先週月曜、サンディエゴ地域の三支社が統合し、ダウンタウンの新しいオフィスに移りました。私の席は、港を望む絶好のロケーション。コンピュータ画面をにらみ続けるのに疲れたら、ちょっと右を向いて景色を楽しめます。隣の席との間には視界を遮るものが何も無く、日本で働いていた頃の島机を彷彿とさせます。私の周囲は何故かすべて女性社員。左隣は過去10年来の友人でもあるべス。二人とも猛烈に忙しく、折角お隣さんなのに、初日からほとんど会話するヒマがありません。
今朝も私が6時過ぎに出勤したところ、10分ほどして彼女がやって来て、挨拶もそこそこに戦闘開始。いきなりフルスロットルで仕事に没頭します。ところがその出鼻をくじくように、メールが一本飛び込みました。
「オンラインのセクハラ・トレーニングを受講して下さい。締切は...。」
思わずイラッとした私は、唸り声を上げてしまいました。これ、二年前にも受けたじゃん。数日前にも「Ethical
Conduct(倫理的行動)のトレーニングを受けて下さい」というメールが来たばかりなんだぜ。ただでさえ目が回るほど忙しいのに、同じようなトレーニングを何度も受けさせるなよ!
「大体さ、何をしたらセクハラになるのかなんて、一回聞けば分かると思うんだよね。なんでこう度々同じ話を聞かされなきゃならないのかな。」
と毒づく私に、
「そうよね。行動がどうと言うよりは、被害者の側の心証が大事なのにね。」
それからひとりしきり、セクハラ話で盛り上がる二人。私が日本で働き始めた当時、職場のオジサンたちの机には、生命保険の外交員に貰った卓上ヌードカレンダーがあったけど、誰も気にしてなかったよ、とか。
「最近じゃ、女性社員相手の発言には毎回かなり神経使うよ。」
「反対に、女性が男性にセクハラっていうケースもあると思うわよ。例えば、昨日オンタリオ支社のボブが会議でこの支社に来たでしょ。久しぶりの再会だったから私、思わずハグしちゃったじゃない。後でね、もしかしたら彼はイヤだったかも、って心配になったわ。」
「なるほどねえ。それは考えなかったなあ。」
「難しいのは、何の下心も無いのに相手から誤解されちゃうケースもあるってことよね。」
とべス。
「たとえば、私の席の左側にぶらさげてあるミッスルトウを、シンスケと私の机の間に飾ったとするでしょ。それを私からのセクハラだと受け取るってことだってあり得るじゃない。」
は?ミッスルトウ?セクハラ?
Mistletoe (ミッスルトウ)とは、日本語ではヤドリギのこと。昨日の午後、総務のトレイシーが、
「リンドンが現場で拾って来たMistletoe を、ランチルームの大テーブルに置いておきました。欲しい人はご自由に。」
と皆に一斉メールを送信。べスはそこから一本頂戴して来た、というわけ。しかし私には「ミッスルトウ」が何のことかさっぱり分からず、わざわざ聞きに行ったのでした。
「クリスマスの飾り付けに使うのよ。」
とトレイシー。
「ちょっと可愛いでしょ。」
「ほんとだ。何だかちょっと愛らしいね。」
ミッスルトウが何かはこれで分かりました。でも、何故べスはこれをセクハラ話として持ち出したのか。解説をお願いしたところ、
「クリスマスには、ドアの上とかにこれを飾るの。でね、この下に立ってる女性にはキスしていいっていう習慣があるのよ。だから、もしも私がシンスケと私の机の間にこれをぶらさげておいたら、私がキスを強要してるんじゃないかって勘繰る可能性もあるじゃない。」
ええ~っ?そんな展開?
アメリカ生活長いけど、こんな話は初めて聞きました。知らないというのは恐ろしいなあ…。
さて、午後になって上階のジェイソンを訪ねました。彼の周囲は、私と好対照なまでに男所帯。真向いはリチャードです。
「ねえ、ミッスルトウの下に立ってる女性にはキス出来るっていう話、本当なの?」
と男二人に質問したところ、どちらも真顔で頷きます。
「相手もキスを期待して立ってる確率は高いと思うよ。」
とリチャード。今朝のべスの発言を紹介したところ、
「ちょっと無理のある展開だけど、絶対無いとは言えないケースだね。」
とジェイソン。間髪入れず、リチャードがこう言いました。
“I’ll have mistletoes on my belt buckle.”
「ベルトのバックルにミッスルトウをぶら下げておこうっと。」
久しぶりに職場で聞く、百パーセント混じり気無しの下ネタでした。
私のデスクでこの発言をしたら、間違いなく人事部に呼び出しを食らうことでしょう。