本社プロジェクト・コントロール部門副社長のパットからの要請により、月曜の午後一番、ウェブを使った社内トレーニング(ウェベックス)を実施しました。今回、全米は元より世界中の社員を対象に行う内容だったため、珍しく若干緊張していた私。しかしネタは自家製だし、それなりに場数を踏んで来た自負もあったので、よっしゃ、やったるぜ!と意気込みの方が勝っていました。
小さめの会議室に一人陣取り、開始15分前にログイン。ホストを務めるテキサスのジョーゼフという(一度も会ったことはない)若い社員がウェベックスをスタートさせ、予め送っておいたパワーポイントの資料を映し出します。全社レベルのウェブ会議は初体験の私に、彼が簡単に段取りを説明。オープニングの紹介が終わったら、彼が私にホスト権を手渡す。私は録音ボタンを押した後、皆に断って参加者の音声をミュート(消音)してプレゼンを開始する。終了後、質問を受け付けるためにミュートボタンをオフにする。
「オッケー。何かあったら助けてよね。」
開始予定時間の数分前から、画面右側のウィンドウに参加者の名前が次々に現れ始め、あっという間に数百名を超えました。
「今日のテーマはKPI(Key Performance Indicator)です。カリフォルニアのシンスケがプレゼンしてくれます。ではシンスケ、よろしく。」
とジョーゼフが、段取り通りウェブ上でバトンタッチ。
「皆さんこんにちは。カリフォルニアはサンディエゴ支社からお届けします。シンスケと言います。ではまずトレーニング中の余計なノイズを遮断するため、ミュートしますね。」
そう言ってから、「ミュート・オール」というボタンを押し、トレーニングをスタート。静けさの中、頁をめくりながら10分ほど調子良く喋ったところで、マナーモードにしてあった私のiPhoneが何度もブルブル震えているのに気付きました。おや、とボタンに触れたところ、複数の人からメールやテキストが入っています。中にはパットの名前も。
「音が全然聞こえないよ!」
「プレゼンターが自分の声までミュートしてるぞ!」
と口々に叫んでいるのです。さすがにうろたえた私はミュートを外し、参加者に謝ります。ところが数百人の電話音声を一気に解放したものだから、ものすごい音の洪水でもみくちゃにされます。
「皆さん、ご自分の電話をミュートして下さい!今、最初からやり直しますから!」
まるでデモ隊に単独で立ち向かう、派出所の老巡査。私の必死の呼びかけにも拘わらず、少なくとも数人は音声をそのままに誰かと談笑を続け、どこかで激しく吠える犬の声もこだましています。
「ジョーゼフ!何とかならないかな?」
と完全にお手上げの私。
「ちょっと待って。僕に役割を戻してくれる?」
「え?どうやるんだっけ?」
もう、後はグタグタ。愛想をつかした多くの参加者が途中退出する音がポピッポピッと立て続けに聞こえる中、ようやく態勢を立て直した私はジョーゼフに、
「はい、次のページお願い。」
と指示しながら、何とか時間内にプレゼンを終わらせます。そして平謝りで閉幕。
電話を切った後、しばらく茫然と画面を見つめて固まる私。これほどの大失態、入社以来初めてかも。しかも全世界の支社を相手に…。「へこむ」なんてレベルの話じゃないぞ…。
ようやく自分を落ち着かせ、席に戻ってアウトルックを開けたところ、私とジョーゼフ宛てに副社長のパットからメールが届いていました。
「プレゼンの内容自体はすごく良かったわ。」
とポジティブなコメントの後、今後の改善点をいくつか提案するパット。自分の電話をミュートして下さい、と最初のページに書いておき、口頭でも真っ先にお願いする。遅れて参加して来た人達にも繰り返し言う、などなど。
“So much
for input from the peanut gallery.”
「ピーナッツ・ギャラリーからのコメントはこれくらいにしておきます。」
ん?なんだそれ?
“So much for”というのは、「これでおしまい」とか「以上です」など、コメントを締め括る時に使う表現。じゃあ「ピーナッツ・ギャラリー」って一体何だろう?瞬間的に、チャーリーブラウンやスヌーピーたちを展示する美術館が頭に浮かびました。六本木にスヌーピーミュージアムが出来たっていうし。そういうギャラリーのことか?おいおいパット、今回のプレゼンは「漫画みたいに滑稽だったわね」と茶化してくれちゃってるのかよ?とちょっぴり傷つきながらも苦笑し、一応意味を調べてみる私。
なんと、Gallery(ギャラリー)には「画廊、美術館」の他に「天井桟敷(最上階の一番安い席)」という訳があるというのです。Peanut
Gallery(ピーナッツギャラリー)というのはそれを強調したフレーズ。スナックとしてピーナッツくらいしか食べられないほど安い客の座る席、ですね。つまり、「無教養の低所得者用観客席」。そんな低レベルの観衆から発せられる演劇批評は考察に値しないぞ、というケースで使われる表現だというのです。
パットが言いたかったのは、こういうことですね。
“So much for input from the peanut gallery.”
「外野からの戯言はこれくらいにしておくわね。」
なんか、じわっと来ました。
「外野からのヤジはこれくらいにしとくわネ」の方が良くない・・・おっと、これこそまさに「外野のヤジ」ダワ(笑
返信削除辞書引いた瞬間に「ガラ~~ンスッ!」って脳裏に浮かばなかった?
http://mihocinema.com/tenjousaziki-6045
もちろん「天井桟敷」を見たコンマ一秒後に叫んでたよ。よく考えてみれば、音の洪水に逆らって叫んでた時はまさに「ガラ~~ンス!」状態だったな。
返信削除「ヤジ」まで行くとちょっぴりネガティブなんだよね。パットは一応サポートしてくれていたので、そこはやっぱりややニュートラルな言葉が良いかと。