2014年1月26日日曜日

It’s a mess! メスはどこまでひどいのか?

金曜の昼前、四つ隣の部屋で働くリスク・マネジャーのスーが私のオフィスに現れました。

「ちょっと来てくれない?ご教授願いたいんだけど。」

彼女のオフィスに移動し、ゲスト用の椅子を引っ張って行って隣に座りました。

「今日のお昼に、プロジェクトのレビュー会議があるの。リスクマネジャーの立場で発言したいんだけど、そのためにはプロジェクトの経営状況を正しく理解してないといけないでしょ。助けてくれる?」

転職して来てまだ日が浅いスーにとって、わが社のプロジェクト経営指標の解読は難物です。私はモニター画面に映し出された表中の数字を上から下まで眺めてから、コメントを始めました。

「これはまた突っ込みどころの多いプロジェクトだねえ。」

「やっぱりそう?どの数字が何を語ってるのか教えてくれる?」

彼女がメモを取り始め、私は目につく問題点をひとつひとつ挙げて行きました。

「これ一体、どういうプロジェクトなんだろう?何か臭うんだよね。数字が正直に上がって来ていないような気もするし、もしかしたら特殊な事情があるのかも…。」

「他に補足資料として送られて来たファイルがあるけど、見る?」

スーの開いたエクセル表を見てびっくり。う~む、これはやばいね。重病患者の手術中にメスを持つ外科医の手が止まるような、衝撃的な光景。

「他の人からこのプロジェクトの話は聞いてたんだけど、やっぱりそうなのね。」

さらに絶句している私を見ながら、彼女がこう言います。

“It’s a mess.”
「メスなのよ。」

Mess (メス)というのは「散らかっている状態」とか「混乱している状況」を指す言葉です。プロジェクトがメスであるというのは、ひどい状況であることを表現しているのでしょう。

自分のオフィスに戻って仕事を片付けているうちに、この「メスである」状況が「どこまでひどいのか」を理解していないことに気づきました。夕方になって同僚ジェイソンの部屋を訪ね、質問してみます。

「ねえ、It’s a mess. って言われたら、どんだけひどいことになってるもんなの?」

ジェイソンが答えます。

「散らかっているってことだから、片づけられる段階だと思うよ。」

「あ、そうか。だとすると、プロジェクトがメスって言われても、まだ何とかなる程度なんだね。」

「普通はそう取っていいと思うよ。でも、It’s really a mess! って強調して言われたら、かなりひどいレベルだって考えていいんじゃないかな。」

「じゃあ、人ならどうなる?He’s a mess. って聞いたら、そいつがどんなことになってる状況を思い浮かべる?記憶が吹っ飛ぶほど悪酔いしちゃった友達がいた場合、次の日にHe was a mess last night. (あいつ昨日の晩、メスだった)って言う?」

「うん、それは言えるね。」

「アル中になっちゃってる場合は?」

「そういう場合でも、He’s a mess. って言えるね。状況次第、文脈次第で程度が変わると思うよ。」

「じゃさ、僕の悪友で、エイズと診断された後でも構わず女遊びしてる奴がいたら、どう?」

「それはもうメスを通り越してるよ!」

「うん、これで分かった。すっきりしたよ。どうも有難う!」

ジェイソンが顔色を曇らせて黙ってしまったので、

「あ、今のは全部、架空の友達の話だから!心配しないで!」

と付け足しました。ようやくほっとした表情のジェイソン。

私のすさんだ交友関係を、本気で心配してくれたみたい。いい奴だなあ。


2014年1月19日日曜日

消えたファットマン

アルバカーキ出張中、PMのロバートにおねだりし、The National Museum of Nuclear Science and History に連れて行ってもらいました。日本語に訳すと、「国立核科学・歴史博物館」といったところでしょうか。デンバー支社のマリアと三人でサブウェイ・サンドイッチを早食いし、昼休みを長目に取っての見学。

プロジェクト・マネジメント技術の発展は、核兵器開発の歴史と切り離せないところがあります。たとえばクリティカルパス・メソッド(CPM) と呼ばれるスケジューリングの手法は、アメリカの原爆開発プロジェクト(マンハッタン計画と呼ばれています)の開始直前に生まれ、原爆開発のスピードを劇的に向上しました。アルバカーキ周辺はマンハッタン計画の本拠地だったので、その名残をあちこちに漂わせています。プロジェクト・マネジメントの歴史を調べるうちに核開発との深い関係に気づき、そのうちこれをテーマに本でも書こうと考えていた私にとって、この出張はまたとない取材の機会となりました。

今回私が訪問した博物館は、核分裂の発見から原爆開発、冷戦下の核開発競争、そして現代の核技術に至るまでを紹介しています。建物自体は非常に簡素なつくりですが、各国の核兵器開発紹介ビデオを上映したり、広大な裏庭に実物大のB-29爆撃機(本物?)を展示したりして、この時代の歴史に興味を持つ人にとっては宝庫です。

実は、出張前からあることが気になっていました。ウェブサイトを見ていたら、ギフトショップへ飛ぶリンクの写真にTシャツが何枚か写っていたのですが、その一枚に目が留まったのです。それは、長崎に投下された原爆(通称「ファットマン」)の外形を迷路に見立てたデザインのTシャツでした。

「あれは正しい戦争だった」「原爆によって戦争を終結させたことで、多くのアメリカ兵士の命を失わずにすんだ」というアメリカ目線のコメントも時々は目にしますが、大抵の知識人は原爆を投下された側の視点も尊重しています。私のまわりにはそういう人が多いので、それがアメリカ人全体の世論のように思い込んでいました。そんなところへこのデザインTシャツです。無神経にも程があるんじゃないか?こんなTシャツ着て長崎の街を歩ける奴いるか?いざとなれば、博物館の責任者に苦言のひとつも残して帰ろうと心に決めていました。

展示物を見終わって、ギフトショップでさっそくTシャツ・コーナーを物色。ところが、件のファットマン・デザインが見当たりません。え?人気商品で売り切れ?あり得ないこともないか…。

そこへ妙齢の女性店員が通りかかり、「何かお探しですか」とにこやかに尋ねます。出来るだけ穏やかに、ウェブサイトでファットマンTシャツを発見したんだけど、実際に販売されているかどうか確かめたい、と伝えたところ、急に笑顔が歪みます。

「ああ、あのことですか。」

溜息をつきながら、彼女がこう答えたのです。

「あの柄のTシャツは、一度も販売したことがないんですよ。というか、製造もされていないんです。」

「ええっ?そりゃまた一体どういうことですか?」

「うちのウェブサイトを作ったマーケティング会社が、勝手にデザインして写真をアップしたの。」

「じゃ、あのファットマンTシャツは幻なんですか?」

「そうなの。あと、原子力潜水艦の柄もあったでしょ。あのデザインのシャツも、製造されていないのよ。」

「なんてこった!ウェブサイト見た人は、みんなそういうシャツが実際に売られてると思いますよ。」

「困ったものよね。でもあと2週間ほどでサイトの更新があるから、その時削除されるの。一安心よ。」

ウェブデザインの仕事を受けた会社の悪ノリに一杯喰わされた形となりましたが、「あのデザインは悪い冗談だ」という共通認識を売り子のおばちゃんと確認できたことが、何よりの収穫となりました。


2014年1月18日土曜日

Brownie points ブラウニー・ポインツ

アルバカーキ出張初日。クライアントとのキックオフミーティングはつつがなく終了し、支社に戻ってチームとみっちり今後の作戦会議をしました。

窓から遠く見える地平線の山並みと夜空の境界線とがぼやけ始めた頃、PMロバートの案内でイタリアン・レストランScaloへ繰り出します。サクラメント支社のエリックと私は魚介のパスタを注文(なかなかの美味)。デンバー支社のマリアはサラダを注文していました。

食事を終えるとウェイターがやってきて、

「デザートはいかがですか?」

と甘いものを薦めます。チーフエンジニアのトッドがデザートメニューを手に取り、舌なめずりしながらしばらく眺めましたが結局注文しませんでした。辛抱強くそこで待っていたウエイターが、拍子抜けしたように踵を返して立ち去ろうとするのを慌てて止め、私を含めた三人がコーヒーを頼みます。ナプキンで口を拭き拭き、各自の今後の予定を確認し合います。

「私は明日の昼にサクラメントに戻るよ。当初の目的は達したからね。」

と大御所のエリック。相手のPMにプログラム・マネジメントのコンセプトを理解してもらい、わが社の優秀な人材があらゆる角度からお助けできますよというメッセージは伝わった、という意味です。

「私は一応土曜までホテルを予約してますが、もしもクライアントの関係者とのミーティングがセット出来なければ、水曜にでもサンディエゴに帰りますよ。」

と私。

「俺は絶対水曜の晩に帰らなきゃならないんだ。彼女の誕生日が近いんでね。早めに帰って溜まった家事を片づけないと。」

と笑う、デンバー支社のトッド。どこかコメディアンを連想させる、声も体も大きな男です。さらに、おどけたような表情でこう付け足しました。

“I'll have to earn some brownie points.”
「ブラウニー・ポインツをいくらか稼がないとね。」

ブラウニー?アメリカ人がよく食後に注文する激甘チョコレートケーキのことか?さっきのデザートメニューにそんなの載ってたかな?ブラウニーのポイントって一体何のことだ?

疑問符で頭を一杯にさせていたら、話題はキックオフ・ミーティングでの先方の話しぶりに移りました。大幅な予算削減の煽りで予定していたプロジェクトをいくつも先送りせざるをえなくなった彼らは、我々コンサルタントへの報酬も大胆に削らなければならなかったことを申し訳なさそうに話していたのです。

「こういう時にこそ、少ない予算でも驚くべき成果を上げられるということを証明しなきゃな。」

とPMのロバート。そして、今後いかにクライアントを満足させるかを議論していたさ中、ロバートが誰かの提案に対し、

“That will give us some brownie points!”
「それでブラウニー・ポインツを稼げるな。」

と笑いながらコメントしました。

お、また出たぞ!ブラウニーのポイントってなんだ?こういうの、聞きにくいんだよな。そんな質問で、折角調子良く回っていた建設的議論の歯車を止めたくないもんなあ。

ロバートが支払いを済ませ、店を出ようと皆で席を立った時、前を歩いていたトッドをつかまえてこっそり尋ねてみました。すると彼は、店全体に響き渡るような大声で説明し始めました。

「え?ブラウニー・ポイント知らないの?エクストラ・ポイントのことだよ。相手から頼まれたわけじゃないのに、喜んでもらえそうなことをこっちからすすんでする時ってあるだろ?それで相手の心証を良くした時、ブラウニー・ポインツを稼いだって言うんだ。」

「それは何となく分かってたけど、ブラウニーってこの場合何なの?」

と私。すると彼はおどけた表情になり、

「それは知らないなあ。ヘイ、ロバート!」

と先頭を歩いていたロバートを呼び止め、意見を求めます。

「ガール・スカウトが語源なんじゃないかな?」

とロバート。え?ガール・スカウトでブラウニー?ますます分からん!疑問は解消されないまま、車に乗って帰途につきました。

ホテルの部屋に戻ってからコンピュータを開き、さっそくネットでサーチ。

語源については諸説あるようなのですが、有力なのが、「ブラウニー」と呼ばれるガール・スカウトの幼年団員のことだ、という説。人が寝静まった頃に現れて家事や家畜の世話をする妖精の名前が「ブラウニー」で、ガール・スカウトの創設に貢献したオレヴ・べーデン・パウエルがこれを借りて命名したそうです。団員達は、頼まれたわけじゃないのに善行をした場合にバッジを貰えるそうで、ここから「ブラウニー・ポイント」が来ているのだ、と。

サンディエゴに戻って同僚マリアにこの話をしたところ、

「純粋に人を思いやるaltruistic behavior (利他的行為)と決定的に違うのは、何らかの見返りを期待してるという点よ。」

と解説を加えてくれました。

「契約書に書かれていないエクストラのサービスを無償で提供するのだって、初めからその見返りはゼロだって分かってたら誰もやんないでしょ。クライアントを喜ばせることで、次の仕事を我々に任せてくれるかもしれない、という甘い期待があるというところがポイントよね。」

「デザートに食べる甘いブラウニーと、何か関係あるの?」

と私。

「全く関係ないわよ。」

「文脈からしていかにも関係ありそうなのにねえ。紛らわしいよね。」

「そうねえ。しかもそのフレーズ、デザートを注文する時間帯に出たんでしょ?」

「そうなんだよ。余計紛らわしいよねえ。」

そんなわけで、結論。


甘い期待を伴った善行が功を奏する場合、「ブラウニー・ポイントをゲットする」と言います。デザートとは無関係。

2014年1月13日月曜日

読みにくい名前

昨日の晩遅く、アルバカーキに到着しました。今朝8時半に支社でチームメンバーとの初顔合わせです。

プログラム・マネジャーのエリックとは、3年前にプロポーザル・チームの一員としてサクラメントに出張した時に一度会っています。でもPMのロバートや、隣の州のデンバー支社から参加しているトッドやマリアとは初対面。

先週電話会議で自己紹介し合ったのですが、エリックを含めて全員が私の名前を正確に発音出来ず、一分間くらい四苦八苦してました。私が丁寧に模範解答を繰り返してもほとんど効果は上がらず、最終的に「しんけ」という、冗談みたいな発音に落ち着きました。私もそれ以上みんなに貴重な時間を使わせたくなかったので、「しんけ」で良しとすることにしました。大半のアメリカ人には、Shinsuke をシンスケと正しく発音することが至難の業らしく、違う名前で呼ばれることにはもう慣れっこになっています。

さて、9時半まで下打合せをした後、車二台に分乗してクライアントのオフィスへ走ります。10時のキックオフミーティングには先方から三人が出席。ひとりひとりと握手を交わしながら名前を告げたのですが、クライアントのPM(女性)に私の名前がきちんと発音してもらえるかどうかがちょっと気がかりでした。今後数か月、頻繁に接触することになる相手です。出来れば彼女には正確に名前を憶えてもらいたい。「しんけ」と呼ばれ続けるのはちょっとなあ…。

ところが、我々から受け取った名刺を机の上に並べながら、このPMが事もなげに「シンスケ」と発音したのです。まるで日本人のように。

“This is the easiest Japanese name for me to pronounce.”
「私には一番発音しやすい日本人の名前だわ。」

この意外な発言に心底驚いてたら、彼女がこう付け加えました。

「私の苗字、ムシンスキーっていうの。ポーランドの名前よ。あなたの名前とそっくりじゃない?」

彼女の名刺に改めて目をやると、確かに私のファーストネームと非常に似通ったスペル。おお~!すごい偶然。

これですっかり緊張もほぐれ、ミーティングは大変和やかなムードで進みました。

期せずして、幸先の良いスタートが切れました。


2014年1月10日金曜日

Right up your alley 得意分野

年末、妻の実家で休暇を過ごしつつ会社のメールをチェックしていたら、テネシー州の支社にいるピーターという男からの問い合わせに目が留まりました。

「スケジューリングの仕事があるんだけど、ピンチヒッター頼めない?僕が担当するはずだったんだけど、別のプロジェクトにはまってて身動き出来ないんだ。1月13日にクライアントとのキックオフミーティングがあるんだけど、出れないかな?」

ピーターという人には、これまで会ったことも話したこともありません。どこから私の名前を聞いたのでしょう?さっそく電話してみたところ、私のことは複数の人から推薦があったとのこと。ムフフ、なんかちょっと嬉しいじゃないの。

プロジェクトの現場は、ニューメキシコ州のアルバカーキ。クライアントの抱える50件近いプロジェクトの向こう10年間のスケジュールを作り、さらにPMたちを集めてCPM(クリティカル・パス・メソッド)スケジューリングのトレーニングをする、というのが業務内容。とりあえず来週一週間びっちり現場に張り付いて、クライアントから情報収集をしてほしい、というのです。

久しぶりの出張!もちろん二つ返事で引き受けます。

今週の月曜、ロングビーチ支社のマークと電話会議をした際、今回の出張の話をしました。それは良かったな、と喜んでくれた後、彼がこう尋ねます。

“It's right up your alley, right?”
「ライト・アップ・ヨア・アリーなんだろ?」

え?なんだって?と聞き返す私。アップヨアアリー?アリーって路地のことだよな・・・。話の流れからして、これはきっと「君の得意分野なんだろ」と言いたいんだろうな、と判断し、同じ質問をそのまんま繰り返すマークに

「その通り!」

と答える私。電話を切ってから周囲の人たちに確認したところ、どうやらほぼ正解のようでほっとしました。

同僚ステヴによれば、

「得意分野、専門分野という意味もあるけど、自分が興味を持っている分野、という要素もあると思うよ。」だそうです。

「じゃあアップは?」

「アップは方向性を示してるんだ。Your alley の方、という意味だね。」

君んちのAlley (路地)の方、ということは「君んちのすぐ裏」だから、君がよ~く知ってる場所、という意味が転じて「君の得意分野」になったのかな、と推理したのですが、いかがでしょう?



2014年1月8日水曜日

Go figure! ゴーフィギュア!

木曜の午後、大雪のデトロイトを発ってサンディエゴへの帰途に着きました。デトロイト界隈のハイウェイは一面真っ白。空港へ向かうノロノロ運転の一時間半に、3件も事故を目撃しました。一度などは二台前を走行していた小型車が、半ば強引に合流を試みるSUVを避けようとハンドルを切った途端にバランスを崩し、まるでフィギュアスケートの演技みたいにゆっくりと円を描いてから、右隣の車線でこちらを向いて止まりました。その横を通り過ぎながら、背中が凍り付きました。

飛行機に乗り込み、雪に覆われた滑走路を小さな窓から眺めつつ、果たしてこんな「激スベリ状態」のランウェイを走って大丈夫なのかな、と不安になりました。飛行機がツルツル滑って別の飛行機と激突、という事態だってあり得るじゃないか!

ところがどっこい、搭乗機は難なく離陸したのです。「俺様がこれくらいの雪でビビると思ってんのか?見損なうんじゃねえ!」と粋がる機長の鼻息が聞こえるようでした。

さて、離陸直後から眠りに落ちていた私。そろそろカリフォルニア上空というタイミングで、呟くような機長のアナウンスが鼓膜を震わせます。

「・・・当機はサンディエゴに着陸できない模様です。これからオンタリオへ向かいます。」

え?なに?どして?寝ぼけまなこで顔を見合わせる妻と私。二人に挟まれる格好で、12歳の息子は熟睡中。時計は夜10時を指しています。

「たしか今、サンディエゴには降りないって言ったわよね。理由聞いた?」

「いや、寝てたから分からない。」

到着予定時刻に遅れること約30分、飛行機は夜11時半ごろオンタリオ空港(サンディエゴの北西、車で2時間の距離)に着きました。航空会社がチャーターした大型バスに乗り込み、サンディエゴ空港に着いたのは夜中の3時。そこでようやく謎が解けました。空港周辺が、濃い霧にすっぽりと覆われていたのです。10メートル先も見通せないほどの深さなので、管制塔が着陸を拒んだのですね。

それにしても、豪雪を物ともせず離陸した飛行機が、霧ごときで着陸できないなんて!

10日ぶりに出勤して同僚たちにこのエピソードを語った時、「霧で着陸出来なかった」というくだりで同僚サラが、呆れたような表情で

“Go figure!”

と言いました。え?フィギュア?

Go figureの “Figure”が “figure it out” というのを縮めたものだということは何となく分かります。直訳すれば、「自分でそれを解明せよ」ですね。でも、彼女のセリフにそんな意図があったとは思えない。

さっそく同僚リチャードに尋ねました。

「I'm not surprised. (驚くようなことじゃない)という意味を込めた感嘆詞だね。」

「え?そうなの?フィギュアと全然関係ないじゃん。」

「そうだね、確かに。大抵は皮肉っぽいコメントに使われるんだ。」

「ちょっと待って。もうちょっと解説してくれる?フィギュアしろ、つまり解明せよ、という言葉の意味と、皮肉っぽいコメントとがどう結びつくの?」

「もともとは、予期せぬ事態や不思議な出来事に際して使われた言葉だと思うよ。わけわからん、とかびっくりだね、という風に。誰かが解明しなきゃいけないような不可思議なことが起きている、という意味でGo figure を使ったんじゃないかな。それが今では、身の回りで往々にして起こる出来事に対するコメントとして、皮肉たっぷりに使われるんだ。」

「サラはどういう意味で言ったのかな?」

「声のトーンにもよるけど、十中八九、皮肉だね。出来事の不思議さを評しつつ、実は全然驚くようことじゃない、と言いたかったんだと思うよ。意外なほどすんなりと大きな危機を回避した後は、すぐまた別の危機が待ってるもんだしね。」

ううむ。もうちょっとで分かりそうなんだけど、イマイチつかめない…。仕方ないので、ネットでいくつか例文を拾ってみました。

She says she wants to have a conversation, but when I try, she does all the talking. Go figure.
彼女がお話したいと言うから応じてんのに、あっちから一方的に喋りまくるんだ。ゴーフィギュア。

The paint was really good, so they stopped making it - go figure, right?
そのペンキすごく良かったのに、製造中止なんだって。ゴーフィギュア。だろ?

The ONE day I call in sick at work, and the fucking boss, who happens to leave work early... sees me at the strip joint...go figure!!!
病気で休みますって会社に電話かけたんだ。そしたらあのクソ上司、その日に限って早退しやがって、ストリップクラブにいるところを見つかっちまったんだ。ゴーフィギュア!

It's a terrible movie and it made $200 million. Go figure!
ポンコツ映画なのに200億円も売り上げたんだ。ゴーフィギュア!

以上の例から判断するに、私の訳はこれ。

“Go figure!”
「なんでだよ!」


どうでしょう?