2015年11月23日月曜日

Shanghaied 上海される

先週水曜はオレンジ支社へ日帰り出張。建築部門のブライアンと、来月の監査準備のことでミーティングしました。私がPMを務めるプロジェクトが三件ほど監査対象に挙がっているので、これをどうするか、という話。そのうち二つは実質的に終結してるので、システム内で正式に閉じてしまおう、という結論になりました。残り一件は監査対象外になることがほぼ確実だというので、ほっと一安心。

「ところでさ、なんで君がこんな取りまとめしてんの?前から監査の担当だったっけ?」

と尋ねる私に、首をゆっくり左右に振りながら溜息をつくブライアン。

“I got shanghaied in!”
「上海されちまったんだよ!」

彼の顔は上気し、いかにも憤懣やるかたなし、といった表情。

「ロスにいるコリー、知ってるだろ。ちょっと昔、同じ部署にいたことがあるんだよ。先週あのおっさんから電話が来て、監査の話題になったと思ったら、いつのまにか俺がオレンジ支社の取りまとめ係にされてたんだよ!」

以前から気が付いていたことですが、ブライアンというのは何かにつけて長々と文句を垂れるタイプの男で、彼の毒舌を日本語で吹き替える場合は、江戸っ子のべらんめえ口調がぴったり。

「あのさ、さっき何て言ったの?上海とか何とか。どうしてこの文脈で中国の地名が出て来るの?」

意表を突く質問だったようで、顔を紅潮させたまま黙るブライアン。

「ああ、それは本人の意思に関係なく連れて行く、つまり拉致するってことだよ。」

つまり、意訳するとこういうことですね。

“I got shanghaied in!”
「拉致られちまったんだよ!」

ブライアンの喋りのスタイルに、これほどお似合いの言い回しは無いなあ、と感心する私。

「でもなんで上海?そんな恐ろしい意味で自分とこの地名使われたら、住民は嫌な気分だろうね。」

「なんでかは知らねえな。ちょっと待ってろ。調べてみる。」

彼がネットで検索した結果、「かつて上海では船乗りを集めるのに合法的ではない手段を使った」というのが語源だと分かりました。

「な、俺がでっち上げた表現じゃなかったろ?」

と得意顔のブライアン。

翌日、サンディエゴ支社で残業していた同僚ポーラと世間話をしていた際、このエピソードを振ってみました。彼女は私の知る中で、最も上品なアメリカ人。

「今度のサンクスギビングには友人夫婦たちと皆でお料理した後、引き潮の時間帯に近くの砂浜を散歩する予定なの。」

という、何とも優雅な話題の後でしたが、こんな彼女でも「上海される」みたいな表現を使うことがあるのかどうかを知りたくなったのです。

「そうねえ、私は使ったことないわね。」

と微笑むポーラ。

「どういう意味かは知ってるの?」

と私。

「ええ、知ってるわ。こういうことでしょう。」

とポーラが別の表現を持ち出しました。

“I got roped in.”
「縄で縛られちゃったのよ。」


う~ん、さすがポーラ。お上品だぜ~。

2015年11月4日水曜日

ノーサイド

ラグビーワールドカップで日本が南アフリカ相手に劇的な勝利を遂げた翌朝は、フラストレーションが溜まりに溜まりました。職場の同僚たちに、「観た?昨日の試合、日本がさ!あの南アフリカをだよ!」と興奮して話しかけても、皆きょとんとしてるんです。シャノンはもちろん、リチャードもマリアもサラもエドも、「ラグビーって何?」くらいのレベル。ほんっとにアメリカ人って、アメフト一辺倒だもんなあ!

軍にいた頃ラグビー部に所属してたという話を以前本人の口から聞いたことがある巨漢の同僚アーロンに、最後の望みをかけてトライ。しかし、

「え?何のこと?」

と軽くいなされ、無念のホイッスル。帰宅してそれを妻子にこぼしても、イマイチ共感が得られません。ああ!誰かラグビー好きな人達ととことん話したいなあ!と溜息の夜でした。

さて、今週と来週はロスの本社にべったり出張。来年から世界の全支社で使用が開始される新PMツールのテスターとして約30名の社員が選抜され、私はアメリカ西海岸代表として出席。全米各地はもとより、香港、シンガポール、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、と様々な支社から派遣された人々と会議室に缶詰めになり、朝から晩までトレーニングとテストを繰り返します。バグを発見したり、ユーザーインターフェイスの改善点を議論したりするのが今回のミッション。

休憩時間、南アフリカから来たという白人男性社員と廊下で立ち話をしていたら、ニュージーランド代表の男性社員二人が加わりました。おお、そうだ、この時を待ってたぞ!とワールドカップの話を持ち出します。

「いやあ、ラグビーの話がしたくても、アメリカ人は誰もノッて来なくって。この国じゃ、どえらいマイナー・スポーツだからねえ。」

と私。南ア代表の男は、眼鏡をかけた色白のインテリ風。スポーツマンとは程遠い外見だったのですが、

「日本はすごく強くなったよね。体格も大きくなったし、スピードもすごいよ。」

と静かに論評します。対南ア戦の話題を出したところ、

「ああ、あの日は街中どこへ行っても皆死んだように落ち込んでたよ。」

と答えました。ニュージーランド代表の二人(巨漢の白人と中肉中背で褐色の男性)は、優勝国らしい余裕綽々の笑顔で、日本がいかに強くなったかを述べました。南アの男は、エディ・ジョーンズ監督の殊勲に触れ、

「彼は今度南アに移ってストーマーズのコーチをするんだよね。」

と微笑みます。ニュージーランドの二人は、日本代表チームに所属する複数の選手名を挙げ、「彼等はニュージーランド出身なんだよ。」とコメントします。ニコニコしながらもこの三人、「ラグビー好きなのは当たり前。大事なのは知識の深さでしょ。」という威圧感を漂わせています。よ~し、ここは日本代表として負けていられないぞ、と気合を入れる私。

近年、各国のチーム力が拮抗して来たことに触れ、

2013年にスクラムのルールが改正されたのが大きかったかもね。」

と思い切ってカマします。これは、スクラムの際に離れた位置からぶつかるのではなく、まずプロップ同士がしっかりジャージをつかみあってから組む、という方法にルールが変わったことを指していたのですが、三人ともゆっくり頷いて、

「ぶつかる力よりも、組んでからの勝負になったからね。それより、余計な怪我が減って良かったよ。」

と微笑みます。おっと、みんなこれ知ってたか。やばい、もう出す札が無いぞ。「ラグビー好き」と言っても、松尾、平尾の頃の知識で食ってるだけだからなあ。

南アの男が、日本代表の躍進ぶりについて再び語り始めたので、私が

「今、世界ランキング12位くらいかな。」

と言うと、ニュージーランドの大男が、

「いや、10位まで上がってると思うよ。」

と訂正します。え?そんな数字もチェックしてんの?ちょっと前までは日本なんて世界ランキングの話題にも入らなかったからねえ、と私が笑うと、南アの男は冷静に、

1995年のワールドカップでは、ニュージーランド相手に14517で大敗してたくらいだからねえ。」

とコメントします。おお~っ!過去のゲームのスコアまで暗記してんのか!ニュージーランドの二人は、

「笛が鳴ると数秒後にはトライっていうのを際限なく繰り返す感じだったからね。あの試合は本当にすごかった。」

と笑顔。ううむ、こりゃ知識量の差が半端じゃないぞ。

聞けば三人ともプレー経験があり、「男子なら全員、四の五の言わずにラグビー部」という環境で育ったそうで、そりゃ太刀打ちできるわけがありません。日本代表の私は、ラグビー大国たちに完膚なきまでに叩きのめされ、すごすごと引き下がったのでした。その時ニュージーランドの大男が、上の方から優しい声でこう言いました。

「ラグビーの醍醐味はさ、試合が終わると同時に敵も味方も無くなって、良い試合だったねってお互いを称え合うところなんだよね。」

じわっと来ました。そうだ、この「ノーサイド」の精神が、自分がラグビーを愛する一番の理由なのかもしれないな、と思い出しました。ラグビー「あるある」合戦では完敗だったけど、強豪国の人々と楽しく語り合えたことで、とてもハッピーになったのでした。