南カリフォルニアの大規模プロジェクト獲得に向けた会議のため、二十人を超す社員が先日オンタリオ支社に集合して二日間議論しました。数年前に買収されたエンジニア部門がデンバーからやって来て、そこのトップP氏がまず高らかに宣言します。
「これはうちの部隊がリードする仕事だ。プロジェクト・コントロールはうちのジャックが仕切る。」
クライアントの主要メンバーや対象エリアの特性を知り尽くしている我々環境部隊は、この強引なやり方に釈然としない一方、何か政治的な駆け引きが裏で動いているようなので、下手に反論できません。中でも私は一番下っ端なので、周りのサポートが無ければ発言も出来ない。
会議中何度か、うちの重鎮ブレントや司令塔のマイクが、
「その仕事はシンスケが…。」
と切り込むのですが、すかさずP氏が
「いや、それもジャックが担当する。」
と被せて来るので、このプロジェクトに自分の居場所は無いな、とさすがに鈍感な私でも勘付き始めました。そしてそのうち援護射撃も打ち止めとなり、私は貴重な二日間をただただ黙って座り通したのです。人をバカにするにも程があるぞ。必要無いなら最初から呼ぶなよな。デンバーのジャックに全部任せるって言うなら、勝手にそうしてくれよ。大体そのジャックとやらも、二日間姿さえ見せなかったじゃないか。初日に数時間電話で会議に参加しただけで中心人物扱いとは、笑わせるぜ!
二日目の会議終了後、握手しながら談笑する人々を横目で見つつ急いで立ち去ろうとする私に、マイクが
“We’ll need to talk.”
「後でちゃんと話そう。」
と小声で言いました。
それから数日間、プロポーザル・チーム間に飛び交う一斉メールがインボックスに雪崩れ込んで来ましたが、私は完全無視。いずれ正式にチームから抜けようと心に決めて、他の仕事に集中しました。
水曜日、マイクから電話が入ります。プロポーザル準備の進め方について相談したいとのこと。
「僕にまだ何かやることが残ってんの?」
と尋ねる私に、マイクが、
「分かってる。確かにあの会議はひどかった。やる気が出ないのも理解出来るけど、俺たちには君が必要なんだ。」
となだめます。
「あのさ、正直言ってもう情熱湧かないんだよね。どう転んだって、プロジェクト・コントロールのポジションはジャックっていう人が担当するわけでしょ。その人に任せればいいじゃん。」
「本気で言ってんのか?環境分野の経験が無い人間に、俺たちの仕事のスケジュールや積算が出来るわけないだろ。はっきり言って、彼等エンジニア達は環境部門を甘く見てる。このプロジェクトの行方を左右するのはうちの仕事なのに、それが分かってないんだ。そんな奴等に、全てを任せられるわけないじゃないか。」
「いや、手伝わないと言ってるわけじゃないんだよ。必要なことがあればそう言ってよ。ちゃんとやるから。」
当初の熱がすっかり冷めてしまっているのを私の口調から感じ取ったようで、マイクがこう提案します。
「ブレントを加えてもう一度話そう。」
夕方、この日二度目の電話会議。公家さんのようにおっとりした口調で、重鎮のブレントが諭します。
「シンスケ、あの会議での君の扱われ方は不当なものだった。本当に申し訳なく思ってる。でも君も分かってる通り、我々が絶対の信頼を置いているのはデンバーのジャックじゃない。環境部門のメンバー全員が、君を頼りにしてるんだ。カマリヨ支社でのキックオフミーティングでは、君のアドバイスにみんな感銘を受けてたんだよ。」
そして彼が、こうキメます。
“To us, you are the man!”
「我々には、ユー・アー・ザ・メ~ン!」
このYou are the man!というのは、「あんたが一番!」とか「あんたが大将!」という褒め言葉です。
「どうか引き続き、我々をリードしてくれないか?」
ブレントの説得で俄然やる気を取り戻した私は、残業して環境部門のスケジュールを仕上げ、翌日彼等に提出しました。
その日の夕食の席、妻子に今回の顛末を話して聞かせました。
「我ながら大人げなかったなあ、と思うよ。マイクやブレントがそこまで持ち上げてくれなかったらやる気が出ないっていうのは、プロとして未熟だよね。」
すると14歳の息子が、
「なんか、トイ・ストーリーみたいだね。」
と笑います。
「え?なんで?」
キョトンとする妻に、息子が説明します。
「ほら、バズが登場した時、それまでずっとアンディの一番のお気に入りだったウッディーがさあ…。」
「あ、そうか。すねちゃったんだよね。」
と妻。
すねちゃった…。確かに私の態度を一言で表現したら、こういうことですね。
なんか、めちゃくちゃ恥ずかしいじゃないか…。
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