「前回の契約変更で、請求書を送った日から数えて15日以内に彼らが支払えば1%ディスカウントする、という条項が盛り込まれたのは確かだけど、契約変更の有効日は12月末日のはず。11月分の請求までさかのぼってこれを適用するのは間違いだと思うよ。」
と皆にメールを出したところ、上層部が一斉に賛同の意を表明しました。
「でも、万が一ということもあるから、一応法務部に確認するね。」
と断り、弁護士の同僚ラリーに質問メールを送ります。しかし暫く待っても反応が無いので、これはきっと不在に違いない、と彼の上司であるサラに転送。彼女はラリーに輪をかけて多忙なので、しっかりフォローアップしないと返事を貰えないぞ、という予感があり、一日おきにメールを送ることに決めました。すると、三日目にして返信が到着。締め切りのある仕事に追われているが、今週中に何とか時間を作って契約書を見直してみる、との返信。その際、こんな断り書きがついていました。
“I’ll let you know soon if I hit a snag that could slow me
down.”
「もしもスナグにぶつかって(hit a snag)さらに時間がかかるようなら、すぐに連絡するわね。」
このHit a snag というフレーズ、割と頻繁に耳にするのですが、今まであまり気にしたことがありませんでした。さっそくウェブの辞書をチェックしたところ、「暗礁に乗り上げる」とか「思わぬ困難な問題にぶつかる」という訳が多かったのですが、念のため同僚リチャードの部屋を訪ねます。「もしもスナグにぶつかって(hit a snag)さらに時間がかかるようなら、すぐに連絡するわね。」
「Speed bump (車の速度を落とさせる道路上の段差)みたいなもんだよ。やろうとしてたことがあるのに邪魔が入ってなかなか手をつけられない時ってあるでしょ。」
「そうなの?じゃ、すごく大きな障害ってわけじゃないんだね?」
「うん、ちょっとした邪魔が入るって感じかな。」
自分の部屋に戻り、あらためてsnag の意味を調べました。「沼や池の表面に顔を出した立ち木のこと」とあります。なるほど、と納得です。水面下に少し太めの幹がある木を想像すれば分かりやすい。もう一度リチャードのところに戻ってこれを説明したところ、
「へえ、そうだったんだ。」
と驚きます。ええっ?スナグの意味自体を知らなかったの?ううむ、こういうことってあるのね。気を取り直したようにリチャードが、
「それならますますさっきの説明があてはまるよ。越えられない障害ではなく、一旦ストップして方向転換をしないといけないような邪魔のことだね。」
これが「氷山に衝突した」なんて話だと、事情が大きく変わってきます。船体が損傷し、航行不能に陥る可能性もあるのですから。「立ち木」ならそこまで深刻じゃない。ウェブ辞書に載っていたような、「暗礁に乗り上げる」ほど厳しい障害とは思えません。私の和訳はこれ。
“I hit a snag.”
「思わぬ邪魔が入ってね。」
ちなみに私の日常を表現させて頂くと、こういうことになるでしょう。「思わぬ邪魔が入ってね。」
“I’m hitting a snag after snag.”
「思わぬ邪魔の連続だよ。」
さて、半ば予想していたことですが、その後二度ほど催促メールを送った後、サラからの連絡がパッタリと途絶えています。川底から鬱蒼と生い茂る立ち木群に囲まれて、立ち往生してるのかもしれません。