2015年7月8日水曜日

Baby Shower ベイビーシャワー

「ティファニー、実は良いニュースと悪いニュースがあるんだ。悪い方から言う。いいね?」

「え?何?いいけど、でも。」

iPhone の画面に、戸惑うティファニーの顔が映ります。小さな会議室で机の真ん中に携帯を置き、上体を乗り出す形で彼女に話しかける私。

「今日のパフォーマンス・レビュー・ミーティング(業績評価会議)は延期することにした。これが悪いニュース。後であらためてインビテーションを送るよ。それから良いニュースの方だけど、実はそれがこの会議の延期の原因なんだ。今から言うね。心の準備はいいかな?じゃ、いくよ、一、二、三!」

私の背後から複数の女性社員が躍り出て、一斉に叫びます。

「サプラ~イズ!」

そう、火曜日の10時、遠くバージニアで働くティファニーのため、皆でサプライズ・パーティーを仕掛けたのです。ビデオ会議の口実を作るため、上司の私が一役買ったというわけ。9月に女児出産を予定している彼女は、海軍勤務のご主人(ライアン)の転勤で遠くバージニアに引っ越したのですが、未だにサンディエゴ支社に所属しています。ライアンは半年以上も遠洋航海に出かけているため、慣れない街で一人暮らし。古い仲間たちが、そんな彼女を元気づけようとBaby Shower (ベイビーシャワー)をこっそり企画したのです。

溢れる涙を手で拭いながら、笑顔で皆に挨拶するティファニー、私の背後でサプライズの成功を喜んでいるのは、シンディ、トレイシー、クリスティ、バーバラ、ポーラ、シャノン、ダイアナ、それにヴァレリー。あ、男は僕ひとりじゃん、とあらためて意識する私。

Baby Shower というのは一般に、妊婦を囲んで女友達がお祝いをするパーティーです(シャワーというのは、お祝いを浴びせるという意味)。流れは、参加者から贈られたギフトの包装を妊婦がひとつひとつ開けた後、おきまりのゲーム(妊婦のお腹周りの長さ当てクイズ、とか紙おむつに塗り付けられた物を臭いで当てるクイズ、とか)を皆で楽しむ、というもの。最近でこそ老若男女が招待されることもありますが、以前は女性限定のパーティーでした。

渡米して間もない頃は、どうして男子禁制なんだよ、一体全体パーティー会場で何が行われてるんだよ、と興味津々でした。でも我が家のも含めて二回ほど参加した後、特に秘密にしなきゃいけない要素は無さそうだ、と分かって拍子抜けしました。

「ここに先輩ママが大勢いるわよ。何か質問はない?」

とトレイシー。何を聞くべきかすら分からない、と答えるティファニー。

「赤ん坊が寝ている間に自分も寝ておくこと!」

と叫ぶヴァレリー。賛同のどよめきが周りから湧き上がります。

「病院に行く前にしっかり食事をしておくこと!」

とシャノン。これには「私は正反対のことを医者から言われた」という声も出て、ひとしきり議論になりました。そこへ大御所のテリーが遅れて登場します。

「あ、テリー、いいところへ来たわ。」

とトレイシー。テリーが私の携帯画面の中のティファニーに手を振ります。

「今、出産に関する先輩ママたちからのアドバイスを送ってたの。何か無い?」

常に頭脳を高速回転させているテリーは、一秒も間をおかずこう言いました。

“Shave your legs and underarms before going to the hospital.”
「病院へ行く前に、脚と脇の毛を剃っておきなさい。」

ベイビーシャワーが男子禁制な理由がよく分かりました。


2 件のコメント:

  1. 「良いニュースと悪いニュースがあるんだけど・・・」というフレーズはアメリカ映画ではよく見るんだけど、実際の生活でも結構つかわれているのなのかね?

    笑点の大喜利あたりでは使えそうだけど、日本での生活では滅多にお目にかからないのは何でだろ。
    http://alcom.alc.co.jp/users/183236/diary/show/185774

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  2. アメリカでは日常的によく耳にする、「聞き手の眠気を吹き飛ばす」フレーズだね。実は僕も今回、生まれて初めて使ってみたんだけど、うまくいったよ。ティファニーの動揺ぶりがその効果を実証してくれた。

    確かに日本で使うのは憚られるよね。「相手の心情を慮る」という精神が日本語のベースにあるから。目上だろうが目下だろうが、「おい、俺の話を聞け。眠そうにしてるんじゃねえ。」という偉そうな態度が歓迎されるガサツなアメリカ的表現は嫌われると思う。「大変恐縮です。お耳汚しをお許し下さい。」が正解でしょう。

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