月曜日はロングビーチ支社へ出張したので、シールビーチに住む元同僚のリサを晩飯に呼び出しました。夕方6時、カリフォルニア・ピザ・キッチンに現れた彼女と、強めのハグで再会を喜びます。
会社が大量解雇を繰り返し、社内の雰囲気がどんどん悪化していた2年前、お母さんのアルツハイマー症状が進んで来たことが背中を押して、辞表を出した彼女。それからほぼ毎日、自宅とお母さんの家とを往復する生活だと聞いていたので、きっとすっかりやつれてるんだろうな、と覚悟していたのですが、ほとんど様子が変わっていませんでした。
「こうして友達と会って話すことが、私の元気の源なのよ。」
と笑うリサ。
「ここ2年の間に会社に起きた変化はすごいよ。どれだけ沢山の人が退社したか、聞いてる?」
「ええ、聞いてるわ。ほんとに大変みたいね。」
「ま、僕はそんな中でも楽しくやってるんだけどね。」
それから暫く話すうち、リサの少し前に辞職した、彼女の上司だったエリックの話題になりました。
「彼、新しい会社でパサデナ支社の開設を任されて、半年で実現させちゃったの。とっても張り切ってるわ。」
「あの人は若いのに、才能も人望もすごいよね。」
「希少な人材よね。」
そう、エリックみたいな優秀な社員を失った背景には、組織の巨大化とともに硬直化する指揮系統の問題がありました。
「自分の部下たちを守る権限さえ失くしたんだもの。やってられないわよね。」
「大企業病って奴だよね。」
それで思い出したのが、先日うちのチームに起きた、ある事件です。我々の専門であるプロジェクト・コントロールは、煎じ詰めればサービス業。社内のPM達が仕事をしやすいように情報を集め、分析し、分かりやすい形にしてお届けする。チームメンバーの業績評価は顧客であるPM達からの声を聞かないと出来ないだろう、という考えから、アンケートを取ることにしたのです。無料オンライン・サービスのSurvey
Monkey を使い、三つの質問を作りました。
「サービスのクオリティは?」
「期日を守れているか?」
「受けたサービスに対してコストは高すぎないか?」
チーム・ミーティングにかけたところ、満場一致でこのアンケートを実施することになりました。ところが、後日人事部から待ったがかかります。
「会社のお墨付きが無いアンケートの結果をベースに業績評価をした結果、給料に不満を持つ社員がこれに抗議するかもしれない。うちのグループだけこんなことをやって不公平だ、と訴えられたらどうする?カリフォルニアは訴訟の多いことで有名な州だということを忘れるな。」
そんなわけで、アンケートは業績評価に使えないことになっちゃったのです。これを聞いたリサが、あきれ返ったような顔で、
“Eric would have a cow!”
「エリックなら牛をhaveするでしょうね!」
と反応しました。
ええっ?牛?と思ったけど、会社の変わりようを語るエピソードの在庫がまだまだあったので、ここは突っ込まずに先へ進みました。しかし別のエピソードを紹介した時、またしても
“Eric would have a cow!”
とリサが言うので、ここは聞いておかねば、と話を止めました。
「have a cow ってどういうこと?」
「エリックなら牛を飼うだろう」と直訳しても、全く意味が通じません。
「あ、それはね、Give birth to a cow(仔牛を産む)ってことよ。」
と笑って答えるリサ。なんじゃそりゃ?ますます意味が分からん。「エリックなら仔牛を産むでしょうね。」だって?
「つまり、エリックがそれを聞いたらUpset(取り乱す)でしょうね、ってことよ。」
「ちょっと待ってよ。仔牛を産むことと取り乱すことと、どんな関係があるの?」
「さあ、それは私にも説明出来ないわ。」
ええっ?そんなオチ?
翌日、サンディエゴ支社のコピールームで若手の同僚ジェイソンと会ったので、解説を求めました。
「自分の股から仔牛がどーんと出てくるところを想像してみてよ。そりゃ取り乱すでしょ。」
少しのけぞってO脚になり、股から両手で仔牛を取り上げるジェスチャーをしたところへ、同僚のリタが入って来ました。ちょっとうろたえるジェイソン。
「おはようリタ、Have a cowって表現知ってる?」
と取ってつけたような質問をする彼に、
「知らない。」
と素っ気なく答えて背を向け、コピーを取り始めるリタ。想像上の仔牛を両手で抱えたまま当惑するジェイソンに、お礼を言って立ち去る私でした。
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