2012年1月28日土曜日

In a pickle 抜き差しならぬ状況

二ヶ月に一回ほどのペースで、同僚リチャードと晩飯を食べに行きます。昨夜も炉辺焼き「おとん」へ。鶏のつくね、焼きハマグリ、子持ちししゃもなど、アメリカ人が普段食さないような料理を頼み、彼の反応を見て愉しみます(大抵の物は彼の絶賛を浴びるので、ちょっと拍子抜けなんだけど)。

最後に「締め」として、えびの天むすをリチャードに、私はおかかのおにぎりを注文しました。付け合せに出てきた赤紫色の物体を見て、彼が初めて動揺を見せます。
「こ、これは一体…?」
「あ、それは柴漬けってやつだよ。」
英語で何て言えば良いか分からないので、ピクルスの一種だと言いました。恐る恐る一口かじった後、これはうまい、と満足げなリチャード。

「そういえばさ、in a pickle ってイディオムがあるよね。よく耳にするんだけど、どういう意味なの?」
と私。「ピクルスの中にいる」状況というのはイメージしにくいのです。
「困った状況にいる、苦境に立たされている、ってことだよ。ほら野球でさ、走者が一、二塁間に挟まれちゃうことあるでしょ。あの状況も in a pickle って言うんだ。」
「うん、聞いたことあるよ。でもさ、大体なんでそれがピクルスと関係あるの?」
「いやあ、それは分かんないなあ。」

帰宅して、さっそく調査してみました。

そもそもpickle (ピックル)は、漬物自体を指す場合も、漬け汁を指す場合もあるようです。漬物という意味だと、in a pickle は「一本の漬物の中に」となり、意味不明です。漬け汁のことだとすると、冠詞の a が邪魔になる。じゃあ何だ?

どうやらずっと昔に、pickle だけで「苦境」を指すようになったみたいです。だから可算名詞なのですね(苦境は何度でも訪れるので、数えられないといけない)。そもそもは中世オランダ語の表現から来ているらしく、長期保存のために食糧を漬け汁に漬ける行為が「何かを困った状態に置く」ことに変わったのだとか。ま、食べる側の我々からすれば全然困った話じゃないんだけど、野菜に言わせれば、あまり嬉しい仕打ちじゃない。

リチャードと店を出る前、何か具体的な使用例は無いか話し合いました。飲み屋で知り合った女性を家に連れ込んでよろしくやってたら、前触れも無く、今付き合ってる彼女が部屋に入って来た!こういう場合がまさに、

“I was in a pickle.”
「抜き差しならない状況だった。」

だそうです。う~ん、あまりピンと来ないなあ…。

2012年1月26日木曜日

Arghhh あ゛~っ

数ヶ月前、産休が明けて職場に復帰して来たPMのジュリー。二人の乳幼児を抱えながらの共働き。限られた時間で最大の成果を上げようと、いつも懸命に働いています。ジュリーが本来のペースを取り戻すまでの間、彼女の担当する8件のプロジェクトのPMを代行している私。この二週間は、独り立ちする前の最終章です。

昨日の夜、彼女からメールが届きました。
「オンライン・レポートの数字を入力し終えたわ。提出ボタンを押す前に、ざっとチェックしてくれる?」
このシステムは、ユーザーがデータをコピー&ペースト出来ないように設計されている上に、アップロードやダウンロードの際の待ち時間が信じられないくらい長いので、簡単な入力にも結構な忍耐力を要します。8件全部のプロジェクト・データを更新するには、2、3時間かかるのです。その更新内容をざっと見ただけで、彼女が帰りの電車を何本かやり過ごして、辛抱強く頑張った様子が伺えます。

今朝一番、さっそくデータをチェックしてみました。するとどうでしょう。ジュリーは基本的な勘違いをいくつかしていたようで、最初の3件が3件とも深刻なエラーを含んでいたのです。これじゃレポートは提出出来ません。一からやり直さないといけない。

すぐにありのままをメールでジュリーに伝えたところ、彼女は自宅でコンピュータを開けていたようで、すぐに返事が来ました。

“Hmm, okay. We’ll have to do it tomorrow because I am not there today.”
「ふうむ。分かったわ。今日は出勤してないから、明日やらなきゃね。」

そしてこう続きます。

“Thanks and arghhh.”
「ありがと、でも、あ゛~っ。」

Arghhh というのは、怒りやフラストレーションを表す叫び声です。彼女の心境がストレートに伝わって来て、ちょっと笑えました。そりゃそうだよな。あんなに頑張ったのに、全部やり直しなんてね。

2012年1月25日水曜日

Incognito 気配を消して

毎週火曜の朝は、ボスのリックが部下全員を集めた定例電話会議があります。今週の会議では、点呼を取った直後、リックが私にこう言いました。

「シンスケは先週、インコグニートだったね。」

はぁ?何のことか分からず無言でいたら、この単語を私が知らないことを察したらしく、

“Well, you were hiding in the bushes.”
「ほら、君は茂みに隠れてたでしょ。」

と言い直してくれました。う~ん、それでも意味がワカラン。

数秒後にようやく思い出したのですが、そういえば前回の電話会議には遅れて参加したのです。白熱した議論の最中だったので名乗るタイミングを逸してしまい、ずっと無言で聞いていて、最後に存在を表明しようとしたら、次の会議があるから、と皆バタバタ退場してしまったのです。後でリックに「実は途中から参加してたんですよ。」とメールを打っておいたのが、今回の彼の発言に繋がったというわけ。

それにしても、インコグニートって何だ?英語っぽくないぞ。

さっそく調べたところ、これはラテン語由来のイタリア語 incognito だそうで、「匿名」とか「お忍び」という意味だということが判明しました。「知ってた?部長がお忍びで温泉旅行を…」なんて場合に使えますね。

“He went to the hot-spring hotel incognito.”

今回のリックのセリフを和訳すれば、こんなところでしょうか。

“You were incognito last week.”
「先週は気配を消してたね。」

2012年1月24日火曜日

Gremlin グレムリン

先週、上下水道部門のPMアマンダからメールが届きました。彼女のプロジェクト予算のコストがあまりにも低すぎるので、修正するようボスのクリスに言われたのだが、どうすれば良いのか分からない、助けて、とのこと。

さっそくシステムをチェックしてみたところ、何故か Overhead cost(諸経費)がマイナス計上されているのに気付きました。こんなエラー初めて見たぞ。早速直しにかかったのですが、何度やっても数字が変わりません。これはシステムの不具合に違いない、と確信し、ヘルプデスクにメールしました。

いつものように二日ほど放置された後、ロス本社のジャックからメールが来ました。
「大元のデータベースでタスク予算そのものを削除したから、もう一度コストを追加してみてよ。」
言われた通りにやってみたのですが、またもやマイナスの数字が出てしまいます。
「全然変わらないんだけど…。」
と返事を打ってから、また二日。今朝になって、ようやくジャックからメールが来ました。
「もう一度その行全体を消してみた。数字を入れ直してみてくれないか?」
さらにこう続きます。

“If it comes back there are gremlins.”
「また同じことが起こるようだったら、グレムリンの仕業だな。」

グレムリンというのは、機械にイタズラする妖精のことです。かつて映画「トワイライト・ゾーン」で、飛行中のジェット機のエンジンを破壊しようとしているモンスターが登場しましたが、あれですね。ウィキペディアによれば、「機械やコンピュータが原因不明で異常な動作をする事をグレムリン効果と言ったりする」そうです。

これには思わず吹き出してしまいました。ヘルプデスクの人がそんなこと言っていいの?

きっとまた駄目だろうと思いつつ、再度トライ。するとあら不思議。今度はうまく修正出来ました。
「ジャック、有難う。綺麗に直ったよ。グレムリンはいなかった!」
すると、ジャックからすぐに返信。

“Yahoo!”

2012年1月22日日曜日

Gargantuan 超弩級の

金曜日の午前中、新しいプロジェクトの詳細についてテリーと話していた時、彼女が何かカッコイイ響きの単語を使ったのに気がつきました。「ガーギャンチュ」とか何とか…。あっという間に通り過ぎた言葉だったので、一体どんな文脈で使われたのかさえ思い出せません。

自分の席に戻ってから辞書で調べてみたのですが、綴りが全くワカラナイ。で、同僚ステヴに尋ねます。彼はグーグル検索に単語を打ち込んでスペルを確かめてから、メモ用紙に書き取ってくれました。

Gargantuan

発音はガーギャンチュアン。「巨大な」という意味だそうです。Enormus (イノーマス)とかHumangous (ヒュマンガス)とはどう違うの?と聞くと、どれも同じで、途轍もなくデカいことを指すのだと言います。

「Gargantuanはかなり凝った表現だよ。僕自身も滅多に聞かないなあ。大多数の人は一度も口にしないで一生を終えるだろうね。」
そんなこと言われたら、使ってみたくなるじゃないの。
「序列はどうなの?この三つの単語を大きさ順に並べるとしたら?」
「いや、それは変わらないよ。どれだけ洒落た言い方をするかの違いだな。ガーギャンチュアンは、中でも一番洗練されてるね。」
そうすると、「巨大な」とか「ばかデカい」クラスの、砕けた日本語じゃ駄目だな。何だろう?「壮大な」でもまだ華美さに欠けるような気がするし…。一番ぴったり来るのは「超弩級」かな?

それにしても、さすがテリー。こんな単語を、一対一の会話の中でさりげなく使うとは…。
「ところでステヴ、ものすごく大きな数の表現に、gazillion (「ガジリアン」と発音)ていうのがあるでしょ。これはどのくらい大きいの?」
「う~ん、具体的にどのくらい、というのは無いね。とんでもなく大きな数のことを指してるんだよ。」
ミリオンとかビリオンを超えた、膨大な数のことを言うのだと。
「あのさ、変なこと聞くようだけど、それってゴジラ(Godzilla)と関係あるのかな?」
と私が尋ねると、彼が意外な激しさで笑い出しました。そういえば、彼は日本の怪獣映画に詳しいんだったっけ。
「いやいや、ゴジラとは無関係だよ。」
そりゃそうか。スペルも違うしな。実は密かにずっとその関連を信じていた私。赤面しそうでした。
「でもそう言われてみると、ゴジラはガーギャンチュアンだね。」
とステヴの一言。お、そうか!
「じゃさ、こんな風に言える?」

“When I turned the corner, there was a gargantuan creature standing. It was Godzilla!”
「角を曲がると、そこに超弩級の生物が立っていた。それはゴジラだった!」

急拵えの例文でしたが、ステヴから合格サインが出ました。後からネットで調べたところ、Gargantuan はフランスの作家ラブレーが書いた巨人一族を巡る物語の登場人物、Gargantua (ガルガンチュア)から来ているのだそうです。

な~るほど。フランスの香りが漂う単語だから、お洒落に聞こえるわけね。

2012年1月19日木曜日

Bull in a china shop がさつな人

午後一番で、ダウンタウン・サンディエゴ支社のドンであるテリーと話していた時、2月から数ミリオンドルのプロジェクトがスタートする予定だと聞かされました。プロジェクト・マネジャーはテキサスの支社にいる女性だとのこと。WBSや予算のセットアップの時は、是非協力してね、とテリーが言います。ハイ喜んで、と快諾した後、そのPMがどんな人なのか聞いてみました。

「とても頭の切れる人よ。かなりの優等生ね。仕事は必ずきっちりやってのけるわ。私は彼女、大好きだし尊敬もしてるわ。」
一旦こう大きく持ち上げた後、意味深な笑みを浮かべて続けます。
「ただね、人に誤解されやすいタイプでもあるのよ。ゴールが決まるとそれに向けて突っ走るあまり、コミュニケーションを端折ることが多いの。キーパーソンに黙って事を進めるケースも度々あって、これが感情的な摩擦を生んでトラブルになるのね。それに頭の良い人にありがちな欠点だけど、相手の話を辛抱強く聞くことが出来ないの。一方的にまくし立てることが多いのよ。」

毎度の事ながら、彼女が誰かの人となりを説明する際の描写の巧みさには、惚れ惚れさせられます。締めくくりにテリーが使ったのが、次の表現。

“She can be a bull in a china shop.”

ブル(bull)というのは雄牛、チャイナショップ(china shop)は瀬戸物屋です。つまり、「瀬戸物屋の中の雄牛みたいになっちゃうこともあるわね。」場面を想像すれば、言わんとしていることは分かります(一挙手一投足がトラブルの元になる)。しかし、彼女がこのフレーズにどの程度否定的な響きを持たせたのかがつかめなかったので、後で食堂で会った時に確認してみました。

「さっきの表現ですけど、あれ、どの程度のネガティブさなんですか?使い方によってはニュートラルにもなるんですか?」
「まず間違いなくネガティブよ。」
ありゃりゃ、そうなの?大好きって言ってたじゃん…。
「要するに、Self awareness (自分を理解する力)に欠けるのよ。」
なるほどね。己を理解出来なければ、自分の言動が引き起こすトラブルに気付く訳もないか。これって、日本語にすると何だろう?「がさつな人」あたりが最適解なような気がします。

後でこのフレーズの語源や意味を調べていたところ、Discovery Channel というテレビ局が以前、Myth Busters という番組で検証を試みていたことを知りました。牧場の囲いの中に瀬戸物売り場を特設し、ここへ雄牛を放してみる、という実験。

http://dsc.discovery.com/videos/mythbusters-bull-in-a-china-shop.html

意外なことに、雄牛は注意深く陶器の棚をよけて歩いたため、な~んにも壊れなかったのでした。牛って結構繊細?

2012年1月17日火曜日

Swamped 大忙し

30年近く前のこと。東京での学生時代、研究室でレポートを書いていたら、先輩のSさんがふらりとやって来て、やぶからぼうにこう言いました。
「ワムじゃないって知ってた?」
あっけに取られて彼の顔を見つめていたら、もう一度同じ質問を繰り返されました。
「え?どういうことですか?」
「ほら、あの売れてるグループあるじゃない。あの人たちの名前、本当はワムじゃないって知ってた?」

Wham! は当時大人気のデュオ。出す曲出す曲、面白いようにチャート入りし、まさに人気絶頂だったんです。さてはイギリスのタブロイド紙あたりにスクープ記事でも出たかな…?
「いえ、知りませんけど…。」
「本当の名前はね。」
ここで先輩は少し気を持たせるように黙ってから、微妙にキザな表情を作ってこう言いました。

「ウェ~ム!、なんだよ。」

これにはズッコケましたね。要するに、きちんと英語風の発音をすれば「ワム」にはならない、という意味なのです。実に他愛も無い会話だったのですが、この時のことは長く記憶に残りました。確かにこの “AM” の入った英単語は、「アム」じゃなくて「エム」と発音しないと通じないことが多かったので。

さて話は変わりますが、先週今週と、鬼のような忙しさが続いています。アウトルックのインボックスに、待った無しの仕事が分刻みでジャカスカ飛び込んで来る。瞬時に優先順位を再調整し、上からバサバサ片付けて行くのですが、入ってくる方が処理する量をはるかに上回っており、もうアップアップ。夕方エネルギーが切れかかった頃、同僚ヴァレリー(ヴァルと呼ばれてる)からメールが届きます。
「先週話した件、やってくれた?」

あいたた…。彼女のプロジェクト、後回しにしてた。でも今から取り組んだらあと二時間は帰れないぞ…。仕方ない、ここは謝っちゃおう。

“Sorry Val, I’ve been swamped.”
「ごめんヴァル、ここんとこ大忙しなんだ。」

そう返信してから、ふと数年前の出来事が蘇りました。

まだロングビーチ支社に勤めていた頃、オフィスをシェアしていた同僚デニスに、この “Swamped” を使って話をしたことがありました。Swamp という単語は、名詞では「沼地」とか「湿地」という意味。これが動詞になると「水浸しにする」となり、過去分詞になると「水浸しの」とか「沈んでる」という意味になります。メールで仕事の催促をした際、大勢の人から “I’m swamped” という言い訳が返って来たので、これは「忙殺されてる」という意味のフレーズなんだな、とちょうど学んだところだったのです。

ところがデニスは、私が何度この単語を繰り返しても理解出来ない様子で、
「綴りを言ってみてよ。」
と困り顔。
「S.W.A.M.P だよ。」
と答えると、
「ああ、スワンプのことね。」
とようやく納得。え?さっきからそう言ってたじゃん、とイラつきながらふと気付いたのですが、私はこれをずっと「スウェンプ」と発音していたのです。だってAM は「エム」でしょ! Ramp もStampもPamphletも、AM の部分はみんな「エム」と発音するじゃん。

ところが後で辞書を引いてみたところ、確かに Swamp に限っては「スワンプ」と発音するのです。え~?なんで~??そんな変則ルール、ついて行けないよ!まあそれより何より、母音の発音が微妙に違うというだけで、会話が全く成立しないということがショックでした。こういう手合いはもう、辛抱強くひとつずつ憶えて行くしかなさそうです。

そんなわけで、近くに英語学習者がいたら、こんなクイズで不意打ちをかけるのも良いでしょう。

「スウェンプじゃないって知ってた?」

2012年1月15日日曜日

Straw Man わら人形?

金曜日の午後、カマリロ支社で支社長のトムの部屋に呼ばれました。プロポーザル・チームの電話会議があるので、参加して欲しいというのです。私の横には、白髪のベテラン社員ビル。電話の向こうには南カリフォルニア地域を統括する大ボスのジョエル、オンタリオ支社のジム、など錚々たるメンバー。参加者の確認をした後、ジョエルが会議をスタートさせました。

議論の焦点は見積もりの方法。複数チームで構成されるこのプロジェクト、それぞれが短期間でコストを積算し、これをカマリロチームで取りまとめる、という段取りなのですが、こうした場合の常として、見積もりは最後の最後に回されてしまいがちなのです。

「入札前日になって蓋を開けて見たら、合計がとんでもない額になっていた、なんて事態は御免だからな。」
とジョエル。この時若い男性が一人、静かに部屋に入ってきて、ビルの隣に座りました。

「まずはトップ・ダウンの積算をそれぞれがして、これをロバートがまとめるだろ。そして詳細を詰めて行きながら、各チームがロバートと調整する。それでどうだ?」
とジョエル。これには皆が賛同します。
「もしも締め切り直前になって突然大幅な変更をしてみろ。ロバートにしてみたら、時間切れ間近の時限爆弾を投げつけられるみたいな話だからな。」

ちょっと一体ロバートって誰よ?と思ってたら、ビルが口を開きました。
「ジョエル、さっきからロバートの名前がちょくちょく出てるけど、彼ならちょっと遅れてこの会議に参加してますよ。」
ビルの隣で、さっき入ってきた若者がニコっと笑いました。

「おお、そうか。ロバートいたのか。」
ジョエルが電話の向こうで、若干慌てた声色でこう言いました。

“Sorry for using you as a straw man.”
「君をわら人形に使ってすまんな。」

はあ?わら人形に使う(Use someone as a straw man)?

これ、何度か聞いたことのあるフレーズだけど、まったく意味が分かりません。急いでノートの隅にメモしておき、会議後に調べてみました。

これは「わら人形論法」と呼ばれ、ウィキペディアによれば、
「議論において対抗する者の意見を正しく引用しなかったり、歪められた内容に基づいて反論するという誤った論法」
だそうです。わら人形は「攻撃するために作り上げた架空の存在」で、語源は「軍隊の訓練で使うわら人形」が有力みたいです(定かではない)。今回のケースはきっとこういうことでしょう。

ロバートは以前から、プロポーザル作成のための積算担当をしていて、毎回入札前夜になると見積もり額修正のドタバタを押し付けられる役回り。私も度々そのポジションにおさまるので、こうなった時の辛さはよく分かります。きっとロバートも、そのことをジョエルにちょくちょく漏らしていたのでしょう。しかし、ロバートが積算プロセスの改善を唱えたわけではない。ジョエルが勝手に、自分の主張を武装するための道具としてロバートの不満を活用した。

このフレーズ、和訳を考えたのですが、ぴったりとした表現が出てきません。今回のケースに限って言えば、一番近いと思うのがこれ。

“Sorry for using you as a straw man.”
「君をだしに使ってすまん。」

どうでしょう?

2012年1月10日火曜日

ごめんを言えるアメリカ人

日本にいる頃、「アメリカ人は謝らない」と聞かされることが多く、渡米する前からその真偽を確かめたい気持ちはありました。確かに訴訟が多く、何かというと「スー(sue)するぞ!」と脅すカルチャーはあるため、あまり安易に謝罪するのはまずい、という意識は一般の人にもあるような気がします。

「交通事故にあった?今すぐ我々にお電話を!」
そんなテレビCMを弁護士事務所がバンバン流すようなお国柄だから、「下手に謝ってしまったら非を認めたことになり、裁判で不利になる。」という防衛反応が身についても不思議ではないのです。

以前スターバックスでコーヒーを買う列に並んでいたら、私の前の男の人がカップを受け取る際、あふれたコーヒーが手にかかったのか、「熱い!」と叫びました。店員の女性が慌てて、

“I’m sorr…”
「ごめんなさ…。」

と言いかけたものの、ぐっと言葉を飲み込んでから、

“Are you OK?”
「大丈夫ですか?」

と言い直したのには驚き呆れました。そこまでして謝罪を思いとどまるとはねえ…。

さて、先週の木曜と金曜は久しぶりにオレンジ支社へ出張しました。社内営業が主な目的だったのですが、中でも環境部門の重鎮であるマイクにプロジェクト・マネジメントのパーソナル・トレーニングをする、という予定がメインでした。このマイクという人とは今まで一度も話したことがなく、顔もぼんやりとしか覚えていませんでした。私の弟子の一人マックスを通じてトレーニングの依頼があったので、お受けしたのです。

ところが予定の3時になって彼のオフィスを訪ねてみると、白熱した電話会議の真っ最中。暫く待ったのですが、一向に終わる気配が無かったので、一旦席に戻って「終わったら連絡下さい。」とメールを打ちました。

30分ほど待った時、背後に人の気配を感じて振り返ると、当のマイクが立っていました。綺麗に刈り込んだ銀髪に、人柄の温かさを滲ませる目尻の皺。カジュアル・フライデーで、ジーンズにTシャツというスタイルの社員がオフィスに溢れる中、品の良いブラックの丸首セーターにこげ茶色のジャケットというシックな出で立ち。胸ポケットにバラの花でも差したら完璧だな、と思わせる「お洒落オヤジ」です。

挨拶と自己紹介のために立ち上がろうとする私を静かに右手で制し、そのまま私の右手を握りました。そして穏やかな声でこう言うのです。

“I’m so sorry.”
「本当に申し訳ない。」

次に、握手の手を繋いだまま腰を落として右膝をカーペットにつき、折角のアポイントメントをふいにしたことを丁寧に詫び、喫緊の課題が山積みで、今日はとてもトレーニングを受けられそうも無い、次回は必ず約束を守ると述べました。

アメリカ人からこんなに丁重な謝罪を受けたのは初めてで、正直うろたえました。マイクはこうも言いました。

“Sitting down with you and getting trained is gold to me.”
「君にパーソナルトレーニングを受けられるなんて、本当に貴重なことなんだ。」

だからこの機会を逃したのは本当に残念で、なんとしても挽回したいのだ、と。

家に帰って妻にこの話をしたところ、ひざまずかれたクダリで、
「ハイ、プロポーズをお受けしますって答えれば良かったね。」
と笑いました。

いやいや、そんなジョークが通じそうな雰囲気じゃなかったぞ。

2012年1月7日土曜日

It is what it is. どうもしようがない。

火曜の午前10時、定例の電話会議がありました。エリック、マイラ、リサ、ミケーラ、シャノン、そして私の6人が組織する、ミニ経営会議です。収益率の激減しているプロジェクトを週の初めに一件一件チェック。もしもデータの入力ミスなら修正しなければならないし、採算悪化の特殊な要因があるのなら、それを究明して対策を講じなければならない。この会議の具体的なアウトプットは、「誰がどのプロジェクトを担当するか」です。割り振りが決まったら、各自早急に担当PMと連絡を取り、必要な措置を講じます。

この会議時間の大半は、ワースト10プロジェクトに関する議論に費やされます。前の週に担当PMと話したメンバーがその内容を説明し、皆の質問を受ける。この際によく使われるセリフがこれ。

“It is what it is.”

「イリーズワリリーズ」と聞こえ、繰り返し口にしてると段々気持ち良くなって来ます。

字義通りに解釈すれば、It is (それは)what it is (そのもの)。「ご覧の通りだよ」って感じでしょうか。私が今まで聞いたケースでは、
「やれることは全てやった、その結果は見ての通り。これ以上どうもしようがない。」
そんな感じで使われることが多かったと思います。ここでふと、文法的に正しいのかどうか気になり始めました。ネットで色々調べたところ、文法に関する言及はこれといって見つからず、それよりむしろ、
「色々な場面に使えて便利ではあるけど、結局何が伝えたいのか分からない。」
という否定的な見解が大勢を占めている様子。

すっきりしないので、英語の達人テリースのオフィスを訪ねます。
「私の若い頃には無かった表現ね。最近の流行だと思うわよ。」
「ポジティブに使われるの?それともネガティブ?」
「そこなのよ。こういう言い方をすると、メッセージがとっても曖昧でしょ。言ってる本人でさえ、どちらの意味で表現してるか分かってないケースもあるんじゃないかしら。短期間で消えて行くフレーズだと私は見てるわね。」

ふ~ん、そうなの。
「僕は長く生き残る表現だと思うけどなあ。しょっちゅう耳にするし、第一音の響きが気持ちいいもん。」
と抵抗する私に、謎めいた笑みを浮かべながらテリースがこう呟きました。

“It is what it is.”
イリーズはリリーズ

頭の上に「?」マークを突き立てて、彼女のオフィスを後にする私でした。

2012年1月5日木曜日

Cut to the chase. さっさと本題に入れ。

元旦をゆっくり自宅で過ごした翌日、息子を連れてブックオフへ。映画コーナーをぶらぶらしていたら、ボーン・シリーズのDVDが「3-Disc Collection」と銘打って、なんと10ドルで売られています。おお、これは安い!ボーン三部作が10ドルなら、断然買いでしょ!と大興奮。

マット・デイモン主役のこの作品群は、記憶喪失になった元CIAのナンバーワン工作員が、後から後から現れる第一級の刺客を倒しながら生き延びる話で、息をもつかせぬスピーディな展開が見所。以前三作続けて鑑賞した時、これはまとめて自宅に置いておきたい秀作だと思い、三部作パックが安値で発売されるのをずっと待っていたのです。大喜びで購入して帰宅しました。

こういうサスペンス作品というのは、アクションのユニークさはもちろんのこと、緊張感のある会話の連続が生命線。第一作の「ボーン・アイデンティティ」前半の会議場面で、「ジェイソンがどうやら仕事をしくじったらしい。しかもターゲットに顔を見られた。」という話を持ち出すCIA幹部に、上級幹部の一人がこう言います。

“Cut to the chace.”
「さっさと本題に入れ。」

これは初期のアメリカ映画が、ロマンティックなお話が延々と続いた後に最大の見せ場である追跡シーンで終わる、という構成だったため、「ロマンスはもう切り上げて(cut)、早くクライマックス(chase)を見せろ」という意味で使われたのが語源のようです。

この場面では、仕事をしくじったジェイソンの始末をどうつけるのかを早く言え、という意味で使われているのですね。もちろん「奴を消せ」と迫っているのです。

さて、本題に入ります。私の買った三枚組みコレクションですが、三部作パックと思っていたのが実は第一部と二部、それにボーナス・ディスクのセットでした。しまった。年始早々バッタもんをつかまされた!幸先悪いです。