2013年12月31日火曜日

Frostbite フロストバイト

去年ボストンから転勤して来た同僚サラが、先日こんなメールを職場のみんなに送りました。

Brrr, watch out for frostbite people!
ブルブル、みなさんフロストバイトにご用心!

フロストバイトというのは凍傷のこと。Frost が「霜」でBite は「噛む」ですから、なんとなくイメージが湧きますね。
メールに添付されたリンクには、南カリフォルニアに訪れた寒波を報道する映像を繋ぎ合わせたものが...。

「木の葉が風に吹かれて飛んでいます!」
「髪の毛が強風で乱れてしまいます!」
「ある男性はウィンドブレーカーまで着ています。」
「スターバックスでは、店内を訪れるよりドライブスルーを選ぶ人が多くなっています。」

年間を通して温暖な南カリフォルニアの住民たちは、ちょっとした寒さにも哀れなほどうろたえてしまうのです。番組はこれを笑い飛ばしているのですね。そういう私も、家族で一番の軟弱者。寒さは大の苦手です。出来ることなら冬の無い土地で一生を送りたい…。

しかしながら、今年は有給休暇をまとめ取りし、クリスマスから元旦にかけてミシガンにある妻の実家を訪問中。昨日まで三日間は、みんなでカナダを旅行してました。ナイアガラの滝には大勢の観光客が押しかけ、耳がちぎれそうな寒さの中、大自然の迫力を楽しんでいました。

帰宅途上に立ち寄ったLake St. Clair (セントクレア湖)は完全に凍結していて、Ice Fishing (穴釣り)を楽しむ人がチラホラ。12歳の息子は大はしゃぎで氷上を歩き、釣り人たちを見に行きました。妻も平気でどんどん沖へ。私は厳重に重ね着した上、車内で義父母と暖を取りながら待ちました。なんで私はこんなにひ弱なんでしょう?

湖を去る時、今から釣りへ向かおうという出で立ちの若い男たちとすれ違ったのですが、その一人はなんと、半袖Tシャツ姿でした。ズボンが少しずり落ちていて、下着のパンツまで見えてました。ひえ~!


2013年12月26日木曜日

Work like a dog イヌのように働く

オレンジ支社に出向いた際、久しぶりにコンストラクション・マネジャーのトムに遭遇しました。

「久しぶり!どうしてた?」

という私の問いに、疲れた笑顔で彼がこう答えました。

“Working like a dog!”
「犬のように働いてるよ!」

この「犬のように」という表現、頻繁に耳にします。懸命に働いていることを意味する表現であることは大体分かるのですが、何故イヌなの?という疑問が以前から心に引っかかっていました。「雪やこんこん」で始まる歌の中に出てくる「犬は喜び庭駆け回り」という歌詞とか、名作「フランダースの犬」からは、彼らがしゃかりきに働くイメージが湧かないのですね。

さっそく同僚シャノンに尋ねます。

「あら、確かにそうね。どうしてかしら?犬ぞりの犬から来てるのかも。」

別の同僚ダイアナは、

「全然分かんない。確かになんで犬なのかしら。馬の方がしっくり来るわよね。」

と降参です。

あとで調べてみたところ、これは羊の群れを護る番犬が起源らしく、彼らが早朝から夕刻まで休みなしに働くところから、「犬のように」と表現され始めたとのこと。なるほど、それなら分かる。

サンディエゴ支社に戻って複数の同僚に確認したところ、これは非常に良く使う表現との話でした。ふと、この時聞いた相手が全員男性だったことに気付き、同僚サラにも尋ねてみることにしました。女性が「犬のように働いてる」と発言している場面に出くわしたことないし。

「うちの犬、私が止めてあげないと無茶するわよ。炎天下に長時間駆け回ったりね。自分で体力の限界が分からないみたい。だからその表現、すごく良く分かるわ。」

「君自身はI'm working like a dog. って表現、普通に使う?それとも単純にI'm working hard. って言う?」

すると彼女は急にいたずらっぽい目になり、こう言ってニッコリ笑いました。

“I hardly work.”
「ほとんど働かないわよ。」

Hard をHardly と変化させるだけで、「一生懸命に」から「ほとんど~しない」と、意味がガラリと変わってしまいます。こんな「英語学習者が使ってみたくなる」タイプの初歩的ジョーク、実際に使うネイティブスピーカーっているんだなあ、と驚いた次第です。



2013年12月20日金曜日

Pecking Order 北京オーダー?

昼過ぎのこと。若い同僚のジェイソンが私のオフィスに顔を出し、前置き抜きで問いかけて来ました。

「どう思った?」

ランチタイムに支社の全体会議があり、社員にとって目下の最大関心事である「支社大移動」の話題が出たのです。来年の夏、ダウンタウンの支社と一緒に新しいオフィスビルに大移動し、サンディエゴ・エリアの顧客に対して一枚岩のサービス体制を敷く、という計画。それ自体はポジティブな動きだし、誰もが総論賛成なのですが、問題は、各自に与えられる執務スペースが激減する、という点。

うちの支社では、大半の社員がドア付きの個室に勤務しています。今回の支社転居に伴い、ほぼ全員が個室をはく奪され、着席時に頭が隠れるか隠れないかという高さのパーテーションで仕切られただけの「オープン・オフィス」に移らなければならない。しかも一人当たり約2メートル四方のスペースしか与えられないというのです。「周囲の雑音が気になって仕事に集中できないじゃないか」などと、もっともらしい抗議をする人がいますが、本音のところは「なんで今更下っ端時代に逆戻りしなきゃならないんだ?」というプライドが、皆の怒りを掻き立てているのでしょう。

「日本で働いてた時なんて、島机に6人とか8人とかで座ってたよ。パーテーションも無いからプライバシーのかけらもなかったけど、逆にチームワークが高まったな。お喋りしながらワイワイ働くのも結構楽しいよ。」

そんな私のお気楽コメントに頷きながらも、完全には同意しかねる、という渋い表情のジェイソン。

「それは業種によるでしょ。エンジニアみたいに長時間没頭しなきゃならない職種だと、そういう環境はマイナスだと思うよ。」

「なるほど、そうかもね。」

思い返すと昼の会議中、この引っ越し計画を束ねているアルバートが「何か質問はありますか」と見回した時、ジェイソンがこう尋ねていました。

「限られた数しかない個室が誰に割り当てられるかは、どうやって決めるんですか?」

アルバートの回答がこれ。

「基本的にはペキン・オーダーだね。」

ん?北京オーダー?これ、前にも聞いたことあるぞ。どういうことだ?私の思考はそこでストップ。会議後さっそく同僚のジムを尋ね、意味を聞いてみました。

「階級に従って物事を決める、という意味だよ。今回のケースでは、お偉いさんから順に個室をゲットするってことだね。」

「そうだったの?へ~。でも一体、ペキンって何よ?」

「Pecking (ついばむ)だね。ほら、鳥が餌を食べる時の動作、分かるでしょ。」

「分かるけど、それとこれと、どういう関係があるの?」

「う~ん。それは分からない。調べてみよう!」

ジムがネットで検索した結果、エライ順に食べ物にありつくというニワトリの社会を例に取り、「組織や社会の上下関係」を表現した言い回しだと判明しました。

「なるほね。Pecking Order (餌をついばむ順番)か。僕は中国の北京(ペキン)を連想しちゃったよ。中華料理の出前を注文(オーダー)する、みたいな。関係ないよね。」

「うん、全然関係ないね。」

何はともあれ、不思議と食欲を刺激する新しい英語表現を仕入れました。

アルバートのセリフはこういうことですね。

“Basically it's by pecking order.”
「基本的にはエラい順だね。」

2013年12月13日金曜日

Sorry to get on my soap box. 石鹸箱の上に立ってごめんね。

昨日の朝、同僚ジェイソンが私のオフィスに来て話していたところ、ベテランPMのジムが神妙な面持ちでやって来ました。

“Sorry about my language yesterday.”
「昨日はひどい言葉遣い、申し訳ない。」

前日の夕方、会議室から出て来たジムとジェイソンが休憩室にやって来て、コーヒーを飲んでいた私とひとしきり立ち話をしたんです。

「今の会議、どう思った?」

と尋ねるジムに対し、当たり障りの無い返答でお茶を濁すジェイソン。

「ジムはどう思ったの?」

と尋ね返すジェイソン。するとジムは静かに扉を閉めるや否や、猛烈に毒づき始めました。

「あんな無意味な会議、二度と出席しねーよ!」

会議のテーマは「サンディエゴ地区の顧客開拓のための戦略策定」。ロスの支社から複数のお偉方が電話で参加して、ああしたらどうか、こうしたらどうか、とアイディアを出して来たそうです。

「下らん会議に費やす時間があったら、クライアントに電話の一本でもかけやがれってんだ。サンディエゴに足を踏み入れたこともないくせに。ロスの高層オフィスでふんぞり返ってたって、客は増えないだろうが!」

ジムは知り合いの中でも群を抜いて穏やかなジェントルマン。何年も一緒に働いて来ましたが、これまで一度だって声を荒げるのを聞いたことはありませんでした。彼のこの突然の「大魔神化」には度肝を抜かれましたが、よく考えてみれば怒るのも当然です。

10月に入って間もなく、彼は週40時間から32時間勤務に減給されているのです。理由は簡単、仕事量の低下。コスト削減のため、会社は営業系の人材を大量解雇。もともと不景気だということもあり、これで新しい仕事がなかなか入って来なくなりました。そんな仕打ちをしておいて、さらに「アイディア出すから営業に行って来い」とでも言うのかよ!という憤りですね。

「そういえば、あいつらしょっちゅう高いランチ食ってたなあ。」

つい最近結婚したジェイソンは、今年の初めまでロスの支社に勤務していました。奥さんになった女性は、ロスのオフィスが入っているビルのレストランでアルバイトしていたそうで、誰が何を食べていくら払ったかの情報は彼に筒抜けだったのだと。

「高給取りがあれこれ指図するだけして自分は全然手を汚さない」状態を二人で呪う会話が、それから10分ほど続きました。そしてようやく落ち着きを取り戻したジムが、笑顔になってこう言ったのです。

“That was my soap box.”
「以上、僕のソープボックスでした。」

はあ?ソープボックス?石鹸箱?なんのこと?

この後さっそく、同僚アルフレッドに確認。

「あ、それはよく聞く表現だね。」

“Sorry to get on my soap box.” っていうのが多用されるフレーズだそうです。

「石鹸箱の上に乗ってごめん?どういう意味?」

ハハハと笑ってから、アルフレッドがこう答えます。

「長々と弁舌を振るうってことだよ。」

「え?そうなの?なんでそれをSorryって謝るわけ?」

「ベラベラ一方的に喋るばかりで相手の話を聞かないからだね。」

「なるほどね。でもどうしてそれが石鹸箱と関係あるの?乗っかったら簡単に潰れちゃうよね。」

「う~ん、それは分からないなあ。」

「え?分からないの?」

自分の部屋に戻ってから調べてみました。

かつて石鹸は問屋で木箱に詰めてお店に届けられたようで、当時はそういう箱が街のあちこちに転がってたんでしょう。これが即席の演壇として重宝がられたそうで、いきなり木箱の上に立ち上がって演説をぶち始める人が少なくなかったのだと。

いいフレーズを憶えました。今回憶えた語源をいつかアメリカ人相手に延々と説明した後、このセリフでキメようと思います。

“Sorry to get on my soap box.”
「一方的にしゃべっちゃってごめんね。」


2013年12月10日火曜日

Bio Break バイオ・ブレーク

先週の金曜、同僚のジェイソンとランチに行こうという話になりました。さあ出かけようという段になって、彼がふと思い出したようにこう言って姿を消したのです。

“Let me take a leak.”

ん?一瞬戸惑う私。「リークして来る」?何だそりゃ?リークって「漏らす」だよな…。

三秒ほど考えて、ようやく分かりました。これは、

「しょんべんして来る。」

という意味ですね。すっきりして戻ってきたジェイソンが、

「さ、行こうか。」

と微笑みます。

あとで同僚マイクに、このフレーズの説明をお願いしました。

「それはよく使う言い回しだね。Let me take a dump.(ダンプして来るね)だと大の方になるんだよ。」

と笑うマイク。

「なんでTake a で始めて名詞形のLeakで受けるのかな?動詞のLeakじゃダメなの?」

と私。

マイクによれば、“Let me go leak.” だと「お漏らしして来るね」になってしまっておかしいのだそうです。

「これって男女とも使える表現なの?」

「いや、男だけだと思うよ。」

「そうなの?なんでかなあ。どっちもリークはするのにさ。」

念のため本日、若手の女子代表、同僚サラに確認してみました。

「そんな下品なセリフ、女性は使わないわよ。男性だって、職場では普通言わないんじゃない?もしも知り合いの男性に面と向かってそんなこと言われたら、引くと思うな。」

女性が言うとしたら、

Let me go to the bathroom.(バスルームに行ってくるね)
Let me go to the restroom.(レストルームに行ってくるね)

のふたつが無難だとのこと。

「どっちもお行儀良すぎて、何だかつまんないねえ。僕はTake a leakって表現、結構気に入っちゃったよ。」

と私。

誰かと一緒にいる時、「トイレへ行ってくるね」をさらっと優雅に告げる方法はないものか、と投げかけたところ、サラがちょっと考えてからこう答えました。

「そうそう、こないだのミーティングで、ある人がこんな言い方したわ。」

“Let’s take a bio break.”
「バイオ・ブレークを取ろうじゃないか。」

Bio(バイオ)は「生物の」とか「生理的な」で、Break(ブレーク)は「休憩」ですから、

“Let’s take a bio break.”
「生理現象のための休憩を取ろうじゃないか。」

となりますね。


これはなかなかクールなフレーズだと思いました。こうして日本語に訳してみると、何故か野暮ったくなるんだけど。

2013年12月4日水曜日

It’s a shame! でも全然恥ずかしくないの。

師走です。忘年会シーズンです。とはいえ、ここはアメリカ。「皆で集まって年を忘れようぜ」みたいなノリは全然見受けられません(というか、そもそもなんで年を忘れようとするんだっけ?)。

その代わりというわけじゃないと思うけど、会社主催の「ホリデイ・パーティ」があちこちで開かれます。「クリスマス・パーティ」と命名すると非クリスチャンの気分を害する恐れがあるようで、当たり障りの無い「ホリデイ」に落ち着いた模様。

毎年ホリデイ・パーティへの招待状を三通も頂くのですが、実はこれが私にとっては悩みの種。楽しいのは楽しいんだけど、やっぱりパーティってシンドイんですよね。仕事を離れた場でアメリカ人の集団と英会話で盛り上がるってのは、やっぱりハードル高いんです。ノイズがひどくて英語が聞き取りにくいというだけの話じゃなく、アメリカ人のカルチャーによっぽど馴染んでないと、会話の内容が頭に入ってこないのですね。こないだのハロウィン・パーティでも「トリビア・クイズ」があり、「往年の人気テレビシリーズXXでヒロインを演じたXXが得意としていたXXは?」みたいなマニアックなクイズがポンポン出されました。周囲の盛り上がりを横目に、ただただ無言で途方に暮れる私。忍者の扮装だったので、誰にも気づかれなかったけど。

妻と相談の結果、今年はダウンタウン・サンディエゴ支社のパーティ一本に絞って出席することにしました。テーマは「ハリウッド・スタイル」。「夫婦で映画スターみたいに派手なお洒落をして現れてね」というお題を出されて一瞬くじけそうになったけど、同僚達が「ただスーツ着てけばいいんだよ」と軽く言うので一安心。問題は、他の招待状へのお断りを出さなければならないこと。特に自分のホーム・オフィスのパーティに出席しないというのは顰蹙だよなあ。そんな申し訳ない気分で総務のヴィッキーに、

「ごめんなさい。今年は欠席させてもらうね。」

とメールを送ったところ、

“It’s a shame!”

という返事が来ました。げげっ。Shame?シェイムって「恥」って意味だよな。なんだか恐ろしい勢いで詰られたけど、たかがパーティ欠席くらいでどうしてそこまで言われなきゃいけないんだ?

本日オレンジ支社で同僚フィルに、この件を質問してみました。

「あ、それは恥と全然関係ないよ。」

ん?どういうこと?戸惑う私。フィルによれば、「それは残念ね」くらいの軽~い気持ちから出たセリフだというのです。

「え?そうなの?僕はてっきり、あなたのしたことは恥ずべき行為だと責められてるんだと思ったよ。」

「全然違うよ。大体、パーティ欠席くらいでそこまで過激な反応する人いないでしょ。」

「そっか、おかしいと思ったよ。でもさ、だったらなんでシェイムなんて単語を使うかな?」

「う~ん。それは分からないなあ。考えたこともなかったよ。」

フィルの向かいで仕事をしていたクリスも、

「アメリカで生まれ育った僕達は日常普通に使っていて疑問も湧かないけど、確かに言われてみれば変だよね。」

同調します。

「じゃさ、君がコーチをやってる少年サッカー・チームが、格下チーム相手に惨敗したとするでしょ。試合後に君が選手達を集めて “It’s a shame.”って言ったら、これは恥ずべき敗戦だ、と戒めたことにならないわけね。」

「ならないね。むしろ、みんな残念だったな、くらいの軽い慰めになると思うよ。」

「ええ~?じゃあ、お前ら何やってんだ!って本気で怒る時、シェイムは使わないの?」

「そういう場合は、I’m ashamed of you. って言うね。」

なるほど。動詞のashame が来るのか。どうして名詞のshame を使うと途端に恥ずかしさが失せるのかについてはフィルもクリスも全く説明不能なことにビックリでしたが、一応納得。

そんなわけで、ヴィッキーのメールはこういう意味になりますね。

“It’s a shame!”
「それは残念ね!」

この後、Shame という単語をあらためてオンライン辞書で調べたところ、いくつかある訳の最後に、

「残念なこと」

とありました。あらら、辞書にちゃんと書いてあったのね。全然気づかなかった。人に聞く前に、まずきっちり調べなきゃいけません。これは恥ずべきことですが、It’s a shame! とは言えないケースですね。


ひとつ利口になりました。

2013年11月25日月曜日

Six Degrees of Separation ケヴィン・ベーコンの法則

「ジョン・ボビって知ってる?」

先週月曜、友人K子さんと夕飯を食べた時の発言。夏休み、香川の実家に一時帰国した時、親戚の若者たちからアメリカのミュージック・シーンについて質問攻めにあったそうなのです。四半世紀もアメリカに住んでいる彼女ですが、テレビは「テレビジャパン」ばっかり(半沢直樹とか)だし、ラジオは公共放送のみなので、有益な情報を全く提供出来なかったのだと。

「それ、ボン・ジョビのことじゃないですか?」

「あ、それそれ!うちの親戚の子達が、大ファンだって言うのよ。私、音楽聴かないから全然分からなくって。」

浮世離れしたK子さんならではのボケだな、とウケてたら、

「それがこないだの週末、クラスメートと喋ってたらね、」

現在彼女は週末だけ大学院(社会人対象)に通っていて、三つ目のマスター(修士号)を取得中なのです。

「その人が偶然にも、ボン・ジョビのコンサートツアーの裏方やってるって言うの。で、親戚の子たちの話を出したら、丁度日本でのコンサートがあるからって、チケット二枚送ってくれたのよ!」

おおっ!とのけぞる私。思い切り意表をつく展開じゃないか…。

さて金曜日の夕方は、息子をフルートの個人レッスンに連れて行きました。かれこれ2年ほど習っている教師のヴィヴィアンは、若い頃ロシアやウィーンのオーケストラで活躍していた東欧人。30分のトレーニングが終わって帰り際、私がふとこんな話を持ち出しました。

中学一年の頃、早朝にバロック音楽を流す日本のラジオ局がありました。ある朝流れて来た曲があんまり綺麗だったんで、急いでテープに録音したんです。この世の物とは思えない美しさで、それから30年以上も音源を捜し続けました。そして数年前、ここアメリカで遂にCDを入手。

曲名は「フルートとチェンバロのためのソナタ 変ホ長調」。フルートはジャン・ピエール・ランパル。色んな人の演奏を聴き較べてみたけど、この人のフルートは別格。この楽器について何の知識も持たない私ですが、聴くたびに「これは人間業じゃないだろ~」と圧倒的感動に浸ります。調べたところ、「20世紀でもっとも偉大なフルート奏者」と呼ばれるほどの実力者で、2000年に心臓発作で亡くなったとのこと。

「ジャン・ピエールは私の先生なのよ!」

突然ヴィヴィアンが、いかにも興奮を抑えきれないといった様子で立ち上がります。

「ええ?嘘でしょ?」

「ほんとよ。ロシアにいた時、彼が先生だったの。それからずっと親しくしてくれて、サンディエゴに来て我が家に泊まったこともあるのよ。」

おお~!もし彼が生きてたら会えたかもしれなかったのか!すんげ~!

さっそく帰宅してこの話を妻にしたところ、うちの子の友達のお母さんの知り合いのアメリカ人が、黒船来航で御馴染みのペリーの子孫で、日米友好イベントの際には皇居に招待されたというエピソードが飛び出しました。ひえ~。それもすごいな~。

「こういうの何て言うんだっけ?法則みたいのあったよね?」

と妻。そう、これは「ケヴィン・ベーコンの法則」とか「ケヴィン・ベーコン指数」と呼ばれるもので、英語ではSix Degrees of Separation とかSix Degrees of Kevin Bacon。全ての人類は繋がっていて、知り合いを6人介すると世界の誰とでも知り合いになる、という説。

ウィキペディアによると、
1994年のはじめ、映画雑誌『プレミア(英語版)』のインタビューに対してベーコンが「ハリウッドの全員が自分の共演者か、共演者の共演者だ」という趣旨の発言をしており、インターネット上などでは「ケヴィン・ベーコンはハリウッドの中心(あるいは「世界の中心」)」と言われるなど話題になった。実際、ハリウッドに限らず古今東西のほとんどの俳優は「ベーコン指数」3次以内に収まってしまう。」

私からジャン・ピエール・ランパルまではわずか2つ。ランパルの死を悼んだという元フランス大統領のジャック・シラクまで3つ。おお~!

でも、だから何?って聞かれると困るんだけど…。

昨日の朝、会社のみんなとひとしきりこの話題で盛り上がりました。同僚リチャードの知り合いにはハンバーガー・チェーンで有名なカールス・ジュニアの創始者の息子がいる(ほんとのジュニア)、とのこと。同僚マリアの元ルームメイトの男性は現在俳優で、レイディ・ガガと大の仲良しなのだと言います。
 
マリア。マリアの元ルームメイト。そしてレイディ・ガガ。
おお!レイディ・ガガまでわずか3ステップ!


う~ん、でもやっぱり、だから何?って話ですね。

2013年11月24日日曜日

理想のエンジニア

木曜の昼前、同僚たち数人とランチへ行こうとしていた時のこと。若いエンジニアのアルフレッドが、

「あ、ちょっと待って。もしかしたら僕、お昼休みはオフィスにいないといけないかもしれないんだった。」

と言い出しました。地元の大学生たちが企業見学に来ることになっていて、その相手をする担当者の一人に選ばれたのだとか。

「あ、その団体だったらお昼過ぎまではダウンタウンの支社にいると思うよ。というのは、たまたま昨日あっちでその話を聞いたんだ。」

と私。

サンディエゴ市内にある複数の大学から理科系の学生集団がやってきて、将来の仕事選びについて考えるため、現場で活躍する人たちと話す機会を持つ、というのが趣旨。企業側としても、大学とのパイプを作る上で有効な活動と見なしているようで、他にも交通部門の若手エンジニアであるギャレットが担当者として選出されました。

「どんな話をするの?」

「うちの支社が手がけてるクールなプロジェクトをいくつか紹介するつもりだよ。ほら、海水の淡水化プロジェクトとかさ。」

「いいじゃん、それ。そうしてこの職業への憧れをかきたてようってわけね。」

学生の頃、自分が将来どういう仕事をするのかなんて全くイメージが湧きませんでした。どんなに情報を集めてみたところで、結局実際にやってみるまでは本当のところは分からないんだけど、それでも「こんな人になれたらいいなあ」という理想像を持つことは、モチベーションを維持するのに有効だと思います。

そこへ84歳の同僚ジャックが、「僕もランチに行くぞ」と現れました。

「そうだ、ジャックにも参加してもらえば?この道60年の経験を活かして、何か面白い話をしてもらえるんじゃない?」

とアルフレッドに提案すると、

「面白い話ならあるよ。」

と事も無げに喋り始めるジャック。

「僕の担当してたSedimentation Tank (沈殿地)にどこかの犬が落っこちちゃってね。」

セディメンテーション・タンクというのは、トイレなどから下水管を流れて来た汚水を一旦溜めて、固形物を沈殿させる施設です。大抵はフェンスで囲われているので動物が迷い込むことなどないのですが、どういうわけか犬が落ちていたのだと。

「たまたま市長が視察に来た日で、新聞記者やらカメラマンやらも集まってたんだよね。市長が現場の作業員に、早く犬を助けてあげなさいってもったいぶって命令したんだ。若い作業員が長い棒を慎重に操って犬を岸に寄せ、そっと持ち上げてやったんだな。良かった良かったってみんな喜んで拍手してたら、犬のヤツが思い切り身震いしてさ、そこにいた全員が汚い水しぶきを浴びちゃった。」

もちろん採用は見送られましたが、こんなエピソードをさっと提供出来るジャックに対し、あらてめて尊敬の念を覚える私でした。


コウイウヒトニ、ワタシハナリタイ。

2013年11月17日日曜日

ウィーって言うのやめてよ!

ラスベガスにいた同僚エリカが離婚し、傷心を抱えてダラスの実家に引っ越してから数ヶ月経ちました。先日久しぶりに出張でサンディエゴへやってきた彼女に、恐る恐る最近の暮らしぶりを尋ねてみました。

「あのね、実は私、来月結婚するの!」

「!?」

あまりに意外な展開に、言葉に詰まる私。

クレイジーな話でしょ、と笑いながら、地元でバツイチの男性と出会って意気投合したこと、びっくりするほど価値観が似通っていること、結婚式は家族だけでひっそり挙げるつもりであること、などを語ってくれました。

それは本当に良かったねえ、といつもより強めのハグで祝福する私。

その翌週、独身貴族(死語?)のリチャードとマリアと一緒にランチに行った際、エリカの再婚話になりました。

「とんでもないスピードで独身クラブを脱会しちゃったね、彼女。」

とマリア。

「うん、さすがにびっくりしたよ。」

と私。リチャードが笑いながらこう言います。

「なんかマリアがムカついてるみたいなんだよ。」

「ちょっとやめてよ。エリカが結婚することに腹を立ててるみたいに聞こえるでしょ。」

と弁明するマリア。わけを尋ねてみたところ、

「再婚を公表した途端、物の言い方が豹変したのよ。」

とのこと。

「たとえばさ、今評判のワインの話題を出すとするじゃない。そしたらね、 “We love that wine!”っていう反応なのよ。なんでもかんでも “We” で話を始めるようになったのね。これまでずっと “I” だったのに。まあ浮かれてる時期だからと思ってしばらくは大目に見てたんだけど、」

と言葉を切ってから、

“It’s become annoying.”
「うざくなってきたのよね。」

と渋い表情になるマリア。

マリアはエリカの再婚相手に会ったこともないし、ましてやその男のワインの好みなんかに興味は無い。そこへ「私達、あのワイン大好きなの」と来られたら、確かにイラっと来るかも。

それで思い出しました。

“How was your weekend?”
「週末どうだった?」

という月曜の朝の定番挨拶がありますが、この投げかけに対して所帯持ちの同僚はそのほとんどが、

“We went to ○.”
「私達、○○へ行ったの。」

と答えます。私の質問文に使われている「Your」という単語が「あなたの」と「あなた達の」と単複両方の意味を持つことは認めるけど、自分の「家族」が週末をどう過ごしたかを迷いも無く語り始めるって、一体どういう心境なんだ?とずっと違和感を感じていました。考えてみれば日本語の場合、「動物園に行ってきたよ」などと一人称抜きで話すことが出来るので、その辺は曖昧なんですね。聞き手の側からは、一人ぼっちで出かけたのか家族で行ったのかを、勝手に推測するか、あるいはあらためて尋ねるしかない。いや、そもそも聞かれてもいないのに家族の存在を会話中にちらつかせること自体、ハシタナイと見る文化が日本にはあるかもしれません。

一人称を省かない言語だからこそ生まれる摩擦。日米の違いがこんなところに現れるんだなあ、と一人で頷いてたら、

「昨日もエリカと電話してたんだけど、あんまりWeを連発するから、とうとう言っちゃったのよ。」

とマリア。

“Stop saying We!.”
「ウィーって言うのやめてよ!」

うそ?!エリカに直接そう言ったの?と、同時にぶったまげるリチャードと私。アメリカ人のリチャードも驚くくらいだから、これは日米の違いというより、マリアの個性なのだと思います。

2013年11月15日金曜日

Black Sheep 黒い羊

同僚ジャックと話していたら、彼の口からこんなフレーズが飛び出しました。

“I have always been a black sheep in my family.”
「僕はいつも家族の中の黒羊だったんだ。」

黒い羊?

彼には兄弟が4人いるのですが、その全員が幼い頃から常に優等生だったそうです。彼だけが「黒い羊」だったというのはどういう意味か?

ジャックとの会話を終えてから、同僚リチャードの部屋へ解説を求めに行きました。

「規律の整った集団の中で、変わった外見や行動をとる人のことを指すんだよ。一般的にはネガティヴな意味合いで使われるね。」

白い羊が群れを成しているところに、一匹だけぽつんと黒い羊が混じっている状態。ウィキペディアを見ると、黒い羊毛は染めにくくて使い物にならないとか、19世紀のイギリスでは黒羊が悪魔のシンボルだったとかいう話が紹介されています。

「要するに、トラブルメーカーとして見られるってことね?」

「そうそう。ジャックがそうだったとは到底思えないけどね。冗談めかして言ってるだけだと思うよ。」

「彼らしいよね。これってよく使う表現なの?」

「うん、よく聞くよ。」

それにしても、羊。日常触れ合う機会が無い動物だからか、いまいちイメージ湧かないんだよなあ。アメリカ人の頭にはすんなり入ってくるかもしれないけど、日本人の私にはぴんと来ない表現の一つだと思いました。

実はリチャードと話している間中ずっと、

「くろやぎさんたら読まずに食べた。」

という歌詞が繰り返し浮かんできて、心の中で

「それはヤギだろ!」

と自分に突っ込み続ける私。

これ分かってくれる人、職場にいないのがとっても残念です。


2013年11月10日日曜日

Buzzword バズワード

先週、オレンジ支社で元ボスのリックと久しぶりに会いました。北米西部トップのマイクと来月話す機会があるかもしれないんだ、というニュースから話題がひろがり、30分くらい話し込んでしまいました。

「会社はThought Leadership に投資する方針だってマイクが言ってるんだ。」

この「ソート・リーダーシップ」という言葉に私が引っかかってしまったのが、長話の始まりでした。

最近この単語よく聞くけど、全然具体的なイメージが湧かないんですよ、と苦情を述べる私。大体、これって一般に流通して共通認識になってるんですかね?Think(思う、考える)の過去・過去分詞であるThought とリーダーシップをくっつけても、連想できるのはこんなセリフだけ。

“I thought I was a good leader but it’s turned out that I’m not.”
「自分はいいリーダーだと思ってたけど、そうじゃないことが分かった。」

そんな「思い上がりリーダー」のことだと言うならまだ受け入れられるんだけど、リックの説明によれば、

「特定分野の第一人者」

という意味らしい。

「それならTechnical Leaderでいいじゃないですか。Thought と関係ないし。」

「いやいや、これはThink の過去形じゃなくて、名詞のThoughtなんだよ。Ideaと同じようにね。いっそのこと、Idea Leaderって呼んじゃってもいいんじゃないかな。」

とリック。

「う~ん、それでもやっぱり私にはピンと来ませんね。」

うやむやなまま会話を締めくくり、帰途につきました。

金曜日の夕方、サンディエゴのオフィスに遅くまで残っていた同僚クリスをつかまえてこの話題をぶつけてみたところ、苦笑を浮かべて首を振り、両足をどかっと机の上に投げ出してこう言いました。

Buzzword(バズワード)って言えば分かるかな?」

「インテリっぽい響きがする専門用語だよね。」

「その通り。耳障りが良い割りには相手に真意が伝わらない業界用語ね。こういうのを社内で濫用するのは、ほんとに止めて欲しいんだよな。」

「ま、それはともかく、意味を教えてくれない?」

と笑いつつなだめる私。

「ある分野の業務経験が長いだけだと、Thought Leader にはならないと思うよ。特に技術系の仕事って、一足す一は二でしょ。単に技術面で優れていたってリーダーにはならないよね。このThought という単語には、その分野に革新的な進歩をもたらすような考えを持つ人、という意味が込められてると思うな。」

「ふ~ん。でもさ、Thought Leaderってフレーズからそこまで連想出来る人いるのかな。」

とケチをつける私。

「いや、ダメだろうね。この言葉はそのうち絶対廃れるよ。」

と決め付けるクリス。

「むしろInnovation(イノベーション)の方が合ってるんじゃないかな。」

私のこの提案に、クリスが食いつきます。

「それだ!Innovation Leaderの方が断然いいよ。君と僕でこれから広めようぜ。お偉方がThought Leader という言葉を使うたびに、それはイノベーション・リーダーってことですよね、って言い直すんだ。一年後くらいに、社長が方針演説でこの言葉を使ってたりしてな。それを聞いて、僕らが作ったんだよなってニンマリ笑おうぜ。118日、今日がその記念日だ!」

大興奮するクリス。

「いいねえ!それで行こう!」

と一応調子を合わせながらも、いまいち乗れない私でした。


だって、「イノベーション」もやっぱりバズワードっしょ。