2016年5月22日日曜日

Everything is squared away 何もかもがきちんとしている

金曜日、ランチルームで同僚ダグに声を掛けられました。彼は出張で成田乗り継ぎがあった場合、わざわざ成田山に足を運ぶほど日本が好きで、カプセルホテルに泊まってその清潔さに驚嘆したり、出会った人々の親切さに感動したりした話をよく語ってくれます。

先日、彼の友達(アメリカ人)が成田乗り継ぎの機会があるというので、

「どこへ行ったらいい?」

とダグにアドバイスを求めて来たのだそうです。

「よくよく聞いたら、2時間しかないっていうんだよ。それじゃ外へ行くのは無理だ、ということで、空港内部で楽しむことになったんだけどね。」

「そんなの、僕でもアドバイス出来ないよ。」

と私。

「帰国したそいつに感想を聞いてみたら、やっぱりすごく驚いてたよ。すっかり日本のファンになったって。」

この時ダグが使った表現が、これ。

“Everything is squared away.”

Square というのは、四角く区切る、つまりきちんと整理整頓する、という意味ですね。Away をつけて、きちんとしておく、という感じでしょうか。私の和訳は、

“Everything is squared away.”
「何もかもがきちんとしている。」

「それって、お店や空港施設みたいな空間がってこと?」

と私。

「いや、人間もだよ。誰に話しかけても、みんな礼儀正しくて親切だろ。これはすごいことだよ。アメリカじゃあり得ないことだからね。」

そして彼が表情を曇らせ、

「でもね、そういうのを聞く度に、いつも必ずちょっと混乱するんだな。」

と付け加えます。歴史通でもあるダグには、これが大きな未解決テーマだというのです。

「一般市民の温かな国民性と、かつて日本軍が中国大陸で見せた残虐性とが、どうしても噛み合わないんだよね(incompatible)。」

これを聞いて、その日の朝息子と交わした会話が蘇りました。彼は今、日本語補習校の中学三年生なのですが、ちょうど土曜日に中間試験があるというので、その準備を前の晩に手伝っていたのです。社会のテスト範囲は「第一次世界大戦から日中戦争まで」。教科書には客観的な史実しか記載されていないので、これでは「何故日本が大陸に突入して行ったのか」が読み取れない。これを補足するため、彼を高校へ送る道すがら、解説を試みたのです。

とはいえ私がオリジナルな見解を持ち合わせているわけではなく、「昭和史」の著者である半藤一利氏が繰り返し語っている、「日本人の性質」をちょいとアレンジさせて頂きました。

権威や規律に対して従順で、列に並んで順番を待ったり交通信号をちゃんと守ったりすることに長けている我々日本人は、ひとたび目標が定まると、一丸となって熱狂的に突き進むことが出来る。戦後の復興やオイルショック後の省エネ運動などを見ても、その団結力は驚異的である。民主主義を謳ってはいるけれども、アメリカのように「個人が自由意思を主張し続け、常に混とんとしている」社会とは違う。ぶつかり合って摩擦を生むよりは、妥協して調和の中で生きる方を選択する傾向が強く、「分をわきまえる」「身の程を知る」ことが美徳とされている。そういう国民だからこそ、「五族協和」などというスローガンで大陸進出の正当性を「お上から」与えられれば、それ行け!と一斉に行動開始出来る。礼儀正しく親切な国民性は、主体性を失い妄信的な行動に駆り立てられやすいという、「脆さ」と背中合わせなのだ。

息子からもダグからも一定の共感を得られましたが、これはやっぱり「ストンと腑に落ちる」説明ではありません。私自身も戦争体験があるわけではないので、どこか遠い国の話をしているような気分。出来れば触れずにやり過ごしたい難しいテーマですが、こういう本質的な議論を避けていれば、本当の意味で歴史から何かを学ぶ経験は出来ないと思います。私はアメリカに来てから、一層強くそのことを感じるようになりました。だからあえて息子に、そんな補足説明をしたのです。

ダグは先日まで何度か、ティニアン島への環境関連プロジェクトの出張を続けていました。これは、広島、長崎に投下された原爆を搭載した爆撃機が飛び立った重要拠点。このちっぽけな島が日本の歴史を大きく変える重要な役割を負ったということを、私は数年前まで知らずにいました。

彼は帰国途上、経由地グアム島にある太平洋戦争記念館(Pacific War Museum)に寄ってみたのだそうです。ここには原爆に限らず、あの戦争に関するありとあらゆることが学べる展示物が陳列されているのだとか。

「中で説明していた係員に、ちょっと聞いてみたんだ。観覧者からどういう感想が聞けるのかってね。そしたら、出身国によってはっきり分かれるって言うんだな。」

アメリカ人:「やったね、俺たち戦争に勝ったんだぜ!イェイ!」

韓国人:「知れば知るほど、日本ってやっぱりひどい国だよね。」

中国人:「日本人に会ったら顔を思いっきりぶん殴ってやりたい。」

日本人:「全然知らなかった!勉強になりました!有難うございます!」


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