金曜の朝、南カリフォルニア地域のプロジェクト・コントロール担当副社長R氏からメールが届きました。
「時間のある時に電話くれないか?君と君のチームの今後の役割について話したいんだ。」
古参の社員に対するトレーニングを重ねてじわじわとチームを拡大して来た私の地道な努力をあざ笑うかのように、今年の春ふらっとロサンゼルス支社に現れてあっさりと新部門を立ち上げてしまったR氏。そして次々に外部から人を雇い入れ、気が付けば十人を超える集団の長になっていました。手塩にかけて育て上げたチームを率いる私にとってみれば、この「よそ者軍団が幅を利かせている」状況は正直面白くないし、脅威でもあります。これまでR氏のチームと私のチームとの関係をどうするのか、という議論は一度も無かったし、ひとたびこのテーマが大っぴらに話し合われたら、うちのチームが潰されるか吸収される可能性は容易に想定出来ます。R氏からの突然のメールは、本格的組織改変の開始を示す「のろし」かもしれない、と踏んだ私。さっそく大ボスのテリーにメールを転送し、
「昼休み明けに電話してみますね。」
と告げました。
「何があろうとサポートするわよ。」
と、間髪入れずに返信してくれた彼女。去年の10月にサンディエゴ支社環境部門へ移籍してからというもの、私はこのテリーの翼の下で愉快に仕事を続けて来ました。彼女の「肝っ玉母さん的」なアドバイスには、これまで何度も助けられて来た私。
数週間前、R氏がオーストラリアから引き抜いて来た女性社員のMが、サンディエゴ支社のPM達に電話をかけまくり、あれこれ指図して来たことがありました。
「Mって何者?シンスケのチームが僕たちをサポートしてくれていること、彼女は知ってるはずだよね。」
困惑するPM達から話を聞き、「R組の奴等、いよいようちの縄張りに殴り込んで来やがったな。よ~し、全面戦争や!」とチンピラのようにいきり立って組長テリーに報告した私は、彼女の一言に意表を突かれました。
「Mに電話して話を聞いてみたら?」
何らかの下心があっての行動かもしれないと勘繰っていても埒が明かないでしょ、よくよく聞いてみたら「なんだそんなことか」って話、よくあるじゃない、と。え?そんな呑気なリアクション?戸惑って立ちすくむ私を、小会議室に引っ張って行って迷わずMに電話をかけるテリー。
「ごめんなさい。着任したばかりでよく分かってなかったの。これからはサンディエゴ支社のPM達に連絡する場合、まずシンスケに断りを入れるわね。」
と素直に謝罪するM。電話を切った後、ほらね、とテリーが微笑みました。あまりに拍子抜けな結末に、ただただ茫然とする私。家族には、「誰かの言動に悪意を読み取って色々悩んでいる自分に気付いた時は、思い過ごしかもしれないぞと冷静に考えてみるべし」と日頃から偉そうに説教していたのに、このザマです。なんて未熟な奴なんだ!と激しく恥じ入ったのでした。
そんな出来事があったお蔭で、今回も最悪の事態を覚悟はしつつ、ややリラックスした心境でR氏に電話をかけることが出来た私。
「昨日の晩、本社のショーンからメールを受け取ったんだ。オーストラリアでのトレーニングに講師が足りないということで、アメリカから6人選ばれたそうなんだが、君の名前もそこに入っていてね。12月に三週間、それから年明けに一週間、オーストラリア出張だ。都合つくかな?君が今サポートしてるプロジェクトにも支障が出るだろうから、今からチームでどうカバーするかを相談しておいた方がいいと思うんだ。」
これは全くの想定外でした。更にR氏が続けます。
「本社のパットと相談してね、南カリフォルニアの各支社でプロジェクトコントロールを担当してる人材の能力評価を、近いうちに始めることにしたんだ。これには君の協力がぜひとも必要だ。お願い出来るかな?」
電話を切った後、テリーの席へ行って首尾を報告しました。
「ほらね。悪の親玉みたいなイメージをどんどん膨らませて警戒してるより、さっさと電話しちゃった方が早いのよ。」
とニッコリ笑うテリー。
「まったく、前回の件も含めて、自分の思い過ごしが恥ずかしいですよ。アドバイス、本当にどうも有難う。コミュニケーションのレベルって、自分の心構えひとつですごく変わってくるんだなあ、ってあらためて学びましたよ。」
自分の上司もあまり頻繁にコミュニケーションを取りたがらないタイプだ、というテリー。
「だから要求されてるわけでもないのに、あたしの方から勝手にガンガン連絡しちゃうのよ。それで彼からも、段々と情報を提供してくれるようになったの。」
なるほどねえ。彼女の開けっ広げなアプローチが、じわじわと相手の心を溶かすのでしょう。テリーがこう言って微笑みました。
“It’s leading with
example.”
「自ら範を示す、というやつよ。」
何度も大きく頷いて自分の席に戻った私。
今後は人間関係でモヤモヤしたら、さっさと受話器を手に取って相手に電話をかけよう、そしてそういう習慣を続けることで、家族や部下たちにも範を示そう。そう心に決めた私でした。
いよいよ世界を股にかけて仕事をするって感じだね。
返信削除12月から1月のオーストラリアだったら、夏の入り口でサーフィンとかが活発そうだね。グルメも堪能できそう?
http://openers.jp/article/952382
情報有難う。オーストラリアには行ったことなくて、予備知識ほぼゼロなので、これから下調べです。息子に言ったら、「いいなあオージービーフ!」だって。うちの奥さんは、「クロコダイル・ダンディーでも観てオージー英語に慣れておいた方がいいんじゃない?」
返信削除ま、我が家のオーストラリア認識はこの程度です。
ウチだって「グレートバリアリーフのダイビングがイイらしいんだよね」とか「コアラを抱っこするのは楽しそう!」とかそれくらいの認識しかないよね。
返信削除カミさんは洋楽マニアなので、オリビア・ニュートン・ジョンとかビージーズとかエア・サプライの話も出るかな? そういえば、昔「ファンキー・タウン」をカヴァーしたスード・エコーってバンドもたしかオーストラリア出身だったね(懐
https://www.youtube.com/watch?v=uE-itlGNap4
あと、この和訳としては「百聞は一見にしかず」の方がしっくりこない? あ、でも電話は「聞く」方だね(笑
返信削除おお~。洋楽ね。メン・アット・ワークも確かオーストラリアだったよね。あと女優で言えば、ニコール・キッドマン、ナオミ・ワッツ、ケイト・ブランシェットなんかもいるよね。探せば結構あるじゃない。
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