先日サンディエゴ支社の会議室で、環境部門のドンであるテリー、それに私の部下のシャノンと三人で会議をした際、プロジェクト予算におけるコンティンジェンシー・リザーブ(「かもしれない」予算)が話題に上りました。
これはまさかに備えて積んでおく予算ですが、最初から意識的に膨らませておき、プロジェクト終了間際にドーンと放出することも可能です。当初の約束より高い利益率を弾き出してハッピーエンドを演じる、というテクニックなのですが、これに目を光らせているのが財務部門。彼らは、毎月のように魔女狩りならぬ「コンティンジェンシー狩り」を敢行し、何故それだけの額が必要なのかをPMが明確に説明出来なければ、容赦なく没収して行きます。
財務部門にとっては、日夜プロジェクトを運営している社員よりもウォール街の方がはるかに大事。毎期の目標利益率を達成して株主の皆さんを満足させることが、彼らの何よりの喜びなのです。期末が近づき、いよいよ目標達成が困難になってくると、なりふり構わずコンティンジェンシー・リザーブを奪い取りにやって来ます。たとえ正当な理由と計算式を示しても、「株主利益の最大化」という錦の御旗の下、有無を言わさず根こそぎ持っていくことさえある。後になって本当に想定外の事態が起こった場合、当初用意していたコンティンジェンシー・リザーブがゼロになっているので、損失を計上する羽目になります。すると己の過去の蛮行など記憶から抹消したかのように、「なんで予算をオーバーしたんだ?」と食って掛かる。
「結局さ、我々PMの最大の敵は財務部門という構図になってるよね。」
と私。
「どっちにより大きな発言権があるかと言えば、やっぱり財務部門でしょ。最終的には彼らの好きなようにされるしかないんだから、抵抗しても無駄なのよ。」
とテリー。そこで彼女が思い出したようにくすっと笑い、私とシャノンに向かってこう尋ねました。
「Think of Englandってフレーズ聞いたことある?」
私とシャノンは顔を見合わせて首を傾げます。二人とも初耳であることを告げると、
「セクハラ・トレーニングを受けたばっかりでこんな発言もどうかと思うけど…。」
と顔を赤らめながら説明してくれました。
“Close your eyes and think of England.”
「目を閉じてイングランドのことを考えなさい。」
というのがそのロングバージョンだそうで、どうやら夫婦の夜の営みに関する話らしい。テリーが照れながら早口で解説したためか、私には意味が分からず、帰宅してからネットで調べてみました。
これは、夜の行為に乗り気でない妻が、ベッドで夫を迎える際の心得なのだと。
イングランドには「緑豊かな土地」というイメージがあるようで、つまり「ちょっとの間、素敵なことを考えてやり過ごしなさい」という意味ですね。テリーはこのフレーズを使って、「目をつぶって財務部門の好きなようにさせるしかない」と言いたかったわけです。
この日のお昼に同僚ディックとランチを食べた時点では、イングランドを「飯のまずい退屈な場所」というイメージで捉えていた私。彼にこのフレーズの意味を尋ねたところ、
「いや、そんなの聞いたことないな。テリーはどういう文脈で使ってた?」
と首を傾げます。
「うん、財務部門の横暴エピソードには繋がらないんだけどさ、おそらく、少しでも長持ちさせようとする夫の努力を表現してるんじゃないかと思うんだよね。」
ま、完全に誤解してたわけです。
「なるほど。イングランドのことを考えたらそりゃ長持ちしそうだな。他にも色々方法はあるよ。自分のプロジェクトのことを考えるとかね。」
アイディアを列挙し始めるディック。私も調子に乗って、こう言いました。
「Prime number (素数)を下から順番に数えてみるとかね。」
するとディックが、くすっと笑ってからこう返しました。
“That might be too effective.”
「そりゃ効果あり過ぎかも。」
全く別なことを考えて嫌なことをやり過ごす。
返信削除男性の場合はイングランドでなくて、何を(どこを)考えるのでしょう。
サンリオピューロランドかな?
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