オレンジ支社へ出張しての、PMツール・トレーニング二週目が終わりました。
今回パートナーになったのは、シドニー支社出身のメイ。彼女は中国系マレーシア人。大学卒業後オーストラリアで暫く働いた後、アメリカでのポジションを与えられて移住して来ました。幼少の頃から常に学年トップの秀才だったと臆せず自己紹介する、活力あふれる小柄な彼女。30代半ばでしょうか。小さい頃は水泳の競技選手で、最近はロック・クライミングに励んでいるのだそうです。トレーニング初日を翌日に控えた日曜の晩、ホテルのレストランで打ち合わせ。
「本社の指示に従ってたら、有効なトレーニングにならないと思うの。スライドの文字を8時間読み聞かされたって、どうせ次の日にはほとんど忘れてるでしょ。ツールの使い方を学ぶんだったら、実際に使うのが一番。参加者に実践させましょうよ。」
と、彼女が大胆な変更を提案して来ます。先週と同じことをもう一週繰り返すことを思ってやや憂鬱になっていた矢先のこと。本社で取りまとめをしているシャロンが繰り返していた「全社員が同じ内容のトレーニングを等しく受けることが重要」という主張もちらりと脳裏をかすめたのですが、思わず「いいね、それやってみようよ。」と乗っかる私。
蓋を開けてみると、これが大正解。眠そうな顔の受講者などひとりもいないし、あるステップを早く終えた人が隣の社員を助けたりして、活気に満ちたトレーニングになりました。前の週に参加できなかった人が事前連絡も無く飛び入りするとか、ラップトップ・コンピュータを持っていない人が現れたりとか、予想外の事態が頻発したため、全てをスムーズに進められたわけではありません。しかしそれでも参加者はほぼ全員、
「スライドを見せられる形式の百倍以上は学んだよ。」
と、このHands-On Training(実践的トレーニング)を絶賛してクラスを後にしました。
前の週に本社からの指示通り旧態依然のトレーニングを展開したばかりの私の目に、学習効果の違いはえげつないくらい歴然としていました。
「最初からみなこういうトレーニングをするべきなのよ。受講者が眠くなるような形式を押し付ける方がおかしいわ。」
と主張するメイに、
「全ての会場にWi-Fi環境が整っているわけじゃないと思うよ。公平を期するための指示だったんじゃないかな。」
と本社の擁護を試みる私。この弁明を一瞬吞み込んだように見えましたが、
「だったらちゃんとした会場を確保することを条件にすべきだと思うの。」
と退かないメイ。正論です。
彼女と一週間過ごすうち、その強烈なキャラにじわじわと押されていくのを感じていた私。自分が群を抜いて優秀なことを自覚している人に共通する、
「誰からどんなに難しいお題を出されても鮮やかに回答してみせる」
という前のめりな姿勢がビンビン伝わって来て、何か人生に関するアドバイスでも求めなきゃいけないような気にさせられるのですね。
クラスを終える際には必ず、20人を超える受講者のフルネームと所属部署名を次々に言い当てて拍手喝采を浴びるメイ。全員初対面なのに…。
「どうやって覚えてるの?僕にはとても真似できない芸当だよ。」
と感心する私に、
「意識を集中させれば、学びの深さは無限になるの。要はフォーカスよ。」
と笑う彼女。トレーニング中も絶え間なく際どいジョークを織り交ぜ、回転の速さを印象付けます。
「それじゃ、プロジェクト名をタイプしましょう。何でもいいですよ。Build Wall(壁の建設)とか。あら、これはちょっとPolitically
Correct(適切な発言)じゃなかったわね。」
もちろんトランプ新大統領の政策を揶揄しての冗談ですが、職場でさすがにこれはまずいでしょう。すると彼女はすかさずこうフォローするのです。
「オーストラリアから来たばかりで、よく分からないの。失礼。」
最終日の最終クラスを終え、さすがに疲労を隠せないメイと一緒に部屋の片づけをする私。この一週間、まるでゲスト・コメンテーターのような立場でひっそりと彼女のワンマンショーを傍観していた私。前の週にはメイン講師としてジョーク混じりにトレーニングを展開していたのに、とうとう一人も笑わせることなく終わってしまった。予想もしていなかった不完全燃焼に、ちょっとした孤独感を味わっていた私。
「あ、そうだ。ナンシーから借りてたLoaner Computer(ロウナー・コンピュータ)を返さなきゃね。」
というメイに、僕がやっておくよ、と答えます。Loanerというのは「借り物」とか「代用」という意味。ラップトップを持参しなかった参加者のために貸し出したコンピュータを棚に戻す作業を終え、ナンシーにiPhoneメールで報告した後、トレーニング会場に戻ります。
暫くして、メールをチェックしていたメイが突然笑い出しました。
「シンスケ、これどういうこと?ロウナー・コンピュータって!」
ナンシーへのメールccに彼女を含めておいたのですが、どうしてそれを読んでウケているのか分かりません。よくよく見ると、私はLoanerとすべきところをLonerと間違って書いていたのですね。
Loaner Computer レンタル用コンピュータ
Loner Compute 孤独を愛するコンピュータ
ケタケタ笑うメイに、「いや、単なるスペルミスだよ」と言い訳しつつ、最後の最後にようやく笑いを取れたことを素直に喜ぶべきかどうか、ちょっぴり悩む私でした。
’moot’の意味を調べていて、こちらのブログの過去の記事を読んで、なるほど! 詳しく説明してあり、助かりました~。ありがとうございました!
返信削除お役に立てたようで嬉しいです。またお越し下さい!
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