水曜日の夜、家族でダウンタウンのリトルイタリーと呼ばれるエリアを歩いていた時のこと。ビルの一階の壁をぶち抜き、外にカウンターを張り出しているお店を発見しました。ちょっと見たところでは、カウンターのお客がみんな丼物を食べてます。なんだろ?と気になっていたので、昨日のお昼に行って来ました。
入ってみたら、なんと日本式のラーメン屋。それがアメリカ人ばかりで賑わってるんです。入り口でメニューを見て注文し、その場でお金を払います。私は最安値(8ドル)のTonkotsu
Ramenを選びました。番号の書かれた金属性のブックエンドみたいなものをカウンターに置かれ、10分ほどで丼がやって来ました。白人のウェイターが、
と元気に叫びます。おいおい、豚カツは乗ってないぞ…。乗っけてくれてもいいけど。
丼を覗くと、茶色く濁ったスープに縮れた太麺。チャーシューは無し。もやしとワカメ、それにゆで卵が入ってます。これってほんとに豚骨ラーメン?まあいいか、とスープをすすってみると、その正体はとんこつベースの味噌ラーメンでした。味は可もなく不可もなく、というところ。感心したのは、客に漏れなくお箸を出しているところ。見回したのですが、スプーンが全く置かれていません。平均的なアメリカ人に箸はちょっと難しいと思うんだけど、随分思い切ったもんだなあ。それでも客がそこそこ入ってるんだから、ちゃんとやっていけてるんでしょう。日本文化の代表選手であるラーメンを、サンディエゴのアメリカ人に広めてくれて、何だかちょっと嬉しくなりました。
店内を見回しても店の名前が見当たりません。去り際、目立たない場所に
UNDERBELLY と書かれているのを発見しました。アンダーベリー?Belly
はお腹、Under は下ですから、下っ腹ってこと?どういう店名だ?
職場に戻り、同僚ステヴに意味を尋ねました。
「動物の下腹部のことだね。肉を売る時に呼ばれる部位だよ。弱点ていう意味でも使われるね。お腹の柔らかい部分だからじゃないかな。でも、それがなんで店の名前に使われてるのかは分からないなあ。」ここで疑問が湧いて来ました。
「そもそもベリーって、一体どこらへんを指してるわけ?」
ステヴは胸から下の当たり全体を撫で回し、
「この辺のことだよ。」
と答えます。
「腹痛の時には使わないよね。Stomach Ache とかAbdominal Pain って言うじゃない。あれって違いがあるの?」
「いや、同じだよ。」
「でもさ、疑いようも無く下腹部だけが痛い場合があるじゃない。その場合でもStomach Ache(胃痛)って言うかなあ。」
「なるほど。言わないね。その場合はAbdominal Pain(腹痛)を使うね。」
大抵の場合、こんな風に突っ込んで聞かないと正解は出て来ないものです。
「じゃさ、誰かが妊娠してて、お腹が出っ張って来てるねって言いたい時、Abdomen
(腹部)は使う?」「いや、それは医学用語っぽいから、Belly(お腹)の方がいいね。」
そうして彼は、文例を教えてくれました。
“Her belly has started sticking
out.”
「彼女のお腹、せり出して来たね。」
「ただし、僕は女の人のお腹を見て妊娠を決め付けるようなことは絶対しないね。」
「なんで?」「ずっと以前、知り合いの女性の下腹部が膨らんでるのに気がついて、赤ちゃん?って聞いて失敗したんだよ。ただ太ってただけだったんだ。」
「それは気まずいね。」
「うん。最悪だったのが、僕たちの結婚式で、うちの奥さんが女友達に、何ヶ月なの?って聞かれたんだ。」
「ええ~?そんなこと聞かれたの?どういう神経の持ち主かしら!」
と、壁を隔てて仕事をしているシェリルが、憤慨した声で会話に参加して来ました。
「奥さん、それでどうした?」
と私。
「その日はずっと機嫌が戻らなくて、なだめるのに苦労したよ。」
下っ腹の肉って、一度つくとなかなか落ちないんだよなあ。不摂生の証拠として、その存在を延々とアピールし続ける Underbelly。これを指摘するのは、まさに弱点をぐさりと突くようなものですね。
教訓。女性のお腹を見て妊娠かと思っても、ゆめゆめ口にしないこと。