同僚ティファニーがプロジェクト・コントロールに興味を持っていると聞いたので、うちのグループへの勧誘を目論んで短いミーティングをしました。
彼女のリスクマネジメントに関する知識は図抜けています。チームに加われば強力なメンバーになるでしょう。彼女のお父さんはネイビーシールズ(海軍特殊部隊)を退役した元軍人、お母さんは現役看護師。婚約中の男性も、アフガニスタン出征経験を持つ現役軍人です。
「子どもの頃から父を見慣れてるから、彼氏の行動パターンも良く理解出来るの。」
この婚約者はとにかく眠りが浅く、夜中に外で微かな物音がしただけでも敏感に反応して目を覚ましてしまうのだそうです。
「音の出所を確認するまでは眠れないの。だから真夜中でも構わず出かけて行くわ。アフガニスタンで四六時中敵の奇襲を警戒しながら暮らしてたから、当然よね。」
相手がお父さんでも婚約者でも、睡眠中に身体に触るのはタブーだそうです。どんな怪我を負っても、それは触った側の落ち度と見なされるらしい。
そんな彼女も、用心深さにかけては異常です。自宅のドアには金属の枠が据え付けてあり、訪問客からは見えないけど手の届くところにスタンガンが隠してあるのだと。先日もセールスマンを名乗る怪しい男が訪ねて来て、薄く開けたドアの隙間から部屋の中をじろじろ覗き始めたので、もしも侵入しようとドアに手をかけたらスタンガンを金属部に当てて電気ショックをお見舞いしてやろうと待ち構えていたそうです。
「父がそういう人だから、知らず知らずにそんな風になっちゃったの。たとえば家族でレストランへ食事に行くでしょ。父は絶対壁を背にして座るの。人が背後を通るのは堪えられないのね。そして必ず、ドアが見えるところに座るわ。」
「え?それはどうして?」
「店に入ってくる人をひとりひとりチェックするためよ。」
全く同じ行動を、彼女の婚約者も取るそうです。
「じゃあさ、野山へハイキングに行くとするじゃん。危険な野生動物なんかもあらかじめチェックしたりするわけ?」
と冗談半分に尋ねる私。するとティファニーは、様々な動物の生態や攻撃力などについて真顔で解説してくれました。ほとほと感心しつつ、
「Mountain
Lion (日本語ではピューマ)はどう?ほら、数年前にオレンジ郡でハイキング客が襲われたでしょ。」
と更に質問。
「あれは手ごわいわね。人間を恐れないし、木の枝に登って上から襲ってくるから。ほぼ勝ち目は無いけど、狙うとすれば目よ。とにかく執拗に目を攻撃するの。動物は目が急所なの。まあ最終的には、彼氏が武器を持ち歩いてるからそれで何とかするけどね。」
その彼氏、先日生まれて初めてカイロプラクティスの治療を受けたそうです。戦地での負傷の後遺症があるみたいで、頚椎の歪みを治してもらわなければならなかったのだとか。両手で頭を抱えられ、首をガキッと捻られた瞬間、反射的に医者の腕を掴んでいたそうです。怯える医者に、何度も謝ったのだと。
私はこのティファニーとの一連の会話中、ムズムズし通しでした。突っ込みたくて突っ込みたくて…。
「ゴルゴ13か!」
って。でも通じるわけないので、黙って聞いてました。考えてみれば、デューク東郷こそが究極のリスクマネジメント・プロフェッショナルなのですね。
コミックス読み直して勉強しようかな?