2015年7月24日金曜日

Did you bring a rubber? ゴム持ってきた?

今週は月曜から木曜まで、ロサンゼルス出張でした。わが社では現在、プロジェクトマネジメントのための全社統一プログラムの開発が進んでいて、あと数カ月で完成、という運びになっています。世界中に広がる約二万人の社員が使用を開始する前の最終チェックのため、ペンシルバニア、ミシガン、デンバー、テキサス、更にはオーストラリアと、様々な地域から十人ほどの社員がロスに集合し、三日間缶詰状態で議論しました。ちなみに私は、アメリカ西海岸代表。

開発チームを代表してプログラムの解説をするのは、ボストンから飛んできたクリスティーナ。年齢は私と同じくらいでしょうか。何時間でもぶっ続けに喋れるタイプの、活力みなぎる女性です。

二日目の晩には、近くのフレンチレストランで会食があったのですが、私は意識してクリスティーナの真正面に陣取りました。私の右隣は、ミシガンからやってきた40歳くらいの白人男性トロイ。その正面はオーストラリアから来たサラ。ボーイさんが注文を取りに来る前に、クリスティーナが自分の周りの出席者に、名前や出身、趣味などを矢継ぎ早に尋ね始めました。トロイは地ビール造りとマウンテンバイクが趣味で、一時期は自転車を7台も持ってたよ、笑います。私もビール造るしバイクも乗るのよ!とひとしきり盛り上がった後、クリスティーナが私の目を見て質問します。

「あなたの趣味は?」

考える時間がほとんど無かった私は、反射的にこう答えていました。

「アメリカ英語のイディオムを集めることかな。」

大きく口を開け、目を見開くクリスティーナ。その表情は、「あんた何言ってんの?ばっかじゃないの?趣味を聞いてんのよ、趣味を。」という侮蔑とも取れましたが、彼女の顔はみるみる嬉しい興奮に包まれて行きました。

「私もよ!」

「うん、そうだと思った。だからここに座ったんだよ。解説をお願いしたいことがあってね。」

と答える私。

そうなんです。それまでの二日間、私は彼女の繰り出す新しいイディオムの数に圧倒されていました。書き留めることが出来たものだけでも、十は超えています。仕事で使えるイディオムはほぼ制覇しちゃったかも、という慢心を、気持ちよく打ち砕いてくれました。プロ野球のスカウトが愛工大名電時代のイチローのバッディングを初めて見た時のショックが、こんなものだったのではないでしょうか。

「実を言うとね、君の口から新しいフレーズが飛び出す度に、いちいち書き留めながらネットで意味を確認してたんだ。」

と私。

「ごめんなさい。私そんなだった?全然気づかなかった。」

とクリスティーナ。

「いやいや、こっちは興奮してたんだよ。お、また新しいのが出たぞ!ってね。」

彼女のイディオム連打に挑発されたか、会議室のあっちからもこっちからも、まるで競い合うように初耳イディオムが乱れ飛び始めたので、私は密かにエクスタシーに浸っていました。まるで荒川と隅田川と東京湾で同時に花火大会が始まったみたい。

There’s no bones about it. (骨なしだからね。)
スープに骨付き肉が入っていないと食べやすいことから、全然難しくないよ、という意味。

If your client is breathing down your neck, (もしもクライアントの息がうなじにかかっていたら)
クライアントが過剰なまでに干渉して来たら、という意味。

The proof is in the pudding. (証拠はプリンの中にある)
「実際に使ってみるまでは分からない」という意味で使われるこのイディオム。そもそもは、The proof of the pudding is in the eating. (プリンの品質は食べてみなければ分からない)というフレーズだったのがいつの間にか縮まってしまったらしいよ、と説明すると、全然知らなかったわ、と感心するクリスティーナ。

「日本語のイディオムがあったら何か教えてくれる?」

と散歩をねだる犬のような目でせがむので、「他山の石とする」という慣用句を教えてあげました。つい最近、東芝の不祥事に際して経済同友会の小林代表幹事が使った一言です。ほおぉ~、と感心するクリスティーナ、トロイ、そしてサラの三人。

「イディオムってさ、その国や土地の文化や歴史と密接に関係してるんだよね。」

とトロイ。

When the rubber meets the road. (ゴムが道路に会った時)
このフレーズは、「タイヤ(ゴム)が道路に接した時」、つまりテスト期間が終了して実際に車を道路で走らせる時、という意味。要するに、「実施段階が来たら」ということですね。

「これは比較的新しいイディオムだよね、自動車が登場してからのことだから。」

とトロイ。

「そうそう、オーストラリアのイディオムって、えげつないのが多いのよ。」

とクリスティーナ。彼女は3年ほど家族であちらに住んだことがあるそうです。サラがすかさずクリスティーナに何か耳打ちします。

「ええっ?嘘でしょ。そんな表現があるの?」

とのけぞるクリスティーナ。なになに?教えてよ!と詰め寄るトロイと私に、「絶対言えない」と首を振るサラ。想像を超える下品さらしい。

「外国人には伝わりにくいイディオムもあるわよね。そもそも同じ単語なのに違う意味で使われるケースも一杯あるからね。」

クリスティーナの娘は、オーストラリアで通い始めた学校の初日に、教師からこう聞かれたそうです。

“Did you bring a rubber?”
「ゴム持ってきた?」

オーストラリアではRubberが「消しゴム」という意味で使われていたことを知らなかったので、娘から報告を受けたクリスティーナは 一瞬ギョッとしたそうです。

サンディエゴに戻って総務のトレイシーにこの話をしたところ、

Rubber には長靴っていう意味もあるのよ。Put on your rubbers. (長靴履きなさい。)と言われた人が、無理やり頭にゴムを装着しようとしたりしてね。」

こめかみに両手を当て、窮屈そうに身をよじるトレイシー。


う~ん、この人、ノリ良すぎ。

2 件のコメント:

  1. 消しゴムは eraser が正しいのでしょうかね、黒板消しも同じなのかな。
    ちなみに宮崎では皆当たり前に、黒板消しのことを「ラーフル」と呼んでます。アメリカ・イギリス・オーストラリア 同じ英語でも表現が違うのは方言のような感じなでしょうか。
    http://www.nikkei.com/article/DGXBASDB08001_Y1A101C1000000/

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  2. え?ラーフル?初耳だぞ。外来語にも方言があったとは。
    オーストラリアから来たサラが送ってくれた「オーストラリアのイディオム集」というウェブサイトには、アメリカ人達が聞いたことも無いフレーズが満載だったよ。英語、と一口に言っても色々なんだよね。

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