2015年4月27日月曜日

Shove it down your throat 無理やり詰め込む

先週、部下のシャノンと一緒にサンフランシスコへ短期出張して来ました。

去年買収した会社の社員がわが社のプロジェクト・マネジメント・システムを使いこなせるようにするため、5月に全米各地の支社でトレーニングが開催されます。カリフォルニアの支社で教えるトレーナーを養成するためのトレーニングが、サンフランシスコで開かれたというわけ。参加者は十人程度でしたが、その半数は買収先の社員。

過去数年間ほぼ毎日このシステムを使用して来たシャノンや私から見れば、まだ実物を操作したこともない人達が短期トレーニングを受けただけでトレーナーになるというのは、どう考えても非効率的です。そんな回り道をせずとも、我々経験者に任せてくれればずっと低コストで教えられるのに、と二人で不審に思っていました。

今回のトレーニングでは、「経験者と未経験者がペアを組んでトレーニングに当たる」という方針が強調されたのですが、新人トレーナーのサンドラが、

「効率性から考えれば、経験者トレーナーが前でプレゼンし、未経験者トレーナーが教室の後ろからサポートする、という体制がいいと思うんだけど。」

と提案したところ、今回のトレーニングを仕切っていたピーターが、

「いやいや、未経験者のトレーナーがメインで教えることに意味があるんだよ。」

と答えます。

「同じ組織の人間から手ほどきを受けた方が親近感が湧くし、そもそも経験者というのはね、」

と続け、こんなフレーズでキメました。

“They tend to shove it down your throat.”

このイディオムは簡単に映像が浮かんで来るので、すぐに意味が分かりました。

“Shove something down one’s throat”で、
「喉に無理やり押し込む」

ですね。

つまり受講者に対し、その理解度を踏まえず内容をただ乱暴に詰め込むだけだ、という話。私の訳は、これ。

“They tend to shove it down your throat.”
「往々にして彼らは、乱暴に詰め込もうとするんだよ。」


非常に心外ではありますが、頷ける理屈です。来週水曜からスタートするトレーニングの旅。ピーターの一言を肝に銘じ、新人トレーナー達のサポートに徹する所存であります。

2015年4月11日土曜日

Juicy Story ジューシーな話

数週間前、私が担当する建築設計プロジェクトの窮地を救うため、副社長のジョンが腕利き(というお墨付きの)男性社員のジムをオレンジ支社に雇い入れました。ディレクターのビバリーも私も掛け持ちでこのプロジェクトを管理していてアップアップなため、この男を中心に据えて態勢を強化しようじゃないか、という方針。このジムが、経営指標などのデータをどこからどう取り込んでチェックするかを教えて欲しいというので、久しぶりにオレンジ支社へ出かけました。

ミーティングに向かう前、同僚レベッカのオフィス前を通りかかったので声をかけました。つい最近巨大なプロジェクトを任され、目が回るような忙しさよ、とため息交じりに話すレベッカ。

専門外のプロジェクトであるにもかかわらず、過去の業績を高く評価していたクライアントの担当者が、彼女をPMにと特別指名して来たのだと。

「嬉しい反面、プレッシャーも大きいわ。」

「すごいじゃん。指名されてのPMとなれば、絶対しくじれないね。」

わざとプレッシャーを上乗せしてからかう私。彼女は笑いながら、このプロジェクトの特異性を説明してくれました。

「技術がどうこう言うより前に、政治的に微妙な立ち回りを要求されるの。利害関係が複雑で、うっかりした言動は許されないのよ。弁護士も複数絡んでてね。神経すり減らしてるわ。」

「ギャングに脅されたりなんかして?」

「シンスケ、これ、冗談じゃないのよ。」

レベッカが、ここでこんな発言をします。

“It’s pretty juicy.”
「かなりジューシーなの。」

え?ジューシー?なにが?

よく聞くフレーズながら、イマイチ意味がつかめて来ませんでした。レベッカとの会話を終え、別の同僚クリスの席に立ち寄って尋ねました。

「うん、それは良く使われるフレーズだね。Gossipy(ゴシップ的な)と同じかな。Juicy Storyっていうのは、登場人物の中に、その話を公にして欲しくない人がいるような話題だね。その際どさゆえ、余計誰かに話したくなるような性質があると思うよ。」

「過去の犯罪とか?」

「いや、そこまで深刻な話題には使わないね。大抵の場合、調べようと思えば誰にでも調べられるレベルの情報だけど、あえて大っぴらにしていない。そんな感じかな。」

「なるほど。で、それがジュースとどう関係あるの?この果物ジューシーだね、という時の意味と、何か繋がりある?」

「いや、それは分かんないなあ。俗語だからね。」

またか。語源を巡ってはこういう展開、多いんだよなあ。視覚イメージと整合が取れないフレーズって、記憶に残りにくいんだよね。

気を取り直して、私の訳はこれ。

Juicy Story
ちょいとヤバ目な話

「じゃ、クリスの知ってるジューシーな話って、たとえば何?」

彼が関わるプロジェクトに多いのが、米軍基地跡に埋まっている爆発物の処理。基地移設等に伴う土地の売却に先立ち、射撃訓練の残骸を綺麗にしておかないといけません。軍人上がりの専門家たちを雇って飛散した銃弾の捜索及び処理をするのですが、クリスはプロジェクトの安全管理担当なのです。

「ある基地に隣接して、住宅地が出来てるんだ。境界一帯の緑地はもともと射撃場跡地だったところを開発事業者に売却しててね、一応規定通りの調査は終えてるんだけど、ごく僅かな確率で拾い残した不発弾が残っている可能性はあるんだよ。実際、1970年代に別の住宅地で、子供が爆死する事故があった。後で調べたら、その時の事業者は何も調査せずに住宅を建てていて、その後倒産してるんだ。そんなこんなで法律が厳しくなって、今ではまずそんなバカげたことは起きないけど、ここの住宅地はわりと古いんで、もしかしたら、という懸念はある。住民に向けた書類には、境界から数十フィートの緑地帯には危険なので立ち入らないようにと書いてあるし、全員が納得の上で住んでるんだ。だから秘密ってわけじゃないんだけど、この話、誰もメディアに出したがらないでしょ。」

「へ~え。これってジューシーな話なの?」

「僕はジューシーだと思うよ。」

う~ん。ジューシーかなあ。やっぱりイメージが繋がらないなあ。

昼前になり、その日の一番の目的だったジムへのパーソナルトレーニングを始めました。

「よろしく。君のサポートには期待しているよ。」

にこやかに右手を差し出すジム。

「こちらこそ。皆あなたの参加を心待ちにしていましたよ。」

さっそくプロジェクトマネジメント・システムの説明をスタートします。彼は私の講義を度々制止し、的確な質問で補足説明を促します。切れ者の噂は本当だったな、と感心していたところ、彼の携帯が鳴ります。

「すまない、この電話、ずっと待ってたんだ。ちょっと中断していいかな。」

「どうぞどうぞ。」

会議室の中をうろうろ歩きながら、電話の相手と和やかに話すジム。聞くともなく聞いていたら、彼がこんな応答をしているのに気付きました。

DC(ワシントンのこと)は僕の庭と言っても過言じゃない。政府関係者や同業の知り合いも数多くいるしね。それは僕にぴったりのポジションだよ。いや、僕以外に適任者はいないでしょ。プロジェクトのスコープも僕の知識と経験がそのまま活かせる内容じゃないか。決まったらすぐに知らせてくれよ。いずれはDCに戻りたいと家族で話してたから、絶対賛成してくれる。うん、そこは問題ない。」

え?うちのプロジェクトのために雇われといて、一か月も経たぬうちにもう転職しようとしてんの?わざわざあんたのために出張して来てる僕に聞こえるところでそんな話を?

それから間もなくして電話を切ったジムが、

「変なこと聞かせちゃったね。すまない。さ、どこまで進んでたっけ?」

と大して悪びれもせずに席につきました。

このジューシーな話、ビバリーやジョンに知らせるべきかどうか、悩んでます。

2015年4月5日日曜日

Decremented デクラメンテッド

私がPMを務める大型建築設計プロジェクトに極めて深刻な事態が発生し、ここ数週間は上層部を含めた電話会議で日々のスケジュールが立て込んでいます。ひどい時は同じテーマで日に三回会議がセットされることもあり、事態の進展に合わせて瞬時に適切な行動が起こせるよう、途切れることのない緊張を強いられています。

ディレクターのビバリーは超多忙で日中なかなか会話が出来ないため、深夜に電話会議をすることも。彼女の声には疲れが滲んでおり、時々弱気な発言も漏れるようになりました。

「ここまで働かされて、それでも上層部がまだ文句を言うのなら、会社を去るしかないわね。」

励ますこっちも相当疲れがたまっているようで、帰宅して食事するとすぐに眠くなる毎日。

ある日息子と映画の話をしていた際、作品中で急激な体重の増減をやってのける俳優の話題になり、「レイジング・ブル」を例に挙げました。ところが、肝心の俳優名が出てこない。どんなに考えても浮かばないのです。「ほら、ゴッドファーザーPart IIにも出てた、ほら、」なんて自分にヒントを与えてもやっぱりダメ。翌日、仲良しの同僚と挨拶を交わした際も、彼女の名前が全く思い出せないことに気づき、背筋が凍り付きました。いかん。これは本当にヤバいぞ。ボケが始まったのか?いや、そんなわけない、疲れてるだけのことだ。休みを取るか何かしなければ…。しかしプロジェクトが大変な時に穴を開けるわけにもいかんぞ。

それから間もなくし、ビバリーとの電話会議で、

「ねえ、デクラメンテッドの意味分かる?」

と彼女が尋ねました。なんでアメリカ人が僕に英単語の質問するわけ?と可笑しくなりましたが、これはちょうど調べたばかりの単語。

Decremented でしょ。これ、ジョン(副社長)がこないだ会議で使ってたよね。ちょっと調べてみたんだけど、減らされたって意味みたいだよ。Decrement Increment(増える)の反意語なんだって。」

「私そんな言葉、人生で初めて聞いたわよ。」

「実は僕も、周りの同僚に聞いてみたんだ。この単語を聞いたことのある人は一人も見つからなかったよ。」

「ジョンがこないだのレビュー会議で、我々の計算したコンティンジェンシー・リザーブが大きすぎるって言ってたじゃない。ほら、リスク事項の発生見込みに合わせて数値を下方修正してデクラメンテッド版を作れっていう指示があったでしょ。今それに取り組んでるの。後で皆にファイルを送るわね。」

そしてその日の夜12時ちょっと前、複数の副社長宛てに彼女から修正版が発送されました。眠かったのでやり過ごし、翌朝あらためてメールを読んだところ、こんな一文が。

「修正版ファイルを送ります。今気づいたんだけど、添付ファイル名の最後にDecremented(削減版)って付け足したつもりが何故かDemented(発狂した)になってた。修正して再送する気力が残って無いわ。ハッハッハ。」

ビバリー、笑ってる。いよいよヤバいかも。