2012年6月26日火曜日

Road Show 地方巡業

大ボスのジョエルから依頼があり、先週から南カリフォルニアの支社をひとつずつ巡ってプロジェクトマネジメント・トレーニングを実施してます。先週はオンタリオ、オレンジ、そしてサンディエゴの三支社。今週はロングビーチ、カマリヨ、そしてサンタマリア。
ランチタイムを利用するブラウンバッグ (Brownbag)トレーニングなので、与えられた時間は一時間弱。昼飯よりもこっちの話題に「食いつかせる」のが醍醐味で、毎回心の中で、
It's showtime!
と気合いを入れてから臨んでいます。

今日はロングビーチ支社。支社長のトラビスをはじめ、出席者の集中力は半端じゃなく、バンバン質問が飛び出しました。おかげでスライド10枚ほどを残し、終了予定の一時を迎えてしまいます。
「昼休みが終わっちゃいましたね。ここでストップしましょうか。また次回来た時に続きをお話してもいいですし。」
と私。すると、まるでロックグループのアンコールを促しステージに詰め寄る熱狂的ファンのように、
「時間なんていいからそのまま続けてよ!」
と皆が口々にねだるのです。

過去何十回もトレーニングをやってきたけど、ここまで激しい食いつきは初めて。講師冥利に尽きるというものです。

さて、このトレーニング巡業を開始する前に、今回の出張にどういう英語のタイトルをつけるか、というテーマで同僚シャノンと話し合いました。
「A dog and pony show はどうかな、と思ったんだけど、これは中身の薄いプレゼンを想起させるフレーズでしょ。」
「そうね、ウケは狙えるけど、出席しようと思ってた人が来なくなるかもしれないわね。」
「Circus trip はどうかな、とも思ったけど、ふざけすぎだよね。」
「そうねえ。いいタイトルが思いつかないわね。」
とシャノン。

そこへ、同僚ステヴが登場。
「出し物抱えて地方巡業するんでしょ。だったらロードショー (Road Show)だね。」
「え?ロードショーって映画の新作封切りって意味じゃないの?」
私の質問を飲み込めない様子のステヴに、日本ではそういう意味で使われているのだと説明しました(全国一斉ロードショー、とか)。
「いや、地方を回ってお芝居や映画を上演する、というのをロードショーって呼ぶんだよ。」
とステヴ。

後で調べてみたところ、日本で使われる「ロードショー」は完全なる和製英語と判明。よく考えてみれば、確かに変だよな。都心部の映画館で新作封切りするのにロードは関係ないもんな。

そんなわけで、本日のトレーニングはこう締めくくました。

I will do this road show again in the next few months.
「二三ヶ月以内にまたこの地方巡業をやりますね。」

2012年6月24日日曜日

Internment Camp 日系人収容所

同僚のジャックは、今年83歳の日系アメリカ人です。職場の誰よりもエネルギッシュで、頭脳明晰、身体強健。同僚リチャードが常々、
「僕の目標とする人だよ。」
と尊敬の目で語っています。

土曜日の夕方、そのジャックに依頼して、アメリカで生まれ育った日本人の若者たちに話をしてもらいました。集まったのは中高生とその親たち。誰しも成長の過程で、「自分は一体何者なのか」という疑問と向き合うと思います。特に日本人の親から生まれながら一度も日本に住んだ経験のない子供たち(うちの息子も含めて)に、ジャックの体験談はきっと長く心に残るだろう、と思いました。

彼は13歳の頃、家族親戚一同と日系人収容所(Internment Camp)に入れられました。当時戦闘状態にあった敵国日本を故郷に持つアメリカ人を隔離するための施設です。インターンメント・キャンプというのは、Concentration Camp「コンセントレーション・キャンプ」(強制収容所と呼ばれます)と違い、抑留キャンプとか捕虜収容所などと訳されます。違いと言えば、強制収容所では過酷な強制労働があったり非合法な死刑があったりするのに対し、スパイ行為やテロ行為防止のための隔離が主目的である点。

ただし、実態はそう生やさしいものではありません。住んでいた家も財産もすべて押収され、ひとりにつきスーツケース一つに収まる荷物だけ持ちこんで良しとされた上、砂漠の真ん中に作られた収容所で暮らすのです。ジャックの妹は入所二日目で熱中症を患い、十分な医療行為を受けられぬまま亡くなったそうです。

その後収容所を出た彼は、アメリカ海軍に入隊します。当時17歳。これが私やリチャードにとって、首を傾げたくなる決断でした。それほどの目にあっておきながら、なぜアメリカに忠誠を尽くす気になったのか?

「僕だったら絶対選ばない道だよ。」

とリチャード。

ジャックの説明はこうです。

「お金が全然無かったからね、学校に行きたくても行けなかったんだ。海軍に入れば大学に行かせてくれるって聞いて、それで入ろうと思ったんだよ。実際、船に乗ってヨーロッパをあちこち回れて楽しかったな。」

この暢気なコメントがどれほど当時の心境を正確に伝えているかは知る由もありませんが、常にポジティブな姿勢を失わない彼らしい表現です。

除隊後、UCバークレーで土木工学を学び、以降エンジニアとして60年間も社会に貢献して来たジャック。彼の子供たちや孫たちも、皆一流大学を出て社会で活躍しています。子供の頃アメリカ政府から受けた仕打ちを根に持ってひねくれていたら、今の彼はなかったでしょう。

ジャックは、親から受けた日本的なしつけや教育に感謝していると言います。

「日本人は本当に評判が良い国民なんだよ。みんなスーパーの駐車場で、あちこちにカートが置き捨てられてあるのよく見るでしょう。ところが日系スーパーの駐車場に行ってごらん。僕は今まででたった一台しか見たこと無いよ。日本人は買い物が終わったら、きちんと元の場所に戻しに行くからね。」

彼は最後に、こう語りました。

「アメリカは素晴らしい国だよ。こうでありたいと思う自分でいられる国だからね。僕はアメリカ人であると同時に、両親から日本人の持つ美しい道徳心を教わった。これは本当にラッキーなことだった。」

そしてこう続けます。

「若い君たちに一番伝えたいのはね。」

There is no mountain you can't climb.
登れない山なんてどこにも無いんだ。

もはや若者とは言えない私の胸にさえ、ズドンと突き刺さる言葉でした。最前列に座っていた中高生たちが、これをしっかり受け止めてくれたことを祈ります。

2012年6月21日木曜日

君の瞳に乾杯!…って。

映画史に燦然と輝く不朽の名作、「カサブランカ」をDVDで観ました。英語字幕が出るようにセットしたせいか、字面ばかり追ってしまい、中身を深く鑑賞出来たとはとても言えない中途半端な心境でエンドタイトルを迎えました。

ハンフリー・ボガード演じるリックがイルザ役のイングリッド・バーグマンを見つめ、

“Here’s looking at you, kid.”

と呟くシーンが三回ほどあるのですが、日本語字幕で「君の瞳に乾杯」と訳されていることは、あまりにも有名。こちらも映画字幕史上に燦然と輝く「不朽の名訳」と謳われているのですが、どうも腑に落ちません。バーグマンを見つめているのは確かだけど、「瞳」なんて単語は使われていないし、「乾杯」してない場面(最後の飛行場シーン)でも同じセリフを吐いているのです。これってもしかして意図的な誤訳じゃないの?という疑いが俄かに頭をもたげて来ました。それにラストの「キッド」って、子供を指す単語でしょ。なんで立派な大人に向かってそんなこと言うわけ?

さて、昨日と今日はオレンジ支社に出張。熟練PMのエリックと会ったので、このセリフの真の意味を説明してくれと頼みました。

“To be honest with you, I have never quite understood the phrase.”
「正直言って、そのセリフの意味を完全には理解出来てないんだよね。」

え?そうなの?私が日本語字幕を逆英訳して聞かせたところ、

「かなり近いんじゃないかな。それはなかなかの翻訳だと思うよ。」

と感心したように言います。う~む。理解出来ないと言いながら、この「名訳」に対しては肯定的なコメント。どう判断すればいいんだろう?と、そこへちょうどボスのリックが通りかかったので、エリックが、

「彼に聞いてみたらどう?名前がリックで主人公と同じだから、ちゃんと答えられるんじゃない?」

と、またまたいい加減なことを言います。気を取り直し、リックに尋ねてみました。

「う~ん、それは難しい質問だなあ。そのまんまの意味だから、説明しろと言われてもねえ。」

え?そのまんま?じゃあ思ってたほど複雑なフレーズでは無いんだ…。

Here’s というのは、これから何か始まるとかしようとしていることを示唆していて、一般的には何かを賛美したり乾杯したりする際に使われるんだよ。Here’s to your success. (君の成功に乾杯)とかね。」
「でもこの場合はto じゃないし、しかもlooking at you (君を見ている)という、自分の行為が対象なわけですよね。おかしくないですか?」
「そこが映画特有のひねりなんだよ。Here’s to your beauty. (君の美しさに乾杯)じゃ、当たり前過ぎて映画のセリフとしては失格でしょ。君の美しさに見とれてる、という現象に対して乾杯する、それが名ゼリフの名ゼリフたる所以なわけだ。シナリオ・ライターはこういう決めゼリフを、それこそ何日も苦しんだ末に産み出すんだな。」

「じゃ、キッドはどうです?成人した女性にこんな呼称を使って大丈夫なんですか?」
「今の時代にそんなこと言う人は誰もいないと思うけど、あの当時は男性上位だったでしょ。しかも主人公はハードボイルドで男っぽいし。でもね、その頃はキッドという言葉に、特に見下した意味合いは無かったんだよ。ダーリンとかスイートハートとかと同列だと思うな。ただ、あのリックの口から出るとしたら、キッドしかないね。」
「日本語字幕では瞳に乾杯、と訳されてますが、これはどうです?」
「いいんじゃない?女性を見つめるとしたらやっぱり瞳だからね。」

な~るほど。そうすると、「君の瞳に乾杯」というのはやっぱり名訳だったのですね。

「ちなみに、このセリフを使ったことってありますか?」

 と私。リックが笑って答えます。

「いやあ、それは無いね。完全に映画のセリフだし。しかも誰でも知ってる名画から来ているでしょ。もしも実生活で使ったら、何かその先に別の意図があるんじゃないかって勘ぐられるだろうね。ウケようと思ってるのかしら、とかね。」

そりゃそうか。日本人とのデート中に「君の瞳に乾杯」なんてほざいたら、相手は絶対まともに受け取らないだろうな。それに真顔でこんなセリフを吐けるのは、スピードワゴンの小沢くらいかも。

2012年6月13日水曜日

Pacific Surfliner

今日はロサンゼルスのオフィスまで日帰り出張だったので、初めて電車を使ってみました。片道29ドルにビジネスクラス料金(グリーン車みたいなもの)14ドルで、往復86ドル。車でロスのダウンタウンに乗り込むのは超満員電車に身体をねじ込む時の感覚に似て、非常にストレスフル。電車だとそういう心配が要らない上に、駐車場代(40ドル程度)が浮くので、経済的でもあります。

帰り道、サンディエゴに近づくにつれ、ビーチ沿いを走る時間が長くなって来て、あまりの絶景に暫く夢中でシャッターを押してました。雲の切れ目から夕日が刺し込んで海を照らすところなんて最高。病み付きになりそうです。

2012年6月12日火曜日

Super Positive Guy

ちょっと前から左目の下の袋の部分が、断続的にピクピク痙攣するようになりました。鍼灸師のドクターを訪ねたら、一言。

「ストレスですね。」

もう何年もお気楽な「ストレスゼロ・ワークスタイル」を維持して来た私ですが、さすがに昨今のすさんだ職場環境で、メンタル面が侵食され始めたみたい。先週も、近しい関係にある同僚を含め、6人が次々にレイオフされました。自分の身に降りかかるんじゃないか、という不安を感じている訳ではないんです(そこはまだ楽天的な私)。「何であんな優秀な人達の首を切るんだ?会社のトップは一体何を考えてるんだ?」という憤りが、体内でぐつぐつと溜まって来ているのですね。

先日オレンジ支社に出張した時、ボスのリックと会ったので、

“Do you have any good news?”
「何かいいニュースありませんかね?」

と声をかけました。これはここ暫く、まるで決まり文句のように仲間同士で交し合っているセリフです。もちろん皮肉をこめたフレーズなのですが、リックはニッコリ笑って、

“I do.”
「あるよ。」

と答えた後、

“Lots of!”
「いっぱいあるよ!」

と付け足したのです。咄嗟に、皮肉の上塗りをしているものと解釈したのですが、彼の顔を見ると、どうやら本気で答えているらしいことが見て取れます。彼は、先日技術畑のカンファレンスに出席したこと、そこで新規クライアントの開拓が大いに進んだことなどを話してくれました。

「こういう大きな会社に在籍しているからこそ、実現出来たことだと思うよ。小さな会社にいたら、同じアイディアを発表してもあれほど注目されたかどうか、怪しいからね。この会社にいて良かった、とつくづく思ったよ。それにもしも僕が明日クビになったとしても、これだけネットワークを拡げたからには、どこへ行ってもやっていけるよ。」

私はすっかり感服してしまい、こう尋ねました。

「リック、あなたは本当にポジティブな人ですね。私もこれまで、自分はスーパーポジティブ野郎だと自負してたんです。でも完敗です。どうしてこんなひどい状況で、そこまで前向きな姿勢を続けられるんですか?」

ひとりしきり笑ってから、リックがこう答えました。

「シンスケに言われて思い出したよ。今のかみさんと会ったのは、友達の結婚式でだったんだ。その時、一緒に出席してた僕の親友が彼女に目をつけて、デートに誘ったんだよね。で、暫くしてうまく行かなくなり、気がついたら今度は僕が付き合ってた。何故かその前にも似たようなことが沢山あってね。彼が不運の連続でも、僕には何故かいい事が起こるんだな。その時、彼がため息をつきながらこう言ったんだ。お前って奴は、泥の中にうっかり足を突っ込んだとしても、靴の裏を見たら20ドル札が貼り付いてたってタイプの男だよなって。」

どんな逆境にあってもポジティブさを失わない。こういうのは私の理想とするところです。いい機会なので、彼にその秘訣をご教授頂くことにしました。

1.        きちんと呼吸をする(呼吸が浅いと元気がなくなる)。
2.        正しい姿勢を保つ(姿勢が悪いとポジティブになれない)。
3.        使う言葉を慎重に選ぶ(ネガティブな単語を使わない)。

そうなんだよな~。分かっちゃいたんだけどさあ。すっかり頭から消えてたぞ、この三か条。あらためて肝に銘じました。

「でもね、うちのかみさんに聞いてみれば分かることだけど、ポジティブさもあまり過ぎると、人をムカつかせることがあるんだ。注意が必要だよ。」

とリック。まったくもう、どこまでもバランスの良い人です。

2012年6月11日月曜日

RV (Recreational Vehicle)

昨日は、息子の友達、ジェロームの送別会に家族で出かけて来ました。彼は来週カナダに引っ越してしまうのです。会場は、サンティ・レイクスというキャンプ場。浄水場からの処理水が流れ込む七つの人工池を核にしたレクリエーション施設で、キャンプ場の使用料や釣りのラインセンス・フィーを取りながら浄水経営をする、という画期的なアイディア。

ジェロームは4年前にうちの息子と同じクラスにいたのですが、翌年には転校してしまいました。とは言え遠くへ行ってしまったわけではなく、サンディエゴ周辺を転々としていたので、以来つかず離れずお友達を続けていました。お父さん(ベン)はカナダのモントリオール出身のエンジニアで、5年前からサンディエゴで働いていたのですが、いつかはカナダに帰ろうとずっと思っていたとのこと。一年前から、家族でRV(レクリエーショナル・ビークル)を借り、このキャンプ場で暮らしていました。
「子供を思い切り遊ばせられる環境で暮らすのがいいと思ってね。」
というのがその動機。私には逆立ちしても出てこない、自由な発想です。

開始時間に少し遅れた私たち。息子が会場に着いた時、ジェロームは他の友達数人と円陣を組んで遊んでいました。知らないグループにするっと溶け込めるような器用さなど持ち合わせていない息子は、一人で黙々と釣りを始めました。暫くすると、ジェロームが静かに友達の輪を離れ、息子の隣にやって来ました。二人の後姿を見ているうちに、「親友との長いお別れ」に当たって、一体どんな会話が展開されているのだろう、と興味が湧いて来ました。

背後からそっと近づき、彼らの会話に聞き耳を立てる私。すると、餌を付け替える方法や浮きの調整の仕方など、極めて事務的なやり取りが淡々と続いていました。別れを惜しむ様子など、これっぽちも感じられない。

勝手に感傷に浸っていたオヤジとしては、ちょっとがっかりでした。

2012年6月8日金曜日

In the heat of the moment 一時の感情で

以前ボスのリックに、「プロジェクト・コントロールの専門家をオレンジ支社で雇う」という私の提案を話したところ、月曜の定例マネジャー会議の議題に加えてもらうことになりました。

数日後、別件で彼と話す用事があったので、首尾を尋ねました。
「ごめん。議題に上げるのを忘れちゃったよ。」
と申し訳なさそうな声。この時彼が使ったフレーズが、これ。

“In the heat of the battle….”

直訳すれば「戦いの熱の中で」だけど、要するに「バタバタしてるうちに」ってことでしょう。そう言えば似た言い回しで、

In the heat of the moment

というフレーズもよく耳にします。興奮してとんでもないことを口走っちゃった後で我に返り、
「ごめん。ヒート・オブ・ザ・モーメントの中でひどいこと言っちゃった。」
という感じで使われます。直訳すれば「瞬間の熱の中で」ですが、要するに「一時の感情で」ということでしょう。そういえば、そんなタイトルの曲が80年代にヒットしたっけ。

It was the heat of the moment
Telling me what my heart meant

最近は私も年齢のせいか、どんどん物事に拘らなくなっています。カッとなることも滅多に無いし。折角憶えたイディオムだけど、使う機会は今後も無さそうだな…。
 
給湯室で同僚リチャードとばったり会ったので、あらためて意味を聞いてみました。
「一時的な興奮状態でってことだよ。」
「ふ~ん、やっぱりね。それは怒ってる時の話だよね?」
「いや、もちろん怒っている時にぴったりだけど、ひどく興奮した状態であれば他のケースにも使える表現だよ。」
「たとえば?」

あたりをキョロキョロ見回してから声を潜めるリチャード。
「ほら、興奮のあまり避妊しそこなって子供出来ちゃった、ってことがあるでしょ。」
「あ、そうか、そういう場合でも使うのね。」
二人で顔を見合わせ、ニヤッと笑いました。しかしここで突然、リチャードが落ち着きを失います。40オーバーのおっさん二人がニヤつく話題としてはいささか青過ぎることに気付き、急に気恥ずかしくなったみたい。私も居心地が悪くなり、三秒ほど沈黙した後、二人でアッハッハと大声で笑ってその場を去りました。

2012年6月6日水曜日

Cool はどんだけクールなのか?

最近、誰かが

“That’s neat.”
「それはニートだね。」

と呟くのを聞き、ふと疑問が湧きました。ニートって何?複数のアメリカ人に尋ねたのですが、まず間違いなく「クールと一緒だよ。」という答えが返って来ます。いつものことだけど、違いを説明出来る人のなんと少ないことか。
「クールとニートはどう使い分けるの?」
こう質問すると、大抵皆黙ってしまいます。出てくる答えと言えば、
「若い人はニートって言わないね。世代の違いかな。」

どうもはっきりしないので、この手の問題を解説するのに長けている同僚ステヴに相談してみました。
「ニートよりクールの方がややクールだね。」
おお、やっぱりステヴは話が分かる。
「じゃ、グレートとクールだったらどっちが上?」
と私。
「それはグレートの方だな。ちょっと待って。」

ステヴはやおら自分のメモ帳を開き、さらさらと図を書き始めました。手渡された紙に書かれていたのは、褒め言葉の序列。上から順に、

Fantastic
Awesome
Great
Cool
Neat
Good

「そうか、グッドはちっともグッドじゃないのか。」
同僚シャノンが合流し、
「グッドはどちらかというと、可もなく不可もなくって感じよ。」
と教えてくれました。
「子供の成績表にGood って書いてあったら、親はあまり嬉しくないもの。Outstanding (図抜けてる)があったらハッピーね。」

ステヴが私からメモ書きを取り上げ、really を付け足します。
「それぞれにreally を付けると、プラス1点って感じだな。Really good とかね。それとNeat とどっちが上かは微妙なところだけど。そもそも明確な境界線は無いんだよ。」

Fantastic     すっばらしい
Awesome    すんげえ
Great     すごい
Cool      いいじゃ~ん
Neat      いいね
Good     オッケー

日本語にするとこんなところでしょうか。あまり自信ないけど。

2012年6月5日火曜日

Nothing is written in stone 最終決定ではない

先月アーバイン支社が閉鎖し、社員は揃ってオレンジ支社二階の空きスペースに引っ越しました。アーバインのオフィスマネジャーだったリサは先週の木曜、サンディエゴにいるミケーラとシャノンと私を電話会議に招集しました。

「突然なんだけど、辞職することにしたの。」

三人あっけにとられ、十秒ほど無言で顔を見合わせました。リサが高齢のお母さんを自宅で介護していたのは知っていたのですが、ボケの症状が進み、仕事との両立が難しくなった、とのこと。でも、本当にそれが理由なのか?きっとミケーラもシャノンも同じことを考えていたでしょう。

たまたま昨日からオレンジ支社に出張することが決まっていたので、本人に会って直接聞いてみることにしました。
「三ヶ月前くらいだったかしら。上層部から収支報告の件で圧力がかかったことがあったでしょう。」
とリサ。確かにそんなことがありました。私もその件に関わっていて、非常に不愉快な思いをさせられた憶えがあります。
「あの時ね、こんなところでは働けないな、としみじみ思ったの。私のポジションにいたら、どんな会社でも大なり小なりあることなのかもしれないけど。でも私、自分の生き方に合わないことは出来ない性質なのよ。」

会議室のテーブルを挟んで二人、30分ほど語り合いました。
「母の面倒は、ほとんど妹に任せて来たの。申し訳ないな、私がもっと支えなきゃ、と考えていたところだったから、ちょうど良いタイミングだったのね。皆と別れるのは辛いけど、これは私の使命だと思ってるの。時々は連絡取り合いましょうね。」

今日の昼前、ボスのリックのオフィスでチーム・ミーティングをした時、全米のあらゆる支社で副社長クラスの首切りが進んでいるという話を聞きました。オレンジ支社では部門ごとのオフィスマネジャーを排除し、全部門を統括するポストを作る動きがあるようだ、とリックが告げた時、リサの選択は時宜に適っていたのかもな、と思いました。理不尽なレイオフにあうよりも、自分から去った方がよっぽどましですから。

リックはこう続けます。

“Nothing is written in stone.”

直訳すれば「何も石に書かれていない」ですが、なんじゃそりゃ?です。後で自分の席に戻って調べたところ、Written in stone の語源には諸説ある模様。そもそもはCarved in stone だったのが転じたらしく、「石に刻み込まれた」つまり「もう変更出来ない」、「最終決定」という意味。

“Nothing is written in stone.”
「最終決定じゃないからね。」

先行き不透明な状況は、暫く続きそうです。

2012年6月3日日曜日

英語で駄洒落

金曜の夕方、家族そろってAT&Tのお店に行きました。待望のiPhone 4Sを購入するためです。私についてくれた売り子は、ダニエラという名の、おそらく20代であろう女性。今なら手持ちのiPhone (私のは3G)をトレード・インする形でアップグレードすれば、50ドル分の付属品をプレゼントすると彼女が言います。
「二週間前に始まったキャンペーンなんです。」

そいつはラッキー、と店内を見渡し、品定め。
「とりあえず、落とした時のことを考えたらソフトケースは必要なんじゃない?」
と妻。値札を見ると、これが20ドル。私はズボンのベルトに引っ掛けるタイプのケースが欲しかったのですが、こっちは30ドルでした。両方合わせてちょうど50ドルです。これで決まりでしょ、と会計を済ませようとしたのですが、試してみたら?と妻が言うので、さっそくソフトケースを装着した後でベルトに掛ける携帯ケースに入れようとしました。ところが、これがどう頑張っても収まらない。上下のでっぱりが数ミリずつ邪魔しているのですね。

「普段はソフトケースに入れて使ってもいいけど、ベルトに引っ掛けたくなったらいちいちソフトケースを外さなきゃならないよね。ちょっと現実的じゃないな。」
と私。ダニエラに店内を捜索してもらったのですが、うまく携帯ケースに収まるサイズのソフトケースは見つからないとのこと。
「またいつかあらためて探しに来るってのはどう?」
と妻。
「ごめんなさい。50ドルを使えるのは今日だけなのよ。」
とダニエラ。暫く悩んだ末に、
「そうか、じゃあこのソフトケースは要らないな。」
と私が言うと、ダニエラがこう提案しました。

“You can keep this case for just in case.”
「一応念のため、このケースも買っておいたら?」

思わず妻と顔を見合わせる私。今の、もしかして駄洒落?

ダニエラは見るからにうろたえており、今のは偶発的なシャレで、ウケようと思ってのことではないのだと、顔を赤らめて言い訳しました。

“I had no idea where I was going.”
「そんなつもりは全く無かったのよ。」

まさかこんなにベタな駄洒落を自分の口から聞こうとは、思いもしなかったのでしょう。Just in case というのは、「万一に備えて」という意味のフレーズで、この場合のケースは「事態」という意味。今回はたまたま「容れ物」という意味でのケースが話題だったため、偶然シャレになったのですね。

くだらない駄洒落を言っちゃった後でうろたえるアメリカ人女性を見たのは、これが初めてでした。