先週水曜はオレンジ支社へ日帰り出張。建築部門のブライアンと、来月の監査準備のことでミーティングしました。私がPMを務めるプロジェクトが三件ほど監査対象に挙がっているので、これをどうするか、という話。そのうち二つは実質的に終結してるので、システム内で正式に閉じてしまおう、という結論になりました。残り一件は監査対象外になることがほぼ確実だというので、ほっと一安心。
「ところでさ、なんで君がこんな取りまとめしてんの?前から監査の担当だったっけ?」
と尋ねる私に、首をゆっくり左右に振りながら溜息をつくブライアン。
“I got shanghaied in!”
「上海されちまったんだよ!」
彼の顔は上気し、いかにも憤懣やるかたなし、といった表情。
「ロスにいるコリー、知ってるだろ。ちょっと昔、同じ部署にいたことがあるんだよ。先週あのおっさんから電話が来て、監査の話題になったと思ったら、いつのまにか俺がオレンジ支社の取りまとめ係にされてたんだよ!」
以前から気が付いていたことですが、ブライアンというのは何かにつけて長々と文句を垂れるタイプの男で、彼の毒舌を日本語で吹き替える場合は、江戸っ子のべらんめえ口調がぴったり。
「あのさ、さっき何て言ったの?上海とか何とか。どうしてこの文脈で中国の地名が出て来るの?」
意表を突く質問だったようで、顔を紅潮させたまま黙るブライアン。
「ああ、それは本人の意思に関係なく連れて行く、つまり拉致するってことだよ。」
つまり、意訳するとこういうことですね。
“I got shanghaied in!”
「拉致られちまったんだよ!」
ブライアンの喋りのスタイルに、これほどお似合いの言い回しは無いなあ、と感心する私。
「でもなんで上海?そんな恐ろしい意味で自分とこの地名使われたら、住民は嫌な気分だろうね。」
「なんでかは知らねえな。ちょっと待ってろ。調べてみる。」
彼がネットで検索した結果、「かつて上海では船乗りを集めるのに合法的ではない手段を使った」というのが語源だと分かりました。
「な、俺がでっち上げた表現じゃなかったろ?」
と得意顔のブライアン。
翌日、サンディエゴ支社で残業していた同僚ポーラと世間話をしていた際、このエピソードを振ってみました。彼女は私の知る中で、最も上品なアメリカ人。
「今度のサンクスギビングには友人夫婦たちと皆でお料理した後、引き潮の時間帯に近くの砂浜を散歩する予定なの。」
という、何とも優雅な話題の後でしたが、こんな彼女でも「上海される」みたいな表現を使うことがあるのかどうかを知りたくなったのです。
「そうねえ、私は使ったことないわね。」
と微笑むポーラ。
「どういう意味かは知ってるの?」
と私。
「ええ、知ってるわ。こういうことでしょう。」
とポーラが別の表現を持ち出しました。
“I got roped in.”
「縄で縛られちゃったのよ。」
う~ん、さすがポーラ。お上品だぜ~。