2013年11月25日月曜日

Six Degrees of Separation ケヴィン・ベーコンの法則

「ジョン・ボビって知ってる?」

先週月曜、友人K子さんと夕飯を食べた時の発言。夏休み、香川の実家に一時帰国した時、親戚の若者たちからアメリカのミュージック・シーンについて質問攻めにあったそうなのです。四半世紀もアメリカに住んでいる彼女ですが、テレビは「テレビジャパン」ばっかり(半沢直樹とか)だし、ラジオは公共放送のみなので、有益な情報を全く提供出来なかったのだと。

「それ、ボン・ジョビのことじゃないですか?」

「あ、それそれ!うちの親戚の子達が、大ファンだって言うのよ。私、音楽聴かないから全然分からなくって。」

浮世離れしたK子さんならではのボケだな、とウケてたら、

「それがこないだの週末、クラスメートと喋ってたらね、」

現在彼女は週末だけ大学院(社会人対象)に通っていて、三つ目のマスター(修士号)を取得中なのです。

「その人が偶然にも、ボン・ジョビのコンサートツアーの裏方やってるって言うの。で、親戚の子たちの話を出したら、丁度日本でのコンサートがあるからって、チケット二枚送ってくれたのよ!」

おおっ!とのけぞる私。思い切り意表をつく展開じゃないか…。

さて金曜日の夕方は、息子をフルートの個人レッスンに連れて行きました。かれこれ2年ほど習っている教師のヴィヴィアンは、若い頃ロシアやウィーンのオーケストラで活躍していた東欧人。30分のトレーニングが終わって帰り際、私がふとこんな話を持ち出しました。

中学一年の頃、早朝にバロック音楽を流す日本のラジオ局がありました。ある朝流れて来た曲があんまり綺麗だったんで、急いでテープに録音したんです。この世の物とは思えない美しさで、それから30年以上も音源を捜し続けました。そして数年前、ここアメリカで遂にCDを入手。

曲名は「フルートとチェンバロのためのソナタ 変ホ長調」。フルートはジャン・ピエール・ランパル。色んな人の演奏を聴き較べてみたけど、この人のフルートは別格。この楽器について何の知識も持たない私ですが、聴くたびに「これは人間業じゃないだろ~」と圧倒的感動に浸ります。調べたところ、「20世紀でもっとも偉大なフルート奏者」と呼ばれるほどの実力者で、2000年に心臓発作で亡くなったとのこと。

「ジャン・ピエールは私の先生なのよ!」

突然ヴィヴィアンが、いかにも興奮を抑えきれないといった様子で立ち上がります。

「ええ?嘘でしょ?」

「ほんとよ。ロシアにいた時、彼が先生だったの。それからずっと親しくしてくれて、サンディエゴに来て我が家に泊まったこともあるのよ。」

おお~!もし彼が生きてたら会えたかもしれなかったのか!すんげ~!

さっそく帰宅してこの話を妻にしたところ、うちの子の友達のお母さんの知り合いのアメリカ人が、黒船来航で御馴染みのペリーの子孫で、日米友好イベントの際には皇居に招待されたというエピソードが飛び出しました。ひえ~。それもすごいな~。

「こういうの何て言うんだっけ?法則みたいのあったよね?」

と妻。そう、これは「ケヴィン・ベーコンの法則」とか「ケヴィン・ベーコン指数」と呼ばれるもので、英語ではSix Degrees of Separation とかSix Degrees of Kevin Bacon。全ての人類は繋がっていて、知り合いを6人介すると世界の誰とでも知り合いになる、という説。

ウィキペディアによると、
1994年のはじめ、映画雑誌『プレミア(英語版)』のインタビューに対してベーコンが「ハリウッドの全員が自分の共演者か、共演者の共演者だ」という趣旨の発言をしており、インターネット上などでは「ケヴィン・ベーコンはハリウッドの中心(あるいは「世界の中心」)」と言われるなど話題になった。実際、ハリウッドに限らず古今東西のほとんどの俳優は「ベーコン指数」3次以内に収まってしまう。」

私からジャン・ピエール・ランパルまではわずか2つ。ランパルの死を悼んだという元フランス大統領のジャック・シラクまで3つ。おお~!

でも、だから何?って聞かれると困るんだけど…。

昨日の朝、会社のみんなとひとしきりこの話題で盛り上がりました。同僚リチャードの知り合いにはハンバーガー・チェーンで有名なカールス・ジュニアの創始者の息子がいる(ほんとのジュニア)、とのこと。同僚マリアの元ルームメイトの男性は現在俳優で、レイディ・ガガと大の仲良しなのだと言います。
 
マリア。マリアの元ルームメイト。そしてレイディ・ガガ。
おお!レイディ・ガガまでわずか3ステップ!


う~ん、でもやっぱり、だから何?って話ですね。

2013年11月24日日曜日

理想のエンジニア

木曜の昼前、同僚たち数人とランチへ行こうとしていた時のこと。若いエンジニアのアルフレッドが、

「あ、ちょっと待って。もしかしたら僕、お昼休みはオフィスにいないといけないかもしれないんだった。」

と言い出しました。地元の大学生たちが企業見学に来ることになっていて、その相手をする担当者の一人に選ばれたのだとか。

「あ、その団体だったらお昼過ぎまではダウンタウンの支社にいると思うよ。というのは、たまたま昨日あっちでその話を聞いたんだ。」

と私。

サンディエゴ市内にある複数の大学から理科系の学生集団がやってきて、将来の仕事選びについて考えるため、現場で活躍する人たちと話す機会を持つ、というのが趣旨。企業側としても、大学とのパイプを作る上で有効な活動と見なしているようで、他にも交通部門の若手エンジニアであるギャレットが担当者として選出されました。

「どんな話をするの?」

「うちの支社が手がけてるクールなプロジェクトをいくつか紹介するつもりだよ。ほら、海水の淡水化プロジェクトとかさ。」

「いいじゃん、それ。そうしてこの職業への憧れをかきたてようってわけね。」

学生の頃、自分が将来どういう仕事をするのかなんて全くイメージが湧きませんでした。どんなに情報を集めてみたところで、結局実際にやってみるまでは本当のところは分からないんだけど、それでも「こんな人になれたらいいなあ」という理想像を持つことは、モチベーションを維持するのに有効だと思います。

そこへ84歳の同僚ジャックが、「僕もランチに行くぞ」と現れました。

「そうだ、ジャックにも参加してもらえば?この道60年の経験を活かして、何か面白い話をしてもらえるんじゃない?」

とアルフレッドに提案すると、

「面白い話ならあるよ。」

と事も無げに喋り始めるジャック。

「僕の担当してたSedimentation Tank (沈殿地)にどこかの犬が落っこちちゃってね。」

セディメンテーション・タンクというのは、トイレなどから下水管を流れて来た汚水を一旦溜めて、固形物を沈殿させる施設です。大抵はフェンスで囲われているので動物が迷い込むことなどないのですが、どういうわけか犬が落ちていたのだと。

「たまたま市長が視察に来た日で、新聞記者やらカメラマンやらも集まってたんだよね。市長が現場の作業員に、早く犬を助けてあげなさいってもったいぶって命令したんだ。若い作業員が長い棒を慎重に操って犬を岸に寄せ、そっと持ち上げてやったんだな。良かった良かったってみんな喜んで拍手してたら、犬のヤツが思い切り身震いしてさ、そこにいた全員が汚い水しぶきを浴びちゃった。」

もちろん採用は見送られましたが、こんなエピソードをさっと提供出来るジャックに対し、あらてめて尊敬の念を覚える私でした。


コウイウヒトニ、ワタシハナリタイ。

2013年11月17日日曜日

ウィーって言うのやめてよ!

ラスベガスにいた同僚エリカが離婚し、傷心を抱えてダラスの実家に引っ越してから数ヶ月経ちました。先日久しぶりに出張でサンディエゴへやってきた彼女に、恐る恐る最近の暮らしぶりを尋ねてみました。

「あのね、実は私、来月結婚するの!」

「!?」

あまりに意外な展開に、言葉に詰まる私。

クレイジーな話でしょ、と笑いながら、地元でバツイチの男性と出会って意気投合したこと、びっくりするほど価値観が似通っていること、結婚式は家族だけでひっそり挙げるつもりであること、などを語ってくれました。

それは本当に良かったねえ、といつもより強めのハグで祝福する私。

その翌週、独身貴族(死語?)のリチャードとマリアと一緒にランチに行った際、エリカの再婚話になりました。

「とんでもないスピードで独身クラブを脱会しちゃったね、彼女。」

とマリア。

「うん、さすがにびっくりしたよ。」

と私。リチャードが笑いながらこう言います。

「なんかマリアがムカついてるみたいなんだよ。」

「ちょっとやめてよ。エリカが結婚することに腹を立ててるみたいに聞こえるでしょ。」

と弁明するマリア。わけを尋ねてみたところ、

「再婚を公表した途端、物の言い方が豹変したのよ。」

とのこと。

「たとえばさ、今評判のワインの話題を出すとするじゃない。そしたらね、 “We love that wine!”っていう反応なのよ。なんでもかんでも “We” で話を始めるようになったのね。これまでずっと “I” だったのに。まあ浮かれてる時期だからと思ってしばらくは大目に見てたんだけど、」

と言葉を切ってから、

“It’s become annoying.”
「うざくなってきたのよね。」

と渋い表情になるマリア。

マリアはエリカの再婚相手に会ったこともないし、ましてやその男のワインの好みなんかに興味は無い。そこへ「私達、あのワイン大好きなの」と来られたら、確かにイラっと来るかも。

それで思い出しました。

“How was your weekend?”
「週末どうだった?」

という月曜の朝の定番挨拶がありますが、この投げかけに対して所帯持ちの同僚はそのほとんどが、

“We went to ○.”
「私達、○○へ行ったの。」

と答えます。私の質問文に使われている「Your」という単語が「あなたの」と「あなた達の」と単複両方の意味を持つことは認めるけど、自分の「家族」が週末をどう過ごしたかを迷いも無く語り始めるって、一体どういう心境なんだ?とずっと違和感を感じていました。考えてみれば日本語の場合、「動物園に行ってきたよ」などと一人称抜きで話すことが出来るので、その辺は曖昧なんですね。聞き手の側からは、一人ぼっちで出かけたのか家族で行ったのかを、勝手に推測するか、あるいはあらためて尋ねるしかない。いや、そもそも聞かれてもいないのに家族の存在を会話中にちらつかせること自体、ハシタナイと見る文化が日本にはあるかもしれません。

一人称を省かない言語だからこそ生まれる摩擦。日米の違いがこんなところに現れるんだなあ、と一人で頷いてたら、

「昨日もエリカと電話してたんだけど、あんまりWeを連発するから、とうとう言っちゃったのよ。」

とマリア。

“Stop saying We!.”
「ウィーって言うのやめてよ!」

うそ?!エリカに直接そう言ったの?と、同時にぶったまげるリチャードと私。アメリカ人のリチャードも驚くくらいだから、これは日米の違いというより、マリアの個性なのだと思います。

2013年11月15日金曜日

Black Sheep 黒い羊

同僚ジャックと話していたら、彼の口からこんなフレーズが飛び出しました。

“I have always been a black sheep in my family.”
「僕はいつも家族の中の黒羊だったんだ。」

黒い羊?

彼には兄弟が4人いるのですが、その全員が幼い頃から常に優等生だったそうです。彼だけが「黒い羊」だったというのはどういう意味か?

ジャックとの会話を終えてから、同僚リチャードの部屋へ解説を求めに行きました。

「規律の整った集団の中で、変わった外見や行動をとる人のことを指すんだよ。一般的にはネガティヴな意味合いで使われるね。」

白い羊が群れを成しているところに、一匹だけぽつんと黒い羊が混じっている状態。ウィキペディアを見ると、黒い羊毛は染めにくくて使い物にならないとか、19世紀のイギリスでは黒羊が悪魔のシンボルだったとかいう話が紹介されています。

「要するに、トラブルメーカーとして見られるってことね?」

「そうそう。ジャックがそうだったとは到底思えないけどね。冗談めかして言ってるだけだと思うよ。」

「彼らしいよね。これってよく使う表現なの?」

「うん、よく聞くよ。」

それにしても、羊。日常触れ合う機会が無い動物だからか、いまいちイメージ湧かないんだよなあ。アメリカ人の頭にはすんなり入ってくるかもしれないけど、日本人の私にはぴんと来ない表現の一つだと思いました。

実はリチャードと話している間中ずっと、

「くろやぎさんたら読まずに食べた。」

という歌詞が繰り返し浮かんできて、心の中で

「それはヤギだろ!」

と自分に突っ込み続ける私。

これ分かってくれる人、職場にいないのがとっても残念です。


2013年11月10日日曜日

Buzzword バズワード

先週、オレンジ支社で元ボスのリックと久しぶりに会いました。北米西部トップのマイクと来月話す機会があるかもしれないんだ、というニュースから話題がひろがり、30分くらい話し込んでしまいました。

「会社はThought Leadership に投資する方針だってマイクが言ってるんだ。」

この「ソート・リーダーシップ」という言葉に私が引っかかってしまったのが、長話の始まりでした。

最近この単語よく聞くけど、全然具体的なイメージが湧かないんですよ、と苦情を述べる私。大体、これって一般に流通して共通認識になってるんですかね?Think(思う、考える)の過去・過去分詞であるThought とリーダーシップをくっつけても、連想できるのはこんなセリフだけ。

“I thought I was a good leader but it’s turned out that I’m not.”
「自分はいいリーダーだと思ってたけど、そうじゃないことが分かった。」

そんな「思い上がりリーダー」のことだと言うならまだ受け入れられるんだけど、リックの説明によれば、

「特定分野の第一人者」

という意味らしい。

「それならTechnical Leaderでいいじゃないですか。Thought と関係ないし。」

「いやいや、これはThink の過去形じゃなくて、名詞のThoughtなんだよ。Ideaと同じようにね。いっそのこと、Idea Leaderって呼んじゃってもいいんじゃないかな。」

とリック。

「う~ん、それでもやっぱり私にはピンと来ませんね。」

うやむやなまま会話を締めくくり、帰途につきました。

金曜日の夕方、サンディエゴのオフィスに遅くまで残っていた同僚クリスをつかまえてこの話題をぶつけてみたところ、苦笑を浮かべて首を振り、両足をどかっと机の上に投げ出してこう言いました。

Buzzword(バズワード)って言えば分かるかな?」

「インテリっぽい響きがする専門用語だよね。」

「その通り。耳障りが良い割りには相手に真意が伝わらない業界用語ね。こういうのを社内で濫用するのは、ほんとに止めて欲しいんだよな。」

「ま、それはともかく、意味を教えてくれない?」

と笑いつつなだめる私。

「ある分野の業務経験が長いだけだと、Thought Leader にはならないと思うよ。特に技術系の仕事って、一足す一は二でしょ。単に技術面で優れていたってリーダーにはならないよね。このThought という単語には、その分野に革新的な進歩をもたらすような考えを持つ人、という意味が込められてると思うな。」

「ふ~ん。でもさ、Thought Leaderってフレーズからそこまで連想出来る人いるのかな。」

とケチをつける私。

「いや、ダメだろうね。この言葉はそのうち絶対廃れるよ。」

と決め付けるクリス。

「むしろInnovation(イノベーション)の方が合ってるんじゃないかな。」

私のこの提案に、クリスが食いつきます。

「それだ!Innovation Leaderの方が断然いいよ。君と僕でこれから広めようぜ。お偉方がThought Leader という言葉を使うたびに、それはイノベーション・リーダーってことですよね、って言い直すんだ。一年後くらいに、社長が方針演説でこの言葉を使ってたりしてな。それを聞いて、僕らが作ったんだよなってニンマリ笑おうぜ。118日、今日がその記念日だ!」

大興奮するクリス。

「いいねえ!それで行こう!」

と一応調子を合わせながらも、いまいち乗れない私でした。


だって、「イノベーション」もやっぱりバズワードっしょ。

2013年11月3日日曜日

Dodge the bullet タマをよけ続けて40年

先週サンディエゴのオフィスで、私が8年前まで所属していたプロジェクト・デリバリー・グループの会議がありました。グループ長であるアルがウィスコンシンから、その部下のクリスがヴァージニアからやって来て、そのまた部下のエド、そしてエドの部下であるマリアとエリカ(ダラスから出張)が出席。私の部屋の隣の会議室で一日中議論していました。

アルが来年1月末に引退することを発表したため、この機会に皆でお祝いをしようとマリアとエリカが以前から企画を練っていて、私も送別の品などへ名前を連ねてもらうことになりました。

会議が終了し、皆で「94th Aero Squadron」という、大戦中の趣を漂わせたレトロな佇まいのレストランへ集合。幸運にもアルの左隣の席をあてがわれた私は、色々個人的な話を聞かせてもらうことが出来ました。なんと彼は就職してから40年間、一度も転職したことがない、というのです。正確に言うと、勤めていた会社が大きな会社に買収され、それがまたひとサイズ大きな会社に買収され、というのを繰り返して今に至っているのですが。

それはともかく、毎週のように理不尽なレイオフが横行していることを考えると、これは奇跡的な快挙と呼んで良いでしょう。

「そうだね、自分は幸運だったと思うよ。」

とアル。それから少し考えて、

“I just kept dodging the bullet.”

と付け足しました。皆が「40年間もね。」と誉めそやします。

”Dodge the bullet(ドッジ・ザ・ブレット)というのは「弾丸を回避する」という意味で、この場合はレイオフが弾丸ですね。つまり、レイオフの危機を巧みに逃れて来た、というわけです。

“There’re lots of bullets out there.”
「たくさんタマが飛び交ってるからね。」

と溜息交じりのアル。

本当に、いつクビになるか誰にも分からない状況が続いています。数ヶ月前には北カリフォルニアのトップだったチャックが、先週は財務の重鎮トムが突然解雇されました。つい先日はマーケティング部門のエースだったランディが「組織改変のため」というだけの理由でレイオフを受け、ダウンタウン・サンディエゴ支社に衝撃が走りました(もっとも、支社長のテリーが奔走し、一週間後に再雇用するという離れ業をやってのけましたが)。

我々のテーブルを担当した声の大きなおじさんウェイターに、

「この人、今度引退するの。みんなでお祝いしてるのよ。」

と、思わせぶりな笑顔で特別無料デザートをおねだりするマリア。そのサインに気づいたかどうか、

「私もちょっと前に引退したんですがね。かみさんがあんまり邪魔者扱いするんで、ここに舞い戻ったんですよ。」

と大声で笑うウェイター。

それぞれデザートを注文し、これを待つ間に、マリアとエリカが用意した引退祝い品(特大フォントサイズのスドクやクロスワード・パズルなど)をエドが贈呈します。そのひとつひとつに、冗談交じりの謝辞を述べるアル。

ウェイターがデザートとコーヒーを運んで来て、最後に短いろうそくを一本立てたチーズケーキをアルの前に置きました。

「さ、願いごとをしてからですよ。」

大きな拍手の中、小さな炎を吹き消すアル。

こんな風に、部下達に慕われたまま引退するのって理想的だな、としみじみ感動する私でした。

さて会計する段になり、私の左に座っていたクリスが「自分が払う」と請求書を掴むと、アルが右から「いや、これは自分が」と掴みとります。暫くそんなやり取りがあった後、結局アルが全員の分を払うことになりました。サインをした請求書をさっきのウェイターに手渡すと、

「上司の引退セレモニーのディナー費用を当の本人に支払わせるんだぜ、この部下たちは。どう思うよ?」

とアルが笑います。ウェイターは間髪入れず、こう返しました。

“I want to be friends with you.”
「お友達になりたい。」