肉な微笑みを浮かべながらこう返します。

「私もついさっき、みなさんのランチタイムを奪ったばかりだね。それは申し訳なかった。」

「いえ、今日だけのことじゃないんです。これは最近の傾向なんです。」

慌てて補足するシャノン。

「分かってる、これは由々しき傾向だ。何とかできないか考えてみるよ。」

と笑うP氏。

意図せぬ事とは言え、ビッグ・カフーナに公然と盾突いた彼女を称え、暫くこの話題でシャノンをいじりました。その度に顔を赤くして、

“Am I in trouble?”
「まずいこと言っちゃったかしら?」

と不安そうな彼女。

実はそうやってからかいつつも、すっかり感心していた私でした。日和見的な発言でお茶を濁した私と違い、大物相手でも怯まずアグレッシブな態度で臨んだシャノン。彼女のような人こそが、本当の大物なのだと思います。


2016年6月12日日曜日

You are the man! あんたが大将!

南カリフォルニアの大規模プロジェクト獲得に向けた会議のため、二十人を超す社員が先日オンタリオ支社に集合して二日間議論しました。数年前に買収されたエンジニア部門がデンバーからやって来て、そこのトップP氏がまず高らかに宣言します。

「これはうちの部隊がリードする仕事だ。プロジェクト・コントロールはうちのジャックが仕切る。」

クライアントの主要メンバーや対象エリアの特性を知り尽くしている我々環境部隊は、この強引なやり方に釈然としない一方、何か政治的な駆け引きが裏で動いているようなので、下手に反論できません。中でも私は一番下っ端なので、周りのサポートが無ければ発言も出来ない。

会議中何度か、うちの重鎮ブレントや司令塔のマイクが、

「その仕事はシンスケが…。」

と切り込むのですが、すかさずP氏が

「いや、それもジャックが担当する。」

と被せて来るので、このプロジェクトに自分の居場所は無いな、とさすがに鈍感な私でも勘付き始めました。そしてそのうち援護射撃も打ち止めとなり、私は貴重な二日間をただただ黙って座り通したのです。人をバカにするにも程があるぞ。必要無いなら最初から呼ぶなよな。デンバーのジャックに全部任せるって言うなら、勝手にそうしてくれよ。大体そのジャックとやらも、二日間姿さえ見せなかったじゃないか。初日に数時間電話で会議に参加しただけで中心人物扱いとは、笑わせるぜ!

二日目の会議終了後、握手しながら談笑する人々を横目で見つつ急いで立ち去ろうとする私に、マイクが

“We’ll need to talk.”
「後でちゃんと話そう。」

と小声で言いました。

それから数日間、プロポーザル・チーム間に飛び交う一斉メールがインボックスに雪崩れ込んで来ましたが、私は完全無視。いずれ正式にチームから抜けようと心に決めて、他の仕事に集中しました。

水曜日、マイクから電話が入ります。プロポーザル準備の進め方について相談したいとのこと。

「僕にまだ何かやることが残ってんの?」

と尋ねる私に、マイクが、

「分かってる。確かにあの会議はひどかった。やる気が出ないのも理解出来るけど、俺たちには君が必要なんだ。」

となだめます。

「あのさ、正直言ってもう情熱湧かないんだよね。どう転んだって、プロジェクト・コントロールのポジションはジャックっていう人が担当するわけでしょ。その人に任せればいいじゃん。」

「本気で言ってんのか?環境分野の経験が無い人間に、俺たちの仕事のスケジュールや積算が出来るわけないだろ。はっきり言って、彼等エンジニア達は環境部門を甘く見てる。このプロジェクトの行方を左右するのはうちの仕事なのに、それが分かってないんだ。そんな奴等に、全てを任せられるわけないじゃないか。」

「いや、手伝わないと言ってるわけじゃないんだよ。必要なことがあればそう言ってよ。ちゃんとやるから。」

当初の熱がすっかり冷めてしまっているのを私の口調から感じ取ったようで、マイクがこう提案します。

「ブレントを加えてもう一度話そう。」

夕方、この日二度目の電話会議。公家さんのようにおっとりした口調で、重鎮のブレントが諭します。

「シンスケ、あの会議での君の扱われ方は不当なものだった。本当に申し訳なく思ってる。でも君も分かってる通り、我々が絶対の信頼を置いているのはデンバーのジャックじゃない。環境部門のメンバー全員が、君を頼りにしてるんだ。カマリヨ支社でのキックオフミーティングでは、君のアドバイスにみんな感銘を受けてたんだよ。」

そして彼が、こうキメます。

“To us, you are the man!”
「我々には、ユー・アー・ザ・メ~ン!」

このYou are the man!というのは、「あんたが一番!」とか「あんたが大将!」という褒め言葉です。

「どうか引き続き、我々をリードしてくれないか?」

ブレントの説得で俄然やる気を取り戻した私は、残業して環境部門のスケジュールを仕上げ、翌日彼等に提出しました。

その日の夕食の席、妻子に今回の顛末を話して聞かせました。

「我ながら大人げなかったなあ、と思うよ。マイクやブレントがそこまで持ち上げてくれなかったらやる気が出ないっていうのは、プロとして未熟だよね。」

すると14歳の息子が、

「なんか、トイ・ストーリーみたいだね。」

と笑います。

「え?なんで?」

キョトンとする妻に、息子が説明します。

「ほら、バズが登場した時、それまでずっとアンディの一番のお気に入りだったウッディーがさあ…。」

「あ、そうか。すねちゃったんだよね。」

と妻。

すねちゃった…。確かに私の態度を一言で表現したら、こういうことですね。

なんか、めちゃくちゃ恥ずかしいじゃないか…。


2016年6月5日日曜日

Web Thinking ウェブ的思考

金曜の朝。オフィスの地下駐車場に到着してiPhoneをチェックすると、東海岸のパットからメールが入っていました。

「どうしてる?久しく会話してないなって気が付いて、連絡してみようと思ったの。」

彼女は本社の上席副社長。社内でプロジェクト・コントロールの組織を正式に立ち上げるために雇われた腕利きです。直接顔を合わせたことはないのですが、イントラネットの社内ニュースで彼女の活動を知り、興味を持った私が数か月前にメールで質問したことから交流が始まりました。これまでに、ほぼ月一のペースで情報交換をしています

「5分後にこちらからかけるね。」

と返信してエレベーターに乗り込みます。自分の席についてコンピュータを立ち上げ、ヘッドホンスタイルの受話器をかけて電話をスタート。

「一カ月ぶりにスケジュールがポカッと空いたのよ。」

「僕も昨日、ちょうど急ぎの仕事が終わったところ。」

北米南部地域でのパイロット・プロジェクトの進展具合や、会社トップとの調整状況を細かく語ってくれるパット。

“This is strictly confidential.”
「これは絶対に秘密なんだけどね。」

と、かなりヤバそうな内輪話をどんどん打ち明けてくれます。彼女のポジションから見れば、私なんか相当な下っ端です。しかもたった数カ月の付き合い。そんな私をなんでここまで信用してくれるのか首を傾げたくなりましたが、きっとこちらが提供する情報に対する見返りをしなきゃという義務感なんだろうな、と勝手に推察する私。

30分ほど内部情報をシェアした後、私の近況を尋ねるパット。

「先週R氏がサンディエゴに来たんだよ。」

「そうらしいわね。どうだった?彼の印象は。」

「相当優秀みたいだね。プロジェクト・コントロール界じゃ、間違いなく大物だと思うよ。西海岸地域のPM達をサポートするために、ガイドラインやテンプレートをどんどん提供するぞ、と意気込んでた。でもね。」

私は思い切って、彼の人物評を付け足しました。

「正直、彼から良いバイブレーションは受け取れなかったんだ。一時間ミーティングしたんだけど、そのほぼ9割は、彼がどれほどの業績を上げて来たかという話に終始したんだもん。」

「やっぱり?私も数回会ったんだけど、残念ながら同じ印象を受けたわ。ちょっと心配よね。それに彼のアプローチって、問題を特定して分析し、ツールやトレーニングという形の解決策を提供して一丁上がり!でしょ。結局のところ、PM達に全てを押し付ける格好じゃない。私の方法論は違うの。PM達が安心して仕事が出来るように包括的なサポート環境づくりをする、というものだから、短期間ではあまり効果が期待出来ないのよね。そんな悠長なことやってられないって批判を受けても仕方ないんだけど、私はそれがベストだと思ってるの。」

「僕がやってるのも、そっちの方だよ。」

「そうなの?具体的に聞かせてよ。」

南カリフォルニアのプロジェクト・コントロール・グループをじわじわと拡大中で、隔週のカンファレンス・コールを使って情報交換し、PMツールのトレーニングも適宜実施。現在総勢14名になっていることを説明しました。

「僕以外は全員女性なんだけどね。どういうわけか。」

と付け足すと、彼女がすかさず、

“Because women are detail oriented!”
「そりゃ女性は細かい仕事が得意だからね!」     

と語気を増します。

「そうだ、こんなフレーズ知ってる?」

とパットが教えてくれたのが、これ。

“Men are a linear thinker. Women are a web thinker.”

複数形のMenWomenを単数形のbe動詞で受ける、という特殊な英語表現である点はひとまず置いて、その意味するところはなかなか含蓄あり、です。

「男性は直線的思考をし、女性はウェブ的思考をする。」

ウェブ的思考(Web Thinking)、というのは初耳。後で参照元を調べたところ、これはHelen Fisher (ヘレン・フィッシャー)という人類学者の造語で、女性のリーダーがどういう点に秀でているか、という論の中で使われています。男性というのは一度にひとつの事象に集中するのが得意で、今のステップが終われば次へ行き、ゴールまで順々に進む、という直線的な思考をする。それに比べて女性は、まるでウェブ(蜘蛛の巣)のようなアプローチを採る。連続していない複数の事象を同時に捉えて処理していく。時間はかかるが抜けが少なく、曖昧さも受容出来る。女性の脳というのは男性脳と較べ、右脳と左脳を繋ぐ神経経路が多いというのがそれを支えている要因だとか。

「なるほど、スゴイ表現だね。あらゆることがこの一言で説明つくよ。」

「そうでしょ!」

帰宅して、さっそく妻にこの話をしてみました。14歳の息子は水筒やら上着やらをあちこちに忘れて帰って来て彼女にしょっちゅう叱られているのですが、同時に複数のことを考えられない男性脳特有の直線的思考が原因だと分かれば、怒りもちょっとは和らぐでしょ、という私のコメントを、

「何言ってんの?全部その直線上に並べればいいだけじゃん!」

と一喝。

我が家の女性脳は、なかなかシビアです。