金曜の昼、オフィスの引っ越し以来すっかり疎遠になっていた同僚ステヴと、久しぶりにバーガーラウンジへ行きました。彼とは別の階に落ち着いたため、話す機会が著しく減っていたのです。
テラス席を陣取り近況報告を交わす中で、彼が奥さんと一緒にシアトルへ行って来たという話題が出ました。Mad Season
(マッド・シーズン)というロックバンドが一夜限りの再結成コンサートを開くという情報をゲットし、一も二も無く飛びついた、とのこと。これに彼も同行したのだそうです。
サウンドガーデンのクリス・コーネル、パールジャムのマイク・マクレディ、ガンズ・アンド・ローゼズのダフ・マッケイガンなどのスター・プレイヤー達が一堂に会してのコンサートで、昔からパールジャムの大ファンである奥さんは「一生に一度かもしれない」このチャンスを絶対逃したくなかったのだと。
きっと有名な人達なんだろうし、イベントの希少価値もすごいものなんだろうけど、彼らの音楽に関する知識ゼロな私には、その素晴らしさがイマイチ伝わって来ません。
きっと有名な人達なんだろうし、イベントの希少価値もすごいものなんだろうけど、彼らの音楽に関する知識ゼロな私には、その素晴らしさがイマイチ伝わって来ません。
「俺は彼女ほど期待してなかったんだけど、クリス・コーネルの圧倒的な歌唱力にはぶっ飛んだよ。」
「ふ~ん、知らないな、その人。」
「シンスケだったら絶対知ってるって。007のカジノ・ロワイヤルって映画のテーマソングも歌ってたんだぜ。」
彼はスマートホンでわざわざ曲を探し出して聴かせてくれたのですが、やっぱりピンと来ない。彼ら夫婦が大興奮のうちにシアトルの宵を過ごしたことが頭では理解出来ても、何故か心に届かないのです。
「あのさ、関係ない話になっちゃうんだけどね。」
私は解ろうとする努力を放棄し、話題を変えました。
「さっきパールジャムってバンド名が出たでしょ。ジャムって果物の瓶詰っていう名詞の他に、動詞があるよね。数日前にある人から、こういうメールが届いたんだ。その意味がイマイチ分からなくってね。」
私がPMを務める設計プロジェクトでディレクターをやっている、ビバリーからのメール。
“Are you available to talk now? John and I are jamming in the EAC.”
「今話せる?ジョンとEACにジャムしてるんだけど。」
EAC というのはEstimate
at Completion (最終予測値)の略ですが、これにジャムするというのはどういうことだ?急いでオンライン辞書をチェックしたのですが、最適な訳が見つかりません。どうやら、何か狭いスペースにたくさんの物を詰め込む様子を表す言葉みたい。コピー機が紙詰まりした時に「ジャムした」っていうけど、ビバリーのメールからはそれほど悲壮な様子が窺えません。
「ミュージシャンが譜面も持たずに何人か集まって即興でノリノリ共演する、みたいな時にジャムするっていうでしょ。でもこのケースにはちょっと当てはまらないよね。」
と私。暫く考えたステヴが、こう答えました。
「俗語的な用法だから、辞書には載ってないと思うよ。今回の場合、数人で集まって脇目も振らずに大量の仕事を片付けるということだね。ジャズ・ミュージシャンみたいに一種のゾーンに入って力を合わせることで、驚くべき生産性を実現するようなケースに使うフレーズなんだ。We’re
jamming on the data analysis. (皆で没頭してデータ解析に取り組んだ)とかね。」
「ふ~ん、そうなのか。でもなんで辞書に出てないのかな。」
「まだ一般に流通していない表現かもね。そういうの、英語にはいっぱいあると思うよ。」
実は別の同僚三人にも同じ質問をしたのですが、皆同じ説明をしてくれたのです。それほど誰もが知ってるフレーズなら、辞書に載っててもいいと思うんだけど…。なんだかどうも納得いかない話です。
その時ステヴが、ハンバーガーをつまんだ手を止めて、パッと顔を輝かせました。
「もしもコピー機数台が楽器を抱えて演奏している漫画があって、そこにWe are
jamming. (俺たちジャムしてるんだぜ。)ってタイトルが書いてあったら笑えるよね。」
笑顔で、何度もThat's funny. と繰り返すステヴ。
う~ん、それって面白いか?
最初から最後まで、「イマイチ伝わらない」会話の続いた金曜日のランチタイムでした。
(ちなみに、そういう漫画、存在してました。)